『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・長距離少年との約束(上)

2010年11月27日 22時41分09秒 | ■つれづれに(日記)
 
 
 もう16、7年前の話になる。当時、川沿いの鉄筋ビルの1階を借りていた。
 入口全体がガラスの自動ドアとなっていたため、とても開放感のあるオフィスだった。そのため人通りは少なかったものの、道を尋ねる人やさまざまな営業マンの訪問を受けることがちょくちょくあった。

 そんな春先の或る日――。
 女性スタッフ二人が帰り仕度をしていたように記憶している。明らかに夕刻に近い時間だった。自動ドアが開く鈍い響きとともに、小学生とおぼしき一人の少年がふらっと入って来た。少年は以前この近くに住んでいたといい、昔の友達を訪ねているうちに道に迷ったようだ。だがよく話を聞けば、どうもそれだけではない。少年の話から、次のことが判った。

 (1)小学生と思った少年は、何と15歳の中学3年生。
 (2)福岡市に隣接する前原(まえばる)市に居住している。
  ※筆者のオフィスから15、6km近く離れている。
 (3)昨日の放課後、他校の友人と二人で福岡市内の繁華街へ行き、「ゲームセンター」
  で遊んだ。
 (4)遊びのお金は、友人がその兄の財布から失敬したもの。
 (5)だが友人が「ゲームセンター」で財布を落としたため、二人とも家に帰ることができなかった。
 (6)長距離走が得意な少年は、連れの友人を「ゲームセンター」に残して走って来た。
  ※繁華街の「ゲームセンター」から筆者のオフィスまでは約4km。
 (7)少年は、丸一日何も食べていない。

 少年はとにかくよく喋った。気づいた時、二人の女性スタッフも興味深く話に聞き入っていた。その二人が、「トースト」と「インスタントスープ」を用意してきた。彼女たちと少年との会話が始まった。
 
 「夜はどこで寝たの?」
 「……谷公園」
 「寒かったでしょ?」
 「……ダンボールで寝た。おじさんが、そこはおれの寝る場所やけんて言うて、はじめは喧嘩になったばってん、仲良うなって一緒に寝たっちゃん……」

 どこか“話慣れ”した少年は、少しも臆することがなかった。話ながらもひたすら食べ続け、あっと言う間にすべてを胃袋におさめてしまった。入って来た直後の30分前と比べ、少年の表情には安堵と余裕とが感じられた。それに伴って少年はいっそう饒舌になり、自らいろいろなことを語り始めた。

 しかし、私はどこか腑に落ちなかった。お金がないとはいえ、何も「野宿」までする必要はないはずだ。電話一本で家族も駆けつけるだろうし、長距離走が得意というのなら、2時間半もあれば充分帰り着くのでは……。

 私は、尋ねたい気持ちをぐっと抑えながら――、 
 「君とお友達の分のバス代を貸してあげるから、すぐに帰りなさい……」
 そう言って、少年が申し出た金額の「硬貨」を少年の手に握らせた。少年はそれを無造作にズボンのポケットにねじ込んだ。一瞬、その表情にほんのちょっと“しめた!”といった笑みが走った。だが私は黙って語りかけた。

 「お家の人に、“今から帰ります”と、そこの電話からかけてごらん」
 私の提案に少年は間髪入れず、
 「さっき、電話したけん……」

 と、その質問を予想していたかのような答えだった。だがそれが嘘であることは、後で判った。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎ディスカウント・ショップ:下

2010年11月20日 20時04分31秒 | ■男と女のゐる風景

 
 ブログの原稿(前回)については、ちゃんとN嬢に目を通してもらうことになった。  

 折しも、彼女は「経営レポート」作成(不動産関係)の指導を受けるため、筆者のもとに来ていた。彼女の「レポート原稿」を筆者がチェックし、筆者の「ブログ原稿」を彼女がチェックするという、なんとも不可思議な場面となった。

