● 若田部昌澄『もうダマされないための経済学講義』を読みました。通念に惑わされることなく、経済学の基本概念に基づいて現実の経済を考えてみようという内容です。後半は、現下の日本経済についてさらに大胆な金融緩和が必要というお馴染みの主張。そのことは措くとして、社会民主主義について興味深い指摘を見つけました。以下、例によって少し外した感想です。
● 著者によれば、田中角栄の政策は社会民主主義といってよいとのこと。その日本型社会民主主義は、いまなお「どこか不完全」。なぜなら、西欧の社会民主主義のように1930年代の大不況に対する反省から生まれてきたわけではないから。さらにもう1つの関連する理由は、日本は田中政治の「縮小再生産」を続け、それができなくなったにもかかわらず、新たな構想を描けきれないでいることだとされます。
● 民主党は、社会民主主義政権をめざしたのでしょうが、いまや挫折。一方の自由民主党は、意識せざるにせよ田中政治を継承し、それを超えようとしながらも超えられない状況にあるといえるかもしれません。この夏、自由民主党は「日本経済再生プラン」を発表しました。貿易立国と産業投資立国を双発エンジンとし、有効需要創出のために国土強靱化計画を推進すること、科学技術の振興に取り組むとともに将来の成長分野を特定することとしています。これは、「人口と産業の地方分散によって過密と過疎の同時解消」(田中角栄『日本列島改造論』)を図るという40年前の考え方 ── つまりは日本型社会民主主義の発想 ── と確かに通じるところがありそうです。
● 忘れてならないのは、高福祉には高負担を伴うこと、高負担には活力ある経済を前提とすること。であれば、経済活動に政府部門は過度に介入しないこと、ときには冷淡ですらありうること(たとえば、北岡孝義『スウェーデンはなぜ強いのか』を参照)。そのことが結局は経済を逞しくする ── というのが西欧・北欧の中道左派からの教訓だったのではないでしょうか。