語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【アラン】情熱や情熱の危機への対策

2016年06月09日 | ●アランの言葉
 <情熱や情熱の危機は、冷静な吟味によって幾分は調節されるが、又同時に年齢の加減でも冷めるものだ>

 *

 今日、若い友人のS君が「目標」という考えを持ち出していたが、「目標」とは幾分ちがうにしても、20代のころ市民生活のモデルの一つとしていたのがアランだ。アランは、モンテーニュやデカルトなど10人ほどの哲学者や作家を徹底的に読みこなし、併せて自分の日常の観察から哲学した。
 きだみのるはアランが好きで、よく読んでいたそうだが、アランというモラリスト的哲学者とフランス社会学に学んだきだみのるには、共通するものがあるのは確かだ。

□アラン(小林秀雄訳)『精神と情熱とに関する八十一章』(創元ライブラリ、1997)の「序言」
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 【参考】
【アラン】ここにいる、どこにでもいる、分割できない全体だ ~デカルト賛~

 


【佐藤優】&宮崎正弘 言語・民族・国家 ~グルジアと中国~

2016年06月09日 | ●佐藤優
(1)不思議の国、グルジア【佐藤優】
 グルジア人には国家意識が余りない。西部のメグレリア痴呆と、かつてイベリア王国を名乗っていた中央部は、言葉も違う。さらにアバハジアがあり、グルジア人だがイスラム教徒の、アジャール人もいる。オセアチア人も抱えている。
 国歌として確乎たる統一感がない。にもかかわらず、スターリンの出身地という関係で、軍産複合体などの工業を強化した。それが完全に裏目に出た。
 裏目に出た結果、いまは国民の8割が農業に従事している。世界的にみても農業化が急速に発展した珍しい事例となっている。そういう形で土地との結びつきが強いから、ディアスポラ(離散)がない。みんなで自給自足経済のような生活をして、結構うまくやっている。
 グルジアで最高にユニークなのは言語だ。世界のほとんどの言語には主語と述語があり、それによって主格と対格が決まる。しかし、世界にはごく少数だけ、主格・対格構造をとらない言語がある。能格・絶対格構造というが、グルジア語もその一つだ。バスク語もそうだ。動詞のパラダイムが作れない。
 グルジア語では、「行く」「食べる」という動詞は、15,00通りぐらい変化する。グルジア語の仲間のアディゲー語では、一つの動詞が20億通りぐらい変化する。なぜそうなったのか。現在唱えられている仮説によれば、かつて原人類のようなものがいて、彼らはバスク地方やコーカサス地方の山中に追われていった。そこに閉じこもって独自の暮らしを続けた。ために、かつての言語体系を残している・・・・ということだ。
 ヴィトゲンシュタインいわく、言語の相違は思想の相違につながる。15,00通りぐらい動詞が変化する人々の感覚は、そうでない我々の感覚と絶対に違うはずだ。
 チェチェン語も、このカテゴリーの言語だ。だから、彼らの物事の受け止め方、発想は、たぶん違う。
 では、グルジア人は何を自分たちのナショナル・アイデンティティにしているのか。領土的には、イラクリ3世がいまの版図に近いところまで拡大した。そのときのイメージで、辛うじて持っている。あとは、グルジア文字という独特な文字を含めて、やはり言語だろう。
 普通に農業をやれている分には、民族などについて余り考えないですむ。自分たちの村がうまくいっていればいい、という発想だ。ただし、そこへ遅れてきた民族主義を植えつけようとする人たちが、時々出てくる。その一人がいまのサアカシビリ大統領だ。グルジアの土地は純粋にグルジア人だけで統治するべきだ、他の連中から参政権も経済的な利権も全部奪ってよい・・・・これがサアカシビリの基本的な発想だ。この発想は、シュワルナゼの前のガムサフルディアと一緒だ。

