● 2015年10月12日の日本経済新聞の署名論説は、今回の安全保障関連法案をめぐるメディアの「二極化現象」を批判的に検証しています。新聞・テレビがみずからの意見を前面に押し出した報道に走ってしまうと、極論が極論を呼ぶ状況に陥りかねません。そのため、まずは中正公平な事実認識に徹するよう説いています。
● 実際、安全保障関連法案に関する同紙の報道には、極端な偏りはみられませんでした。この記事と同じころ、高坂哲郎『世界の軍事情勢と日本の危機』が刊行されました。著者は同紙の記者。同書もやはり「現実認識が適切かどうかで国論が分断される」という問題意識から出発しています。
● 同書によると、アメリカは、超音速無人攻撃機の実用化に入りつつあるのだとか。アメリカ本土から地球上のどこでも1時間以内で到達できるのだそうです。これとミサイル防衛システムを組み合わせれば、相手国の核攻撃を先制することができます。そのような技術を持たない相手国は、逆に核兵器の数で対応するしかありません。オバマ大統領が核弾頭削減を呼びかけても、ロシアなどはおいそれと乗るわけにはいきません。
● これを読んで、2015年5月に決裂に終わったNPT(核不拡散条約)再検討会議のことを思い出しました。「なるほどこういう事情もあるのか」と思わず得心。この再検討会議では、核兵器の禁止と廃絶のために行動することを約束する「人道の誓約」も争点になりましたが、日本ですら、意思表示をすることができませんでした。折からの安全保障関連法案に関する国会審議に加えて、アメリカへの遠慮もあったのでしょうが、同書はそういう背景についても思いを至らせてくれます。