一会一題

地域経済・地方分権の動向を中心に ── 伊藤敏安

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生き残る地方銀行

2017-07-11 22:20:10 | トピック

■ 上海海洋大学のセミナーに行ってきました。出発の前々週、身内が「看取り段階に入った」と宣告されました。そのため準備が十分でなく、滞在中は気もそぞろでした。けれども、無事終了。学生たちは非常に積極的で、研究者との意見交換はきわめて有意義でした。身内もなんとか持ち堪えてくれています。

■ 持参した1冊は、前から気になっていた橋本卓典『捨てられる銀行』金融検査マニュアルに振り回されてきた地方銀行は、ようやく新たな段階を迎えています。地方銀行に要請される課題としてあげられているのは、地域中小企業の経営改善や創業・第2創業の支援、担保重視から事業性評価への転換、信用保証への依存からの脱却など、いずれも至極真っ当なものばかり。地方銀行の本来の役割といえます。

■ では、地方銀行の変革によって地域経済にどのような変化が起きているか ──。私が所属する研究機関では年1回、地域経済研究集会を開催しています。本年度に予定しているテーマは「地域経済と地域金融」(仮題)。そのための重要な参考図書になりました。


過ぐる情けの仇

2017-06-28 22:44:44 | トピック

● 私は、職場の行き帰りに主にバス、ときに路面電車を利用しています。通勤以外のときには、いつもと違う運送会社のバスに乗ることがあります。そのようなバスに乗ると、アナウンスが過剰であることに、あらためて驚かされます。ふだん利用するバスと路面電車についてもアナウンスが過剰なのですが、慣れてしまって意識的に聞かないようにしているのかもしれません。

● 次の停留所の案内をしたかと思えば、間を置かずに最寄りの店舗などに関する広告が流れます。ここまではまあ納得できるにしても、続けて「早めに両替をお願いします」「忘れ物に注意してください」と、まあ細かい。しかも無闇矢鱈と丁寧で、必然長くなります。たとえば「2000円札以上の高額紙幣の両替はできかねますので、ご了承ください」といった具合です。これで終わるかと思っていると、今度は運転手がマイクを通じて「危ないので、バスが停まるまで席を立たないでください」と呼びかけたりします。これらのアナウンスがあまりに長く続くものですから、次の停留所の名称を忘れかけたり、降車ボタンを押すタイミングを逸したりしてしまいそうになります。

● バスや電車については、注意書きがやたらと多いのも気になります。とりわけ乗車口周辺には「ドアに手を挟まないようにご注意ください」「危険ですので、ステップに立たないようにしてください」といった大小の注意書きがペタペタ貼り付けられています。念のためにと考えて、時期をずらして掲示したのでしょうか。どうみても同じ趣旨の注意書きがすぐとなりに貼り付けられていることもあります。

● 西成活裕『逆説の法則』によると、駅や道路のサインを親切心から多くしてしまうと、利用者はかえって混乱し、無駄な滞留を起こしたり、渋滞を招いたりしてしまう。つまり、過剰が逆説をもたらしてしまうとのこと。なるほど、そうです。いざというときに適切な行動を阻害するようでは、望ましいアナウンスやサインとはいえません。


Pax Sinica は実現する?

2017-06-08 23:52:00 | トピック

● 今回の移動中の1冊は、何清漣、程暁農『中国 とっくにクライシス、なのに崩壊しない「紅い帝国」のカラクリ』。2人は、アメリカで活躍する中国人のジャーナリストと経済学者(何清漣は『中国現代化の落とし穴』の著者としても知られています)。同著の最後のほうでは、トランプ政権誕生後の国際情勢に言及しています。アメリカが反グローバル化に傾き、国際社会のリーダーシップが真空化するなかで、「中国はグローバル化の新たな旗手にまつりあげられている」ようだとしています。これは、前回の本欄の指摘に通じるところがあります。かといって、中国が安泰であるわけではありません。

