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きらり

山 短編 13【前】

2018-12-20 15:33:30 | 短編










あれよあれよという間に




5×20コンも始まり




誕生日も過ぎ




12月も後半に突入してしまいました。





すみません。










少し昔のお話です。














すべてのものは自然へと帰っていく。





今、生きているものも。


今、使っているものも。


今、目の前にあるものも。





そして





今住んでいるこの家も。


通っている学校も。


いつも行くコンビニも。







人が住まなくなった家はやがて風化し、朽ち果て、土へと戻っていく。


そして植物にのみこまれ、浸食され、自然へと帰っていく。







地球上にあるすべてのものは、遠い未来。


自然へと帰っていく。




それなのになぜ人は生き創造し続けるのだろう。





そんな事を毎日考えながら生きていた。


生きる意味も見いだせず


勉強する意味も分からず


かろうじて学校には行っていたけど


無気力で


無感動で


ただ惰性で生きていたあの頃。
















曇天とはいえ明るかった空がだんだんと薄暗くなっていく。


そこからますます色を変え刻一刻と濃さを増していく。


そんな空の移り変わりと、


その中心で歌い踊る人たちと、


その人たちを取り囲むたくさんの人と、


その裏で動いている大勢のスタッフの姿を、ぼんやりと眺めていた。









5年前の夏。




初めて行ったその場所で、初めての恋をした。











それはまだ暑さが残る9月の始めの出来事だった。


その日は朝から母ちゃんが電話で何だか騒いでいるなとは思っていた。


でもその事が、後々自分の身に影響を及ぼすことになるなんて


この時はこれぽっちも思ってはいなかった。









「もったいないでしょ?」

「そんなの俺知らねえし」

「だって国立だよ? アリーナだよ? こんな奇跡もう二度と起きないよ?」


いやいやいや。
国立って言ったって俺はそれほどサッカー信者じゃねえし。
それにアリーナって別に俺には関係ないし。
そもそも俺はアイドルなんて興味ねえし。
ましてや男の俺が男のアイドルグループをなぜ見に行かなければならないのか。
だいたいいつも一緒にコンサートに行ってる友達がいけなくなったって、そんなの俺知らねえし。
アリーナやドームは慣れてるけど国立は初めてなのって知らねーよ。


「いいから行くの」

「ヤダよ、何で俺が?」

「どうせ家にいても何もしてないでしょっ」

「してるよっ俺は忙しいんだよ」

「ぼーっとしてるだけでしょっ」



そんな事を言い合いながらもなぜか今、俺はここにいる。










かつてオリンピックが行われたというこの場所に。
目指す場所はみな同じなのであろう満員電車に揺られ、
一定の方向に向かい歩いていくその大勢のその人波にのまれ、
母ちゃんからの1万円あげるとのその言葉につられ、ここにいる。


って、ほとんど女の子しかいねえし。
たとえ男の人がいたとしてもカップルだったり、友達同士だったり
俺みたいに母親と高校生の息子って、あんまり、いや全然いねえよ。
それでなくても野外公演なのに雨が降るって言われていて、憂鬱な気分この上ない。


こんな事だったら1万円なんて言葉につられず家にいたかった。
欲しいゲームの為についつい乗ってしまった事に、心の底から後悔していた。
なんとか大勢の人の波にもまれながらもその席に辿り着くと、はぁと大きなため息をつく。
ここまで辿り着くまでにも一苦労で、数日分の体力を消耗した気がする。
そんな事を思いながらその会場を見渡すと、物凄い人たちがそのステージを中心に取り囲んでいて
遠くにいる人がまるで米粒みたいに見えた。


凄い人数だ。180度見渡しても人、人、人。
上を見上げても人、人、人。とにかくその人の多さに圧倒される。
それまで人生とは何か、とか
全てのものは自然に帰るとか悩んでいた事なんて一瞬で吹っ飛んでしまうと思うほどの熱気。


しかも横を見ると母ちゃんは初めてのアリーナなんて言って泣いているし。
周りは妙に凄い熱気だし。
いや、電車の中からも、歩いている時も熱気はずっと感じていたけど
会場に入ってからはそれがよりダイレクトに感じられる。


そんな中、一人取り残されたような気分になっていた。
まるでこの世界に異質なのは自分だけのような気分になってくる。
圧倒されきょろきょろと周りを見渡す事しかできない。
やっぱり自分だけが異質な存在な気がした。
















そうこうしている間に時間となりステージが始まった。



キャーと悲鳴に近い歓声が上がる。
それを冷静に見つめる俺。
周りと自分との温度差に一人だけ別世界にいるみたいな感じがして、孤独な気分だった。


でも悲しい事に、母ちゃんが家事をしながらずっと曲をかけてたし
リビングではテレビの前を陣取り、歌番組やらコンサートDVDやらいつも見ていたので自然と覚えていた。
でもだからって周りの人たちみたいに盛り上がれるはずもなく
ぼんやりとその中心で歌い踊っている姿を見つめ
周りの熱狂的なファンの人たちの姿を眺め
遠くに見える人達の姿を見
スタッフらしき人達が必死に働いている姿を見つめ
そして刻一刻と移り変わってゆく空を眺めていた。