(2)言語の統一は思想の共通化へ【宮崎正弘】
 中国の言語空間は、中国語だけでも4つの巨大な体系がある。北京語、福建語、上海語、広東語だ。それぞれ地方の方言がある。テレビが普及するまで、中国人同士、出身地が違うと会話が成立しなかった。ましてや、漢族以外の民族の言葉は、漢族にわかるはずはない。ウィグル語はトルコ系だ。チベット語の源流は梵語。モンゴル語も漢語とはまったく体系が異なる。文字は、モンゴルとチベットは酷似していて、アラブ文字とペルシア文字の差ぐらいしかない。
 それを北京語で統一した。強引ともいえる漢族同化政策だ。教育現場を漢族が独占して支配した。ラジオ、テレビを完全に管轄下に置いたからなし得た。
 湖南省北部にトン族という独自の言葉をもつ少数民族は、若者は伝統的な自分たち部族の言葉が喋れない。08年に湖南省を一周したときのガイドは、トン族の若者で、完璧な北京語だった。村の長老しかトン族の言葉はわからなくなっている、と嘆いていた。
 雲南省のトンパ族も、文字は観光資源の展示用のみ。いまでは、トンパ文字を読み解ける学者は、ロンドン大英博物館の研究員と日本のトンパ文字研究家のみだ。
 満州人は、中国全土に1千万人分散しているが、満州語に至っては、旧満州ですら数十人も喋れない。
 だから、ウィトゲンシュタインの言うように「言語の相違は思想の相違につながる」のであるとすれば、北京語による言語の統一は、中華思想の普遍化につながる。中国の狂信的中華思想の普遍化は、北京語の統一によって半ば成し遂げられたことになる。

□佐藤優『猛毒国家に囲まれた日本 ロシア・中国・北朝鮮 』(海竜社、2010)/共著:宮崎正弘
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 【参考】
【佐藤優】&宮崎正弘 猛毒国家、北朝鮮
【佐藤優】&宮崎正弘 猛毒国家、中国 ~中国の権力闘争と将来像~


【佐藤優】&宮崎正弘 猛毒国家、北朝鮮

2016年06月09日 | ●佐藤優
 本書では、もっぱら佐藤優がロシア、宮崎正弘が中国を語る。北朝鮮については、両者とも詳しくない。宮崎は、もっぱら2010年現在の中国の北朝鮮政策(または無策)を語り、佐藤はその人脈から得た情報を披露している。

 *

(1)中国の北朝鮮政策
 北朝鮮と中国とは、利害関係を共有している部分が非常に多い。
 もともと両者の関係は、深い。中国では、大幹部になると、最初の外遊先に北朝鮮を選ぶ。江沢民しかり、胡錦濤しかり。次期国家主席の呼び声が高い習近平も行った。ただ、具体的に北朝鮮の中枢に対してどんな楔を打ちこんでいるのかは、不明である。

 中国は、北朝鮮の今後の鍵をにぎるが、毛沢東や小平の時代のような北朝鮮に係る明確な方針はない。
 中国自身、権力闘争の真っ最中なのだ。誰がほんとうに権力を掌握しているか、わからない。当然、対北朝鮮の方針も読めない。

 江沢民は、一応軍を抑えていた。
 ところが、胡錦濤はいまだに軍を押さえきれていない。だから、時々軍が暴走する。典型例は、2007年のキラー衛星の実験だ。衛星破壊は成功し、米国に脅威を与えたが、この実験の具体的な日時を胡錦濤は知らなかった。
 まだ江沢民一派が富の権力をにぎっている。胡錦濤一派は、ほとんど利権をもっていない。軍は軍で、自分たちの利権を胡錦濤に渡さない。軍の利権とは、対外的には武器輸出だ。これがまた複雑で、どこが何をやっているか、掴みようがない。
 軍は、胡錦濤に対する忠誠心はあまりない。陳炳徳・参謀総長に対してはあるが、陳は軍を掌握していない。軍を掌握しているのは、梁光烈・国防部長だ。この二人が争っている。梁は、江沢民派に付いている。2010年1月現在、軍上層部の3分の2は江沢民派だ。
 軍をにぎる江沢民派も、外交政策を仕切ることはできない。中国の外交部はまったく力がなく、真に外交を左右するのはバックにいる国務委員たちだ。
 要するに、指揮系統が乱れている。権力の所在をめぐって、かなり混乱している。当然、確乎たる北朝鮮政策を打ち出せるような状況にない。