 だが彼女の原稿をチェックする筆者の「静けさ」に比べ、筆者の原稿をチェックする彼女には「勢い」があった。いささかの躊躇もなく「赤ペン」を入れて行く。気になってのぞいたとき、まず缶入りコーラとウーロン茶の「59円」が「29円」に訂正されていた。

 『59円なんて……』と、半ば呆れ顔で筆者を見つめながら曰く。『59円なんて、ちっとも安くありません! 29円だったのでは?……』 え!と驚いて聞き返す筆者。何と「29円」を「59円」と見間違えていたのだ。しかもその「59円」をめちゃくちゃ安いと感じていた甘さ……。

            ☆

 それからきょうまでのほぼ1週間、毎日何本もの「ディスカウント・アドバイス」が、「写メール」付きで入って来る。まず筆者がブログアップした原稿に対してのものが来た。

 ≪29円のウーロン茶は27円!≫

 ……となっている。「写真」は「価格の真実」を如実に伝えていた。「29円」のコーラの横に「27円」のウーロン茶が写っている。両者を並列させるため、カメラアングルとトリミングにこだわったようだ。

 ウーロン茶を手前に、コーラをその奥に配置した「斜め遠近法」が憎い。「学習能力に乏しい」演劇好きの弟子には、やはりこのくらいの演出が必要との師匠の覚悟だろうか。

 ≪テレビもエコポイントにより、駆け込み需要が増えるからでしょうか。10月より高くなっています≫ 

 ……なるほど。「PRICE」なるものも、のほほんと同じ「数値」に安住せず、たえず上がったり下がったり、宥(なだ)めたり賺(すか)したり……と忙しそうだ。

 ≪新米1590円でした。無洗米でも1790円≫ 

 ……しかし、判断材料を持たない「乏しい学習体験者」には、安いのかどうか判断がつかない。 

 ≪1週間で(価格)状況は変わるわ。ディスカウント店は他店の価格を調べているので、書いてある価格から値引きして販売するの!≫ 

 ……なるほど、これは判る。一応、電気製品で「学習」して来た。だが「DS(ディスカウント・ショップ)」でもそういうことがあるとは、やはり今回の「学習の成果」だ。

            

 ……1週間で価格が変わる……。ふと頭をよぎるものがあった。つい半月前、ある不動産業者が、「自社物件」の価格について、『150は落さないかんでしょうな』と語ったことを思い出した。

 翻訳すれば「150万円の値引きはやむをえない」と言っている。

 一本のタバコが煙と消える間に決定された「1,500,000円」のプライスダウン

 かたや「1円」そして「2円」の「ディスカウント・プライス」。“苦笑いの溜息” が150万円の「値引き」に変わる間に、チラシの「1円」に一喜一憂する “健気な女性たち”……。

 この “世界” いや “世界観の違い” をどう考えるべきだろうか。
 どちらの “世界” にも “身の置き所” がなさそうな「アラカンの弟子」……。その五体を持て余しながら、「師匠」への「返信メール」を力なく綴った。

 ≪ついていけそうにもない。落ちこぼれるだろうね。「学習能力の乏しい」この親父は。さっきも反省していたよ。今日(日曜)のチラシを条件反射的に処分したことを。でもあとで(チラシを)広げてみよう……≫

 ……≪あとで広げてみよう≫と殊勝に綴ったものの、どれだけ「学習実行能力」があることやら。だが絶対に「師匠」からの「確認メール」が来ると踏んだ弟子は、「チラシ」と向き合う決心を固めた。

  そして廃棄処分のチラシの束を回収しに行った。だが肝心のスーパーのチラシが1枚もない。おやっと? と思っているところへ師匠からのメールが来た。 

 《スーパーのチラシは木曜か金曜に見ましょう。土曜でもいいのですが日曜はあまり入っていないかも。

 ……ああ。それに日替わりで安くなるのもあるし、タイムセールがあるってことも……》 (了)

 

