「マッキーのつれづれ日記」

進学教室の主宰が、豊富な経験を基に、教育や受験必勝法を伝授。また、時事問題・趣味の山登り・美術鑑賞などについて綴る。

マッキーの美術鑑賞:院展日本画家國司華子さんの個展

2010年08月07日 | 美術鑑賞

「ギャラリー須知」で開かれていた個展で、久しぶりに國司華子(くにしはなこ)さんの作品を鑑賞しました。

会期は7月17日(土)まででしたが、ぜひ作品を拝見したいと思いつつ、伺ったのは会期の最終日でした。

教室のある人形町の隣駅の茅場町駅近くにある画廊に、授業のある教室に昼には戻る為に、画廊が開く11過ぎに訪れました。

「ギャラリー須知」は、開廊して間もない画廊です。

画廊が入っているビルは、建てられてからかなりの歳月を経て、その経年劣化が良い方向に働いたこじんまりとした建物でした。

年季の入ったビルに開廊する画廊が結構ありますが、レトロなビルであることが、対照的に白を基調とした美術画廊の内部を、結果的に強調する効果があります。



個展会場のギャラリー須知
中央区日本橋茅場鳥2ー17-13 第二井上ビル2階


画廊に入ると、ネコをモチーフとした國司さんの絵が10点近く壁面に飾られていました。

久々に國司作品を拝見しましたが、ここ十年ほど、國司さんはネコを好んで絵のモチーフとして取り上げていることを知りました。

90年代の女性を中心とした國司作品を見慣れていた私は、始めは違和感を覚えました。

しかし、並べられた猫の絵をしばらく眺めているうちに、懐かしさがこみ上げてきました。



國司華子画集「ネコココ―猫、此処」…求龍堂より


90年代の初め、私は美学社(現在の美楽舎)を中心に、美術愛好家を集めてさまざまな活動を行っていました。

ちょうどその頃、國司華子さんは1990年の院展に初入選し、注目を集め始めた頃でした。

1991年の個展で、私は國司さんの作品を購入しました。

この個展では、コレクターの集まりである美学社の会員の多くが争って個展会場に出かけ、國司さんの作品を購入しました。

私は仕事の都合で、だいぶ遅くなって画廊に出向きましたが、ほとんどの作品が売れていて、入手ができないのかと心配したことを思い出します。

初日にしてごく僅かしか残っていなかった作品の一つが、私が購入した、そして画集に掲載されている「今日コノ頃PartⅡ」でした。



「今日コノ頃PartⅡ」


國司さんに案内されその変形20号の作品の前に立って、作品について少し本人と話をしたことを覚えています。

「作家の思い入れと、コレクターの見方は、少し違っているようですね。」、國司さんはこの作品を前に、そんなことを私に話しました。


國司さんは、東京芸大の平山教室出身で院展に所属する日本画家ですが、その作品はさまざまな絵画から影響を受けていると思われます。

この作家の優れている点は、そうした過去から受け継ぐ遺産を、自分なりに消化して、それを自分の個性としていることです。

主題となる対象以外に、その背景にかなりのエネルギーをかけていて、対象と背景のせめぎ合いと緊張感が、作品に独特の印象を醸し出しています。



國司華子画集「カ・タ・コ・ト」…求龍堂より


かつて、日経アートという雑誌がありましたが、その紙面にコレクターとして何がしかの金額(300万ほどの予算を想定したものだったと思います)でコレクションするなら、どんな作品をコレクションをするかという企画がありました。

そこで、紙面の見開きを使い、私のコレクション哲学を語り、具体的なコレクション例を紹介したことがありました。

その紙面の中で、私は数人の作家の一人として國司華子さんを取り上げ、若手日本画家作品のコレクションを薦めたことがありました。

その後、國司さんとは、美学社の例会で、おそらくは福島県立美術館を訪問したときだったと記憶していますが、ご一緒して日帰りの旅を楽しんだことがありました。


國司さんの作品は、90年代に多く描いた女性像も、またここ十年間のネコの作品も、その独特のマティエールに特徴があるとおもいます。

垂らし込み、大胆な刷毛目、金銀箔の使用などの日本画の技法を駆使し、またその一方日本画らしからぬフレスコ画風のマティエールを感じる人肌など、さまざまな技法の展開が画面上でなされているように思います。