 中国は、ただ物資を流すだけだ。食糧の約半分、オイルの9割を中国から輸出している。
 もっとも、代わりに、抜け目なく、鉱山開発権を取得している(タングステン、パラジウム)。また、羅先の港まで直線道路を敷いた。港湾施設を近代化した。中国は、長らく懸案事項だった日本海への出口を、数世紀ぶりに確保したのだ(軍事よりも経済が目的)。
 中国は、このように経済的に北朝鮮を押さえこんでいる。しかし、政治的に北朝鮮の権力中枢にどこまで入りこんでいるかは見えてこない。

(2)後継者問題
 これまでノーマークだった金正雲については、西側は三男の存在さえ把握していなかった。
 正雲の母親、高英姫は、大阪で育った在日朝鮮人だ。1960年代の帰国事業で北朝鮮に渡った「喜び組」の一員である(故人)。
 佐藤優は、2008年、鈴木琢磨(毎日新聞)と共著をものした(『情報力』)。鈴木は、そこですでに金正雲の名を挙げている。
 十数年前、北朝鮮で「オモニム・キャンペーン」が行われた。オモニムは母親のこと。「国母」のような意味が含まれている。本来この言葉が国政レベルで使用されるのは、金日成の夫人、金正淑のことを指すときだけだ。そのオモニムを正雲と正哲の母親、高英姫に対して使い、いくつかキャンペーンが行われた。鈴木は、佐藤に、後継者は正哲か正雲だろう、と予想を述べた。
 『情報力』(イースト・プレス、2008)を読めばわかるが、鈴木琢磨は北朝鮮国内の内部文書や小説の読みこみによる文書諜報の手法により、金正日の後継者問題に係る北朝鮮の流れを非常に正確に分析している。鈴木は、2010年8月20日が一つのポイントになる日で、北朝鮮はそのためのシグナルを出している、と言った【注】。さらに、2012年が主体思想100周年に当たるため、その年に後継者を定め、その翌年の101年目に改元する、と。北朝鮮は、そのスケジュールに従って動いている、というのが鈴木の見方だった。

 未確認情報だが、金正日の長男および次男の側近が粛正され始めた。
 北京に暮らし、マカオで博徒人生を送る長男は問題外だが、次男と三男の後継争いは、側近の動きによって相当変わってくる。

 【注】2010年9月27日付け朝鮮中央通信によれば、金正日総書記は10月10日付けで金正雲ら6人に大将を発令した(同年9月28日付け朝日新聞から孫引き).。また、同年9月29日付け朝鮮中央通信によれば、28日に金正雲は党中央委員および新設ポストの党中央軍事委員会副委員長に選出された(同年9月29日付け読売新聞から孫引き).。

□佐藤優『猛毒国家に囲まれた日本 ロシア・中国・北朝鮮 』(海竜社、2010)/共著:宮崎正弘
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 【参考】
【佐藤優】&宮崎正弘 言語・民族・国家 ~グルジアと中国~
【佐藤優】&宮崎正弘 猛毒国家、中国 ~中国の権力闘争と将来像~



【佐藤優】&宮崎正弘 猛毒国家、中国 ~中国の権力闘争と将来像~

2016年06月09日 | ●佐藤優
 もっぱら佐藤優がロシア、宮崎正弘が中国を語る。2010年現在の中国の権力闘争について、その多くを宮崎正弘が伝える。

   *

 毛沢東は、大学を出ていない。幼い頃、村の寺子屋で学んだが、学齢らしい学歴はない。
 毛を継いだ小平も、ほとんど学歴はない。彼はフランスで労働者をしていた。ただ、は毛を目の前に見ていたから、権力の掌握のしかたや独裁気引力の中における処世術を非常によく知っていた。
 江沢民になって、初めて大学のエリートが出てきた。江は、上海交通大学出身である。ちなみに、中国の4大エリート校は、北京大学、清華大学、上海復旦大学、上海交通大学である。
 江は、上海市の党書記だったが、小平により総書記に抜擢された。最初は形だけの権力だったが、小平を上手に利用して、体制を固めていった。江に従わない陳希同、北京を牛耳っていた政治局員は、冤罪事件をでっちあげてて逮捕、禁固16年とし、20年目の今も内蒙古自治区の刑務所に幽閉している。
 江は、陳を排除した結果、執行部の半分の主導権を握った。しかし、軍が従わない。江には軍歴がない。そこで、江は大将の辞令を乱発し、13年間に64名の「上将」(大将)を任命した。この人事によって、最後に江は軍を掌握することができた。

