『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

○演劇案内:『ヒットラーの言うとおり』(九州大学伊都・箱崎キャンパス)

2015年06月29日 00時25分59秒 | ○福岡の演劇案内

 

 「アドルフ・ヒトラー」という人物は、人類史上もっともその取扱いが難しい。「演劇」という「フィクション」に登場させる場合であっても、その “表現” や “位置づけ” には、格段の配慮が要求される。

  今回、主催者は、【当作品は、「ナチスの思想」を支持する目的で作られたものではありません】という「断りの文言」を入れている。無論、【あらすじ】だけでは、その最終的な主張内容は解からない。

   というより、「芸術的表現」として、「最終的な内容」を明かすことなどできないのであり、あとは「作・演出家」をはじめ、「キャスト・スタッフ」諸君の才能と良識に委ねられている。

  ことに「作者」や「演出家」には、いっそう深い “思想哲学性” や “歴史認識力” が求められ、当然それを承知の上での “創作” そして “演出” に違いない。筆者はそれを固く信じて、観劇に臨みたい。

        ★

  《大学での演劇》……とくれば、筆者はいつも『東大ポポロ座事件』が頭の片隅に残っている。憲法を学んだ人には、その重要性はよく理解できると思う。日本国憲法第23条が保障する「学問の自由」と、そこに含れる「大学の自治」が問題とされた事件であり、「最高裁の判例」としても知られている。

   ここから導き出されることは、「学問の自由」や「大学の自治」、さらには「表現の自由」なるものは、かなり保障されているということ。

  とはいえ、そこには自ずから “一定の制約” があることも事実。ことにそれが、人類全般の人間の尊厳に関わるものであればなおさら……。

  ともあれ、以上のことを充分承知の上で、今回の「舞台公演」を企画した「九州大学演劇部」の勇気と creative spirit に敬意を表したい。

 

   ……とはいうものの……

  ♪ chottomate  chottomate  onii-san ♪

  ……てなことにならないように、神の祝福あれ!……

        ★   ★   ★ 

 
  九州大学演劇部 2015年度前期定期公演

 
 『ヒットラーの言うとおり』

●作・演出 木下智之

  【あらすじ】

 20世紀ドイツ、愚かな独裁者《Adolf》と、彼を愛した一人の男《Adolf》がいた。そして、彼らの元に集まる様々な人々。

 膨張する欲望と熱狂が、時代の狂気を加速させる。
 しかし人々の思惑と純粋な願いは、徐々に《Adolf》を狂わせていく……
 歪み、拗れて、道化は謳う。

 ※当作品は、「ナチスの思想」を支持する目的で作られたものではありません(主催者)


【日時】  (開場は開演の30分前)

 ・718日 ・14:00~ ・18:00~
        19日 ・13:00~    
  

【場所】  九州大学伊都キャンパス 

 学生支援施設音楽練習室4(大音楽室)

 クリック!  ◆伊都キャンパス・マップ

    このマップの 45「学生支援施設」です。

 ※「」の方は、57 の「守衛所」において「入構料(駐車料)」が必要です(300円)。

 クリック!  ◆九州大学伊都キャンパスへのアクセス                         

【料金】

 ・前売300円 ・当日500円

  クリック! ◆九州大学演劇部公式HP

          ◆九州大学演劇部公式twitter 

 ※上記「HP」は、「伊都・箱崎キャンパス」のものです。

  ★「観劇」の「お申込み」は、直接、主催者へご連絡ください。

 

    

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○演劇案内:『さぁ、どうする?』(九州大学大橋キャンパス)

2015年06月25日 00時00分13秒 | ○福岡の演劇案内

 

   稀代の殺人者の著作を、被害者の家族が出版差し止めを要求……

   こういう出版社を、安易に赦していいのだろうか……

   それ以前に、あのような形で「生命」を奪った「加害者」が、「被害者家族」の意志に反して「事件について表現する自由」など、赦されるのだろうか……

  何とかいうアイドル・グループの清純派の女の子が、何とかいうアイドル・グループの男の子と、清純からほど遠い行動をとったとして非難されている……

  日本年金機構から、101万4653人分もの情報が不正アクセスにより漏えいした……

  翁長雄志知事は、「普天間基地を辺野古に移設する作業の中止の決断を強く求める」と、移設計画を進める安倍政権の姿勢を強く批判……

   野党各党は、「95日間」の国会の会期延長を「非常識」(民主党の枝野幸男幹事長)と批判……・

   ……そういう「非常識」を簡単に赦した野党第一党も「非常識」……とちゃいますの?!

