経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財担保融資のシミュレーション

2011-09-07 | 知的財産と金融
 久々に知財ファイナンス関連のニュースが出ています。大分の豊和銀行が知的財産担保融資ファンドを創設したとのことですが、プレスリリースには具体的な融資条件が一部公表されているので、実際どういった融資になることが想定されるのか、担保の対象になり得る知的財産権はどのようなイメージのものなのかをシミュレーションしてみましょう。
 基本的な融資スキームですが、まず知的財産(=知的財産権で保護された知的財産)の価値を定量的に評価し、評価額の30~50%を融資するとのことです。この他に対象企業の返済能力等も審査するようですが、私が15年ほど前に立上げを担当した日本開発銀行(当時)の対象企業の返済能力先にありきのスキーム(資金需要や返済能力から融資額を決定した上で担保が足りるかどうかを検討する)に比べると、より‘担保融資’の色彩が強いもののようです。
 評価額の30~50%とのことなので、知的財産の評価額が100百万円(1億円)であるとすると、融資額は30~50百万円になります。価値が100百万円の知的財産とはどのようなイメージなのか、5年間のキャッシュフロー(期間中は変動しない)を対象にして、割引率20%という前提でDCF法で逆算してみたところ、1年あたりのキャッシュフローが33.45百万円となりました。利益率や寄与率云々を検討し始めると、パラメータが多くなり過ぎて発散してしまうので、ここはザックリとライセンス料率を3%としてこのキャッシュフローに必要な売上高を算出してみました。すると、毎年の売上高は1,115百万円(11億円強)という計算になります。要するに、この試算からイメージされるのは、
「毎年の売上高が11億円程度となる製品に関する必須特許を保有する企業であれば、30~50百万円程度の融資を受けられる可能性がある」
ということです。ライセンスビジネスではなく自社実施を前提とするなら、年商11億円の特許製品を持っているということになるので、中小企業としてはかなりの優良企業の部類に入ると思われます。実績として、或いは将来確実にこうした数字が見込める企業であるとするならば、知財担保云々を持ち出さなくても金融機関は融資に積極的であることが多いでしょうから、このスキームを実際に動かすためには、将来のキャッシュフローの見通しについて、かなり踏み込んだ判断をすることが求められることになるはずです。独立したファンドとして運営する=金融機関のリスクを一定額に限定していることから、おそらくここを踏み込む覚悟を決めての融資スキームなのではないかと推測します。
 もう一つ注意すべき点は、評価コストと関係で融資期間がどの程度になるかという問題です。評価コストは30~100万円+実費、融資期間は原則1年以上となっていますが、仮に融資期間が最短の1年間だとすると、実質的な年利に評価コストがそのまま乗ってくることになります。融資額が30百万円だとすると、評価コストが50万円で+1.7%、100万円だと+3.3%が実質的な金利負担に加算され、もし融資額が10百万円(必要な特許製品の年商が250~350百万円程度)で評価コストが100万円だと+10.0%にもなってしまいます。よって、融資期間が何年になるか、というところが債務者にとって重要なポイントになるといえるでしょう。
 
 知財担保融資が初めて盛り上がったのが1995~1996年、第3次ベンチャーブームが始まった頃です。政府系金融機関やメガバンクを中心に、ベンチャー向けの資金供給手段として注目されました。次に注目を集めた時期が2005年前後で、リレーショナルシップバンキング・アクションプログラムの集中改善期間に対応して、地域金融機関の融資実績が多数報道されました。そして、ちょっと小さな山ですが、2000年には当時の産業基盤整備基金が知財担保を対象にした債務保証制度を開始した、というのがあって、知財担保融資へのチャレンジは5年周期という説があったりします(私が勝手に言っているだけですが・・・)。私見ですが、知財担保融資を資金供給スキームとして実質的に機能させるのは相当ハードルが高く、そこに過度に期待すると期待外れに終わってしまう可能性が高くなってしまいます。一方で、時間がかかるとは思いますが、こうした取り組みを通じて金融機関が知財に注目することで金融機関と中小企業とのコミュニケーションの幅が拡がり、両者の関係が強化され、金融機関の後押しを得て地域の中小企業が活性化される、というシナリオの実現に大いに期待したいと思います。

よくわかる知的財産権担保融資
クリエーター情報なし
金融財政事情研究会


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