 権力者には、権威、権力、財力の3つが揃っていなければならない。日本の場合、権威は天皇、権力は政治家か朝日新聞かよくわからないが、財力は財界にあり、「三権分立」である。
 江は、上海からいきなり北京に入ったので、仲間がいない。有力な同志もいない。
 幸運にも、産業革命の波に遭遇した。それまでは、国家予算を握る者がリベートを得る利権を持っていた。その守旧派を代表したのが李鵬だった。ところが、IT革命が起きた。携帯電話やパソコンを製造するメーカーは、江の地元である上海にあった。その次に金融革命が起きたが、銀行と保険は上海派の利権だった。かくして、江は急激に財力を手に入れることができた。

 江沢民の次に登場したのが、胡錦濤である。彼は、清華大学と党学校を出たエリートで、党学校と清華大学のOBを連れてきた。従来であれば、それで一気に権力を握れるはずだが、利権が入ってこないため、まず軍が従わなかった。軍の利権の半分以上を、まだ江沢民派が握っていた。
 胡は、立ち往生したのだが、まず副省長クラスや次長クラスのポストを取る作戦をとった。省長クラスは、まだ半分しか抑えていないが、副省長クラスはほぼ胡錦濤派に塗り代わった。共産党中央委員会は、まだ江の上海派の天下だが、胡錦濤派は江蘇省、浙江省、広東省、河南省、河北省といった中原を抑えた。
 胡は、徐々に権力基盤を固めていき、2009年から本格的な権力掌握が始まった。広東閥の締め上げに着手した。いま、胡錦濤の直系が広東省長に就いている。重慶に行っている薄煕来は胡と距離があるが、従来からの地元幹部を次々に失脚させ、地域的権力を掌握しつつある。
 2012年に次の国家主席と交代するから、時間がもう限られているが、それまでにもう一度か二度はドタバタ劇があるだろう。

 中国の知識人は、ほとんどがニューヨークに逃げてしまった。
 一部エリートだけが残っている。このイデオローグたちは、中国でもまじめな部類に属する人たちで、毛沢東理論の再復活をねらっている。彼らは、利権のおこぼれにあずかれず、長屋のようなボロ・アパートに住んでいる。大学の同級生たちは皆スポーツカーを乗りまわし、愛人を2人ぐらいもって愉しくやっている。なんで俺だけこんなに貧乏なのだろう、というルサンチマンが渦巻いている。そこで毛沢東理論の復活しようというわけだ。これは別な意味で危険な動きだ。

 今後の中国は、結局いままでの歴史のくり返しになるだろう。
 現在の共産党王朝がどこで終わるかというと、巨大な近く変動が起きたときだろう。
 シナリオの第一は、国内の分裂だ。北京政権、これに刃向かう上海メガロポリスの利権屋、広東。この3つは昔から民族が違うし、分裂しても不思議ではない。
 さらに、そのときの権力集中の度合いによっては、チベット、新疆ウイグル、南モンゴルが独立に動く可能性もある。そこに、ロシアや外国勢力が入ってくる余地が生まれる。新疆ウイグルは、特に分裂の可能性が高い。中共治下ではコーランを禁止されているから、より原理主義的になっている。
 
 もう一つの不安要因は、対外膨張のし過ぎだ。2兆4千億ドル近くの外貨準備高(2010年1月現在)があって、米国の国債を買うものもよいが、なぜ自分たちの国の中に投資しないのか不思議だ。
 資源国に対する援助は、中南米のベネズエラから、アフリカのコンゴやアンゴラ、イラン・イラクのガス油田、リビアの油田、スーダンなど、250億ドルぐらいを投資している。いったい何をしようとしているのかがわからない。
 石油は乱高下が激しい商品なのだが、向こう10年、20年、右肩上がりで原油代金が上がり続けるという前提で中国は投資している。危ない。まさにバブルだが、そもそも中国人は目の前の利権ばかり追いかけている。それは、不動産投資熱をみても明らかだ。

