◎今日の一枚 238◎
Eric Gale
In The Shade Of A Tree
寒い一日だった。私の住む街(東北地方太平洋岸)では、午後からは雪が舞っていた。数年前に新築した自宅は暖かい。高断熱高気密住宅と温水パネルヒーターのおかげで、家の中ではTシャツ一枚という有様だ。これは正常な人間の生活ではないと思うことがある。暖かすぎるのだ。その暖かさゆえ、人間性を回復したいと考え、時折Tシャツ一枚で外へ飛び出して、寒い風に吹かれ、遠くに家々の明かりを見ながら、闇に向かって立小便をする。気持ちいい。自由で開放的な時間だ。それは、宇宙に向かって立小便をするといったほうが適切かも知れない。それが正常な行動ではないと知りつつも、そうせざるをえないのだ。快適な文明を享受しつつも、一方でそれへの違和を感じてしまう。酔った勢いで短絡的に考えれば、それは始原の記憶のせいなのかもしれない。
今日の一枚もエリック・ゲイル。どうしちゃったんだろう。ここ数日、エリック・ゲイルばかりだ。もちろんカセットテープである。これもLPからのダビングだったようだが、Normal ポジションながらTDKのARというテープに録音されていて、昨日のIsland Breeze よりはかなり音がいい。最近、聴いてみて思うのだが、カセットテープという媒体もなかなかいいものだ。早送りという機能が簡単にできないのがいい。もちろん、自動早送り機能というものもあるが、CDほど簡単ではなく、一定の時間待たなくてはならない。また、何度も早送りをして、テープが伸びることを心配するため、結果的に早送り機能をを使う頻度は減少する。早送り機能を使わないと、必然的にアルバムをじっくりと聴くことになるのだ。
1994年に惜しくも死んでしまった、脅威のワンパターン・ギタリスト、エリック・ゲイルの1981年録音作品 In The Shade Of A Tree だ。これも、過ぎ去りしアドレッセンスによく聴いたアルバムである。グローバー・ワシントンJrをフューチャーした② Lonely In a Crowd が素晴らしい。エリック・ゲイル自身もそうだが、グローバー・ワシントンJrのサックスはほんのちょっと聴けばそれが誰の演奏かすぐわかる、個性的ものだ。素晴らしい。⑦ Etoile も好きだ。サイドギターのストロークワークがなんともいえない。若い頃は、例えば Touch Of Silk や Island Breeze に比べるとサウンドがややスカスカでワンランク劣るアルバムのように思っていたのだが、今聴くと決してそのようなことはなく、かなりクオリティーの高いアルバムだと確信する。かつては、先にあげたアルバムに対する思い入れのあまり、公平な評価ができなかったのかもしれない。
歳を重ね、もう一度同じものを聴いてみるということ……。その頃の情景が頭をよぎると同時に、恐らくはより公平な目でかつての自分自身を見直し、ひとつの総括をするという行為なのかもしれない。