舞台は最高潮に盛り上がっていた。
それとともにだんだんと日が暮れ周りが暗くなってくる。
ステージの照明が灯され会場がますます盛り上がっていく。
それでも自分だけはまだそこに取り残されたままで、
時折空を眺めながら雨が降らなきゃいいな、なんて思っていた。





周りは黄色い歓声で溢れている。




そして




それは終わるまでずっと続くのだろうと、




そう少しうんざりした気持ちでそのステージを見ていた。




でも。




その曲が流れ始めると一変した空気。




いや、本当はどうだったかわからない。




自分自身だけがそう感じただけなのかもしれない。




だけど、その時、空気が一瞬変わったような気がした。



それまで悲鳴に近い歓声が上がっていた会場が、シーンと静まり返る。
その空気の変化を感じてそのステージを見つめた。
それはまるで流れるような綺麗な動き。
その流れるようなダンスから目が離せなくなる。
そして高音で奏でられる透き通るような歌声。
いや、それまでもその人の声を聞くたび綺麗な声をしているなとは思っていた。



でも。



歌いながら踊るその姿があまりにも綺麗で目が離せなくなる。
そしてさっきまでキャーキャー言っていた周りの人の手も止まって見入っている。
そして近くを通り過ぎる時マイクを通さない歌っている声が聞こえた。
その声に圧倒される。
この大きな会場に高音が響き渡る。


動き一つ一つが美しく圧倒的なパフォーマンスに周りもみな放心状態だ。
でもこの時多分俺が一番放心状態だったと思う。
その情感込めて歌うその高音で透き通るような美しい声と
指先足先まで綺麗に映るダンスの美しさと
その人の持つその存在の美しさに夢中になった。










それからは何があったか覚えていない。


どうやって家に辿り着いたのかも分からない。


ただ、大空に無数の風船たちが舞い上がっていくのを


ぼんやりとただ眺めていた。












そして、あれから5年。






俺は再びこの場所に立っていた。




高校生だった俺は大学生となっていた。













あれからその人の事を夢中で調べていた。
といっても家にはDVDだのCDだの雑誌だの本だのごろごろしていたので、片っ端から見始める。
母ちゃんは基本櫻井さんのファンだったけど全員が好きなのだと言って
メンバー全員のドラマはもちろんバラエティも全て録画しグッズも含め全て保管してあった。


その中からとりあえず今やっている彼の初主演しているというドラマを見た。
そこに映っているのはステージで踊り歌っていた人とはまるで別の人。
そしてそれ以外にもとりためてあった歌番組をはじめ
夜中にやっているまったりとした番組
夜にやっているバラエティ番組
昼にやっている対戦型の番組
撮ってあった心霊番組
真夜中にやっていたまだ若い頃の彼らの番組
その他もろもろそして雑誌や本、そしてDVDを夢中でみた。


面白いし
ダンスは凄いし
歌はうまいし
ドラマでは別人だし。
魅力があり過ぎてとても言葉に表しきれない。


そしてこんなにも近くに嵐漬けの人がいたのに、全く気付いていなかった自分が悔やまれる。
そしてその時には、もう人生は何かなんて考える余裕なんてなかった。
見たいものもたくさんありすぎたし、消化しきれないものがたくさんあった。



そして。


いつしか夢もできた。


壮大な夢。


その為に、それまであまり勉強の必然性を感じなかった俺は進路の事を考え勉強を始めた。
それでも憧れだけでどうこうできる訳ではない事はわかっている。
でも初めてできた夢。
初めての目標。













無謀だとも思ったけど、それでも、あれから5年。



俺は再びこの場所に立っていた。



ただのバイトだけど。



舞台に携わるなんてそんな夢とは程遠いただの肉体労働だけど。
使いパシリで重たい荷物を運んだり工具を持って走ったり。
怒鳴られることもしょっちゅうで危険な事もたくさんあるけど。


そこにいるだけで汗が滝のように流れた。


ふと、その場所から上を見上げる。


やっぱり凄い空間。


そしてこの場所を毎年連日満員にする人達。


なぜあの時もっと真剣にステージを見ていなかったかと悔やまれる。
そして改めてどれだけ凄い人たちだったのかと思い知る。
あれからファンクラブに入会してもコンサートに当たる事はおろかアリーナ席なんて夢のまた夢だった。
あの時の事がどれほど凄い事だったかを今更ながら思い知る。
今だったら泣いてアリーナがと言っていた母ちゃんの気持ちがわかる気がした。