● 前回の本欄では、2008年ごろから中国の存在感が増大していると紹介しました。ところが何・程によると、そのころから中国経済は長期衰退に移行しているとのこと。しかも対内投資の減少、外資の撤退、個人消費の低迷、格差拡大、不動産バブル、地方政府の債務問題などから判断すると、中国経済はいつ崩壊してもおかしくない状態にあるとみています。にもかかわらず、今後20年間は衰退を続けても完全な崩壊には至らず、少なくとも10年以内に中国共産党が瓦解するような危機は起こらないと予想しています。つまり、「潰而不崩的紅色帝国」。これが同著の中国語の原題です。

● なぜ崩壊しそうで崩壊しないかというと、民主主義国と違って、中国政府はあらゆる資源を統制する圧倒的な権力を保持しているから。これが持ち堪えている理由です。となると、国際社会や周辺国は、中国への対応の仕方を工夫しなくてはなりません。そこで、「国際社会は、中共政権がいつ崩壊するのだろうかと空想に思いを馳せるよりも、この崩壊寸前の国にどう対処すべきかを真剣に考えたほうがよい」というのが著者たちの提言です。

● ただし、「衰退しても崩壊しない状態が長引けば長引くほど、中華民族が社会の再建に要する資源がますます失われてしまう」ため、周辺国にとって最も重要な問題は、「中共政権が歴史の舞台から退場した後、中国に社会を再建するだけの能力が備わっているのかということである」としています。とはいっても、これは他国ではどうにもならない問題です。結局のところ、1995年にビル・クリントン大統領が江沢民国家主席にもらしたように、“The US has more to fear from a weak China than a strong China”(Financial Times, May 19, 2010)。ほんとうに憂慮すべきは、これからということになりそうです。


多極化する世界の震源

2017-06-02 22:30:30 | トピック

● 移動中の1冊は、光田剛編『現代中国入門』。11人の講師による寄附講義の資料をまとめたもの。中国政治史、中国外交史、国際関係論、中国文学、中国哲学、中国思想史など、執筆者の専門は多岐にわたります。380ページ超という新書にしては大部。なかなか読み応えがありました。現下の国際情勢との絡みで、いくつかの示唆が印象に残りました。

● たとえば、リーマンショックが起こり、G20が誕生した2008年ごろから、アメリカの地位低下が顕在化してきたのと入れ替わりに、中国の存在感が増大してきたこと。中国は、国際法とは異なる独自の歴史観に基づく論理で押し通していること。中国が進める「一帯一路」構想は、新たな経済協力を通じて、明や元の時代の影響圏の回復をめざしていること。中国によるアフリカへの援助、貿易、投資という新たな経済協力の方法は、OECDのプロジェクトと補完的であると評価されるようになっていること。にもかかわらず、中国による「ユーラシア統合」の動きは、「世界の多極化」という大激震の震源となっていることなどです。

● そんななか、内向き志向を強めていたアメリカが「パリ協定」からの離脱を表明しました。これにより、中国の存在感がいやがうえにも高まることが予想されます。影響は、地球環境分野にとどまらず、安全保障問題にも広がるのではないでしょうか。


政府部門のお金も回らない

2017-05-10 22:43:00 | トピック

● 2017年5月10日の日本経済新聞によると、地方自治体における積立金現在高の問題が経済財政諮問会議で取り上げられるとのこと。実際、都道府県・市町村の積立金現在高は膨張しています。私は、全国の市町村(東京特別区を除く)について「基礎的財政収支」(PB:プライマリーバランス)の点から調べてみたことがあります。PBは財政の持続性に関する指標として扱われますが、地方財政については、国からの財政移転もあってPBは黒字です。しかも地方は金融・財政政策には直接的には関与しないため、PBについて議論してもあまり意味がないかもしれません。けれどもPBに着目することで、積立金現在高の動向をみることができます。

