Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

雑感@アゴラ・シンポジウム

2009-05-31 10:17:23 | その他
昨日行なわれたアゴラ・シンポジウム。
僕は第一部だけの出席だったが、全体的にもとても充実したイベントだったようだ。

ということで、簡単に雑感。

まず、会場の熱が凄い。普通、この手のイベントというのは、仮に予約が埋まった
としても、当日は一定のキャンセルが出るものだ。
当日小雨、有料で満席になるとは正直驚いた。
「なんでこんなに人多いの?ホントに不況なの?」(西和彦氏)
という言葉に妙に納得。

そして、その西氏の存在感は圧倒的だった。
障りのない範囲でコメントを書くと。
「首相が100年に一度の不況なんて言うな」
「世の中なんて変わらない、自分を変えろ」
「システムが崩壊するのを見て楽しめ」
マイク握った瞬間に会場の空気を持っていく力量は、さすがカリスマだ。※1

その他、具体的な内容についてはここでは述べないが、印象に残ったのは
池尾先生のミュータント論だ。※2
曰く、経営層とコア正社員の一体化は雇用規制の強い欧州でも見られる現象であり
(いわゆるインサイダー・アウトサイダー論)、これが雇用の非効率をもたらしている。
この経営層-コア正社員の連帯システムは非常に強固で安定しており、変えるのは
とても難しい。
ただし、既存システムに異を唱える突然変異的なミュータントが一定数に達すると
システムは崩壊する、というもの。

ミュータント的な破壊者(西氏なんか典型だろう)が大勢出てくるのは難しい
だろうなあという雰囲気だったが、個人的にはそこは楽観視している。
というのも、大手の正社員という地位さえ、若者にとっては既に割に合わないもの
となっているから。
今回のイベントの“熱”は、その高まりをあらわしているように思う。
隠れミュータントは確実に増えているはずだ。



※1 会場の沸き具合からするに、恐らく西ファンがかなり含まれているのでは。
※2 池尾先生も中々いいキャラだった。

ルポ 雇用劣化不況

2009-05-29 12:53:20 | 書評
ルポ 雇用劣化不況 (岩波新書)
竹信 三恵子
岩波書店

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「大変だあ、大変だあ」というフェーズ1の話がほぼ全編、97%くらい続く。
まあ岩波の雇用問題だからこんなもんだろうなと予想はしていたものの
いい加減進歩しろよといいたい。7、8年は遅れてるぞ。

ちなみにその“貧乏暇なし”の原因だが、こちらも伝統の「経営者と国が悪い」。
グローバリゼーションというスパイスをブレンドしてはいるが、あまり新鮮味は無い。

そして中盤で介護や流通の例を持ち出し「とはいっても正社員も大変だ」とフォロー
するのももはや定番。
それでもようやく、最後の最後で申し訳程度に解雇規制の存在しないデンマークと
フレクスキュリティに言及している分、進歩はしているか。
まあ最初からそれ以外に解決策なんてありえないんだから、当然の帰結だ。

といっても、著者の歯切れはものすごく悪い。
同一労働同一賃金の規定も無しに国が派遣法を改正したから、ここまで格差が
開いたのだと非難するが、
同一労働同一賃金の実施に頑強に反対し続けているのは連合じゃないか。
そこを認めない限り、百万言つらねたところで価値は無い。

というより、こういうのはご自身の会社で考えてみると、よくおわかりになりますよ。
まあ編集委員というお立場上、いろいろ言いにくい部分もあるでしょうから、私が代わって
シミュレーションしてあげましょう。

某新聞社には給与体系が7掛けの子会社と、そこで使われる契約社員やフリーライターと
いった非正規雇用など、いくつかのヒエラルキーがある。
同じ仕事をしていても、本社様から天下ってきた殿上人と子会社プロパーとフリーライター
では賃金格差が存在し、特に正社員と非正規の間には大きな溝がある。

さて、この状況で同一労働同一賃金を実施すると…
誰がどのくらいの価値の仕事をしているのか、職能給ではわからないから、とりあえず
本社様の正社員の平均賃金である1500万円ほどみんなに支給するとしよう。
人件費は大幅にアップしてしまう。経営者が悪いそうだから、とりあえず新聞社社長の給料は
半分だ。それでめでたく同一労働同一賃金は達成!悪徳資本家を懲らしめ、格差も
ワーキングプアも消えました!

