医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

新高齢者医療制度

2010年12月12日 | 医療制度
新しい高齢者医療制度について

1、はじめに
 現行の後期高齢者医療制度を廃止し、2013年4月から新しい高齢者医療制度をスタートさせるため、2009年11月に厚労大臣の諮問機関としての「高齢者医療改革会議」が設置され、検討が進められています。
 そして、2010年8月20日に同会議の「中間とりまとめ」がなされ、10月25日には「医療費等の将来見通しや財政影響試算」などを厚労省が示しました。
 同会議としては年内に新制度案を取りまとめ、厚労省は2011年1月からの通常国会に関連法案の上程をめざしています。

2、後期高齢者医療制度とは
 現行の後期高齢者医療制度とは、小泉政権による2002年7月に続いての二度目の医療制度大改悪として、2006年6月に強行成立させた、一連の医療制度改革関連法のひとつである「高齢者医療確保法」によって創設された、高齢者だけの健康保険です。
 2008年4月から、日本国内に住むすべての75歳以上の高齢者と一定程度以上の障害を持つ65歳以上の高齢者を、一般の健康保険から強制的に切り離して、その人たちだけの健康保険制度が作られたのです。
 そして、すべての高齢者一人ひとりに保険料負担を求め、従前は負担のなかった被扶養者からも徴収することとされ、それを年金から天引きすることとなったのです。また、その保険料負担は、高齢者の医療費の増大に比例して、増嵩を続ける仕組みが制度化されていました。
 さらに、まったくもって許せない制度として、診療報酬体系は一般とは別立てのものとされ、後期高齢者診療料・後期高齢者終末期相談支援料などが新設され、高齢者への差別医療・医療制限が企図されていました。

3、制度スタート前後の経緯
 この法の成立から施行の間に、小泉政権の「おきみやげ」であるすさまじい負担増が、高齢者・国民に襲い掛かり、その猛烈な痛みが実感されるという状況にいたりました。
 そうしたことから、2007年7月の参議院選挙では、自民党が大敗を喫することとなりました。
 この参議院選挙の結果や総選挙を前にしていることなどから、制度がスタートする以前に、その見直し・再検討が、政府与党のプロジェクトチームで行われることとなったのです。
 そして、2007年末に与党PTで「法では2割負担となっている70歳から74歳までの負担を、1割に据え置く」、「今まで負担のなかった被扶養者などの保険料は、半年徴収をみあわせ、残りの半年は9割減額とする」などの経過・救済措置を決定しました。
 2008年4月の制度スタート前後に、マスメディアの集中的な報道がなされました。どういうわけか、言いがかりとも思える些細な問題をも含め、制度の問題点を詳細に報道したのです。
 さらに、4月15日の年金支給日には、年金天引きに対する高齢者の怒りの声を取り上げ、大々的な報道となりました。
 また、6月5日には新聞各紙一斉に「低所得者に負担増」という不正確で不可解な記事が掲載されました。
 そうしたなかで、与党PTによる「さらなる見直し」が、6月下旬に確定しました。それは、①保険料の法定減額を7割から9割減額とする。②年金211万円以下の人は所得割を5割減額する。③年金天引きを希望により口座振替も可能とする。という決定でした。
 この見直しは、マスメディアが大きく取り上げ、問題指摘をしていたことで、後に明らかになるのですが、与党PTでの議論の中で公明党が要求していた課題・問題であったのです。
 ともあれ、こうした「一連の報道」によって、後期高齢者医療制度への関心が高まり、高齢者・国民の批判の声が大きくなり、反対署名運動などが展開され、また、多くの地方自治体議会での、見直しを求める決議などがなされたのでした。

4、政権交代で制度廃止が決定
 2009年8月の総選挙にむけて、社民党・共産党をはじめ、民主党も、この後期高齢者医療制度の廃止を、公約・マニュフェストに掲げることとなりました。そして、総選挙での自民党の敗北により民主党を軸とする政権が成立し、政権交代が実現しました。
こうしたことから、後期高齢者医療制度の廃止が決定され、2013年に「新しい高齢者医療制度」をスタートさせるための検討が開始されました。
 そして、新制度が発足するまでの間は、現行制度を維持し、多くの「経過・救済制度は継続する」こととされました。
また、2010年4月からの診療報酬改定の中で、年齢を理由とした差別的な制度は廃止されることとなりました。

5、新制度案とはどのようなものか
「中間とりまとめ」などで示されている新制度案を、以下7点ほどにまとめてみました。
 1、後期高齢者医療制度が廃止されることから、当該の高齢者は従前の健康保険に戻ることとなる。したがって、被用者保険の被扶養者は保険料負担がなくなり、国保の世帯主でない高齢者は納付義務者ではなくなる。
 2、おおよそ8割強の高齢者が国保に戻ることとなるが、その高齢者医療については、都道府県単位の財政運営とし、保険料の算定も同様となる。
 3、当面、国保の中に都道府県単位と市町村単位の財政運営が併存することとなる。そして、現役世代の都道府県単位の財政運営に向けた環境整備を進め、全年齢を対象とした都道府県単位の国保の一本化を進める。
 4、75歳以上の高齢者の保険料負担は、医療費の1割相当とし、5割の公費投入と現役世代からの支援金などで財政運営をするとしているが、その詳細は明らかにはなっていない。
 5、75歳以上の医療費の伸び率が高いことが想定されることから、高齢者の保険料の伸び率を抑制する仕組みを設ける。
 6、70歳から74歳の窓口負担については、法定の2割を1割に凍結しているが、これを年次的に2割にしてゆく。
 7、保険料の上限額は、後期高齢50万円(個人)、国保63万円(世帯)となっているが、これを国保世帯単位に一本化し、被用者保険93万円(協会けんぽ本人負担分)を勘案し、段階的に引き上げてゆく。

6、新制度案をどう見るか
積極的に評価できる案とは言えませんが、あえて指摘すれば、評価できることは、以下の2点につきるのではないかと考えます。
 1、後期高齢者医療制度の廃止により、すべての高齢者一人ひとりから保険料を徴収するという制度が廃止され、高齢者の医療費の増大に比例して、高齢者の保険料負担が増嵩するという制度が廃止される。
 2、すでに、2010年4月からの診療報酬改定で、75歳という年齢に着目した診療報酬体系は廃止されているが、法定されていた年齢による差別的な医療が廃止され、その延長線上にあった医療の制限などの企図を頓挫させることができた。
問題点としては、以下の5点ほどを指摘しておきます。
 1、国保の中に、都道府県単位と市町村単位の財政運営が併存することを梃子に、長年の厚労省の懸案事項であった都道府県単位への統合が進められる。
 2、70歳から74歳までの1割で凍結している窓口負担が、年次的に2割に引き上げられる。
 3、国保の保険料の限度額(63万円)が、被用者保険の上限額(93万円)まで、段階的に引き上げられる。
 4、財政運営やその負担は、65歳からの財政調整、75歳からの財政運営について、公費の大幅な増額投入がなければ、現役世代からの支援金、被用者保険(健保・共済・協会けんぽ)からの分担金・拠出金が、年々増嵩してゆくという、従前からの問題点は解決していない。
 5、あまりにもひどい制度であった後期高齢者医療制度の廃止は、決定することはできたが、今後の高齢者医療についての展望が見いだせていないと言える。

                                           2010年12月5日 harayosi-2



コメントを投稿