● PBは、「純歳入-純歳出」によって定義されます。純歳入とは「歳入総額-地方債-純繰越金-積立金取崩額」、純歳出とは「歳出総額-公債費のうち元利償還金-積立金」のことです。2009年度と2014年度で比較すると、歳入総額は8.3%増であったものの、地方債は13.7%増、純繰越金は51.0%、積立金取崩額は29.1%増であったため、純歳入は6.8%増にとどまりました。これに対し、歳出総額は7.4%増であり、歳入総額の伸びを下回りました。にもかかわらず借金返済、つまり元利償還金は4.8%減、逆に積立金は28.3%増であったため、純歳出は9.0%増となり、純歳入の伸びを上回りました。その結果、PBは2009年度には1.9兆円の黒字でしたが、2014年度には1.2兆円に40%近く低下しました。この間、地方債現在高は54.4兆円から54.9兆円へ1.0%増にすぎなかったのに比べ、積立金現在高は7.8兆円から12.6兆円へ60%以上も増加しています。

● 2014年度の場合、歳入総額は53.8兆円、歳出総額は51.9兆円、差引2兆円近くのプラスです。この剰余金を積立金に回すか借金返済に使うことは、おかしくはありません。しかし、純繰越金(2014年度は1.1兆円)を増やすのであれば、そのまえに地方債の発行(同5.2兆円)を抑制できるはずです。そうすれば、純歳出が増えないかぎりPBは改善されたはずです(災害復旧・復興事業の遅れなどにより、繰越金がやむなく発生していることも考えられますが)。また、元利償還金(同5.7兆円)と積立金(同4660億円)の両方または一方を増やせば、純歳入が変化しないかぎり、純歳出の削減を通じてPBは改善できたはずです。その場合でも、積立金現在高を60%以上も積み増しするくらいなら、やはり地方債現在高の圧縮に努める必要があるように思われます。

● 結局のところ、市町村は、本来は行政サービスに支出するはずのお金を使わずに、残ったお金の一部と積立金現在高を使って元利償還をしてはいるのですが、その規模は地方債現在高がおおむね横ばいで推移する範囲にとどめ、純繰越金をさらなる積立金造成に充当しているのです。その一方、中央政府においても、あまり使われていない「ファンド」が乱立しています。これらに加え企業の内部留保と金融機関の準備預金残高が増大しています。企業と金融機関のお金が回らなければ、少なくとも政府部門がお金を使わなくてはならないのですが、それすら抱え込んでいるようでいては、景気回復がはかばかしくないのは当然かもしれません。

※新刊のお知らせ※
 このほど『2000年代の市町村財政』を刊行しました。
 2002年度と2009年度を対象に、全国の市町村における市町村合併と「三位一体の改革」の影響を検証したものです。
 終章では、2009~2014年度における上記のような変化についても言及しています。
 広島大学出版会アマゾンなどのサイトをご覧いただければ幸いです。


眼科医に怒られる

2017-05-03 22:22:22 | トピック

● 少し前のことです。目に違和感を感じて、近くの眼科医院に行ってきました。ついでに人間ドックから送られてきた“かかりつけ医”宛ての紹介状を持参しました。その眼科医院を訪れたのは2回目です。何種類かの検査を受けたのち、しばらくして診察室へ呼ばれました。1年半くらい前に初めて行ったときには「温和なお医者さん」という印象でしたが、今回は少々剣呑です。私が怒られたのは、次のような理由です。

● 人間ドックからの紹介状を数ヵ月も放置していた。人間ドックに定期的にかかっているのであれば、眼圧異常のことは数年前から指摘されていたはずだが、初回の受診時にそのことを申告していなかった。そのときに処方したドライアイ用の点眼薬がまだ残っているのはおかしい。緑内障と白内障の罹患者が身内にいるということだが、それでも治療を受けないのは失明の危険があるという自覚が足らない ── いずれもごもっともです。弁解のしようがありません。で、診察結果はというと、「緑内障の徴候についてはしばらく観察する。むしろ白内障のおそれがあるので、その治療を優先する」というものでした。白内障の可能性を指摘されたのは初めてです。

● 実は、人間ドックでは内科医向けの紹介状ももらっているのですが、そのままにしています。私には“かかりつけ医”と呼べるほどのお医者さんがいません。もともとお医者さんにかかることが少ないうえ、行くとしても、あるときには職場の近く、あるときには自宅の近くといったように、あまり考えずにかかっていました。ですので、申し訳ないことに、人間ドックからのせっかくの紹介状も持ち腐れでした。