…ってなるわきゃないだろう。
たぶん、何人かきわめて優秀な人間はそれだけ支給されるだろうが、それ以外の
非正規雇用は全員クビになり、正社員の残業&編プロの請負が増えるだけだろう。
一部の人の言う「国と経営者が全部悪い」的な政策で生まれる現実はこれである。

新聞社のトップなんて、まあメーカーよりは高いだろうが、それでも一億は貰ってないはず。そんなのをボランティアにしたって、数人しか雇えない。
要するに、労働者間の再分配が機能していないのが問題なのだ。
著者のいうように「市場原理に任せたからこうなった」というのは本末転倒で
ただしくは「市場原理が機能していないからこうなった」と言うべきだ。
よって、まずは市場原理が機能できない原因である規制を外すことが重要となる。

労働者全体へのセーフティネットの整備は必要だろうが、
(恐らく流動化で処遇の下がる)中高年の正社員に対しては既に失業給付という
ものが存在している。それ以上、たとえば賃下げ分は100%保証しろなどという
のは流動化でもなんでもなく、出来ないと知りつつ時間稼ぎのためにばらまく煙幕だ。

そういう矛盾が手に取った瞬間脳裏をよぎってしまうので、僕はもうこの手の本には
とても乗れない。いや、もう岩波ってだけで内容は想像がついてしまう。
何より、労働者ヒエラルキーの頂点に君臨し、年収2000万は貰っている
スーパー勝ち組中高年正社員の著者に
「みんな苦しいのです、だから安易な流動化の議論など避けるべきなのです」
と言われても、申し訳ないけど1gの説得力も感じない。

なんにせよ、岩波の書籍で“労働市場の流動化”に言及したのは初めてではないか。
そういう意味では記念碑的な一冊かも。

大手メディアの年功序列の崩壊

2009-05-28 10:47:52 | 経済一般
朝日のボーナスがなんと4割も減るらしい。
勝ち組の朝日でこうだから、毎日産経あたりはボーナスなくなっちゃうんじゃないか。

とはいえ、この不況の最中。そんな会社は珍しくもない。
景気が良くなった時に、大盤振る舞いを期待すればいいのだから。
そういう意味では、新聞業界にはとても同情している。
というのも、たとえ景気が回復したとしても、恐らく新聞業界の
パイ自体は、以前の水準には回復しないだろうから。

これは構造的な問題なのだ。

たとえば自動車の場合、需要が回復すれば以前に近い水準までは戻れるかもしれない。
電機にしても、サムソンや台湾企業に勝てれば、90年代のような水準にまでは
戻せるだろう(きついとは思うが)。
新聞の場合、地盤沈下しているので競争しようにも相手がいない。
あえていえばネットか。

こういう時、職務内容を基準に賃金が決まっているのなら、不要な業務を見直すか
全員の水準(業績連動分)を引き下げるかして人件費をカットできる。
要するに、その職務の相場が訂正されるわけだ。
どちらにせよ、世代間格差は発生しない。

ところが日本企業の場合、ただなんとなく毎年少しずつ積み上げてきて、しかも突然
積み上げ作業を中断するわけだから、若い世代ほど不利になる。
東大出て○○新聞社に入って勝ち組になれるはずだったのに
やってられるかよ、となってしまう。


似たようなケースでは、テレビ局もそうだ。
既にTBSが数年前から、新人は別会社扱いとして給与体系を別物にしていたが
日テレも昨年より給与体系を切り替えて抑制し始めている。
ちゃんとルール化している分、銀行や新聞より真面目であるが、ツケの先送りと
言う意味では変わらない。

