
「将軍家光の乱心/激突」
Shogun's Shadow
1989
▼かつて『影の軍団』という時代劇シリーズがあった。その作品は当時最盛期にあった千葉真一とJACが全力投球した作品で、お年寄りの目に慣れ親しんだチャンバラ活劇とは一線を画す激しいアクションで話題を呼んだ。もちろん志穂美悦子、真田広之、黒崎輝、大葉健二などのスターも大挙登場し、今でもVシネで新シリーズが作られるに至っている。そして本作は時代劇に新風を巻き込んだJACが打ち立てた、いわば『影の軍団』の延長線上にある超大作だった。
この作品において特筆すべき点は、まさしくJACの底力を見せてやるといわんばかりの凄まじい殺陣や、『少林寺2』で好演が目覚しかった胡堅強(フー・チャンチェン)が参加していることだろう。
出演は緒方拳や松方弘樹ら東映の顔役、JAC総出のスタントマン軍団・胡堅強・そして下積み時代の織田祐二らである。
■徳川将軍家光の息子・竹千代は、湯浴みをしていたところを謎の一団に襲撃される。根来忍僧らの猛攻で護衛の侍はほぼ全滅。もはやこれまでかというところで、緒方拳ら雇われ護衛部隊が参上し、難を逃れるのだった。
日光の本拠に戻った竹千代と緒方さんたちは、この一連の事件は竹千代暗殺を狙う松方弘樹とその部下・千葉ちゃんによるものと判断する。当の松方・千葉は、何とその日に竹千代の元へと訪問し、元服の儀の為に江戸に向かうことを提示し、去っていった。
日光から江戸へのルートで闇討ちされる可能性は非常に高く、竹千代の家臣らはここに留まって徹底抗戦のかまえを取ることを支持。だが家臣の丹波哲郎は江戸城へと向かう決意を決めた。
その夜、松方の元に緒方さんがやって来た。実はこの二人は幼馴染であり、松方は「お前を殺したくはないから、この件からは手を引け」と促すが、頑として緒方さんは意思を揺るがせない。彼には思い過去があった…かつて、想い人を家光に奪われたことがあったのだ。
次の日、竹千代は大勢の護衛に守られ出立した。千葉ちゃんはその機を逃さず、休憩に立ち寄っていた屋敷を襲撃する。最後まで竹千代を守ろうとした丹波さんも切り捨てられた…が、そこには竹千代の姿などどこにも無かった。本物は緒方さんたちと別ルートを進んでいたのだ。
一方の緒方さんら護衛集団に加え、竹千代と世話役の矢島局こと加納みゆきらは馬を使うと敵に見つかりやすくなるため、険しい山道を徒歩で越えている最中だった。途中、敵の砦に捕まった竹千代を助けたり、谷から谷へと大ジャンプを敢行したりとハプニングに多々遭いながらも、タイムリミットの5日間が迫る中で、一行は着実に江戸への道のりを進んでいた。その道程で、鍵っ子だった竹千代は緒方さんたちに心を開こうとしなかったが、命をかけた決死行の中で次第に絆も深まっていく。
江戸に向かう死出の旅の最中も追っ手は増えていく…これは松方らの独断だけでは絶対に動かせない軍勢だ。そう、真の敵は松方や千葉ちゃんではなかった。自分に似ていないとして息子を恨み殺そうと企む、狂気の将軍・家光の乱心だったのだ。容赦の無い千葉ちゃんの追跡により、仲間達は次々と命を落としてゆく。織田裕二や胡堅強までもが、大勢の追っ手にまかれて斃れていった。
緒方さんたち護衛も最初のうちは8人いたメンバーが3人にまで減り、逃げ込んだ宿場町はもぬけの殻で、千葉ちゃんの軍勢が待ち伏せしていた。千葉ちゃんは言う…「一対一の対決だ!来い!!」と。決して生きては戻れぬ道を前にして、自分の身の上を心配してくれる竹千代に「…最後に生きていた者が、勝ちだ。」と告げ、緒方さんは千葉ちゃんの前に現れる。
果たして緒方さんは、この窮地をどうやって脱するのか。そして、これらを突破し竹千代は無事に元服の儀を行えるのか。すべては、この一瞬に賭けられていた…。