  ……さあ、どうする? ……ん? だれが? ……どうやって?

   ……さあ、どうしようか……

   

      ★   ★   ★

 

  九州大学大橋キャンパス演劇部

  2015年度新入生歓迎公演

    「さぁ、どうする?」

 

 【あらすじ】

  アラサーの売れない役者《藤原和哉》は、高校生の時から付き合っている看護師《皆本愛美》にプロポーズをしようとするも、翌日にはなぜか入院してベッドの上に!病室にお見舞いにくる人たちは、雑誌の編集者にヤクザの娘、それから…地縛霊!?

  おまけにストーカーやヤクザまでやってきて、次から次へとハプニングが降り注ぐ!なんとか回避しようと和哉は嘘に嘘を重ねていき、状況はますますカオスになっていく!さぁ、どうする?

 

●脚本  球鹿若久

●演出・脚色  遠藤智

●助演  江原圭祐、植木健太

●出演 江原圭祐、植木健太、今岡宏朗、岸田裕真 

          阿部隼也、吉田めぐみ、藤田萌花、岩永さくら

●日時  開演 (開場は開演の30分前です)

 2015年  7月11日(土)  13:00 18:00  

          12日(日)  13:00

●場所  九州大学大橋キャンパス多次元デザイン実験棟

  クリック!   ◆九州大学大橋キャンパス・マップ

       「多次元デザイン実験棟」はマップの「02」です。

  クリック!   ◆九州大学大橋キャンパスへのアクセス

●観劇券 ・前売り券 300円 ・当日券 500円

  新入生は無料。「当日券」は開演10分前からの案内。

  クリック! ◆九州大学・大橋キャンパス演劇部twitter

  ★「観劇」の「お申込み」は、直接、主催者へご連絡ください。

 

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◆優れた舞台役者が作る名画/『シンドラーのリスト』:No.12(最終回)

2015年06月21日 00時01分37秒 | ◆映画を読み解く

 

 51.丘を下る解放されたユダヤ人

  丘の頂に多くの人々の姿が見え、こちらに向かって歩いて来ます。無論、これらの人々は終戦によって解放されたばかりのチェコの「ブリンリッツの兵器工場」のユダヤ人とその家族であり、とりあえずは食べ物を求めているのでしょう。

  戦後、アーモン・ゲートは逮捕され、人道に背く罪を犯したとして、クラククで絞首刑になったようです。

  「モノクロ」で描かれた丘の上の人々が次第に大きくなりながら、やがて「カラ―」となって、現在の姿に変わります。

  シンドラーは戦後、結婚にも事業にも失敗したようです。それでも1958年、エルサレムに招かれ、『正義の人』に選ばれています。シンドラーによるユダヤ人の子孫は、6000人を超えているとのこと。

52.墓銘碑に石を積む人々

  「シンドラーの墓銘碑」に、人々が石を積みながら祈りを捧げています。映画に登場した「モデル」となった “その本人” と、それを演じた「役者(俳優)」が “一組み” となっています。

 少女「ダンカ役」の女の子、「レオポルド」と「ミラ」の「ぺファーべルグ夫妻」、もちろん「ご本人」と「それを演じた役者」達です。

 この時点ではすでに故人となっていた「イザック・シュターン」。彼を演じた「ベン・キングズレー」 が、「シュターン未亡人」と一緒です。それに、「ヘレン・ヒルシュ」、「シンドラー夫人」の「エミリエ」が続きます。

 そして、最後に赤い薔薇を添えたのが、「オスカー・シンドラ-」役の「 リーアム・ニーソン」のようです。といっても、その顔形は画面に登場しないまま、手元だけが映し出されています。

        ★   ★   ★

 

  優れた役者による“哲学性と芸術性”

  本シリーズの「No.2」において、筆者はこの “ 映画の特徴 ” を「実話(ノンフィクション)」に基づく “ ドキュメンタリー・タッチ” の作品とし、この “ドキュメンタリー・タッチ” を貫くことによって、この映画の “哲学性と芸術性” がいっそう深まったと主張しています。次の「3点」が、その「重要なポイント」でした。

(1) 基本的には、「映像」を「モノクロ」(白黒フィルム)としている。

(2) ドキュメンタリー・タッチ” を貫くため、映像上の “感情表現” を極力抑えている

(3)ドキュメンタリー・タッチ” をより確実に表現するため、主人公の〈オスカーシンドラー〉以下、「中 心的な俳優5人」は、総て「舞台俳優 」を起用している。

 その俳優5人とは、以下の「役者」たちです。 

 