とにかく、“最後の昭和的楽園”であったメディアでも、
いよいよ年功序列のレールが 崩れ始めたということだ。


余談だが、どうして新聞はネットの有料サービスを充実させないのだろうか。
日経が始めるらしいけど、「あらたにす」みたいな変なサイトではなく、3社分の
全紙面および20年分のバックナンバー読み放題なんてサービスがあれば、
いくらでもお金は払うんだけど。

古舘伊知郎にダメ出しされる野党三党

2009-05-27 11:11:50 | その他
先週金曜日、報道ステーションを久しぶりに見ていたら
(嫌いと言うわけじゃなくて、テレビ自体をあまり見ないから)、
終了直前に古舘さんが
「郵政民営化自体は必要です、早く進めて貰いたい」
と締めていてビックリ。
いや、何ということはない正論なんだけど、この人が言うとそれだけでサプライズな印象が。

現在、かんぽの宿売却を巡って、実に不毛な政治闘争が行なわれている。
こんなのは製造業なら当たり前の話で、たとえば民間企業がリストラの一環として
不採算事業を売却する際、製造ラインに100億円かかっていようが、二束三文で
譲渡するのは普通のことだ。
現時点で赤字垂れ流している以上、企業側としては一刻も早く処分したいわけで
さらに高給取りの正社員という固定費もぶら下がっているわけだから、逆に一部費用を
負担するなんてこともある。

この問題は、そういう世事に疎い大臣を、郵政利権が無くなると困る官僚が担ぎ出して
騒いでいるに過ぎない。
彼らの言う郵政文化とは「郵政関連会社219社への天下り」のことだ。
余談だが、先週のダイヤに鳩山さん(アルカイダの友人の友人の方)のインタビューが
載っていたが、なんべん読んでも言ってることがよくわからない。
減損処理で収益性を高めたから売値が下がるという大臣の発想こそマジックだ。

本来なら、こういう大臣の存在は格好の攻撃材料のはず。
日本国民にとって最大の不幸は、同じように世事に疎そうなお兄ちゃんが野党第一党の
代表に就いてしまっていることかもしれない。
友愛もいいけど、もっと大事なこともあるでしょう。
国民新党と社民党には1gの期待もしていないが、一緒に騒いでいる姿をみると、
民主党もたいがいである。
こういうバカ騒ぎで有権者が喜ぶと本気で思っているのなら、民主党の体質は案外、
古い自民党そのものなのかもしれない。

郵政選挙でなぜボロ負けしたのか。一度くらい真摯に反省会でもしてみたらどうか。


「貸せない」金融

2009-05-26 12:37:43 | 書評
「貸せない」金融―個人を追い込む金融行政 (角川SSC新書)
小林 幹男
角川SSコミュニケーションズ

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自己責任という言葉がある。お酒を飲むのもタバコを吸うのも、もろ手を挙げて
褒められたものではないが、とりあえず自己責任ということで認められているものだ。
もちろん、一定の規制はある。未成年は手を出してはいけないし、酒を飲んだら
車の運転もNGだ。要するに自己責任といっても万能薬ではなく、社会との関わりを
考慮したバランスこそ重要なのだ。

06年、金融業でバランスの見直しがされた。貸金業法の改正により、
ノンバンクは利用者の年収の3分の1を上限とする総量規制及び、上限金利の引き下げ
(いわゆるグレーゾーン金利の撤廃)を課されることとなった。
「サラ金なんて、借りるやつの自己責任」という無為無策から、法による適正化へ
踏み出したわけだ。これで、
①善良な市民がサラ金に手を出し、高利に苦しむ状況
は消えて無くなるはずだった。

ところが。
昨年より、全国のノンバンクの倒産が相次ぎ、急速に無担保融資という市場が縮小し
続けている。代表例は、沖縄県下No1シェアを誇った信販会社オークスの倒産だろう。
きっかけは、過去のグレーゾーン金利に対する過払い金請求だった。

