立ち上がり直後の打ち合い。
いい試合になりそうだと思った。
「いい試合」。つまりは、真っ向勝負。お互い自分たちの持ち味を出し合う、ストレートな打ち合い。
早稲田は根本をスタメンに抜擢し、荒尾のマークにつけた。
そして、いつも各校のセンターとゴール下で争ってきた近森がマークするのは、広瀬。
ドライブを得意とする広瀬相手なら、近森のファウルトラブルを恐れずに済む。
その点で、早稲田はやりやすかっただろう。
だけど。
青学を相手に真っ向勝負を挑んでも、今の早稲田では勝てない。
青学と真っ向勝負をするには、今の早稲田は、穴がありすぎる。
青学87-66早稲田。
青学サイドとしては、かなり不満の残る終わり方だったろう。
終始15点近いリードを保っていたにもかかわらず、スタメン全員をベンチに下げたのはラスト1分になってからだし、試合が終わった後はすぐにストレッチせず、シュート練習をさせていた。
前半45-27という展開からすると、30点近く差をつけて終わらせたかったに違いない。
実際、3Qの入りがよくなかった。
これは、中央戦も同じ。
後半の出鼻をくじかれると、流れは一気に相手のものになってしまう。
3回同じことを繰り返しても、女神は微笑んでくれるのか。
とりあえずMOM。渡邉、そして小林。
Man Of Matchだから、普通ひとりなんだけど、今日はMen Of Match。
そもそも、通常のMOMとは違った意味合いでの選出。
理由のひとつめ。
ここまでの3試合、試合に出た1・2年生が皆、非常にいい働きをしていた。アレクにしても橋本にしても、途中から出てチームに活力を吹き込んでいた。
1・2年生の力があったから、ここまでコマを進めてこられたといってもいいかもしれない。
とりわけスタメンのふたりはチームを支え、牽引していた。
おとなしい上級生に代わって、声を出しているのが渡邉。
それはPGというポジション柄もあるだろうが、スターター5人の中で、最もエネルギーを感じる。そして、一番緊張感を感じる。常に集中を切らさないようにしている。
高校時代はどちらかというとシューターだったらしいけど、大学では高速ガードとして脱皮しつつある。
鈴木ノブも速かったけど、渡邉の速攻はそれ以上にスピーディーだ。ドライブで切り裂く力もある。
PGとしては、輝き始めたばかり。だけど、きっともっと輝く選手になる。
残り2試合、どこと対戦しても、渡邉がマッチアップする相手は、大学バスケ界屈指のプレイヤー。
でも、渡邉なら臆せず堂々と渡り合うだろう。
渡邉らしく、強気でリードしていってほしい。
そして小林。
もしかしたら、今もっとも代えの利かない選手かもしれない。
よく走る。動く。攻守の切替えでは真っ先にフロントコートに走るし、速攻も走るし、ペイントエリアの外からリバウンドに飛び込む。ルーズも飛び込む。
いわば攻守の先駆け的存在。(なのでエンドから渡邉がボールを入れる相手は大抵広瀬だったりする。たまにはボールもらいにいってあげようよ~^-^;)
縁の下の力持ち。2年生がここまで献身的にチームを支えられるのかと、驚かされる。いるといないとでは、安定感・安心感が違う。
リーグの優秀選手賞、当然だろう。
渡邉が引っ張り、小林が支えている。
ふたりの存在はとても大きい。
なので、今日までの3試合における貢献度と、残り2試合での期待をこめてのMOM。
理由のふたつめ。
このふたりを選ぶには今日しかなかったから。貢献度の高いふたりを選ばずに終わらせたくないという気持ちと。
残り2試合は、上級生がやらないと勝てない試合だから。
ここで上級生が何も出来ないようであれば、優勝なんて出来るわけがない。特に大黒柱。特にエース。
荒尾がぴりっとしない。
意識して集中しているのではなく、無意識下の集中でプレイしている感じ。目の前に集中するというより、惰性で集中を維持しているというか。
去年はもっとはっきりした空気をまとっていたと思うのだけど、今年はどこかぼんやりしたような印象がある。
疲労骨折をしていたという情報もあるけど、怪我のせいではないだろう。
肉体的な疲れ?精神的な疲れ?プレッシャー?フラストレーション?
