一会一題

地域経済・地方分権の動向を中心に ── 伊藤敏安

AIが仕事を奪う

2016-08-19 22:34:10 | 媒体

● 経済成長の「不要論」や「限界論」を聞くことがあります。けれども、前者については、たとえば「主要先進国では2%程度の経済成長を維持しているので、経済成長をしなければ、毎年2%程度の失業者が出てくることになる」(飯田泰之『思考をみがく経済学』)という趣旨の指摘は、分かりやすく説得的だと思います。後者についても、たとえば「もの」より「こと」や「時間」にかかわる経済活動が増大するなど、経済の「中身」は不断に変化しています。では、AI(人工知能)が普及すればどうなるか。

● 井上智洋『人工知能と経済の未来』によると、それほど遠くない将来、AIが直接的に財・サービスを生産し、供給する「純粋機械化経済」の到来すら予想される。これに伴って技術的失業が増大し、2045年ごろには、内実のある仕事で食べていける人は労働人口の1割程度になるのではないか、とのこと。だから、副題は「2030年雇用大崩壊」。

● タイラー・コーエン『大格差』では、やはりAIなどの発達によって、労働市場が「きわめてよい」と「きわめて悪い」に両極化するが、「奇妙に平穏な時代」が到来すると展望されていました。これに比較すると、『人工知能と経済の未来』が描く将来像は、きわめて深刻です。同書の終わりでは、なぜかベーシック・インカムの問題が出てきます。読者としては、AIによる経済への影響についてもっと解説してほしいのですが、「労働が不要になる社会では、労働者は社会保障なしに生きることができない」という著者の問題意識からすれば仕方ありません。

● かといって著者は、何から何までAIが人間に取って代わると考えているわけではありません。「すべてを機械任せにすることができない程度にしかAIは発達しない」「AIがいくら発達しても“生命の壁”は超えられない」 という趣旨の指摘には救われます。そういえば、ちょうど開催中のオリンピック・ゲーム。レフェリーの大部分はAIで対応可能になるとしても、プレイをするのはやはり生身の人間でなくてはなりません。