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きらり

山コンビ小説 Drの翔くんと患者さんの智くん 6

2012-06-25 16:44:04 | 日記
帰りの車の中、大野は助手席ですっかり眠ってしまっていた。

その寝顔を見て最初に会った時の事を思い出す。

最初に会ったのは病院のベッドだった。
ベッドで眠る大野はまるで天使かと思うほど綺麗な顔だった。
そして自分の気配に気付き目が覚めて少し驚いた顔。
あの一瞬で自分は恋に落ちたのだ。
そして今、その人と一緒に過ごしているという事が何だか夢のようだった。

そして帰り際自分の事を優しいと言って頬にキスをされた。
その時は天にものぼるような気持ちだったが、
今はそれ以上に海で言われた大野の言葉が何だか無性に気になっていた。

なぜ突然あんな事を言い出したのだろう。
自分はこうして一緒にいられるだけで満足なのに。
けど智の気持ちはもしかしたら違ったのかもしれない。
もしかしたらこの状態を心苦しく思っていたのかもしれない。
自分が思っている以上に大野は色々考えていたのかもしれない。
そう思うと辛かった。

でもどうしていいのか分からなかった。

そうこうしているうちに大野の住むマンションに着きその日はそのまま別れる。


その時はそれが最後になるなんて思いもしなかった。


その後何日かしていつものように大野をメールで誘う。
しかし返事はいつもの返事ではなかった。

大野からのメールにはしばらく考えたいので今は会えませんと書いてあった。
そのメールを見ては何度も溜息をつく。
そしてその現実にショックで目の前が真っ暗になる。

考えたいって何?
もう会えないってこと?
こんな事になるのだったらただの友達のままでよかったのにと何度も思う。
特別な関係とか言わなければよかったのかと思うと自分の言葉に激しく後悔する。
あの顔が見られるだけで幸せだったのに。
一緒に時が過ごせるだけで幸せだったのに、と思うと後悔してもしきれない。

でも自分からはどうする事もできなかった。

暗い毎日を過ごす。
看護師からも最近元気がないけどどうかされましたかなどと言われる。
どうしようもなく寂しい毎日だった。
かといって大野を忘れられるはずもなく他に遊びに行く元気もなく辛い日々を過ごす。


1ヶ月位たった頃突然大野からメールがくる。


「話がしたいので時間がある時に家に来て下さい。」
突然のメールに嬉しさよりも不安が襲う。
仕事を終わらせ慌てて大野の家に向う。
部屋までは行ったことがなかったがマンションや部屋番号は知っていた。

チャイムをならすと部屋着のままの大野が顔を出す。
「どうしたの?」
なにがあったんじゃないかと慌てて聞く。
「ごめん翔。突然。」
顔を見るとうっすら赤い顔をしている。
「もしかして熱があるの?」
体調も悪そうだ。
「うん、何だか熱が。。翔しか思い浮かばなかったから。」
そう申し訳なさそうな顔で話す。

「そんな事よりちょっと胸の音聴かして。」
あわててベッドに寝かせ持っていた聴診器をあてる。
「多分肺炎とかにはなっていないと思うけど熱はいつから?」
肺の音は悪くないが検査してみないと何とも言えない。
「昨日から。。だけどこないだあんなことになっちゃったから。」
そう不安そうに答える。

「昨日は何度位?」
高い熱が続いているとヤバイなと思いながら聞く。
「嘘。」
思いがけない返事に思わず聞き返す。
「嘘?」
「翔に会いたかった。本当は熱なんてたいしたことない。
こないだみたいな感じじゃ全然ないし。多分風邪。」
確かに胸の音もそれ程悪くはなかったけど、身体はますます華奢になっているように見える。
心配だと思いながら顔を見る。

「あれから翔のことばっかり考えてた。」
大野はベッドに横になったまま話し始めた。
「え?」
その言葉にちょっと嬉しくなり思わずテンションが上がる。
「そんなこと言ったら俺だってそうだよ。もうご飯が喉に入らない位ずっと智の事考えてたよ。」
笑いながら言ったが本当だった。

「俺には翔が必要だってわかった。」
「1ヶ月ずっとずっと考えて考えてやっぱり必要だって嫌ってくらい分かった。」
櫻井の顔を見つめはっきりとそう言う。

その言葉に何と言っていいか分からず黙ったまま顔を見つめていると
「本当はわからなかったんだ自分の気持ちが。」
大野は続ける

「でも離れてみてわかった。
会えなくてすごく辛かった。でも自分の気持ちを確かめてみたかった。
この気持ちが何なのか確かめてみたかった。」
そうゆっくり自分の言葉を確かめているように言った。

そして櫻井の顔をじっと見た。

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