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というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

危機の宰相

2009-06-10 10:52:06 | 書評
危機の宰相 (文春文庫)
沢木 耕太郎
文藝春秋

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60~64年に首相在任し、高度成長期の基礎を築いた池田勇人。
彼の名は知らなくても、所得倍増計画は知っているという人は多いだろう。
彼とそのブレーンたちの生き様を描いた沢木耕太郎のノンフィクションが本書だ。

40年以上の時が過ぎ、もはや歴史になりつつあるが、今読んで得るところが多いことに
驚かされる。
ブレーンの一人、田村敏雄の以下の言葉は、そのまま現在に置き換えても重い意味を持つ。

乏しきを憂えず、均しからざるを憂うなどと、どうして今頃いうのか。
それは戦時非常体制下の支配者の言葉ではないか。
この現代において均しからざるを解消しようとすれば、
経済の成長しかないのだ。
たとえばいま、年間二百万円以上※の所得を持つ人から
超過分を没収したとしよう。それでいくらになると思うか。
三百数十億円だ。それを国民ひとり当たりに均しく分配すれば
三百円にしかならないということは、簡単な算術ではないか。
格差は動的、発展的なプロセスで解消すべきだし、またできない
はずはない。

※現在の年収一千万程度

いまだに階級闘争を主張する左派はもちろん、日本的道徳とやらに立つ保守からも
バッシングされたホリエモンは獄に放り込まれたが、それで格差が解消したかと
いうと全然そんなことはなくて、むしろ新興市場が冷え込んでパイは減ってしまった。
規制と増税で再分配を強化するより、規制緩和でパイを増やしたほうが豊かになれる
というのは、スウェーデンの社会党から中国共産党まで共有している認識だ。

そして、もう一人のブレーンである下村治の有名な言葉も引用される。

経済成長ということは、本来自由化を条件として含んでいるはず
であって、また自由化という条件が無ければ、経済成長は
相当重大なゆがみを与えられることになる。

(日本経済成長論より)

面白いのは、当時は自信のなかった経済界自身が、自由化に及び腰だったこと。
競争力のある海外製品に市場を独占されるのではないかと懸念したわけだ。
そこで自由化に踏み出していなければ、今日の日本はどんなものだろう。

所得倍増計画というと、まずインフレや積極的な財政出動が頭に浮かぶが、もちろん
むやみにばらまいていたわけではない。
東海道新幹線は日本の動脈として、今も休まず動き続けている。
先進国として成熟し、なにが動脈たりえるかの議論が曖昧なまま
システムの枠組みだけが残ってしまっているというのが、
現在の状況だろう。


それにしても、素晴らしい。歴史には学ぶべきものがたくさんある。
沢木氏の原文は70年代のものだが、今、それを文庫化してくれるセンスも素晴らしい。
文春もやるときはやるものだ。
 

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6 コメント

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再び同意 (NRRP)
2009-06-10 12:32:57
経済成長が重要であることは経済学から我々が得た
最も重要な成果の一つだと思います。

じゃあどうすれば成長できるのか、
そもそも今後成長は達成できるのか、
この点について争いはあると思いますが。

日本のおかしなところは、昨日のエントリーでも
触れられていましたが、「もう成長は辞めよう」
さらには「成長は有害だ」などと言い出す
奇矯な人々がおり、しかも少なくない
支持を得ているところだと思います。

どういう精神構造からそういう理解にたどり着くのか
理解不能です。アナーキズムなんですかね。
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競争したくない人達 ()
2009-06-11 00:28:37
「競争なんてしたくない、今で十分」という生き方もあるが、もう十分持っている人が言うのと持たざるものが言うのでは意味がまったく違う。若い世代の中にもそういうデマに毒されている人がいるのは残念でならない。最大の犠牲者は彼ら自身なのに。
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Unknown (井戸)
2009-06-11 02:26:06
日本だと競争が
・試験スキルを高めての高学歴→狭き門である特権正社員の地位or夢の海外脱出
もしくは
・ホリエモンみたいな超絶山師
の二択しか見えないから、大半の人にとってどうしょうもないんじゃないですか。
その内、後者は潰されて前者しか残ってない訳だし。

