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kan-haruの日記

大森町界隈あれこれ(27) 手記第2編 戦災日誌中野にて(第5回)

2006年06月13日 | 大森町界隈あれこれ 空襲
東京大空襲の記録資料(2)
今回の東京大空襲の記録資料は、仕事に関する大先達の逓信省出身のS氏から、ご照会を頂きました、作家海野十三(うんの じゅうざ)氏の見た東京大空襲の記録「海野十三敗戦日記」を紹介します。

海野十三敗戦日記
中公文庫BIBLIO海野 十三 (著), 橋本 哲男 (編集) 文庫 (2005/07/26) 中央公論新社


海野 十三(1897.12.26~1949.5.17)は、日本におけるSFの始祖となった小説家。本名は佐野昌一。徳島市の医家に生まれ、早稲田大学理工科で電気工学を専攻。逓信省電気試験所に勤務するかたわら、科学雑誌に解説を多数執筆し、技術専門書を刊行した。初のフィクション『ラジ夫と電子王の話』を発表後、海野十三名で処女科学小説『遺言状放送』から、海野十三名を使用。1928(昭和3)年、「新青年」に『電気風呂の怪死事件』と名付けた探偵小説を発表して小説家としてデビュー。
以降、探偵小説、科学小説、加えて少年小説にも数多くの作品を残した。太平洋戦争中、軍事科学小説を量産し、海軍報道班員として従軍した海野は、敗戦に大きな衝撃を受ける。敗戦翌年の1946(昭和21)年2月、盟友小栗虫太郎の死が追い打ちをかけ、海野は戦後を失意の内に過ごす。

橋本 哲男 1923年(大正12)、東京生まれ。明治大学文学部卒。学生時代に海野十三に師事。48年(明治23)、毎日新聞社入社。77年に退職ののち、フリー・ライターとして多数の著作を発表。

「海野十三敗戦日記」は、空想科学小説作家海野十三の戦中日記である。期間は、1944年(昭和19年)末から約一年間。東京・若林(世田谷区)に住む海野家の上空を、米軍機が轟音をたてて飛び交う。そんな状況が、科学者らしい正確さとリアリティをもって記録されている。米機による最初の空襲は、昭和19年11月1日。その後、空襲は日増しに激しさを増す。家族ともども防空壕に逃げ込んだり、戻ったりの日々だ。 (次回に続く)


若山武義氏の手記(1946年記述) 第2編「戦災日誌(中野にて)」第5回四方火の海からの脱出
今更悔いても、へそをかんでも及びもつかず、何とか此の危機をのがれたいとする、焦虜と不安と恐怖の地獄の釜のなかにたたきこまれた騒ぎ、このまま人生一巻の終わりになるのかと、泣くにも泣けぬ、我れ初め顔色を失ってしまった。
此の時西の方から、女性をまぜる五、六人の大学生の一団がやって来た。我等には無我夢中で気がつかなかったが、一軒の家に立てかけある梯子を見て、ヤア君ここに梯子がある、この屋根に登って天下の形勢を見ようか、うん、よかろう、で二、三人、スルスル登って、四方を見て居た。

 「どこもここも、おそろしい位燃えてるな、然し東中野の方がやや安全だな、そこにい
くには二ヶ所火の手があるけど、した火だから突破出来るだろう」
と判断して降りて来た。さあ行こうと先頭に立ってくれたので、ヤレ助かったかと一団続々と後に続いた。中野警察の前と今一ヶ処の処を突破して、ヤット東中野駅にたどりついて、ヤレよかったと一時の危機を脱し得て一先ず安心したが、烈風物凄く、焼トタンやあらゆるものを吹き飛ばし危険であるから、暫次駅の本屋の方に移って四方を見渡すと、西の方は三菱銀行支店でとまって一面火の海、駅附近が疎開された為め駅が無事なだけで、今日本閣に火がついたばかりであった。

日本閣炎上
さすが、一世に豪華を誇った日本閣も、一団の火のかたまりとなって黒煙火花を吹き出し、遂に哀れにも崩れ去ったと同時に、今夜は風の方向が変って、駅の東の方の火焔が駅を一となめにせん勢いで吹きつけて来た。安心して居た駅そのものが危険となった。若し駅に火がついたら、それこそここを安全として避難してきた我々数万の人の運命は、一難さってまた一難である。見渡す限り四方火の海、猛烈風にあおられる火焔の海、どこをどの方向に逃げようにも、土地を知らぬだけ仕末が悪い。

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