あれから当たったという母ちゃんに一緒に行きたいと頼んでも、お友達の笠原さんと行くからダメって言われるし。
ファンクラブに入っても全然当たんないし。
まあこうしてコンサートに携われること自体奇跡で夢みたいな事なんだけど。
でも俺たち下っ端バイトはある程度出来上がってしまえば終わりみたいなもので、リハさえ見られるわけでもない。














そんな事を心の中で愚痴りながら作業に没頭する。


「……ジュニアの子?」


突然後方から声をかけられた気がした。


「……?」


何だろうと思いながら振り返ると、キャップを深くかぶった男の人。


「……」

「……」


この人が今俺に話しかけたんだろうか?
でも何も言わないし…。
しばらくお互い無言で見つめあう。


って。


えぇえええええ?


まさか、大野さん?
何で?
っていうか今、大野さんに話しかけられている?


何で?


周りを見渡すとみんな作業中で近くには誰もいない。
やっぱり俺が話しかけられたみたいだった。


なぜ大野さんがここにいて俺が話しかけられているのか。
何で、なぜ、とその全く理解できない状況に焦る。


それにジュニアの子って言ってたけど俺がそうなのかと聞かれてるのだろうか?


「ち、違います。俺は、バイトで…」

「そうだよねー綺麗な子がいるからもしかしてって思ったけど、
ジュニアの子がここでトンカチ持ってるはずないよねー」


そう言いながら、うんうんと自分自身の言葉に納得している。














もしかして天然なのか? と思いつつもあまりにもその姿が可愛くてつい顔が緩む。
でもなぜここに、この人が?
まあ確かに自分たちのコンサート会場。
下見や演出を考える上で来ることはあるだろう。


でも何で?
っていうか綺麗な子、ってまさか俺のこと?
色々な思いが頭の中をかけまわりとても整理しきれない。


ずっと画面上で見続けていた大野さんが目の前にいて。
そしてその状況に把握しきれない俺がいて。
それはもう自分の許容範囲をとうに超えていた。


周りを見渡すとみんなは作業に没頭中だし、大野さんはラフな格好でキャップを深くかぶっていて、
完全にオーラを消し去ってるし。
まあだいたい本人たちのコンサートの舞台を作っているわけだから気付いたとしても騒がないだろうけど。


でも俺は全然慣れてない。


「じゃ、暑いけど頑張ってね~」


そんな事を頭の中でぐるぐる考えていたら大野さんがそう言って去ろうとした。


って、今、俺に笑いかけた?
頑張ってねって言った?
あの大野智が?
このでかい舞台を連日満員にする嵐の?


いくら彼らの舞台を作っているとは言ってもやっぱり信じられない。


いや、本当は彼らの舞台。
もしかして会えたらなんてちらっと頭をかすめた時が片時もないと言ったら嘘になる。
でも遠くで見るくらいでそんなの夢の夢だと思っていた。


それなのに。


やっぱり信じられない。
















「あ、あのっ」

「……え?」


行こうとした大野さんを思わず引き留める。


「あ、あの、俺大野さんのファンなんです。それでどうしてもステージに携わりたくて…」

「……」

「初めて見た時からずっとファンで、大好きで……DVDも擦り切れるほど見てました」

「……」


相手は芸能人で、ましてや男相手に突然そんな告白されたって答えようがないのだろう。
立ち止まったまま静かな眼差しで見つめられる。


「すみません…」

「……」




その綺麗な顔で向けられる視線に恥ずかしくなって俯いた。





そして、





言った事を後悔した。













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2 コメント

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国立ですか! (白紙)
2018-12-21 21:09:21
 国立の頃は嵐さんを知らなかったので、読んでいて、語り手君と一緒にどきどきしてしまいました。あの頃のコンサート、私も見に行きたかった!あの頃の大野さんは本当に綺麗だったから、本人に会ってしまったら、忘れなれないのも当然だと思います。大野さんはよく、裏方さんや運搬の運転手さんと仲良くなっていたと、メンバーが話していたから、こんな風に話しかけられたスタッフさんもいたかも。普段とは雰囲気が違いますが、とってもわくわくするお話です。後半も楽しみです。
白紙さんへ (きらり)
2018-12-22 21:02:39
白紙さん、コメントありがとうございます。
好きになるきっかけって突然だったりしますよね。
普段何気なく見ていたのにある日突然急にやってくる、みたいな。
そんな感じを出したかったこの話。
わくわくすると言って下さって嬉しいです。
あの時本当に綺麗でしたよね。可憐で美しくてあの時の智さんに曲も凄くあっていたと思います。
あんな智さんを見たらやっぱり忘れられなくなるなりますよね。
そしてよく聞く裏方さんたちとのエピソード。フラットな感じがまた智さんらしいですよね。
ありがとうございました。

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