これを外れて何かを闘って勝ち取ろうとするなら、非戦後日本的態度/習慣、
日本にも伝統社会には多分に存在していた筈の分厚いVitarityが必要になる。
これは学校じゃまず習得できないですよ。学校はむしろそれを去勢する。
こういったVitarityは不法入国してくる様な国の人間は多分に持ち合わせてますね。端から見ても。

よく囲い込み正社員共同体(その究極理想が官僚)が問題になりますが、
その前段階である官僚育成のことしか考えてない、官僚的事務処理能力以外の"分厚く世の中を生きる能力"を
去勢する学校教育こそが対となる構造でしょう。

この"教育"はどこか何かを改善すれば直るなんてのはあり得ない。
一度ぶっ壊れて完全な自由競争、好き勝手にやり、本当に役に立つ人材を作り出すことに凌ぎを削り、
個人が、地域が、家庭が、学校が、あらゆるものが成功Modelを必死に模索し学ぶ、それしかない。

私は次の日本しか見てないですよ。
米国がその場の都合で作った"戦後日本"が続く限り、緩慢なる敗戦は終わらない。
保護者であるアメリカが手を引いたら"自称平和"、緩慢なる敗戦なんてものは長続きしませんよ。
歴史も世界もそれほど緩くない。
日本もグルジアやボリビアみたいな政変・地域紛争が当たり前の国に否が応でもなるんです。
今まで他の国では当たり前に起きていたことが起きなかったのは、
単に米国が作った箱を米国が管理していた、それだけのことに過ぎないんですから。
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ウェブの世界と現実の世界 (松本孝行)
2009-06-11 10:24:53
 よく起業家仲間や起業を考えている友人なんかと話をすると、アイデアがポンポン出てきたりして面白いのですが、そのアイデアの多くがウェブの世界でのアイデアだったりします。実際、そのアイデアをリアルの世界に落とし込むと、途端に「あれがダメだ」「これがダメだ」という弊害が出て、魅力のないビジネスになってしまうことが往々にしてあります。

 我々の発想力が乏しいのと現実性がないアイデアが多いのでしょうが、それが自由なウェブの中では十分アイデアとしては魅力的なものになり、リアルの世界では自由化がされていないため、ビジネスとしても弱くなるという状況ですね。成長もそうですしイノベーションもそうですし新陳代謝も自由度が低ければ何もできません。
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変革 (kenji)
2009-06-11 11:15:18
我々の歴史は自然災害が社会改革の契機になり、その時一種の無法状態が生じる。
関東大震災がその契機にあると山をはるか、それとも海外との抗争を自然災害のように感じて、行動するかでしょう。議論なんかで決まったためしが無いのでは

 わが国の学校教育はどのような人を育てようとしているかと言うと其れは公務員を育てようとしている。
 近代社会で生きる上において必要な社会法則、たとえば失業保険はどのような仕組みとか、其の他を教えない。
もう一つは近代社会で生きていく技術を身に付けようとしない。手に職を就けさせるという感覚が無い。
 つまり何も教えていない。教えるほうも分からない、同和教育とか、憲法教育とか、それらを学んで(?)大学へ行った人は気の毒である。
第一労働では生きていくだけの金しか得られないことを教えていないことは致命的である。
 ホント、腹が立つ。一種の虚構を教えておりながら、其れと認識していない。
 あれって、何だろう。有名大学へ行っても金など縁は無い。考えてきれば当たり前だが。
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再度括目しました (UNNTA64)
2009-06-11 18:00:37
その昔、確かに下村氏の講義だったか講演を拝聴したことがある。
恐ろしいおっさんだなと。
以来宰相として三人の人物に関心を持ってきた。
吉田茂、石橋湛山そして新たに池田勇人。
以来30年、主に空想イデオロギーに支配された頭はロクな本も読んではいない。
城さんに紹介され「危機の宰相」あわてて通読。
括目。併せて吉田茂、石橋湛山両宰相の業績にも触れる事にする。
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