経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財‘活用’企業

2010-10-13 | 企業経営と知的財産
 昨日から、某事業のヒアリングで中小企業2社を訪問させていただきました。いずれも‘知財活用企業’とかいった特集に取り上げられそうな研究開発型企業で、1社は独自製品の開発・販売に特化したファブレスメーカー、もう1社は特許のライセンスアウトで実績を上げている‘研究所’的な企業です。ビジネスモデルからして「知財活動は経営の根幹、システマティックな仕組みで取り組んでます」といった話が予想されたので、「貴社の知財活動の目的は?」なんてお伺いするのは今回はちょっと野暮だなぁ、などと思いながらインタビューに臨みました。
 で、そのお話ですが、、いずれもかなりイメージとは異なるものでした。
 1社目については、毎年コンスタントに特許を出願し、発明者も分散していることから、システマティックな発明提案制度、特許予算の確保などをイメージしていたのですが、「そういうルールは設けていない、ルールを作らないのが当社のやり方」とのご回答。それはあくまで必要なことを行い、必要なものにはお金をつけるという原則に従ってきた結果であり、ルール化はかえって仕事の固定化・形式化を招き、本来あるべき姿を歪めてしまうおそれがある。開発が根幹という会社の基本方針が、特許についても今の状態に結びついているとのことです。但し、ルールを設けなくても進むべき方向に進んでいくためには、社員の意思統一と、個々の社員の自立が必要。そこについては会社として長く続けてきている仕組み(人事制度や勉強会等)を持ち、何よりも力を入れてきておられるとのことです。以前に書いた「複雑系」のマネジメントのことを思い出し、これぞ個々の行動規範を固めることが全体を方向付ける好例ではないか、と感じました。
 2社目のライセンスですが、強い特許取得に注力→仲介者がマッチング→専門家の知恵を借りて穴のない契約を締結、といった絵に描いたようなストーリーではなく、これがまぁ凄い話でした。画期的な特許技術で効果まで実証できていたとしても、技術以外のところに色々複雑な問題が絡み合っていて、簡単にライセンスなんて話にはならない。大手であれば、迂回技術にもいろいろトライしてくる。そうした状況下から、どうやって外堀を埋めて「ライセンスを受けよう」と決断させる‘環境’を作っていくか。それは営業活動とか事業提携とかいった事業活動そのものであり、特許取得とか契約締結とかいったテクニカルな要素はほんの一部に過ぎません。昨年訪問したある中小企業の社長さんは「事業化までに占める特許のウエイトはせいぜい1割くらい」といったお話をされていましたが、本日の社長さんは「前提として必要なものだけど、労力としては1割もないんじゃないの」とのことでした。
 両社を通じて改めて感じたのは、狭義の知財活動の占める位置の限界というか、ちょっとネガティブになってしまいますが、そこから事業の全体像は(ましてや経営の全体像は)なかなか見渡せない、ということです。それを理解せずに安易に知財と経営をあれこれ論じようとしても胡散臭いものになってしまう。要注意です。


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