 ●オスカー・シンドラー 

  演じたのは「リーアム・ニーソン」Liam Neeson)。本名: ウィリアム・ジョン・ニーソン (William John Neeson )は、北アイルランド出身の俳優。「舞台俳優」としてキャリアをスタートさせました。映画監督の「ジョン・ブアマン」に見出され、1981年に『エクスカリバー』で映画デビューしました。

 ●イザック・シュターン(会計士としてシンドラーの経営を補佐) 

  ベン・キングズレーSir Ben Kingsley) (1943年生まれ)は、英国の俳優。イングランド・ノース・ヨークシャー州スカーブラ出身。「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー」の「シェイクスピア役者」として活躍しました。

  1982年の『ガンジー』では、「アカデミー主演男優賞」を受賞。その他、『バグジー』『セクシー・ビースト』『砂と霧の家』で、3度の「アカデミー賞」の候補になった実力派俳優です。それにしても、「ガンジー」の雰囲気は最高でした。この映画もすばらしい作品です。

 ●アーモン・ゲート(ポーランドの「クラクフ・プワシュフ強制収容所」の所長) 

   レイフ・ファインズRalph Fiennes, 1962.12.22―)は、イギリス俳優舞台と映画双方で活躍しています。「ハリー・ポッター」シリーズでは、「ハリー・ポッター」の最強最大の敵である「闇の魔法使い」の「ヴォルデモート卿」を演じています。SS将校「アーモン・ゲート」とのギャップが面白いようです。ぜひごらんください。

 ●エミリー・シンドラー(シンドラー夫人)  

  キャロライン・グッドールCaroline Goodall 本名:Caroline Cruice Goodall 1959.11.13-)は、英国ロンドン出身の舞台俳優、女優、脚本家。「ベン・キングスレー」と同じ「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー」に所属。 

 ●ヘレン・ヒルシュ(アーモン・ゲート所長邸のメイド)  

  エンベス・デイヴィッツEmbeth Davidtz、1965年8月11日-)は、米国インディアナ州生まれ。『ロミオとジュリエット』で「ジュリエット役」を演じて役者デビューを果たしました。英語とアフリカ語を使い分けるバイリンガル女優として、数々の「舞台」へ出演。

               ★

   何人もの優れた役者による今回のような「映画」は、本当に飽きることがありません。ことに「ヘレン・ヒルシュ」役の「エンベス・デイヴィッツ」の魅力に惹かれ、彼女のファンになりました。それにしても、この「女優」いや「役者」は凄いの一語に尽きます。

  女としての人間的表現の深さには、呆れるほどです。スピルバー監督は、かなり彼女を意識した場面そして演技にこだわった “フシ” があります。      

         ★

   ところで、この「映画」には、「トーマス・キニーリー(Thomas Keneally)」というオーストラリア人作家の「原作」があります。原題は『シンドラーの箱船』(Schindler’s Ark)(※註1)というものですが、「米国版」は『シンドラーのリスト』(Schindler’s List)に改題されています。

   日本では、「映画名」と同じ「米国版」タイトルの本が「新潮文庫」から出ており、600ページ以上もの長編です。筆者は、「映画」(DVD)だけでは不明な点があったため、この原作によって本ブログを補いました。「映画」以上の迫力があり、またとても参考になりました。(了)

         ★

  元日に始まったこのシリーズも、今日が最終回です。途中、演劇の「案内」と「鑑賞」のために、かなり「あいだ」をあけることになりました。

  筆者のわがままにお付き合いいただき、心より感謝いたします。

 

 

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○演劇案内:『The Tempest』(福岡女学院大学・岩井ゼミ)

2015年06月17日 00時01分31秒 | ○福岡の演劇案内

  

   今年3月の「福岡女学院大学四団体」による舞台公演『あゆみ』はすばらしかった。もう一回どころか、二回、三回と観たいほどだ。何と言っても、「8人の役者」それぞれの “魅力” が理想的といえるほど引き出されていた。筆者は本ブログの鑑賞文の中で以下のように記述していた。

 

  《……ことに、「音楽・効果音」を限界まで控えたため、“8人それぞれの声” や “リズミカルな台詞” がより効果的に響き、“8つの声のハーモニー” が心地よく伝わって来た。そのため、女優個々の “声” はもとより、その “顔の表情” や “動作” がいっそう魅力的に感じられた。しかもその “表情” や “動作” が、「眼の前」で活き活きと演じられたのだ。この “迫真性” こそ、“生の舞台” の最大の醍醐味でもある。》

