語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】法王と教皇、その不可謬性 ~バチカン世界戦略(4)~

2017年04月17日 | ●佐藤優
【事実関係】
 2013年2月28日、ローマ教皇(法王)ベネディクト16世が生前退位した。
【重要ポイント】
 ①この生前退位は、健康な後継教皇の指導下で、カトリック教会がイスラーム世界に対する巻き返しを図ろうとする世界戦略に基づいている。
 ②新教皇の下で、カトリック教会は中国に対する攻勢をかけていくことになる。

【佐藤コメント】
1-(1)~(3)
 平均的日本人には、ローマ教皇が政治的、宗教的にどのような意義を持っているかがわかりにくい。この前提知識を欠いては、教皇の生前退位が今後の国際社会に与える影響を読み解けなくなる。
 「ローマ教皇」と「ローマ法王」について、日本のカトリック教会でも混在していたが、1981年2月のヨハネ・パウロ2世の来日を機会に、カトリック中央協議会は「ローマ教皇」に統一することになった。「教える」という字のほうが、教皇の職務をよく表すからだ。
 そもそも法王とは、仏法の王や宗主を表す仏教用語なので、ローマ教皇を表す言葉としては不適切だ。
 ローマ教皇には、政治的な権力もある。バチカン市国という国家の長としての機能だ。
 日本政府や外務省は、ローマ法王、ローマ法王庁という言葉を現在も用いて切る。なぜか。日本とバチカンが外交関係を樹立した当時の定訳は「法王」だったため、ローマ教皇庁がその名称で日本政府に申請。そのまま「法王庁大使館」になった。日本政府に登録した国名は、実際に政変が起きて国名が変わるなどしない限り、変更できないのだそうだ。

1-(4)
 ローマ教皇は不可謬(ふかびゅう)性を持つ。これは、すべての事柄において、ローマ教皇が間違えないということではない。
 1870年に開催された第1回ヴァチカン会議において、教皇の不可謬性について激論が交わされたが、531票対2票でもってこれを教義とすることが決定された。少数の反対者は投票前に教皇の許可を得て帰国し、反対した2名の司教もまもなく賛成した。
 そこで教皇は自らの不可謬性に関する教義を朗読した。教皇が教皇の座から、換言すれば全キリスト教徒の牧者、教師としての最高使徒的権威に立って、教会によって守られるべき信仰または道徳に関する教理を定義する時、ペテロにおいて教皇に約束された神の助力によって彼は不可謬性を付与されている、云々。
 ローマ教皇の不可謬性は、信仰と道徳に関する教義に限定されるが、道徳の社会倫理に属する事項(〈例〉避妊の禁止。かつては政教分離、合理主義、プロテスタント系の世俗語で書かれた聖書を普及させる目的で結成された聖書協会も禁止)は、政治、社会、経済にも影響を与え得る。ローマ教皇がどのような道徳指針を示すかは、事実上、政治問題なのである。

□佐藤優「ローマ教皇ベネディクト16世の生前退位」【「イスラーム過激派に対抗する「バチカン世界戦略」」に対する分析メモ】『佐藤優の10分で読む未来 ~新帝国主義編~』(講談社、2014)
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 【参考】
【佐藤優】対中国、対イスラーム過激派の論理 ~バチカン世界戦略(3)~
【佐藤優】教皇の若返りが必要な理由 ~バチカン世界戦略(2)~
【佐藤優】改革派の教皇、保守派の教皇 ~バチカン世界戦略(1)~

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