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荘子:斉物論第二(13) 是之謂兩行

2008年11月02日 04時35分31秒 | 漢籍
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荘子:斉物論第二(13)

 勞 神 明 為 一 , 而 不 知 其 同 也 , 謂 之 「 朝 三 」 。 何 謂 「 朝 三 」 ? 曰 : 狙 公 賦 ? 曰,「 朝 三 而 莫 四 。 」 衆 狙 皆 怒 。 曰 : 「 然 則 朝 四 而 莫 三 。 」 衆 狙 皆  。 名 實 未 虧 而 喜 怒 為 用 , 亦 因 是 也 。 是 以 聖 人 和 之 以 是 非 而 休 乎 天 鈞 , 是 之 謂 兩 行 。


 神明(シンメイ)を労して一(いつ)にせんと為(つとめ)めて、而(しか)も其(そ)の同じきことを知らざるなり。之(これ)を朝三(チョウサン)と謂(い)う。何をか朝三と謂う。曰(い)わく、狙公(ソコウ)、?(とちのみ)を賦(わか)ちあたえて、「朝は三にして、莫(くれ=暮)には四にせん」と曰(い)いしに、衆狙(シュウソ・あまたのさる)は皆怒(いか)れり。「然らば則ち、朝は四にして莫(くれ)には三にせん」と曰(い)いしに、衆狙は皆悦(よろこ)べり。名実未(いま)だ虧(か)けざるに、而も喜怒は用を為す。亦(また)是(ゼ)に因(よ)らんのみ。
 是(ここ)を以て聖人は、之を和するに是非を以てして天鈞(テンキン)に休(いこ)う。是(こ)れを両行(リョウコウ)と謂う。


 世俗の人間は徒らに精神を苦しめて是非の論争に憂き身をやつし、万物の差別と対立が言論心知によって統一されるかのごとく錯覚して、本来一つである実在の真相を悟らないが、彼らのこのような愚かさこそ、「朝三(チョウサン)」と呼ぶのである。それでは「朝三」とは何か。
 昔ある所に狙公(ソコウ)、すなわち猿回(まわ)しの親方がいて、多くの猿を飼っていたが、ある朝、彼は猿どもに餌(えさ)として?(とち)の実(み)を分けてやりながら、こういった。

 「朝は三つずつ、夕方には四つずつやろう」

 すると猿どもは歯をむいていきり立った。そこで猿回しの親方がさらに、

 「それならば、朝は四つずつ、夕方には三つずつにしよう」

 といったところ、多くの猿どもはキャッキャッと喜んだ。

 結局同じ内容の、異なった表現にすぎず、いくら(ことば)を変えてみたところで実質には何の変化もないのであるが、猿どもは勝手に喜怒の情を用いて騒ぎ立てている。世俗の学者先生たちの愚かさが、この浅はかな猿どもとどれほど違うというのであろう。
 彼らの狂態も、是非の相対を超えた絶対の是(ゼ)、すなわち万物斉同の実在の真相に大悟すれば、静かなる正気にその精神を安らげることができるのだ。
 だから聖人は、是非の価値的偏見を是(ゼ)もなく非(ヒ)もない実在の一に調和し、心知の分別を放下して「天鈞(テンキン)」すなわち絶対的一の世界に安住する。そこでは、一切万物の矛盾と対立の相(すがた)は、矛盾と対立のまま、「両(ふた)つながら行(おこ)なわる」、同時に存在し得るから、この境地をまた「両行」ともよぶのである。

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例によって、この一節も、全面的に福永光司先生の解釈に依って読ませていただきました。
 是非とも、福永光司先生のご著書をご覧ください!
  参照:「荘子 ─ 中国古典選:朝日選書・朝日文庫」

莫(字形)

 ■音
  【ピンイン】[mo4]

  [1]
  【漢音】ボ 【呉音】

  [2]
  【漢音】バク 【呉音】マク

  【訓読み】くれる, くれ, おそい, ない, なかれ
 ■解字
  会意。草原のくさむらに日が隠れるさまを示す。暮の原字。
  隠れて見えない、ないの意。
 ■意味
  [1]
   くれる(くる)。くれ。おそい(おそし)。日・年がくれる。日・年のくれ。時刻・時候がおそい。《同義語》暮。
  [2]
   (1)ない(なし)。否定をあらわす。まるでない。見あたらない。
   (2)なかれ。禁止をあらわす。…してはいけない。
    「酔臥沙場君莫笑=酔うて沙場に臥すとも君笑ふこと莫かれ」〔王翰・涼州詞〕
   (3)ことわる。さからう。うけつけないこと。
    「君子之於天下也、無適也、無莫也=君子の天下におけるや、適も無く、莫も無し」〔論語・里仁〕
   (4)むなしい。はてしなく広い。《類義語》⇒茫(ボウ)。
    「寂莫(ジャクマク)・(セキバク)」「広莫之野(コウバクのや)」〔荘子・逍遥遊〕
   (5)「莫莫(バクバク)」とは、こんもり茂っておおいかくすさま。
    「維葉莫莫=維れ葉莫莫たり」〔詩経・周南・葛覃〕
 ■単語家族
  幕(見えなくする布)・墓・無・亡と同系。



 ■音
  【ピンイン】[ju1]
  【呉音】ソ 【漢音】ショ
  【訓読み】さる, ねらう
 ■解字
  形声。「犬+音符且(ショ)」
 ■意味
  (1)さる。手長ざる。
  (2)ねらう(ねらふ)。かくれていて人のすきをうかがう。「狙撃(ソゲキ)」
   「慎勿出口他人狙=慎みて口より出だす勿かれ他人に狙はれん」〔杜甫・哀王孫〕



 ■音
  【ピンイン】[kui1]
  【呉音・漢音】キ(クヰ)
  【訓読み】かける, かく
 ■解字
  会意兼形声。「まがる、くぼむしるし+音符雇(コ・うつぶせてかかえこむ)の変形」。
  まるくかこんだ形の物の一部がかけてくぼむこと。
 ■意味
  (1)かける(かく)。かく。少なくなる。へらす。また、月などがかけおちる。こわれる。くぼんで穴があく。こわす。《類義語》⇒欠・空。
  (2)かけめ。欠損。


天鈞(テンキン)
 自然の平等の原理。


 ■音
  【ピンイン】[jun1]
  【呉音・漢音】キン
  【訓読み】ひとしい
 ■解字
  会意兼形声。「金+音符均(キン)の略体」。
 ■単語家族
  均・尹(イン・平均をとる)と同系。
 ■意味
  (1)陶器をつくるときに使うろくろ。平均のとれた回転盤。転じて、天下の平均を保つ政治力。「国鈞(コクキン)」
  (2)ひとしい(ひとし)。まんべんなくいきわたる。《同義語》⇒均。
   「鈞是人也=鈞しく是れ人也」〔孟子・告上〕
  (3)均斉がとれて、重々しい。▽尊敬の意をあらわすことば。「鈞令(キンレイ)」「鈞啓(キンケイ)」
  (4)重量の単位。一鈞は、三十斤。周代では七・六八キログラム。




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