 

  今もそのときの “余韻” が鮮やかに想い出され、感動的な “余情” として甦って来る。ダンス劇やミュージカルの感覚を採り入れた、躍動感あるリズミカルな振り付けも印象的だった。それでいて “ごく普通の一人の女性” の “平凡な日常性” を、文字通り “地に足が着いた確かなあゆみ” として捉えてもいた。優れた感性と深い理知にあふれている。               

        ★       

  福岡女学院大学の「人文学部」に「言語芸術学科」があり、ここで「岩井 眞實」という教授が「演劇学」を指導されている。筆者はその「研究教育活動」に共感する一人だ。その主張は――。 ※「太字」と「下線」は筆者。 

 

  『大学教育においては、ただ研究をするだけでなく、実践することも大切だと思われます。私自身劇団に所属し、脚本・演出・役者などを担当しています。その経験をいかして、「舞台制作」という授業では、ひとつの演劇作品をみんなで創りあげる作業を行っています。』

 その結果、このような優れた「舞台」に恵まれることとなる。ほんとにありがたい。きちんとした「舞台演劇」を学びたい人には、ぜひ推奨したい。

 今回の舞台は、「岩井ゼミ」だけによる公演。演出は『あゆみ』と同じ「岡崎沙良」嬢。また「キャスト」の大半も、やはり『あゆみ』の出演者のようだ。筆者は、さっそく予約を入れた。

  「家族」で楽しめる !?

 

 

 

  福岡女学院大学12期岩井ゼミ卒業公演

   『 The  Tempest

 

原作/William Shakespeare

●作/岩井ゼミ

●演出/岡崎沙良

 ●出演/大塚愛理、岡崎沙良、藏園千佳、橋本美咲、畑島香里、濱畑里歩、本山真帆 

●日時/ ※時間は「開演時間」。開場は開演の30分前 

 7月7日、8日、9日、10日 ・18:00

 7月11日      ・11:00  ・14:00  

  ・全6ステージ。

●場所/ぽんプラザホール

  住所:福岡県福岡市博多区祇園町8番3号
  TEL:092-262-5027  FAX:092-262-5047 

   クリック! ◆「ぽんプラザ」へのアクセス

●料金/ ・一般前売り:800円 当日:1000円

       ・学生前売り:500円 当日:800円

       ・ペア割 1500円(2枚)  ・市外割(一般前売りのみ) 500円

            ・リピーター割(半券提示:300円) 

 クリック! ◆CoRich(チェットの取扱い) 

              予約のページです。

 クリック! ◆岩井ゼミtwitter

 

 

    まったく想像力でいっぱいなのだ。

    狂人と、詩人と、恋をしている者は。 

   ―William Shakespeare 『真夏の夜の夢』

 

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◆一つの生命(いのち)を救う者が、世界を救える/『シンドラーのリスト』:No.11

2015年06月15日 00時01分09秒 | ◆映画を読み解く

 

 この『シンドラーのリスト』のシリーズも、次回「No.12」が完結編となります。

 

44.教会の中でのシンドラーと夫人

  夫人と別居していたシンドラーが、夫人を呼び寄せ一緒に住むようです。……ということは、何人もの「愛人」を整理して夫人ひとすじに……と考えがちですが、「原作」を読むと、そうではないことがわかります。それが “シンドラー流” なのでしょうか。

45.兵器を生産しない工場

  工場内で夫人イザック・シュターンに紹介するシンドラー。そのシュターンから報告を受けるシンドラーですが、報告内容は芳しくありません。兵器の納入先であるドイツ軍の「軍備局」からのクレームであり、戦車砲もロケット砲も、すべて規格テストに不合格とのこと。

  シュターンは、シンドラーが機械に何か細工をしているのではとの噂に不安を抱いています。もしそれが本当なら、シンドラーは「アウシュヴィッツ収容所」送りとなりかねないからです。

  そのシュターンに、シンドラーは言います。『自社の製品が不良品なら、他社の製品を買ってごまかそう』と。そうすれば、『戦争で使われる砲弾も減る』との考えが、シンドラーにあるようです。シンドラーは、『使いものになる砲弾を君は本当に作りたいのか』と、シュターンに問い糺すほどです。

46.工場での安息日の祈り

   シンドラーが「ヤコブ・レヴァルトフ」という「機械工」のもとへやって来ます。この人物を憶えていますか? そうです。危うく「プワシュフ強制労働収容所」において、「アーモン・ゲート少尉」に射殺されかけましたね。“拳銃の不発” によって奇跡的に命拾いをした訳ですが、彼は「ユダヤ教」の「ラビ」すなわち「聖職者」(教師・説教者)です。

