横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama

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MapInfo Professional日本語版が値上げに

2006年09月08日 20時04分00秒 | 地理情報関連
MapInfoの日本総代理店であるアルプス社から、MapInfo Profesionalの新バージョンの発表が先日あった。これを機会に1ライセンスの価格を5万円少々値上げして417,900円にするという。

オープンソースツールがGISライセンス製品市場の中で最大の”懸念”といわれる時代にあって、敢えて値上げをするメリットはどこにあるのだろうか。

どうせ買う人は買うし、市場の裾野は広がらないから、価格を上げて売上を(増加は無理でも)維持をしたいということなのだろうか。あるいは、オープンソースGISでもデスクトップツールがまだまだ貧弱なので、当分は市場価格コントロールができると強気に踏んでいるからなのだろうか。

MapInfo Professional(英語版)の米国における市場価格は1200ドル台(約14~15万円)で、日本語版を日本で買うと417,900円....ちょっと差がありすぎる。ちなみに、日本語版を米国で買うとその市場価格は2200ドルくらいだから、エコノミークラスで行けば往復の航空券代と滞在のホテル代くらいは出てしまいそうだ。

ただし、米国の販売店は日本で使うことを目的とする人にMapInfo Professionalを販売できない決まりになっているから、上記のシナリオどおりにはすんなりとはいかない。同じものだからどこで買おうが、どこで使おうがユーザーの自由のはずだが、それができない仕組みになっている。つまり、販売代理店は、販売できる地域(国など)が明快に決められており、それを越える地域での販売活動は認められないのだ。

だから、日本の総代理店は、米国や他の地域で同じ製品がいくらで売られていようと、日本で販売する価格や販売方法についてはMapInfo本社がNOといわない限り自分で決められる。その代わり、総代理店は年間の最低販売金額を本社側にコミットして支払わねばならない。そのため、総代理店とベンダ本社側とのコミット額の交渉はすさまじいものとなる。その交渉に失敗すると実売上以上のコミットを支払う羽目になり、過去のMapInfo総代理店がその憂き目に会った。

総代理店制度はベンダにとってはリスクの少ないものであり、ほとんど出費せずして年間の一定収入が保証される(総代理店の経営が順調ならば...)。ただし、市場規模の大きい地域や戦略的に外せない顧客がいる地域には向かない。なぜならその市場が持つ巨大な収益機会の一部しかベンダが享受できないだけでなく、重要な顧客に対するコミットができなくなるからだ。

日本は、米国に次ぐ規模のIT市場なので、今や大半のソフトウェアベンダが直轄法人を置いている。MapInfoも2000年に直轄法人を置いたのだが、この会社の伝統的なアジア軽視カルチャーが災いして、わずか2年で撤退してしまった。その後新しい総代理店としてアルプス社が引き継いだのだが、地図会社が本業であるこの会社にとって、MapInfoはこの会社の1つの取り扱いソフトウェアプロダクトに過ぎない。地図を売るためのツールとしての位置づけからどうしても離れられなくなる。しかも、アルプス社は自社で”GIS製品”を開発販売しているので、おのずと自社製品が優先される。こうしてMapInfo本社が行っている本来の事業方針との乖離はどうしても出てくる。しかし、MapInfo本社がアルプス社のような事業会社に対して総代理権を与えている以上は、その結果発生する現象を本社は受け容れる責任がある。

元々、MapInfoが米国で成功した理由は、その価格の手ごろさであった。WindowsPCで使え、多機能で、わずか1200ドル台...そうした魅力で90年代に市場を席巻した。その膨大な顧客ベースがあるので、MapInfo向けの地図データもたくさん売れ、ソリューションのニーズも大きく、ユーザー企業の成長に合わせてMapInfoの売上も増加するという良い循環ができた。

一方、日本では「上等舶来品」的な価格政策を初代の総代理店が採用したこともあり、MapInfoの最大の強みであった「お手頃感」が最初から使えなかった。私が2000年に日本法人のセールスマーケティング責任者に就任した時は、販売状況はかなり悪く、直轄法人にしかできない解決策として大幅な価格改定(値下げ)を行った。それによって、販売本数と額が息を吹き返したのだが、現在の総代理店による複数回の値上げで、もとの価格へと戻されつつある。

これは、直轄法人でなく総代理店だから、そもそも発想が異なるからだ。直轄法人はMapInfoのためにどうすればよいかをまず考えるが、総代理店は彼らのビジネスのためにどうMapInfoを利用するかを考える。どちらがMapInfoのユーザーにとってメリットがあるのかは、明らかに前者である。ただ、直轄法人を運営するコストは並々ならぬものがあり本社側が及び腰だと総代理店まかせになって、結局はユーザーは総代理店の都合に影響される。

ところで、アジア地域にも絶好調なMapInfo代理店がある。それはマレーシアのMISSBだ。マレーシアとシンガポールをテリトリーとする総代理店だ。昨年のMapInfoのアジアのベストパートナーに選ばれて表彰されている。彼らのポイントはMapInfoを米国価格とほぼ同等で販売していることだ。そのため、販売本数は日本の総代理店が売る数よりも多いだけでなく、金額ベースでも勝っている。

彼らは元々地図データ制作会社である。その点ではアルプス社に似ているが、アルプス社がコンシューマ系に軸足があるのに対し、MISSBは法人向けが100%であるところが大きく違う。さらに、独自のGIS製品は販売しておらず、ソフトウェアはすべてMapInfo製品である。MapInfo Professionalをお手頃価格で大量に売ると、それを使ったデータ入力・メンテ業務がたくさん発生する。そこで儲けるのだ。私が2005年春にある件でMISSBを訪問したら、そこの社長が「データ入力の大口案件で本当に忙しい」と言っていた。

このように、総代理店の考え方1つによって、それぞれの地域の政策は大きく変わってしまう。日本でも、総代理店がこういう発想になると、MapInfoユーザーは喜び、裾野が広がると思うのだが、今やもう手遅れだろう。2002年くらいまでだったらオープンソースなんて気にしなくても良かったが、今は雪崩を打ってユーザーの期待がオープンソースに移っている。だから、小手先の価格改定では市場はかえってしらけるだろう。そういうことをわかって、値上げによる既存顧客市場の絞り込みに入ったとしたら、それはそれで”スマートな決断”だろう。

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