語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】ハーバーマスとの討論、過激派封じ込め ~バチカン世界戦略(6)~

2017年04月17日 | ●佐藤優
【佐藤コメント】
3-(2)
 教皇に選出される1年3ヵ月前の2004年1月19日にラッツィンガー枢機卿は、ドイツの著名な社会哲学者ユルゲン・ハーバーマスと討論した。
 ラッツィンガーは、バチカンの教理聖省の長官を務めたカトリック保守思想の代表者で、ハーバーマスは左翼リベラル派の「知の巨人」なので、この最初で最後の討論会は、哲学、神学関係者のみならず広範な知識人の関心を集めた。これまで接点がなかった二人を接近させたのは、アルカイダをはじめとするイスラーム過激派の台頭だ。
 この討論会でラッツィンガーは、アルカイダの活動に強い関心を向けて次のように指摘し、キリスト教徒と欧米の世俗的合理主義を信奉する人々が連帯して、アルカイダのような過激派を封じ込める必要を説いている。
 <ところが最近では、われわれにとって不安の種は大戦争ではなく、むしろいつどこで襲ってくるか分からないテロの広がりである。今やわれわれに分かってきたことは、世界を人間の住めない場にするために人類は必ずしも大戦争を必要としないということである。いかなる場所にも偏在しうるテロの無名の力は、すべての人々の日常生活の場にまで襲いかかるだけの強さを持っている。また、それとは別に、こうした犯罪的な分子が、巨大な破壊の可能性を手に入れ、それによって政治秩序の外で、世界をカオスに陥れるのではないかという恐れがある。こうして法と倫理への問いの様相が変わってきた。問題は、〈テロ〉【注1】はどのような源泉からエネルギーを得ているのだろうか、人類のこの新たな病を内部から封じ込めるにはどうしたらいいのだろうか、という方向へと変質してきた。しかもその際、ショッキングなのは、テロは少なくとも部分的には自らを道徳的に正当化していることである。ビン・ラディンのメッセージは、テロを、力なき抑圧された諸民族からの強者の傲慢に対する答えである、としている。また、強者の高慢と、神を冒?する思い上がり、そして残虐に対する正義の刑罰である、としている。特定の社会的政治的状況にいる人々には、こうした動機はもっともだと思えるようである。またテロ行為は、神を失った西側社会の状況に対抗して宗教的伝統を擁護するものとして、部分的にであれ説明されている。>【注2】

 【注1】〈〉内は原文は傍点。
 【注2】ユルゲン・ハーバーマス/ヨーゼフ・ラッツィンガー(三島憲一・訳)『ポスト世俗化時代の哲学と宗教』(岩波書店、2007)

□佐藤優「ローマ教皇ベネディクト16世の生前退位」【「イスラーム過激派に対抗する「バチカン世界戦略」」に対する分析メモ】『佐藤優の10分で読む未来 ~新帝国主義編~』(講談社、2014)
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 【参考】
【佐藤優】生前退位の理由(その2) ~バチカン世界戦略(5)~
【佐藤優】法王と教皇、その不可謬性 ~バチカン世界戦略(4)~
【佐藤優】対中国、対イスラーム過激派の論理 ~バチカン世界戦略(3)~
【佐藤優】教皇の若返りが必要な理由 ~バチカン世界戦略(2)~
【佐藤優】改革派の教皇、保守派の教皇 ~バチカン世界戦略(1)~


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