  彼のもとへやって来たシンドラーの目的は、「安息日(サパス)の祈り」すなわち「その儀式」を勧めるためでした。事務所までワインを取りに来るよう伝えていますね。

  本シリーズの「No.8」には、以下のような一節がありました――。

   この「映画」におけるレヴァルトフ」は、「ユダヤ人」の “象徴” というだけでなく、「ユダヤ教」の教えを実践し、継承する  “象徴” としても描かれています。信仰心の度合いは異なっても、「ユダヤ人」は「ユダヤ教」に根差した民族であり、その “教え” を生活信条としています。

  工場内での、「安息日の儀式」が始まります。蝋燭に火を灯すシーンは、この「映画」の「冒頭シーン」とまったく同じです。当然、「炎の色」だけがカラ―となっています。

  このシーンでもう一つ注目すべきことは、ヤコブ・レヴァルトフが捧げる祈りを、工場内のドイツの監視兵が、否応なく “聞いている” いや、“聞かされている” ということです。他の「軍需工場」では考えられないことであるとともに、ドイツ軍の敗北を予感させてもいます。

 

 生産性ゼロの兵器工場

47. 工場=シンドラーの破産 

 テロップが流れます。

 “操業開始から7か月で工場は生産性ゼロ”

 “食費と役人への賄賂に数百万マルクが消えた”

  「利益」どころか「売上」がまったくありません。 

  “工場の破産は時間の問題でした。もちろんそれは、シンドラー自身の破産を意味していました。

48.ドイツの降伏

   ラジオによりドイツの「無条件降伏」が告げられます。工場内でそのことについて話すシンドラーは、自分が「ナチ党員」であることや「強制労働」で利益を得たことを明かします。次にシンドラーが、「ドイツの監視兵」に家族のもとへ帰るよう促すと、彼等は黙って工場から出ていきます。

   亡くなったユダヤ人の同胞に黙祷を捧げるわけですが、もちろんここでもレヴァルトフが祈りを捧げています。

49.一人の生命に

   シンドラーに、工場全員の署名入り手紙を渡すレヴァルトフ。ヤレスという男の金歯から作られた指輪を贈るシュターン。その指輪には、次の言葉が刻印されています。

   一つの生命(いのち)を救う者が、世界を救える  

  自嘲気味にシンドラーは、シュターンに語ります。

  『もっと救い出せた。その努力をしていれば

   シンドラーは、これまでの無駄遣いを後悔し、もっと大勢のユダヤ人が救えたと言うのですが、シュターンはシンドラーが、『ここ(工場労働者とその家族)の1100人を救った』ことを感謝の気持ちを込めて伝えます。

  それでもシンドラーは、「車」を売っていればあと「10人」が、さらに「胸の金バッジ」であれば、アーモン・ゲートは2人と交換してくれたと続けます。

  『たとえ一人でもいい。一人救えた人間一人だぞ。このバッジで。努力すれば、もう一人救えたのに……』

  そう言ってシュターンと抱き合って嗚咽するシンドラー。その二人にかけよる人々。

         ★

  スピルバーグは、以上のシーンにこだわったようです。しつこいほど「一人」という表現にこだわったのは、400万、500万、そして600万人とも言われる「虐殺された人数のあまりの大きさ」に、“ひとつの生命が軽く扱われかねない” とでも言いたげです。

 こういうところにも、「スピルバーグの哲学」が顔をのぞかせています。

50.立ち去るシンドラー夫妻と“ユダヤ人の解放”

  車で立ち去るシンドラー夫妻。逃避行ではなく、米軍に投降するためです。馬に乗ったソヴィエト兵が工場にやって来ます。「工場とユダヤ人の解放」を宣言します。このとき一人のユダヤ人ソヴィエト兵に尋ねたひとことが非常に深い意味を持っています。

 彼は、こう言うのです――。

  ――Where shoud we go?