國司華子画集「カ・タ・コ・ト」…求龍堂より


私にとって、國司華子さんの作品を見たときの最初の強い印象は、実はそこに描かれている女性の目でした。

決して男性にとって性的に魅力的な女性では無いけれども、気になる存在の女性が描かれています。

90年代の女性像と、ここ十年のネコの作品を眺めると、ある共通点があることに私は気付きます。

それは、いずれも「目」が口ほどにものを言っていることです。

ネコの特徴はさまざまありますが、ネコにとって「ネコの目」はさまざま慣用句があるように、印象的です。

ネコは、かわいく振舞いますが、犬と異なり決して人間に媚びない野生の本能を失っていません。

そして、闇夜の中でさえ機能する独特な目を持っています。

「ゲテモノ」と揶揄された個性的な作品群を生み出した片岡球子ほどではないですが、鑑賞する側に媚びない点は國司華子さんも同様で、その特質はネコのそうした性質と共鳴する点があるようです。

絵から受ける印象というものは、作家自身が発する何かであり、それ以外の何物でもないと思います。



國司華子画集「ネコココ―猫、此処」…求龍堂より


國司華子さんの作品は、まず主題である対象で、私の目を引き付け、次に丹念に仕立てられた背景が、主題である対象の背後に目を向けさせます。

國司さんの絵は、見る者に想像を喚起させ絵画の中の「空間」に思いを馳せる、そうしたイリュージョンが存在すとも言えます。

今回の個展の作品を鑑賞して、かつての國司さんの作品よりも色の使い方が大胆になったという印象を受けます。

自由気ままなネコを表現するのに、そうした多彩な色遣いは効果的に働いているようです。



サインをいただいた國司さんの画集


近年、海外のオークションで、日本人現代美術作家の作品が、極めて高く競り落とされています。

しかし、それらの多くは、いわば日本の漫画・アニメを中心とするサブカルチャーの影響を強く受けた作品が多いという印象を受けます。

ただ、サブカルチャーという語彙を使って現代美術を語ること自体、無意味かも知れませんが。

そうした作品は、海外でオリジナリティのある作品と評価されているようですが、影響を受けたであろうカルチャーで溢れる日本では、必ずしも個性的には映らない(草間弥生さんを除く)のは、私だけでしょうか。


いずれにしろ、日本人がこれから世界で通用する絵画を生み出しうるなら、サブカルチャーを含む広く日本の伝統に根ざした、バナキュラーな精神性のある作品ということになると、私は考えます。

そうした観点で私なりに國司華子さんを評価すれば、これからも楽しみにその創作活動を注目していくに値する作家であることは確かです。



國司華子画集「ネコココ―猫、此処」…求龍堂より


國司と言う苗字を見て、何か思いあたる人は、長州出身の方か、歴史に興味のある方でしょう。

幕末に、蛤御門の変を引き起こした長州に対して、長州討伐の勅命が出たときに、長州征伐を回避するために切腹した三家老の一人、国司信濃の直系が実は國司華子さんです。




國司華子 プロフィール

1989年 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程日本画専攻修了
1990年 有芽の会 [有楽町アートフォーラム] 以降1992年まで出品
院展 初入選 [東京都美術館] 以後毎年出品
1991年 春の院展 初入選 [日本橋三越]
有芽の会 [有楽町アートフォーラム] 全国更正保護婦人連盟会長賞受賞
1993年 有芽の会 [有楽町アートフォーラム] 法務大臣賞受賞
1994年 菅 楯彦大賞展[倉吉博物館] 同'96年
有芽の会 [有楽町アートフォーラム] 同'94年
1995年 第80回院展 奨励賞受賞 [東京都美術館]
個展『一期一会』[新生堂]
1996年 東京日本画新鋭選抜展 [大三島美術館]
1997年 第5回国際コンテンポラリーアートフェスティバル(NICAF)
1998年 回顧個展 [山口市立クリエイティブスペース赤れんが]
1999年 第84回院展 奨励賞受賞[東京都美術館]
NICAF'99国際コンテンポラリーアートフェスティバル [東京国際フォーラム]
個展『花鳥風月』[京都蔵丘洞画廊]
個展 [渋谷西武美術画廊]
2000年 春の院展 奨励賞受賞
個展『Byobu』[佐藤美術館]
2001年 東京日本画新鋭選抜展 特別賞受賞 [大三島美術館]
第86回院展 奨励賞受賞 [東京都美術館]
N.Y.個展『Screens and Paintings』[RADIO HOUSE GALLERY]
2002年 春の院展 春季展賞受賞
2003年 画集『カ・タ・コ・ト』求龍堂より出版
2005年 第90回院展日本美術院賞 受賞(大観賞)/天心記念茨城賞 受賞
2006年 第91回院展 奨励賞受賞
画集『ネコココ―猫、此処』求龍堂より出版
その他 個展、グループ展多数
現在 日本美術院 特待
   日本美術家連盟会会員

(追伸)2023年現在 東京藝術大学准教授 日本美術院同人


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