一会一題

地域経済・地方分権の動向を中心に ── 伊藤敏安

大麻の合法化

2014-05-26 22:22:22 | トピック

● しばらく前のことです。山口博『大麻と古代日本の神々』を読みました。同書によると、古代朝廷時代の忌部氏は、大麻から繊維をつくるだけでなく、大麻を利用して幻術やシャーマンのようなことをしていたのではないかとのこと。忌部氏が本拠地の阿波から房総半島に移動して安房という呼称が生まれ、麻植、麻布、麻生といった地名を各地に残したということです。大麻吸引はスキタイに由来するのだとか。スキタイといえば、いまのあのウクライナのあたり。想像をかき立てられます。

● そんななか持ち上がったのが、ある歌手の覚醒剤所持・吸引事件。さまざまな報道のなかで興味深かったのは、ひとつは「日本に入ってくる麻薬・覚醒剤が年々増加しているのは、破格の値段で取引されるから」というもの。もうひとつは「お金がないと、麻薬・覚醒剤には手が出せない」という関係者の言葉。いうまでもなく、これは需要と供給の問題です。規制を強化すれば強化するほど、価格が高騰していくことが予想されます。そうなると、より安価だが危険性の高い脱法ハーブなどに手を出す人たちが増えるかもしれません。

● 麻薬・覚醒剤の禁止、初等教育やシートベルトの義務付けなどは、「メリット財(価値財)」と呼ばれることがあります。個人の判断に任せておくと望ましい選択をしないおそれがあるため、政府が強制的に消費させる(または消費させない)財・サービスのことです。もちろん、このような温情主義的政府に懐疑的な人々は、個人の自由な選択に政府が介入することを問題視します。メリットかどうかという政府による線引きそのものが疑わしいとすら考えます。たとえば先ごろなくなったゲーリー・S.ベッカーは、「麻薬を子どもに売ったり、麻薬を吸って車を運転したときには厳罰に処することにして、麻薬取引を合法化して課税すれば、麻薬取締にかかわるコストを大幅に削減できる」とずいぶん以前から主張していました。

● 実際、米コロラド州では、2014年1月から娯楽用大麻の取引が合法化されています。これにより闇取引がなくなったこと、税収につながっていることなどが評価されています。しかも大麻は飲酒や覚醒剤に比べて耽溺性・習慣性が弱いため、保健行政の点からも望ましいのだとか。とはいえ一方では、子どもによる大麻入り菓子の摂取などの問題が起きています。何年か様子をみないと、なんともいえないようです。では、日本ではどうかというと、私たちはお節介焼きの政府に馴致され、馴染んでいますので、コロラド州のようなことはまず考えられないと思います。