りんごジュースの販売不振にボクは悩んでいる。
販路拡大が出来ず、在庫は山のように。
友人Nが喋りだす。
「なんで売れないんだ?」
ボクは力なき声で応える。
『知名度が無いんじゃ...』
友人Nは興味なさそうな顔つきで、
そしてどこか偉そうな態度で喋りだす。
「どんな味なんだ?
話してみろ。」
『何種類かあってだな、
スターキングデリシャスってのは、
甘く・・・』
「せつない。」
友人Nはボクの話の途中で一言発した。
『甘く、せつない?』
友人Nは遠い目をしながら
「そう。
甘く・・・せつない。」
【甘く】と【せつない】の言葉の間に妙な溜めと言うか、妙な余韻がある言い方を友人Nはした。
ボクはもう一度りんごジュースの説明をしようとする。
『いいか、もう一回言うからちゃんと聞けよ?』
友人Nは小さくうなずいた。
『だからなあ、
スターキングデリシャスジュースってのは、甘く』
ボクは友人Nをチラリと見る。
友人Nは目を閉じながら
「・・・せつない。」
と言った。
『甘く・・・せつない。
かぁ。
それ、なんかいいな。』
「だろ?」
『でも、それってなんかのドラマのやつだろ?』
「さぁ?
どっかで聞いたことあるんだけど思い出せんのよ?」