▲本作はかなりの巨費をかけて制作した超大作。なのでセット・爆破シーン等に見られる視覚効果はすこぶる良い。そして最も強調すべき点はやはりアクションにある。千葉ちゃんらJACによる殺陣はこれが日本の時代劇なのかというほどに激しく、並みの香港映画にも勝っているといえる。
クライマックスの『魔界転生』リマッチである緒方さんVs千葉ちゃんの宿場町まるまる一つを使った闘いも、タイトルの"激突"と呼ぶにふさわしいものだった。無論、そのほかのメンバーにも活躍の場が与えられているが、キャラクターの描写があまりなされていなかったので、それほど感情移入ができなかったのも惜しい気がする。
不評とされるアルフィーの主題歌も自分は好きだけど、やはり問題があったとすればラストシーンのことだろう。
緒方さんが残り、血路を開いて江戸城に到着した竹千代…ここからが問題だったのだ。今回オーバーすぎる演技で失笑を誘う松方さんや、将軍家光(演じているのは京本正樹!)、緒方さんの想い人、そして三代将軍に襲名した竹千代が辿る結末。これらが決着を迎える顛末を、もう少しスマートに整理できなかったのだろうか?正直、クライマックスからあまりにも間が空いているので、これではこちらのテンションも下がってしまうし、グダグダだ。
家光が最初と最後にしか登場していないので、物語中にも登場して少しずつ伏線を回収していけばそれなりにテンポも均一になったものなのに…個人的には、竹千代役の子があんまり可愛くなかった事もマイナスポイントでした。
しかしJACとしては本作が最後の花火でもあった。その後、悦ちゃんは結婚で引退し、真田はJACから飛び出し、素晴らしいポテンシャルを封印した非・アクション俳優として歩んでいった。黒崎や高木淳也らもそれぞれの道を行き、最後のJACスターとされ、本作にも出演した塩谷庄吾は若くしてこの世を去り、JACは決定的なスター不在となった。
そして千葉真一もしばらくしてJACを去るが、彼は新たな挑戦に挑もうとしていた。それについては、また次のレビューにて…。
Shogun's Shadow
1989
▼かつて『影の軍団』という時代劇シリーズがあった。その作品は当時最盛期にあった千葉真一とJACが全力投球した作品で、お年寄りの目に慣れ親しんだチャンバラ活劇とは一線を画す激しいアクションで話題を呼んだ。もちろん志穂美悦子、真田広之、黒崎輝、大葉健二などのスターも大挙登場し、今でもVシネで新シリーズが作られるに至っている。そして本作は時代劇に新風を巻き込んだJACが打ち立てた、いわば『影の軍団』の延長線上にある超大作だった。
この作品において特筆すべき点は、まさしくJACの底力を見せてやるといわんばかりの凄まじい殺陣や、『少林寺2』で好演が目覚しかった胡堅強(フー・チャンチェン)が参加していることだろう。
出演は緒方拳や松方弘樹ら東映の顔役、JAC総出のスタントマン軍団・胡堅強・そして下積み時代の織田祐二らである。
■徳川将軍家光の息子・竹千代は、湯浴みをしていたところを謎の一団に襲撃される。根来忍僧らの猛攻で護衛の侍はほぼ全滅。もはやこれまでかというところで、緒方拳ら雇われ護衛部隊が参上し、難を逃れるのだった。
日光の本拠に戻った竹千代と緒方さんたちは、この一連の事件は竹千代暗殺を狙う松方弘樹とその部下・千葉ちゃんによるものと判断する。当の松方・千葉は、何とその日に竹千代の元へと訪問し、元服の儀の為に江戸に向かうことを提示し、去っていった。
日光から江戸へのルートで闇討ちされる可能性は非常に高く、竹千代の家臣らはここに留まって徹底抗戦のかまえを取ることを支持。だが家臣の丹波哲郎は江戸城へと向かう決意を決めた。
その夜、松方の元に緒方さんがやって来た。実はこの二人は幼馴染であり、松方は「お前を殺したくはないから、この件からは手を引け」と促すが、頑として緒方さんは意思を揺るがせない。彼には思い過去があった…かつて、想い人を家光に奪われたことがあったのだ。