   ◎2020年12月11日午後 加筆修正 花雅美 秀理

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎ディスカウント・ショップ:上

2010年11月15日 17時59分28秒 | ■男と女のゐる風景

 

 《……Mストアの67円の納豆を買うため、今から自転車で行きま~す。普段は77円なのよォ~!》

 つい数日前の朝、「携帯メール」が届いた。送り主は私の「建築塾」塾生OGのN嬢。アラフォオーの彼女はシングルであり、つい最近、住宅メーカーとしては全国有数の「住宅建設会社」を辞めていた。

 自ら「プー太郎」という彼女。緊縮財政を発動中のようだ。何処に行くにも、すぐに車で移動する彼女がチャリとは……。すぐにはその情景が思い浮かばなかった。

 そのため、「ビンボーな筆者」にも歩調を合せよとのメッセージだろうか……。このところ、“その筋のメールや電話” が来る。

 ……『スーパーの折込みチラシは見ていますか?』。筆者は仕事柄、分譲マンションや一戸建、それに仲介業者のチラシには目を通す。だが「スーパーのチラシ」など、まともに見たこともなかった。

            ★

 つい先日、勉強のため彼女と一緒に「住宅フェア」へ行った。その帰り、“夜の海” でも見ようかということになった。走り始めてすぐ、彼女から “確認” のための質問が飛んだ。

  『スーパーの折込みチラシ、見てます?』。 

 ……筆者は首を横に振った。次の瞬間、助手席から彼女は敢然と言い放った。『今からディスカウントショップ(DS)に行きましょう!』。すぐさま近くの「DS」行きを命じられた。ロマンチックムードは瞬時に吹っ飛び、筆者は慌てて車をUターンさせた。

            ☆

 …………安い……とにかく安い。DSショップの入口に積み上げられた「29円」の缶入りウーロン茶やコーラに、まず驚かされた。自宅近くのスーパーで求める同じ商品の味噌や醤油も、とにかく安い。「DSショップ」は初めてではなかったが、これまで(の人生において)、何回行っただろうか。

 次に「5kgの県産米」の値段を見て衝撃が走った、全く同じ「米」が、自宅近くのスーパーよりほぼ500円も安いのだ。しかもその「米」の横に並んだ同じ「米」の袋には「新米」のシールが貼ってあり、こちらの価格は、筆者がスーパーで買ったものとほぼ同じ値段だった。

  つまり、筆者が買ったものは「古米」であり、おなじ銘柄の同じ「古米」が、このDSではほぼ500円安いというわけだ。信じられないほどの価格差に驚きながら、自己の無知と対応の甘さに “愕然” とした。そこへN師匠曰く。

 ――“精米” した日付もちゃんと見なくちゃ。

 安い、安いと半ば興奮気味に買い込むため、籠はたちまち一杯になった。レジにおいて師匠曰く。


 ――これ、わたしの「ポイントカード」につけてもいいですか? でも惜しいわ。昨日だったら、ポイント3倍だったのに……。

 

            ★

 「勉強」のためにと、別のスーパーに連れて行かれた。あれこれ籠に入れようとするたびに、厳しい眼差しの師匠の声が飛ぶ。

 『だめ……それは、金曜日が安いの……』『……これは○○○店の方が安いから……』『……あの底値は○○円なの!……今日買っちゃだめよ……』。それはもう、説教される子供同然だった。
 
 2店で結構な金額となり、その分かなり節約できた。少なくとも20%安く買えたのでは……と頭の片隅で計算しながら、お礼の意味を込めて師匠に言った。

 『お陰で今日はかなり得をしたね。ありがとう。コーヒーくらいおごろうかな……』。 

 だが、間髪いれず入れず、師匠から叱責の言葉が返って来た。

 ――そんなことをしたら、何にもならないでしょ!

