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GISとジオメディアとの断絶について(私論)

2010年08月01日 00時32分19秒 | 地理情報関連
 昨夜開催されたジオメディアサミット名古屋に関連するツイートで、「GISとジオメディアとの断絶について」の意見交換がなされたのだが、私なりに論じてみたい。

 ここでの問題提起は、GIS業界が既得権益を守るばかりで、ジオメディアの勃興の流れと断絶をしているのではないか、というもの。

 私のような、コンテンツ(地図会社)、GISベンダー、GeoWeb系のSIと、それぞれ異なる立場から仕事をした経験からは、GISとジオメディアは、その依って成り立つところが根本的に異なっているので、両者は統合されることはないし、両者の断絶を憂うのは、そもそもどうなのかと。

 GISとジオメディアの違いを、無線技術と放送に例えてみよう。

 無線技術業界は、無線の仕組みを研究して実用化させ、その設備を開発して販売、メンテナンスをしている。GISは、この無線技術業界に相当する。放送は無線技術業界が販売する設備を導入して、それを使って放送を行うという「利用者」だ。放送事業の黎明期では、無線技術そのものの優劣が問われることもあったので、両者は互いに接点が多かったが、無線技術が完成して一般化(コモディティ化)するにつれて、放送業界は資本と企画営業力がものを言うようになった。放送業界は、無線技術はお金で設備を買うだけでよく、機器のメンテナンスも専門会社に委託するので、自らその技術には必ずしも詳しくなくても良い。ジオメディア業界は、放送に相当する。

 GIS(地理空間情報技術)は、これまで長らく発展途上にあり、ごく最近までその完成度が高くなかったので、多くの優秀な人材がこの分野に知恵を注いできた。ずっと「ジオ」=「GIS」と多くの人が思っていたし、コンテンツ作りに関わる測量業や地図調製業も、「ジオ」を支えるプレーヤーの一角として活躍してきた。これらの業界は、規格や基礎技術の開発と国のインフラ作りという使命があったので、研究者や官公庁と密接な関わりを保ち、結果として顧客も公共系に集中した。

 一方、ジオメディアはGIS業界と違って、ジオクラウドの利用者(消費する側)だ。GoogleMapsAPIをきっかけに始まった世界規模のジオクラウドの出現を契機に、それを利用することであらたなWebメディアを提供しようと始まった動きである。ジオメディアの動きは、GISが対象としている領域に関心があるわけではなくて、「ジオクラウドインフラをどう活用して目的を達成するか」に関心がある。この点で、放送事業者と同じだ。
ちなみに、日本ではジオメディアというが、これはシリウスラボの造語であって、アメリカではそういう言い方はしない(古くはLBSとか最近ではGeoWebとか呼ばれる)。

 このように、両者の立ち位置は大きく異なるので、それを断絶として問題視しても仕方ない。ジオの技術やインフラを使った新しい産業が始まったのだと見るべきだと思う。

 先ほどの無線と放送の例えでは、放送自体は許認可事業なので、政府が規格やサービス提供内容を決めることができたが、GIS業界の場合には一つ残念なことがある。それは、苦労して作ってきた独自規格や技術が、「インターネット」という、日本の政府がどうにもならない流れに飲み込まれ、「ガラパゴス化」してしまったことだ。ジオ業界全体が、国が決めたことは全員が従うという「許認可」の常識で安心しきっていて、内向きになっていたら、いつの間にか「黒船」にやられてしまったのだ。それ以降、国内のGIS業界は、事業仕分けに一喜一憂する、一見守旧勢力のような立場に身を置いているのは見ていてじれったい。業界にいる有能な人材が新しい産業創造に力を発揮できないのは、国民的損失である。


 ところで、FOSS4Gは、GISとジオメディアのなかで、どのような位置づけになるのだろうか。

 FOSS4Gは、技術が産業化するための必要条件である。ハードウェアと違って、ソフトウェアはノウハウを隠蔽しやすく、技術で先行した者はプロプラエタリのビジネスモデルで独占的な利益を上げる。もし、無線技術が誰にでも開放されずに独占的な企業に支配されていたとしたら、放送産業は無線技術を支配する企業に従属し、今日のような隆盛はなかっただろう。同じように、GISの技術がクローズドソースとして隠蔽されているうちは、今のジオメディアのブームは無かっただろう。FOSS4Gが登場したことにより、GISの様々な技術やノウハウを、コミュニティで開示、共有できるようになった。そのことが、ジオメディア産業が成立する必要条件を整えたのだ。


 最後に、私の立ち位置について。

 大学在学中のアルバイトで縁があって、地図業界に身を置いたが、私は地理学や測量学を専攻してはいない。特定の学会には所属せず、非アカデミックの立場である。地図会社で私は、地図をどうしたら電化製品や自動車のようなインダストリアルな製品にできるかばかりを考えていた。空間をどのように整理して表現するかには関心があっても、私は「地図」に絶対的な価値を置いていない。その後、地理情報の業務利用に関心が出てきて、地図業界を離れてGISベンダーに身を置いたのだが、そこでは独占的なライセンスビジネスでは、せっかくの有益な技術も全然広がりがないと痛感した。その限界を感じていたら、FOSS4Gに出会い、これを普及させれば、ジオは産業になると思い、自らの会社により、その普及への努力と試行錯誤を続けてきた。お陰でFOSS4Gはここ日本でも、ジオなサービスを支えるコアツールとして認識されるまでになった。一方で、GoogleMapsの出現(実は私の予想を大きく超えていて当初こそは困惑したのだが)、に代表されるジオクラウドは、ジオの産業化への不可逆的な流れの重要な一つだと認識するようになり、FOSS4Gとの統合による価値創出が私の関心事となっている・・・と書くと、私はどうも一貫して利用者、放送事業者、つまりジオメディア業界側にいるようだ。自分なりに少し整理ができた。

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