  われわれはどこに行ったらいいんだ? とは深いですね。今日においても、この「question」は、消えることなく「ユダヤ人」の「」となっているようです。無論、スピルバーグは、「ユダヤ人」として、「全世界」に問いかけているのです。

  ソヴィエト兵の答も、“今日的な意味を持った深いもの”です。彼は次のように答えています。

 ――はよせ。君等は憎まれている。俺なら西も避けるね。

  つまりは、「どこにもいく所はない」ということです。これも象徴的な言葉です。(続く)

 

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●演劇鑑賞:『アイ・ドント・ノー・ホェア・アイ・アム』(陰湿集団)

2015年06月09日 00時00分55秒 | ●演劇鑑賞

 

 倉庫を舞台に

  今回の「演劇」は、上演時間はほぼ40分短編。「会場」は九州大学箱崎キャンパス内の「倉庫」であり、机や椅子などが雑然と置かれていた。「六畳一間ちょっと」のコンクリートの土間を「ステージ」とし、椅子等を並べただけの「客席」だった。だが “演劇舞台は役者だけでも成立する” と思う筆者には、何の不満もなかった。

   鉄骨スレート葺き構造の「倉庫」は本来の「窓」はあるものの、「役者用の出入口」や「通路」として利用するため、その外側に一部外壁らしきものが施されていた。そのため「出入口」以外には開口部も換気口もなく、また空調設備もない。もっとも、「倉庫」全体が簡素な資材できているため、その適度な隙間が有効な換気をはたしていた。

   この日は夏日であり、空気環境は好くなかった。しかし、「役者(キャスト)」は平然と演じ、「スタッフ」は淡々とこなし、観客は集中して観ていた。好きこそやれる、またできるというものだろう。

 「倉庫ステージ」の最大の利点は、5m弱の天井高にある。この高さによって、役者の声の明瞭さや伸びがいっそう際立ち、籠ることなくとても聞きやすかった。演劇における「役者の声」は最高の音楽と確信する筆者にとって、高い天井は大きな魅力。それに加え、空間の拡がりをいっそう感じさせた。それにしても、このような「倉庫」を「演劇の舞台」として活かそうとする情熱と知恵に感心した。

 

  「陰湿集団」らしき世界

   さて「舞台」の主な「登場人物」として、一応次の「4人」が挙げられる。

○所在なさげな感じの〈父親A〉(木下智之

○ゲームに夢中な〈息子A〉(長野真結

○「得体の知れない店舗のような施設」の〈女従業員〉(泉加那子

○怪しげな〈弁護士〉(白居真知

   その他として、白居氏演じる〈客〉や〈強盗らしき男〉〈少年Bの父親〉。木下氏による〈ゲーム好き少年B〉、そして泉嬢演じる〈少年Bの母親〉といった人物。

      ★

   冒頭の〈息子A〉が「ゲーム」中の「キャラクター」を設定する場面は、白居氏の巧みでコミカルな動きによって観客の心を掴んだ。                                       

   その白居氏演じる〈怪しげな弁護士〉と〈「得体の知れない店舗のような施設」の〈女従業員〉(泉加那子)のやりとりは哲学的であり、見応えがあった。この〈弁護士〉は、〈女従業員〉に「六法全書」の “取り替え” を2回要求する。1回目はコーヒーで汚れたからという理由だったが、取り替えてもらうことができた。 

   だが「破れた個所」があるとの2回目については、何と「破れた個所」をのぞきこんだ〈女従業員〉が、“該当する条文” をスラスラと口述して〈弁護士〉に教えたのだ。〈弁護士〉が、商売道具の「六法全書」を “取り替えて” もらうことや、素人が法律条文を諳んじるという着想が優れている。作者の豊かな才能と細やかな感性を感じた。

  また今回、木下氏の演技に注目した。寸足らずの「棺桶」の中でもがき苦くしむ場面は印象深いメッセージを残した。これまでの氏には見られなかった自己表現ではなかっただろうか。                                                                                                                                     

  ともあれ、今回の「舞台」は作・演出家自身の、そしてまさしく「陰湿集団」らしい “鬱屈した世界”……しかし、“希望と救済を約束された世界” であり、タイトルの雰囲気が感じられた。

       ★

  焦らずに課題の克服を

  だが今回、残念に思う場面も残った。それは、木下氏を「ゲーム好きの少年B」とし、嬢を「その母親」、白居氏を「その父親」としたこと。わずか40分の「舞台」の中でこの3人をあえて登場させる必然性はあっただろうか。

   確かに、ゲームに夢中になりすぎた「少年B」の〈母親〉が、狂い出さんばかりに怒った嬢の演技は見応えがあった。しかし、「ゲームに夢中な少年」というのであれば、長野嬢演じる「少年A」で間に合ったはずだ。何よりもこの「少年A」と「父親とはもっと絡んでもよかったのではないだろうか。                                                                           

