一会一題

地域経済・地方分権の動向を中心に ── 伊藤敏安

核兵器廃絶

2015-10-31 22:23:24 | 媒体

● 2015年10月12日の日本経済新聞の署名論説は、今回の安全保障関連法案をめぐるメディアの「二極化現象」を批判的に検証しています。新聞・テレビがみずからの意見を前面に押し出した報道に走ってしまうと、極論が極論を呼ぶ状況に陥りかねません。そのため、まずは中正公平な事実認識に徹するよう説いています。

● 実際、安全保障関連法案に関する同紙の報道には、極端な偏りはみられませんでした。この記事と同じころ、高坂哲郎『世界の軍事情勢と日本の危機』が刊行されました。著者は同紙の記者。同書もやはり「現実認識が適切かどうかで国論が分断される」という問題意識から出発しています。

● 同書によると、アメリカは、超音速無人攻撃機の実用化に入りつつあるのだとか。アメリカ本土から地球上のどこでも1時間以内で到達できるのだそうです。これとミサイル防衛システムを組み合わせれば、相手国の核攻撃を先制することができます。そのような技術を持たない相手国は、逆に核兵器の数で対応するしかありません。オバマ大統領が核弾頭削減を呼びかけても、ロシアなどはおいそれと乗るわけにはいきません

● これを読んで、2015年5月に決裂に終わったNPT(核不拡散条約)再検討会議のことを思い出しました。「なるほどこういう事情もあるのか」と思わず得心。この再検討会議では、核兵器の禁止と廃絶のために行動することを約束する「人道の誓約」も争点になりましたが、日本ですら、意思表示をすることができませんでした。折からの安全保障関連法案に関する国会審議に加えて、アメリカへの遠慮もあったのでしょうが、同書はそういう背景についても思いを至らせてくれます。


軽減税率の議論より

2015-10-04 08:50:10 | トピック

● 2017年4月からの消費税率10%への引き上げに際して軽減税率の導入が検討されています。先ごろ、還付金を計算する方法としてマイナンバーカードを利用するという財務省案が提示され、大いに不評を買いました。なぜこんな中途半端な案が出されたのか不思議に思っていましたが、2015年9月26日の『週刊ダイヤモンド』の記事は、このあたりの事情を解説しています。すなわち、財務省は論争を呼びそうな方策を意図的に提案することで、消費税増税が既定路線であることを国民に刷り込むとともに、複雑な軽減税率を止めて、簡素な給付措置に持って行くことをねらっているのではないかとのこと。

● 消費税増税と軽減税率に関する関心が高まるのは望ましいことなのですが、一方で気になるのは、消費税増税の使途に関する議論がみられないことです。自由民主党総裁に再任された安倍晋三首相は、このほど「アベノミクス 2.0」の一環として「介護離職ゼロ」を打ち出しました。そのほかにも目標値が掲げられていますが、いずれも達成するための方策は明らかとはいえません。安全保障関連法案が片付いた直後に、いきなり「経済、経済、経済」に大きく舵を切ったものの、多くの人々もメディアも sceptical に受け止めているようです(2015年9月26日のthe Economist)。派手な目標値を振りかざすのではなく、現在の予算配分の適否も含めて、消費税増税の本来の目的を真剣に議論する必要があると思います。