僕は別にサラ金を使ったことも今後使う予定もまったく無いので、業界がどうなろうと
知ったこっちゃないのだが、一つだけ気になったことがある。
というのは、この規制によって、いったい誰が得をしたのかということだ。
まず、融資の利用者は本当に救われたのだろうか?
確かに、パチンコで負けて、ふと隣をみるとサラ金のATMがあって、思わず借りて
しまって、なんて人は減るだろうし、これを気にギャンブルから足を洗えるだろう。
実際に沖縄では、07年に39万人いた貸金業利用者が翌年には22万人に減ったという。

だが、この17万人は、本当にギャンブル地獄から開放された幸運な人々なのだろうか。
仮にそうだとしても、なぜ08年において、ヤミ金との接触者および利用者ともに
増加しているのか。結局、借金の理由はどうあれ、借りたいという人はノンバンク
規制程度で減るわけではなく、彼らはヤミ金に流れるだけではないのか。

「ヤミ金のような非合法なモノに手を出すほうが悪い」
という人もいるだろうが、その自己責任論は①段階での自己責任論とどう違うのか。

そして根本的な疑問は。仮に徹底した摘発と厳罰化で全国からヤミ金すらも一掃
したとして、それで利用者は幸せになれるのだろうか。

著者は商工ローン(中小零細企業向けの無担保融資)のメリットを上げつつ、新規の
融資が激減し、干上がっていく中小企業の実態にも言及する。
銀行には相手にされない、政府系の融資や保証は一ヶ月以上の時間がかかるという彼らに
とって、緊急の資金を融資してくれるのはノンバンク以外になかったのだ。
彼ら中小企業は喜ぶどころか、規制を呪いつつ店を畳むか、ヤミ金に手を出す他ない。

そもそも、オークスは完全な悪であり、東京から出張してきて過払い請求原告団を組織した
弁護士は本当に正義の味方なのだろうか。というのも、この改正で唯一自信を持って
「得をした」といえるのは、彼ら弁護士だから。

かつてリーマンに勤務した著者がたじろぐほど、過払い金の分捕り合戦は凄まじいという。
本書を読むと、ハゲタカとは一体誰のことなのかわからなくなる。

著者は経済の動脈を干上がらせる愚を避けるべきだとして、総量規制及び上限金利の緩和を
提案する。そして過払い金の請求などは、多重債務者に限るべきだとする。
規制と自己責任のバランスを考える上で、優れた良書だ。
シンプルな文章に良く練られた構成も万人向けである。


派遣規制で問題は解決しない その2

2009-05-25 09:00:12 | その他
以前、サンプロに出演した時のことをふと思い出した。
CM中に連合事務局長、モリタク、奥谷さんと話していたのが、マージンの話だ。

派遣労働者のマージンの比率は全国平均で32.1%(厚労省07年度統計)。
これを高いと見るか低いと見るかは人それぞれだろうが、参入障壁の低い業界なので
ここから大きく合理化するのは難しいだろう。
それよりは、直接雇用の流動化を保証すれば、大手の製造業は直接雇用に切り替える
だろうから、不毛なマージン議論を続けるより合理的だと話すと、連合と奥谷さんが
ムッとしていた(モリタクは意味が分かっていない様子だったが)。

派遣会社と言うのは企業にとって、パートなどの直接雇用より、むしろコストが高い
ケースが多い。
たとえば同じ時給1500円としても3割増しで派遣会社に払っているわけだ。
そうまでして派遣会社に頼る理由と言うのは、
①募集、労務管理といったコスト
②直接雇用に関するリスク回避

があるため。
このうち厄介なのは②で、たとえば有期雇用のパートであっても、直接雇用では
様々なリスクが存在する(複数回更新している、該当業務が恒常的に存在している等、
更新への期待が合理的だとすると、無期契約とされる判例がある)。
特に大手ほど、このあたりのリスクは非常に気にするので、そういったリスクを請け負って
くれる派遣会社に頼ることになる。