 今年1月、或る「新年会」の福引で「5kgの米」(※註)を引き当てたことを想い出しながら、わが身の「学習能力」の乏しさに再び “愕然” とするばかりだった。

  だが筆者の「学習能力の乏しさ」は、実はこんなレベルではなかった。       

 
  ◎2020年12月11日午後 加筆修正 花雅美 秀理

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

・打ち放しコンクリート(安藤忠雄/住吉の長屋:下)

2010年11月06日 17時09分02秒 | ■芸術・建築の巨匠たち

 コンクリート表面の「風合い」
 
 ところで「打ち放しコンクリート」の表面は、“独特の風合い” をしています。

 第一に、「型枠」表面の「材質感」や「仕上がり具合」をそのまま見せる「素朴な肌合い」でしょうか。気泡跡を持つ無機質な表面は、コンクリート独特の「重量感」や「艶」を感じさせます。澄ました感じの冷ややかな “手触り” もまたよしです。

 第二に、壁面から「数ミリ引っ込んだ丸い窪み」でしょう。これを「Pコン」(プラスティックの円錐形のコーン)と呼ぶ人もあります。これは「型枠」と「型枠」の間にコンクリートを流し込む際に用いられる、「セパレーター」という金具の「痕跡」です。「コンクリート」を流せば、コンクリートを「堰き止める型枠」に重量がかかります。負荷がかかれば、当然「型枠」は「膨れ(孕み)」やすく、コンクリートの精確な「厚み」が確保できないおそれがあるからです。

            

 ところで、コンクリートが固まった後に「型枠」を取り外します。そのときできた「穴」が「Pコン」(ぴーこん)です。それを「塞(ふさ)ぐ」ために「モルタル」を塗り込むわけですが、そのとき「穴」を完全に塞ぐのではなく、あえて「表面」から少し「引っ込ませる」のです。

 ……そうして「壁面全体」を眺めるとき、「Pコン」が一定の「間隔」で整然と並んでいることが判ります。これこそ「打ち放しコンクリート」独特のアクセントであり、デザインといえましょう。

 「Pコン」について、安藤氏は180cm×90cmの壁パネル1枚につき「6個」と指定し、ピッチすなわち横の間隔は60cmのようです。またその「引っ込み寸法」も「5mm」に指定するとのこと。さすが業界において、『打ち放しの安藤』とか『型枠の安藤』と呼ばれる所以です。

 ともあれ、私にとっての「打ち放しコンクリート」は、何かに耐えながら沈思黙考する哲学者のイメージです。さて、みなさんはいかがでしょうか……。

 なお「打ち放し」の読み方ですが、辞書・事典などでは「うちはなし」となっています。しかし、実際の現場では「うちっぱなし」と読む人が多く、私もそう呼んでいます。その方が、コンクリートの “重厚感” や剥き出しになった “素朴な表面” の、それでいてちょっと “瀟洒な雰囲気” が伝わって来るような気がします。 

            

 ところで、この “言い回しは、日常生活にも出て来る言葉ですね。

 「○○はなし」よりも、「○○っぱなし」の方が、なんとなく それって感じがしませんか。

 

    ★★★ ~っぱなし ★★★

 …………旦那ぁ~。あの夜、かみさんに言われたんじゃねえすか? ……出っぱなしに、行きっぱなし、そして、飲みっぱなし……。その後はカラオケのマイクを、握りっぱなし……。で……歌いっぱなし……ってね……。

 夜 “外出” すると、何かと言われやすいですよね……。     

            ★     

 あ~ら、夜お外に出ない方でも、いらっしゃるんじゃありません? あたくし、そういう方をよく存じ上げていますの。 

 …………開けっぱなし……出しっぱなし、……使いっぱなしに……つけっぱなし……。読みっぱなし……散らかしっぱなし……。

 それに、あれこれ、やりっぱなし……。脱ぎっぱなし……置きっぱなし……なんてのもあるみたい……。

 あなたもごぞんじでしょ? そういう方。 ね~え? でしょ? ねえ? 聞いてる? あれっ? 眠ちゃったの? 

 

 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする