● 文楽協会に対する大阪市の補助交付金のうち運営費相当額は、入場者数に連動しています。一定の入場者数に達しなければ、それに応じて翌年度の補助金が削減されることとされています。2014年2月7日の「読売新聞」によれば、入場者数の減少に伴い、2014年度の補助金は現行の3900万円から約734万円減額される見通しとのこと。提案者の橋下徹・大阪市長にしてみれば、「補助交付金に過度に依存するのではなく、入場料収入の増加と寄付金の獲得に努めるべき」「入場者を増やすために演目を工夫すべき」と訴えたいのだろうと思います。卑近な例でいいかえれば、「劇団四季と文楽を区別する特段の理由はない」ということかもしれません。
● 一方、この記事で紹介されているように、文楽協会にしてみれば、自分たちで自由に演目を決められるわけではありません。しかも世界無形文化遺産として、興行だけでなく、保存・継承や人材養成に努めていかなくてはなりません。やはり「劇団四季とは事情が違う」ということになります。
● 政府部門からの補助交付金というのは、いったん交付されると、縮減・廃止するのは容易ではありません。補助交付金を見直すきっかけとして、入場者数のような市場メカニズムに着目するのは有効な手段といえます。以前述べたように、ガバナンスの面からも望ましいとも考えられます。地方自治法では「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる」(第232条の2)とされていますが、「公益」の中身が特定されていないだけに、できるだけ客観的な基準をみずから工夫していかなくてはなりません。ただ問題なのは、一律になんらかの基準を当てはめてよいか ── ということです。
● 上述の記事では、片山泰輔・静岡文化芸術大学教授のコメントが紹介されています。すなわち、「見た人は楽しんだ分の負担をすればよく、文化財として伝承するための負担は広く公的に行う、というのが理にかなっている」というものです。たしかにそのとおりです。「芸術」だからといって、なんでもかんでも補助交付金の対象にするわけにはいきませんが、世界無形文化遺産であれば相応に遇さなくてはなりません。
● 文楽協会の2013年度予算によると、約7億5000万円の収入のうち公演収入は約5億7600万円(76.8%)。残りを国庫補助金8000万円(10.7%)、大阪府・大阪市の補助交付金約5970万円(8.0%)、公益財団からの補助金2800万円(3.7%)に依存しています。寄付金は500万円(0.7%)にすぎません。地方財政が逼迫しているのであれば、大阪府・大阪市の補助交付金を減らす代わりに、国庫補助金をやりくりして薄く広く負担するしかないのではないか。もちろん文楽協会への直接的な寄付 ── または公益財団などを通じた間接的な寄付 ── を促進するためには、より簡便な寄付税制を講じていくことも望まれます。