語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】村上昭夫「太陽にいるとんぼ」

2015年05月31日 | 詩歌
 太陽にとんぼが飛んでいると
 子供は黒点の乱れを見て言うのだ

 私は黙ってしまう
 太陽にとんぼがいることは本当なのだから
 私は何も言えなくなってしまう

 ほんとうはとんぼは
 太陽だけではなく何処にでもいるのだ
 銀色のすきとおる羽をきらめかせ
 ルリのような目を輝かせながら
 宇宙をいっぱいに飛んでいるのだ
 それを太陽に見つけたものだから
 太陽にとんぼがいると子供は言うのだ

 私は黙ってしまう
 私はある大事な日に
 ある大事なものをこわしてしまったのだから
 あれは黒点にすぎないのだと
 それから月には死んだ山があるばかりで
 火星なら原始的なコケ類が
 かろうじているだけなのだと
 それだけしか言えないのだ

 とんぼの見えなくなった私を
 子供に覗かせるのは恐ろしいことなのだ
 例えば暗い矮小な黒点と
 死んだ山とコケ類しかいなくなった私を
 太陽にとんぼが飛んでいる
 子供は太陽を見て言っているのだ
 きらきら光る超次元の知恵で
 まっすぐに太陽を見ているのだ

□村上昭夫「太陽にいるとんぼ」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
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 【参考】
【詩歌】村上昭夫「金色の鹿」
【詩歌】村上昭夫「雁の声」
【詩歌】村上昭夫「うみねこ」
【詩歌】村上昭夫「鴉」
【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」
【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」
【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~

      赤とんぼ
    


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