□佐藤優『猛毒国家に囲まれた日本 ロシア・中国・北朝鮮 』(海竜社、2010)/共著:宮崎正弘
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 【参考】
【佐藤優】&宮崎正弘 言語・民族・国家 ~グルジアと中国~
【佐藤優】&宮崎正弘 猛毒国家、北朝鮮

【米国】大統領予備選に見る戦後体制の終り ~米軍、東アジアから撤退~

2016年06月09日 | 社会
 (1)米国大統領予備選挙から、近い将来、世界秩序に重大な変化が起こり得ることが明らかに感じられる。むろん、米国では4年に1回大統領選挙が行われるのだが、今回は話が異なるのだ。
 最も顕著な変化は、共和党vs.民主党という米国二大政党制が崩壊しつつあることだ。両党内でエリート層と草の根の支持者たちの間に大きな隔たりが見られる。
  (a)共和党・・・・草の根運動の擁護者がドナルド・トランプだ。ライバルを次々と打ち負かし、今や大統領候補者選びで指名獲得を確実にしたが、党のエリートのほとんどがトランプ氏を軽蔑視している。
  (b)民主党・・・・党幹部が推すヒラリー・クリントンが進歩主義のライバル、バーニー・サンダースに僅差でかろうじて勝利するであろう【注】。だが、1年前には、クリントン氏を予備選で追い詰めるライバル候補の存在を予想したアナリストはほとんどいなかったはずだ。

 (2)米国社会の亀裂が露呈している。1980年代から富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなった。今では中間層でさえ「働く貧困層」の仲間入りをしつつある。
 トランプ氏は、その原因が移民と外国との同盟にある、と糾弾する一方、サンダース氏は富裕層とウォール街を非難している。
 クリントン氏はと言えば、自身が既存の体制の一部であるために、明確なメッセージを打ち出せずにいる。
 民衆の怒りのマグマは上昇する一方だ。

 (3)もしも11月にトランプ氏が米国大統領に選ばれたら、戦後期が終焉を迎える、と言っても過言ではない。将来、歴史学者は、1945年から2016年までを戦後期と記すだろう。
 戦後期とは、良く言えば、米国が世界で支配的な権力を持ち、その外交政策が超党派による国際主義への深い関与によって導かれた時代と定義されよう。
 米国の世界展開の土台となっていたのが、西欧や日本との同盟だ。
  (a)トランプ氏は、これらの同盟を抜本的に「再交渉」すると明言し、欧州と日本に対して米国経済に直接現金で貢献するよう脅しをかけている。短期的にはともなく、遅かれ早かれ同盟が崩壊することは間違いない。トランプ氏の外交政策は、「敵」「味方」にかかわらず、本質的に同じだ。米国との同盟は無意味なものとなるだろう。
  (b)クリントン氏が大統領選を制すれば、戦後期はもう少し長引くはずだ。クリントン氏は、従来の外交政策を踏襲するつもりだ。バラク・オバマ大統領と同様に、日本にはほとんど目もくれないだろう。
 
 (4)(3)-(b)であっても、クリントン氏は依然として米国民の強い怒りと反既存体制感情に直面するに違いない。
 しかも、クリントン氏は元来、オバマ大統領よりも相当タカ派だ。シリア、イラク、アフガニスタンに米地上軍を派遣する可能性が高い。つまり、氏の外交政策は、巨額の戦費を注ぎ込んだジョージ・W・ブッシュ大統領の字出会いに逆戻りと言えるかもしれない。すると、次回2020年の大統領選挙では、左派でも右派でも怒れる大衆主義者が勝利を収め、結局は戦後体制が終焉を迎える、と予想される。

 (5)戦後体制の終焉は、進歩主義者もリベラル派も含め、日本にとって何を意味するのか。
 今後数年間に米軍が実際に東アジアから撤退する可能性を今こそ考慮すべきだ。
 その場合、日本の外交・国防政策はどうあるべきなのか?

 【注】6月7日に指名を確実にした。【記事「クリントン氏、勝利宣言へ 米民主党、代議員過半数に」(朝日新聞デジタル 2016年6月8日)】

□マイケル・ペン「米国大統領予備選に見る戦後期の黄昏 ~ペンと剣~」(「週刊金曜日」2016年6月3日号)
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