だから、契約期間中であっても、たとえば2か月分の上乗せで解除できるような金銭解雇
ルールを作ってクリアにすれば、このあたりのリスクを消せることになり、企業は喜んで
直接雇用に切り替えるだろう。当然、32%から受け入れ時の仲介料、金銭解雇分の
リスク料を引いた分は、労働者に支給されることになる。これらは期間に関わらず
ほぼ固定なので、長期的には限りなく「32%に近い賃上げ」が実現するはず。

となると①のコストは採用時のものだけになり、
人材派遣会社は紹介料を貰う人材紹介会社に近づいていくと思われる。

実際、派遣業から紹介業にシフトさせるべきだという意見は、八代先生も述べている。
(中央公論3月号座談会)
リクルートが派遣大手スタッフサービスを買収したのは、それをにらんだ布石かもしれない。

さて。
冒頭に話を戻そう。
解雇ルールの流れはいったん認めてしまうと必ず正社員にも波及するだろうから、連合
としては面白いわけがない。
派遣会社は淘汰が進むだろうから、こちらも面白くない。
彼らは雇用規制の強い国でしか生き残れない存在で、
いわば連合とはコインの裏と表の関係だ。


たまに、「奥谷さんはネオリベだ」なんていう人がいるが、とんでもない。
あれほど強烈な日本型雇用の信奉者はいない。
そういう意味では、あの席順はそもそも間違いで、日本型雇用をよしとする側に
彼ら3人とも並べるべきだったろう。

問題は、上記のようなロジカルな議論を野党三党がしているとはとても思えないことだ。
とりあえず99年以前に戻すだけなら、問題の本質を無視した対症療法でしかない。
企業はお人好しではないので、トータルで見れば職自体が減るだろう。
今年に入ってからの工場の海外移転は、表向き円高が理由となっているが、
仮に円安となっても戻ってくるかどうかはわからない。
ただ前回書いたように、日本には幸い、内需を中心とした求人がまだまだ存在するので
そちらに吸収されることになるだろうが。

派遣法を改正しても問題は解決しない

2009-05-22 12:56:05 | 経済一般
今月に入り、チラホラとこんなニュースが漏れ聞こえてくる。
はったりだろうと思っていたが、どうやら野党は本気で派遣再規制するらしいが…。
最悪、やるにしても正社員側の規制緩和とセットでなければ意味が無い。
これは既存社員の賃下げというよりは、一定の条件で金銭解雇などを認めることで
流動化を促すことが狙いだ。平たく言えば、
「正社員にしてくださいね、変わりに賃下げも解雇もしやすく法改正しますから」
という流れだ。

まあそれでも今やるのはかなり冒険だし、そもそも社民党が正社員の規制緩和に賛成
するとはとうてい思えない。
とすると、負担増を嫌う企業による一層の派遣切りが進み、需要が回復しても職自体が
戻ってこないだろう。

「雇用を守れ」と対案を示さずに口で言うだけなら勝手だが、社民党が言うと
ジョークにしか聞こえない。
民主党には期待しているのではっきりいうが、社民党だけは切った方がいい。
目先の数議席が欲しいのだろうが、政策議論で足を引っ張られ、長期的には必ず票を減らす
ことになる。そもそも彼らは日本を良くしようなんてこれっぽっちも思っちゃいないだろう。

ところで、社民党と国民新党はなんでそんなに一生懸命なのだろうか。
僕には、彼らに対して派遣規制を強く求める支持層がいるとはどうしても思えないのだ。
たとえば連合は本音では規制に反対のはずだし、派遣労働者の過半数も派遣禁止には
反対だろう。※

とすれば、いったい彼らはなんのためにいらぬおせっかいを焼いているのか。
ひょっとすると、有権者の一部、特に地方の高齢者などにそういった空気が醸成されていて
その空気を読んでいるのだろうか。