● が、今回の診察に前後して、ちょうど安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』を読んだばかり。実際、私の高齢の父は、緑内障と白内障を患っています。遺伝という厳然たる真実から目をそらしてはいけないと、あらためて実感。これを機に治療に努めようと思います。ふだんでしたら読まないはずですが、昨年末に刊行された深作秀春『視力を失わない生き方』という本が気になり、あわてて購入してきて読みはじめました。


あいりん地区の「高級化」

2017-04-25 22:23:24 | トピック

● 大阪のあいりん地区といえば、社会福祉や社会学を専攻している関西圏の学生にとっては、実習や実地調査などで馴染みのある地域です。その近くに星野リゾートが大型ホテルを建設すると発表しました。ビジネスホテルより少し高めのクラスで、国内外からの観光客に“ディープな大阪”を味わってもらうのだとか ── 。このこと自体は、大阪の活性化にとって慶賀すべきことと思います。が、少し気になることも。

● “Gentrification”という言葉があります。英国史に出てくる「ジェントリー」と同じ語源らしく、もともと社会階層にかかわる含みを持った言葉のようです。インターネット辞書で調べてみると、きわめて直截な説明がされています(定義1)。懸念すべきは、その定義の最後の記述。リノベーションによって地域の価値が上昇する一方で、既存の低所得層を追い出してしまう可能性があることです。

● ニューヨーク郊外の車上生活者の中には、スラム街の“Gentrification”によって住む場所を失った人たちが多いと、ずいぶん以前に聞いたことがあります。実際、1年前に発表された調査レポートによると、事態はもっと深刻化しているようです。大阪のあいりん地区とその周辺地域についても、同じような問題が起きなければよいのですが。


ふるさと納税より寄附金控除

2017-04-08 23:03:00 | トピック

● ふるさと納税に対する風当たりが強まっています。総務省は、2017年4月1日の総務大臣通知により、寄附された地方自治体からの返礼品に上限を設定しました。これをうけて、ふるさと納税の受け入れに熱心であった自治体の一部は、自粛に動き出すかもしれません。けれども、熱烈な「納税者」が大勢いるうえ、自治体のなかには「抜け駆け」を考案するところが出てくるでしょうから、なかなかすぐには是正されないのではないでしょうか。

● ふるさと納税というのは、おもしろい制度ではあると思いますが、問題が多いことも否めません。問題を放置したまま、安易に煽り立てたり、民間事業者の「斡旋ビジネス」を生み出している現状はどうかと思います。ふるさと納税をしたひとは、住民税が軽減され、おまけに返礼品がもらえます。寄附された自治体にとっては、持ち出しが寄附金を超えないかぎり、税外収入は純増します。返礼品を納入する事業者にとっては売上げが確保されます。返礼品競争に名乗りを上げることで、全国に名前を売ることができます ── たしかに、ここまではプラス要因といえます。

● 一方、ふるさと納税をしたひとが居住する自治体にとっては、明らかに減収です。その自治体の住民にとっては、1人あたりの行政サービスが低下することになります。減収の一部は地方交付税で補填されますが、全額カバーされるわけではないので、行政サービス水準は必ず低下します。しかも地方交付税というのは、ほかの地域のだれか、あるいは将来世代のだれかが負担しています ── これらはマイナス要因になります。

● マイナス要因の影響は広く薄く広がっているため、実感されにくいかもしれません。しかし、日本全体でみればプラス要因よりマイナス要因のほうが確実に大きい。だから私は、ふるさと納税制度に反対です。撤廃すべきと思います。その代わり、現行の寄附金制度を改善すればよいと思います。以前にも述べたことがあるのですが、とりわけ認定NPO法人や公益社団法人に対する寄附金の税額控除の仕方については、わざと分かりにくくしているとしか思えません。少なくとも所得控除と同じような扱いで、確定申告の手引き書に記載することが望まれます。


ミクロ経済政策

2017-03-26 18:18:30 | 媒体

● 野口悠紀雄『日本経済入門』を読みました。少しまえに読んだデービッド・アトキンソン『新・所得倍増論』と現状認識では重なるところが多いのですが、趣をやや異にしているところもあります。

