ゲヘヘのオヤジ！ボボボのボッタクリ！

十数年前
ここ北海道で成功をおさめ
チェーン化して全国へ進出した居酒屋がある。
『人屋根』冠に魚と書いて『うおや』
『うおや一丁』という店だ。
漢字登録無し？
なのでひらがなでしか表記できない。
むむ。

北海道から直送された新鮮な食材を
格安料金のしかも驚きの量で提供。
その美味さとお得さと楽しさは
あっという間に巷で広がり
入店に長蛇の列を成す程の人気店となる。
当時僕もよくその店の新宿店に足を運んだものだ。
お気に入り店の1つだった。

むか～しむかしのある日。
新宿靖国通り沿いのとあるビルの地下での事。
その日も僕は友人と
『うおや一丁』新宿靖国通り店へ足を運んでいた。
が、あいにくの満席。
行列も出来ており
入店までにおおよそ1時間以上はかかるだろうとの事。
んなもん待ってられないと
同じビルの別の店へ行ってみる事にした。

フロアー奥まで歩いて行くと
なんとも魅惑的な店名の看板を発見。
その名も
『牛すじ屋』
美味そな名前にゴクリ。

店内を覗き込む。
お客はいない様だ。
う～ん
どうなの？
何だか怪し気だし。
しかし何だね
“牛すじ”なんて文字見てたら
だんだん牛すじが食いたくなって来ちゃったね。
『牛すじ屋』って具合だもん
勿論牛すじにこだわった店なのだろうしね。
入るか！
入ってみるか！
なんつって扉を開ける。

♪カランコロン♪

扉上の鐘が鳴り
胡散臭いオヤジが現れた。
「ゲヘヘ
いらっしゃい」

気持ち悪いツラだ。
ニヤニヤ笑っている。
そんな店主にちょっと引きつつ
僕らは入り口左手のテーブルに腰をおろした。

店内を見渡す。
やけに薄暗い。
何だか気味悪いなぁ
おっさん
「ゲヘヘ」
て笑ってたしなぁ
何て話ながらも
まぁとりあえずちょびっとだけ飲んで
ヤバけりゃ店を変えれば良し！
なんて塩梅で
とりあえずの生ビールを注文。

さて“つまみ”だが
う～む。。。
…ろくなもんが無い。
まぁまずは店名にもなってる“牛すじ”中心に
適当にみつくろい注文した。

そんな『牛すじ屋』の牛すじだが
味は覚えとらんのです。
美味くも不味くもなかったのだろう。
それじゃダメじゃん。

何だかんだと飲んでいたらば
気づくと1、2時間は経っていた。
店を変えるのも面倒になってきたので
そのまま暫く居座って飲み進める事に。

ふと思う。
さっきからずっと
お客は僕らだけなんじゃねぇの？
トイレ行くついでに壁向こうのテーブルの様子を伺うと
発見！
もう1組サラリーマンとOLっちゅう組み合わせの客がいた！
ちょっと安心で再び飲み進める。

ワイワイガヤガヤやっていたらば
いきなり後からさっきの会社員の2人に話しかけられた。
えぇ！？
あんたら2人であっちのテーブルで飲んでたよね。
何突然こっち来て
知らねぇのに馴れ馴れしく話かけてきてんの？
よく分からんが空気読めない図々しさに疑問感じつつも
なんやかやと話しているうちに
別々な2つのグループが1つになり
見知らぬ同士盛り上がりはじめてしまった。
まぁこれも何かのご縁と面倒ながらも一緒に飲む事に。

リーマン＆OLが僕ら会話の何に食い付いて話しかけて来たのか
これまた覚えていないが多分芝居の話か何かだったような気がする。
しかし！
こいつらと飲んだ事を
そしてこの店で飲んだ事を
この後僕らは後悔する事になろうなんて
この時は当然まだ知るよしもなく。。。

そのまま僕含めて4人は
まずまず盛り上がり飲んだくれた。
気がつくと
何故だろう“4人が5人”になっていた。
誰だこいつ！

「ゲヘヘ…」

この店のオヤジだ！
いつの間にか我々の輪に加わっていたオヤジ！
しかも
“おすすめ”と称して次々勝手につまみを運んで来るではないか！
「頼んでないんだけど」
と言う僕に
「ゲヘヘ
良いの良いの！
サービスするから食べてみてよ！」
とか
「試作中の料理なんだ。
ゲヘヘ
良かったら食べて感想きかせてよ！」
なんて調子の良い返事。
サービスならまぁ良いかといただく事に。

そのうちオヤジはウォッカ『ズブロッカ』ボトルを冷凍庫から運んで来て
「これ知ってる？
冷凍すると凍らずトロトロになって美味いんだよ。
ゲヘヘ」
とか言いながら
ガバガバそいつを飲みはじめた！
店主が営業中にそんなに飲んだくれて良いのか！

片やこちらはというと
何だか皆酔いが早い。
さほど量は飲んでないハズ。
これってもしや
“ゲヘヘのオヤジ”に変な薬を…。
その瞬間！

「飲んでるかーっ！」

OLに首を絞められた！
なんとか振り払うも
手がつけられない程暴れまくるOL!
ツレのリーマンに助けを求めようとしたらば
「ゲヘヘ
先程帰られましたよ」
えぇ！？
そうか！
こいつがスーパー酒乱と分かってて
リーマンの奴まんまとトンズラかましたな！

「あんたら責任取って
あたしに付き合いなさいよ～！」

何の責任だ！
意味不明！
放せ！
苦しい！
こりゃまずい！
僕らもお勘定済ませて逃げる事に！
「すいません！おあいそ！
いくら？」
“ゲヘヘのオヤジ”はためらいなしに

「ゲヘヘ
“4万円”です」

へ？
僕らそんなに食って飲んで無いっすが？
もしやこのOL達の分も入ってるとか？
「いいえ
お客様お2人分です。
ゲヘヘ」

えぇ！？
た、高過ぎるだろーーーっ！
絶対ぼったくってるだろーーーっ！
飲み物に変な薬入れて酔わせてぼったくろうって魂胆だろーーーっ！
サービスとやらで出してきた“要らない料理”の代金も含まれてるだろーーーっ！
オヤジの飲んでた『スブロッカ』ボトル代金も含まれてるだろーーーっ！
しかもボラれたかそうでないかの分別がつかぬくらいの微妙なボッタクリ！

「帰らせねーーーっ！」

と酒乱OLにからまれて
仕方なし
急いで支払い逃げる様に店を出た。
あぁ『うおや一丁』並べば良かった。
恐ろしい思い出だ。

それから
そんな店『牛すじ屋』に近づく事は無かった。
先日新宿へ行った際
靖国通りのそのビルを覗いてみたらば
『牛すじ屋』は消えていた。
だいぶ前の話だし
あんな店無くなって当然だろう。

今になって思う。
あのOL＆リーマンは
“ゲヘヘのオヤジ”とグルだったんじゃないかと。
僕らはまんまとボッタクリの手口に
ハメられてしまったのではないかと。
セコい微妙なボリ金額だったが。。。

昨晩
札幌の歓楽街ススキノをブラついていて
何となくそんな昔を思い出してしまった。

もしかしたら
“ゲヘヘのオヤジ”は全国各地を転々とボリ回り
今はここ札幌ススキノに
いたりするのかもしれない。
んなわけないか。

「ゲヘヘ
牛すじにズブロッカ！
美味しいよ」

うわぁっ！

めけめけ～。

写真。ススキノといえば
『ニッカウイスキー』の看板。