だとしたら、メディアは実に罪深い存在だ。
彼らは面白がって派遣切りというオモチャに飛びついて、今では飽きて放り捨てて
しまったが、後には“規制”という空気だけが残ってしまった。
そしてその空気が今、派遣労働者自体を追い詰めようとしているわけだ。

まあそれでも、そんなに悲観的になる必要などないのかもしれない。
「製造業のライン」や、企業の一般事務といった仕事がこの国から減るだけのこと。
介護や一次産業では求人を続けているわけだから、そちらに吸収されるだけかもしれない。
モノは考えようで、無機質な工場のラインから開放され、
お爺ちゃんの体を洗ったり、養豚場で豚さんの世話をしたりと
ある意味、より人間らしい仕事に移れるわけだ。

疎外された労働者の手に、再び労働の喜びを取り戻せるではないか!

ただ、ほんとうにそれは、彼ら派遣労働者が望んだことなんだろうか。
ほんとうに彼らは工場から開放されたことを喜びつつ、介護や農場を目指すのだろうか?
というか、それって「仕事なんて他にいくらでもあるだろ。贅沢言わずに働け」
という自己責任論と何が違うんだろうか。
「仕事を選ぶなではなく、選べる権利こそ重要だ」と誰かさんが言っていたが、彼らはどんどん
選べない立場に追い込まれているように思えてならないのだが。※2

まあ、なんにせよ。
「小泉改革で格差が拡大したのだ、だから派遣法廃止ですべて解決!」
なんて言っていた連中は、ご自分の発言に責任を持っていただかないと。
これから実現する現実が何であれ、それは彼ら自身が熱望した理想なのだから。



※電機連合の一部及び人材サービスゼネラルユニオンは製造業への派遣禁止に反対 を表明している。
 本来、派遣規制よりも正社員の規制緩和と待遇差是正を求めるべきなのだが、
 反政府活動に流れを持って行きたいグループが政治利用しているのだろう。
 
※2 そうなったらそうなったで、今度は「正社員として雇うべきである」とか
  言い出しそうだが、それよりはまだ革命おこす方が現実味があるだろう。

外資系企業で成功する人、失敗する人

2009-05-21 10:37:54 | 書評
外資系企業で成功する人、失敗する人 (PHP新書)
津田 倫男
PHP研究所

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以前、どこかの勉強会で話をした時、某外資系エコノミストの方に
「びっくりしました。仕事しないマネージャーなんて、ホントにいるんですか?」
と聞かれて僕もびっくりしたことがある。
いや、大企業の場合、そっちの方が多いという意見もありますが。
少なくとも、向こうのカルチャーではそういう人は稀らしい。

そういう意味では、本書はとてもバランスが良い。
日系・外資双方に勤務経験のある著者が、どちらかというと日本人目線で外資の作法を
解説してくれる。

著者は「外資はけしてドライではない。むしろドロドロした面は日本企業以上だ」
と述べる。
確かに、絶対的人事権を握る上司への露骨なゴマすり、ピーアールしなければ手柄と
認められず、ばれなければ失点とされないカルチャーは、一見すると日本企業よりも
ウェットだと感じる人もいるだろう。

ただし、やはりそれはドライなのだ。
職場という日常空間において、すべて目に見える形でドラマが進行するのだから。
本当のドロドロは、表には出ない裏に溜まるものだ。

日本企業では人事権の所在が曖昧であり、評価の基準は誰にもわからない。
人事部が一定の人事権を握っていることは事実だが、彼らはどちらかというと評価の分布を
作ったり、「10年目で昇級は○割」という内規を作ったりするだけで、個人の顔は
わからない。