  やはり、木下氏は「少年Aの父親」役だけを、また嬢は「女従業員」役だけを演じる方がよかったような気がする。〈弁護士〉他いくつもの役を演じた白居氏は、あれでよいと思う。というのも、彼は「冒頭」において “さまざまなキャラクターのさまざまなバリエーション” を感じさせる人物として描かれていたからだ。

   ともあれ、何と言っても「案内チラシ」と「当日のプログラム」の【あらすじ】には、次のように記されていた――。

 

  ある店に来た親子息子はゲームをやめない。奇妙な注文ばかりをしていく他の客。さて、父親の順番が来た。は何を注文するのか。

   これに「タイトル」の『アイ・ドント・ノー・ホェア・アイ・アム』を加えて考えるとき、今回の舞台における〈父親〉の存在は大きい。やはりこの〈父親〉にもっと焦点を当てたほうが、「物語」がいっそう印象深く観客の心を捉えたのではないだろうか。

  実は筆者は、今回の「舞台」を同じ日に2回観た。その理由は、この〈父親〉の扱いに今一つしっくりいかないものがあり、それを確かめるためだった。

       ★

  思うに、〈弁護士〉と〈女従業員〉との「六法全書」の “取り替え” を巡る “絡み” をもう一回挟むとよかったのかもしれない。ついでに言えば、「小道具」としての「六法全書」は、“独自の条理(=秩序)の世界” をイメージさせる「オリジナルなもの」がよかったのでは……。 

 【キャスト】 木下智之(父)、長野真結(息子)、泉加那子(女従業員)[※註1]、白居真知(客=弁護士、その他)

 【スタッフ】 白居真知(舞台美術)、山本貴久(照明)、谷口陽菜実(音響)、木下智之(制作)、長野真結(宣伝美術)。 以上、諸氏諸嬢。

  

  今回は、正直いってあといくつか指摘したいことが残ったようだ。しかし、それは成長へのステップであり、いつか話してみたい。

  ともあれ、今回の「舞台」に携わった「キャスト・スタッフ」各位に労いの言葉を贈りたい。

  とにかく “焦らずに、じっくり腰を据えて” 進んで欲しい。「小さな劇団」ではあっても、 “進もうとしている方向も、進むべき方向” も確実に捉えている。……と確信する筆者は、ぜひそれを見続けたいし、また見届けたい。

            ★   ★   ★                                                                 

 ※註1:福岡大学演劇部所属 

 

 

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●演劇鑑賞:『『人数の足りない三角関係の結末』/演劇ユニット「 」(かぎかっこ):下

2015年06月04日 00時05分31秒 | ●演劇鑑賞

 

  家族の再生

  ところでこの「物語」は何を伝えようとしたのだろうか。「エピソード:1」の洋食・中華・和食の鉄人という設定が表現しようとした世界は、趣味趣向や価値観の違いであり、少なくとも表向きは「競争社会」における “闘い” あるいは “対立” を象徴的に描いているのだろう。人は誰しも、さまざまな場面において、何がしかの “闘い” や “対立” に身を置いている。

  「エピソード:2」は、1人の「(山路)」を巡る「女2人」の “闘い” であり、“対立” といえる。無論、「男」自身もずっと “闘って” 来たし、漂流中もそうだった。結果として、ここでの “恋愛” は未完のまま終りを迎えた。しかし、前述のように「離婚経験者」として “家族の破綻” を招いた「男(山路)」の「(なrなえ)」が、「エピソード:3」の「花嫁」となる。

   そして「エピソード:3」は、人間社会の “さまざまな闘いや対立” を超えたところで、「家族」という人間関係が成り立つ、あるいは成りたっていることを示している。つまりは、何の脈絡もなかった「人」と「人」とを “つなぎ留めた” 「家族」という形態の力強さというものだろう。「(えにし)」と言ってよいのかもしれない。

 人間は自分の「家族」を守るために、他人の「家族」を破綻させることを厭わない。愛する妻子のために、同じように愛する妻子を抱えた男を殺め、彼から金銭を奪うのも男だ。「家族」という名のもとに、何か赦されることがあるというのだろうか。

 人間は一つの「家族」を壊しても、また次なる「家族」を創ろうとする。「壊れた家族」で育っても、いや、だからこそ「壊れない家族」をと試みるのかもしれない。そういう「家族」の強さ……いや、“家族を創り上げようとする” 人間の “意志の強さ” というものだろうか。それはもう “再生” といった生易しいものではない。そんなことを感じさせられた。

 