そう、気迫を感じない。
去年のブロックショットは気合入れて叩いてる感じだったけど、今年ははたいてる感じ。
「叩く」と「はたく」、この違いかもしれない。
スタメン全員が10点以上取れるチームで、誰かを「エース」ということもないのかもしれない。
だけど去年から、岡田優介がいた去年でさえ、私は青学のエースは熊谷宜之だと思っていた。
確かに、毎試合数字は残している。
数字は残しているけど、プレイの質が見合っていない気がする。速攻落とすとか、フリーのスリー落とすとか。
ディフェンスはいい。速攻も走る。青学らしいプレイヤーになった。
だけど物足りなく感じるのは、やはりスコアラーとしての活躍を期待しているからだろう。
岡田みたいなインパクトがないからかもしれない。
1試合を通して平坦な印象。ある時間帯に集中して荒稼ぎすることがないから、エースと呼ぶには物足りなく思うのかもしれない。
そういった、見る側の心理的なものであれば、数字を残している以上、気にすることはないのかもしれない。だけど、本人の気持ちや集中力の問題であったら?
私は、熊谷宜之は、もっと怖い選手になれると思う。
なので、1・2年生への賞賛と、3・4年生の奮起を期待して、今日は2年生コンビをMOMとした次第です。
ていうかね。
明日の対戦相手は、大東文化大学。
春のトーナメント優勝校にして2部リーグ優勝校、そして1部復帰を決めた。
4年生主体で、かつ実力も勢いもあるチーム。
なにより怖いのは、彼らは一度どん底に叩き落され、そこから這い上がってきたこと。その過程で精神的に非常にたくましくなっている。
元々個々の持つ能力は高かった。それが磨かれた上に、勝利への飢えが、彼らを精神面でも強くした。
今、彼らは本気で日本一を狙っている。
インカレ出場校の中で、もっとも恐ろしいチームだろう。
青学が1部優勝校だからといって、受身になったら負けるし、生半可な気持ち試合に臨んでも負ける。
こういうときよく言われるのが「挑戦者になる」ということ。
受身にまわらず攻めるという意味で、それは正しい。
だけどそれとは別に、自分自身に尋ねてみてほしい。
どれだけ、本気で日本一を狙っているのかと。
インカレに限らないけど、最後に勝敗を分けるのは気持ち。
勝利への執念と、自分や仲間に対する自信。
自分はどれだけ勝ちたいと、日本一になりたいと思っているのか。
そのためにどれだけの練習をしてきたか。
誰もが厳しいと口を揃える青学の練習に対し、自分はどのような姿勢で取り組んできたか。
そして覚悟。どんなに厳しい試合であっても、最後まで諦めずに戦い抜くという覚悟。
その覚悟が自分にはあるかどうか。
そこで「日本一になるために、これだけやってきた」と、自信を持って言えるなら、大丈夫。どんな結果になっても、決して後悔しないだろう。
そしてもうひとつ、思い出してほしい。
先輩たちが積み重ねてきたもののことを。
5年前、2部に降格したあと、1部復帰を遂げるまで、そしてリーグを制し、インカレの頂点を狙うまで、代々の先輩たちがどれほど努力してきたか。練習や試合で、どんな姿勢でどんなプレイをしたか。自分はそこから何を得たのか学んだのか。
日本一は、自分たちだけの目標ではない。代々の先輩たちの願いもこめられているのだと。
それもまた、苦しい時に自分たちの力となってくれるはずだから。
いよいよ、佳境。
決して後悔することのないように。自分たちを信じて、最後までプレイしてほしいです。