つまり一従業員からすると、なんとなく勤続年数に応じて給料が上がり、30代のどこかで
幹部になる人なれない人の分岐点が訪れる世界だ。
それはとても閉鎖的で、ウェットな空間である。
たとえば、雇用調整の際。
アメリカ人に
「やあケンジ、君の仕事が無くなってしまったよ。まあ次の会社でも頑張れよ」
と言われるのと、上司から
「自己都合で辞めてくれ。断ると山口支店に行って貰うよ」
と言われるのと、どっちがドロドロだろうか?
そんなもんである。

著者は本書を読んで、合わないと思った人は外資への転職は控えたほうが良いと総括する。
その通りだろう。
ただ、今後は望む望まないに関わらず、日本企業自体もドライな方向に進むだろう。
ドロドロは、年功序列という暗黙ルールの下、終身雇用というひどく風通しの悪い空間に
溜まったよどみだ。それらが崩れていく中で、徐々に湿気も失せていくと思われる。

そういう意味では、転職リトマス試験紙というよりも、
若手にとってはキャリア必読書というべきなのかもしれない。

次世代のことなんて何も考えちゃいないモリタク

2009-05-19 12:14:55 | 世代間問題
先日もちょっと書いたが、今月号の『The21』で、またまたモリタクが暗躍している。
リアルタイムで森永卓郎の二枚舌ぶりが見られるのは良い機会なので紹介。

まず、つい先月末、森永は日経BPの連載で、与野党の景気対策についてこんな風に
総括している。要約すると、

自民党は15兆円に抑え、一回こっきりの緊急対策だが、民主党は恒久的な対策である。
自民案には多くは望めそうに無いが、民主案は財政負担が大きすぎるからリスクも大きい。
よく考えて投票しましょうね。

という、当たり前だがなんとも締まりの無い駄文である。
この中では以下の部分が、本人の正直な感想だろう。

はたして、リスクを避けてまずは日本経済の止血をするのがよいのか、
それともいっそのこと大手術をしたほうがよいのか。
正直言って、わたしには判断がつきかねる。


ところが、ほぼ同じ時期に書いたと思われる『THE21 六月号』の連載コラムでは、
同じテーマで全然違うことを言ってのける。
(以下要約)
日本経済全体のGDPギャップを考えて、最低40兆円はばらまくべきなのに
麻生政権は実行力に欠けるからできない。
しかも選挙後は税制の抜本改革をやるといっているから、きっと増税するだろう。
自民政権だといづれツケが回ってきますよ。

正直、同じ人物が同時期に述べた言説とは思えない。
最大の違いは“バラマキ”に対する全面的な肯定だろう。
民主代表選で両候補が国債依存を強く戒めていたこととは、正反対だ。

さらに凄いのはここからだ。
森永はそのバラマキ財源として、埋蔵金や政府紙幣など、国債同様にツケが先延ばし
できるものばかり提示してみせる。その一方で、
「自民党はすぐに増税しますよ、だから皆さん自民に入れると損ですよ」と総括してみせる。

要するに、森永卓郎が主張しているのは、
「民主党のほうがいっぱいバラマいてくれますよ、痛みを伴う増税や
構造改革なんてもってのほか、ツケはすべて若年層に払わせましょうね」

ということだ(民主は別にバラマキを良しとしているわけではないのだが)。

これらの発言のブレから見えてくるのは2点。
やはりこの人にはなんの理念も理想もなくて、その場その場で空気を読み、受けそうな風呂敷を
広げているだけなのだろう。民主が好きだから応援しているというわけでもない。

「後先考えるな、50兆くらいばらまけ!」なんて日経で書くとさすがに仕事干されるので
曖昧な状況分析で誤魔化しつつ、若手読者の多そうな『THE 21』では勢い良く
塩をまいてみせる。バカにされているわけだから、編集者も読者も怒ったほうがいい。

そしてもう一点は、中でも若者視点というものはカケラも持ち合わせていないということ。
以下のセリフには、彼の醜い本性がにじみ出ている。

では、なぜ日本はそういう思い切った経済対策をやらないのか。それは、
今の麻生内閣には、財務省の意向が強く働いているからである。(中略)
不況で苦しむ国民を救うよりも、財政を健全に保つことのほうが、
財務官僚にとっては重要だというのだから、呆れてものが言えない。