  優れた音響効果

  この「エピソード:3」において、「音楽」がとても感動的だった。夫婦と娘とのやりとりが終わる頃、静かにサティの「ジムノペディ」がゆったりとinし、「結婚披露宴」での〈娘・ななえ〉のメッセージが始まる中、ずっと流れていた。絶妙な選曲であり、見事な場面転換だった。音量調整もタイミングも申し分なかった。

   しかし、それ以上に感動したのが「」の「効果音」であり、自然の「波音」そのものではなく、舞台に合わせて作られたオリジナリティが感じられた。 “根なし草のように不安定に漂う” 感じや、“逡巡しながら海の中に引き込まれていくような空虚感” がよく表現されており、3人の男女の不安感をきわだたせていた。

   “ありきたりの自然な波音”では、こうはいかなかっただろう。といって “作り物=まやかし” というものでもない。あまりの素晴らしさのために「劇団」に問合せたところ、「自然の泡や波」を複数組み合わせて作成したという。

   「演劇」には、こういう細やかな神経が求められるわけだが、それもやはり研ぎ澄まされた “感性” の所産というものだ。主宰の浜地氏が「音響」を担当したというのも頷ける。無論、「音響操作」も秀逸だった。

   また、地味ながらも「照明」や「照明操作」も、「音楽・効果音」ほどの派手さはないものの、優れた「企画」であり、また「照明操作」だった。……とはいえ……

       ★

  今回の「舞台」において、もう一つ素晴らしいと思ったのは「演劇会場」の使い方だった。実は今回の「会場」は、『陰湿クラブ』(陰湿集団)と同じ「シゲキバ」だった。「陰湿」とはまったく異なったステージの造り方をしており、とても納得がいった。

   観客席を細長く取り囲むように、「3つ」の「エピソード」の「舞台」を離しながらも、どこか “つながり感” を意識させていた。 何でもないようだが実にうまい。

 

  解りやすい舞台進行を――もっと照明に

  最後に、舞台運営について、率直に筆者の所見を述べてみたい。それは、今回の舞台のように「複数のシチュエーション」に「多くの登場人物」の場合、“どうすれば、観客がよりよく舞台を理解できるのか” についての、いっそうの配慮が望まれる。今回の場合、「エピソード:2」の「漂流」において特にそう感じた。

  ことに、「舞台背景」等の「舞台美術」や「小道具」「衣装」等が省略された場合(無論、それらの省略については何の異論もない)、「観客」の拠り所は「役者」の「演技や台詞」だけとなる。今回、同劇団の優秀な役者3人による舞台進行とはいえ、また前述した素晴らしい「」の効果音があったとはいえ、やはりそれだけでは「舞台」が表現しようとする真の意図を理解することは難しいようだ。

   上っ面の把握だけでは、折角の舞台がもったいないというもの。何よりも、「エピソード:3」への “つながり”が 浅いものとなりかねない。やはりここでは、「照明」を利用した「海」や「漂流」といった「シチュエーション」を表現して欲しかった。あれだけ素晴らしい「波音」を創造した劇団にとって、それほど難しいことではないと思う。

   「照明」においては、大がかりな照明装置やカラフルなライトなどなくとも構わない。最近、これはと思う劇団において、「音響効果」のレベルはかなりアップして来たように思う。あとは「照明」ということになろうか。

 もっと光を! ……どこかで聞いたな……いや違う。 もっと光に! 

 ……いやいや、もっと照明をだ! いや、それも違う。

 もっと照明に! これだ。 出でよ! 「照明の鉄人」! 

 

        ★

 【キャスト】 浜地泰造丸尾行雅石川優衣酒井絵莉子せとよしの(※註1)

 【スタッフ】 音響:浜地泰造、照明・宣伝美術:石川優衣、制作:酒井絵莉子、音響操作:古川綾、照明操作:伊比井花菜 の諸氏諸嬢。

 ※【チラシ写真撮影・デザイン】:椎名諒

        ★

 椎名氏の「案内チラシ」のデザインと後ろ姿の女性フォトがいい。同氏のような「ブレーン(brain)」の氏名明示については大いに賛成したい。言うまでもなく、当該「舞台公演」の「表現者の一人」でもあるからだ。

 ともあれ、より解かりやすい「舞台運営」をあらためて望むとともに、このたびの「舞台公演」に関わったすべの「キャスト」「スタッフ」そして「ブレーン」その他の人々に敬意と深謝の意を表したい。(

       ★   ★   ★

  ※註1:彼女の所属は、演劇ユニット「そめごころ」、アートユニット「豆小僧」。

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