● 両者が共通しているのは、日本経済の課題が生産性の向上にあるとみていること。後者では、これまでは問題が起きても人口増加が相殺してくれたけれども、その体験や発想から抜け出せずにいる1990年代以降の日本経済を「高度衰退期」と評しています。前者では、1990年代以降の日本経済沈滞の原因をデフレに求めるのはまやかしであり、産業構造転換の遅れと旧態依然とした経済体制に起因することを直視すべきとしています。

● このような問題の解決に向けて、前者は政府介入に批判的です。むしろ抜本的な規制改革を通じて、高生産性の産業構造に転換していく必要があるとしています。後者は、政府介入を容認しています。すなわち、日本経済が「高度衰退期」に陥っている根本原因は、経営者の意識が変わらないことにある。英米企業の経営者は、ROE上昇というプレッシャーにさらされている。日本の企業経営者の意識を変えるには、政府が「外圧」をつくり出すしかない。折しもGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が株式運用のウエイトを高めているが、国内株のウエイトをもっと拡大すべきである。その運用利回りが上昇するよう、ファンドマネージャーに対して、政府が何らかの方法でプレッシャーをかければよい ── というものです。金融アナリスト出身の著者ならではの意表を突く提言だと思いました。

● 政府介入に関する見解は異なるものの、もうひとつ共通しているのは、日本経済の隘路打開に向けて、マクロ的な金融・財政政策ではなく、企業の意思決定や行動に影響を及ぼすミクロ的な方策を提案していること。GPIFを利用するかどうかはともかく、ミクロ的な政策についてもっと議論してもよいのではないでしょうか。


子育て支援は必要

2017-02-19 21:30:10 | 媒体

● 移動中の1冊は、柴田悠『子育て支援と経済成長』。同じ著者の『子育て支援が日本を救う』を読もうと思いながら、ついそのままにしていました。普及版が出版されたのを機会にあわてて読みました。両著の題目にとらわれて誤解してはいけないのですが、著者は、やみくもに出生率上昇を唱えているわけではありません。この点は、同じく社会学者である赤川学『これが答えだ! 少子化問題』と同じ立場です。むしろ貧困や自殺などの問題を軽減するためには経済成長が必要であり、経済成長をするためには、結局は子育て支援の充実による女性の就業率向上が重要である ── といったことについて、OECD28ヵ国に関する分析結果をもとに分かりやすく説明しています。

● 両書は、いわゆる Evidence-Based Policy(実証的な証拠に基づく政策)を企画・立案するための基礎的研究に当たります。“Evidence”を重視するのは当然のことのように思えますが、社会・経済・政治にかかわる事象については、肝心の“Evidence”を厳密に把握するのは容易ではありません。けれども、前掲書でも紹介されているような方法により、政策とその効果に関する分析方法が精緻化されつつあります。

● 問題なのは、そのような分析結果が実際に政策に反映されるかどうかということです。政策形成には、有権者、専門家、政治家、官僚などのさまざまな関係者による複雑な意思決定が絡み合います。当初の意図とは異なる政策が選択されることは珍しくありません。もちろん研究そのものの限界もあります。たとえば子育て支援と労働生産性のあいだに因果関係があることが分かったとしても、分析に際しては、ほかの要因をいわば固定して扱わざるをえません。実際の社会・経済に適用してみると、さまざまな要因が相互に影響し合う結果、計算どおりにいくとは限りません。

● しかし、そうはいいながら、前掲書のような研究成果によって人々の関心が喚起され、政策形成に向けた議論が高まっていくことが期待されます。ちょうど中室牧子・津川友介『「原因と結果」の経済学』が刊行されたばかり。因果関係に関する分析手法の最新動向を解説しています。著者たちによると、「突如として何の根拠もない政策が強引に推し進められたりして、結果として納税者である国民の利益が著しく損なわれている」といった現状を変えていくためにも、“Evidence”に基づく政策評価・政策研究が必要 ── という主張にはまったく賛成です。