この経済学者いわく、既得権者に報いるためなら、財政規律は放棄すべきらしい。
彼の頭の中では、とりあえず2、30代は国民ではないようだ。
森永はよく「派遣さんやフリーターは可哀そう」と同情して見せるが、そのくせ流動化は
もちろんのこと、いかなる改革にも反対で、ツケはその若者に払わせろ
と説くのだから、もうこのおっさんには呆れてものが言えない。

彼が興味があるのは自分の商売、お金儲けのことだけなのだ。
格差問題も、美味しいネタくらいに考えているのだろう。

一ついえるのは、少なくとも“20年先”を考えている人間にとって、
森永卓郎は明白な敵であるということ。
テレビも本気で若い視聴者に戻ってきて欲しいなら、いつまでもこんな人間を
ありがたがって使うのは止めるべきだ。



貧困化するホワイトカラー

2009-05-18 10:37:49 | 書評
貧困化するホワイトカラー (ちくま新書)
森岡 孝二
筑摩書房

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先日ちょっと書いた「規制強化ですべて解決」派の一冊。
まあ別にお勧めではないのだが、労働時間に関する話のたたき台になるので紹介。

タイトルにあるように、全編ホワイトカラーの受難振りが延々と続く。
低賃金、重労働、中でも労働時間に関するものが多く、過労死や名ばかり管理職問題も
続き、そしてそういった問題に取り組む様々な支援活動も紹介される。
で、派遣法は再規制し、労基法違反はきっちり取り締まっていこうねで終わる。

ぱらーっと流し読みした後で著者が経済学部の教授と知ってびっくり。
なんというか、すごく新聞的というか法学部的である。
要するに、なぜ上記のような問題が起きるのか、そしてどうやって解決していくのかという
視点が完全に欠落しているのだ。
「法律さえ制定すれば、問題はすべて解決!」と言っているわけだこの経済学者は。

一応フォローすると、著者の言うように日本のホワイトカラーの労働時間が先進国で
一番長いのも、特にフルタイム勤務者のそれが過去15年間下がるどころかむしろ増えて
いるのもそのとおりだ。
だが、その理由は、クリントンやサッチャーの陰謀などではなく、単に終身雇用では
雇用調整ができないから、企業が基本的に残業で対応しようとする点にある。
多少の需要が増えても採用増より残業でカバーすることを選び、不況になれば新卒採用を
打ち切ってさらに正社員の残業を増やす。景気の良し悪しに関わらずサラリーマンは
残業漬けになるわけだ。

今後、新興国との競争が強まる中、コストカット圧力は増すだろうから
男性正社員の残業はさらに伸びるに違いない。

しかも80年代以前みたいに、そのうち管理職になって一線を抜けるなんてことはないから
定年までそんな調子で行くわけだ。
そのうち新入社員研修で“葉隠”とか読ませる企業が出てきそうだ。
といって、現在の雇用システムのままでは、それしか手が無いんだからしょうがない。

日本においても、解雇規制を緩和すれば企業が新規採用を増やすという調査結果がある。※
イデオロギー抜きで、真剣にワークライフバランスと雇用状況の改善を図るなら、
流動化に舵を切るべきなのは明らかだろう。

最近、職場の派遣さんが切られて仕事が増えたと嘆く人がいるが、それも理由は同じ。
フルタイム勤務で過労気味の人間が溢れる一方で、仕事にあぶれた失業者が列を成す。
で、どっちも少子化につながると。
これこそ、日本の労働市場の持つ非効率性の真髄だろう。
正規と非正規、どちらも苦しませている壁が、昭和的価値観であるのは言うまでもない。



※99年、慶応大学産業研究所調査。
 整理解雇が容易になれば従業員を増やすと解答した企業が減らすと回答した企業の三倍近い。