次の日、竹千代は大勢の護衛に守られ出立した。千葉ちゃんはその機を逃さず、休憩に立ち寄っていた屋敷を襲撃する。最後まで竹千代を守ろうとした丹波さんも切り捨てられた…が、そこには竹千代の姿などどこにも無かった。本物は緒方さんたちと別ルートを進んでいたのだ。
一方の緒方さんら護衛集団に加え、竹千代と世話役の矢島局こと加納みゆきらは馬を使うと敵に見つかりやすくなるため、険しい山道を徒歩で越えている最中だった。途中、敵の砦に捕まった竹千代を助けたり、谷から谷へと大ジャンプを敢行したりとハプニングに多々遭いながらも、タイムリミットの5日間が迫る中で、一行は着実に江戸への道のりを進んでいた。その道程で、鍵っ子だった竹千代は緒方さんたちに心を開こうとしなかったが、命をかけた決死行の中で次第に絆も深まっていく。
江戸に向かう死出の旅の最中も追っ手は増えていく…これは松方らの独断だけでは絶対に動かせない軍勢だ。そう、真の敵は松方や千葉ちゃんではなかった。自分に似ていないとして息子を恨み殺そうと企む、狂気の将軍・家光の乱心だったのだ。容赦の無い千葉ちゃんの追跡により、仲間達は次々と命を落としてゆく。織田裕二や胡堅強までもが、大勢の追っ手にまかれて斃れていった。
緒方さんたち護衛も最初のうちは8人いたメンバーが3人にまで減り、逃げ込んだ宿場町はもぬけの殻で、千葉ちゃんの軍勢が待ち伏せしていた。千葉ちゃんは言う…「一対一の対決だ!来い!!」と。決して生きては戻れぬ道を前にして、自分の身の上を心配してくれる竹千代に「…最後に生きていた者が、勝ちだ。」と告げ、緒方さんは千葉ちゃんの前に現れる。
果たして緒方さんは、この窮地をどうやって脱するのか。そして、これらを突破し竹千代は無事に元服の儀を行えるのか。すべては、この一瞬に賭けられていた…。
▲本作はかなりの巨費をかけて制作した超大作。なのでセット・爆破シーン等に見られる視覚効果はすこぶる良い。そして最も強調すべき点はやはりアクションにある。千葉ちゃんらJACによる殺陣はこれが日本の時代劇なのかというほどに激しく、並みの香港映画にも勝っているといえる。
クライマックスの『魔界転生』リマッチである緒方さんVs千葉ちゃんの宿場町まるまる一つを使った闘いも、タイトルの"激突"と呼ぶにふさわしいものだった。無論、そのほかのメンバーにも活躍の場が与えられているが、キャラクターの描写があまりなされていなかったので、それほど感情移入ができなかったのも惜しい気がする。
不評とされるアルフィーの主題歌も自分は好きだけど、やはり問題があったとすればラストシーンのことだろう。
緒方さんが残り、血路を開いて江戸城に到着した竹千代…ここからが問題だったのだ。今回オーバーすぎる演技で失笑を誘う松方さんや、将軍家光(演じているのは京本正樹!)、緒方さんの想い人、そして三代将軍に襲名した竹千代が辿る結末。これらが決着を迎える顛末を、もう少しスマートに整理できなかったのだろうか?正直、クライマックスからあまりにも間が空いているので、これではこちらのテンションも下がってしまうし、グダグダだ。
家光が最初と最後にしか登場していないので、物語中にも登場して少しずつ伏線を回収していけばそれなりにテンポも均一になったものなのに…個人的には、竹千代役の子があんまり可愛くなかった事もマイナスポイントでした。
しかしJACとしては本作が最後の花火でもあった。その後、悦ちゃんは結婚で引退し、真田はJACから飛び出し、素晴らしいポテンシャルを封印した非・アクション俳優として歩んでいった。黒崎や高木淳也らもそれぞれの道を行き、最後のJACスターとされ、本作にも出演した塩谷庄吾は若くしてこの世を去り、JACは決定的なスター不在となった。
そして千葉真一もしばらくしてJACを去るが、彼は新たな挑戦に挑もうとしていた。それについては、また次のレビューにて…。
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