語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】村上昭夫「兎」

2015年06月02日 | 詩歌
 月には兎がいるのだと
 私は小さい時思っていた

 恐らく月はでこぼこの冷たい山が広がるばかりで
 平地には崩れた塵埃が
 幾重にも重なっているだけだろう

 海というものは名ばかりで
 一滴の水もない暗さが
 深く沈んでいるだけだろう

 だが今でも私は
 月には兎がいるのだと思っている
 月は昔疲れた飢えた旅人のために
 身を焼きささげた兎だったと
 この涯というもののない宇宙のなかには
 死んだものはひとつもいないのだと
 おそらく数知れない天体のなかには
 数知れない兎がすんでいて
 数知れない疲れた旅人もいるだと
 今でも子供のように思っている

□村上昭夫「兎」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
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 【参考】
【詩歌】村上昭夫「空を渡る野犬」
【詩歌】村上昭夫「太陽にいるとんぼ」
【詩歌】村上昭夫「金色の鹿」
【詩歌】村上昭夫「雁の声」
【詩歌】村上昭夫「うみねこ」
【詩歌】村上昭夫「鴉」
【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」
【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」
【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~



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