功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

更新履歴(2012年/12月)

2012-12-31 23:39:50 | Weblog
 2012年も残すところ1時間を切りましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今年の功夫電影専科は今回の更新をもってラストとなります。ブログは1月の中頃を目処に、ばっちりと充電を済ませてから再始動するつもりなので、それまで暫くお休みということになります。
コメントおよびメールの返信・返答はできるだけ行う予定ですが、今日のところはコタツにみかんと焼きソバ(私は食わず嫌いで年越し蕎麦が食べられません・笑)を揃えて、まったりと新年を迎えたいと思います。
そんなわけで、今年も当ブログを見てくださった皆さん、どうもありがとうございました。これからも功夫電影専科は色々と頑張っていきますので、どうか2013年も宜しくお願い致します。それでは、良いお年を!


12/02 『はいすくーる仁義』
12/06 『浪子狄十三』
12/14 『子連れ殺人拳』
12/18 『武闘拳 猛虎激殺!』
12/21 『チャイニーズ・ウォリアーズ』
12/27 『キック・ファイター』
12/30 『片腕ドラゴン』
12/31 【功夫電影専科:功夫動作片番付!(2012年度)】
     更新履歴(2012年/12月)

【功夫電影専科:功夫動作片番付!(2012年度)】

2012-12-31 23:04:01 | Weblog
 今年も残すところあと僅か…。皆さんにとってこの一年はどんな年になったでしょうか?私は様々な国内外の映画作品を見ることができて楽しかった一方、何度もブログの中断や休止をせざるを得なくなったりと、大きな課題も残る一年となりました。
そんな2012年ももう終りですが、当ブログでは今回も年末恒例企画である「功夫動作片番付」を行います。「功夫動作片番付」とは、その年に紹介した作品の中からベスト&ワーストを勝手に選んじゃおうという強引な企画…なのですが、今年はいろいろあって更新が滞り、掲載した記事数は過去最低の47本となってしまいました。
そこで今回はランキングを10位から5位に省略!作品本数こそ減りましたが、今年も例年に負けず劣らずの功夫・動作片が目白押しとなっています。それでは、最初にワースト部門から発表していきましょう。


 【功夫動作片番付(ワースト5)】
第5位『雙輩』
第4位『奪還2.0』
第3位『バックラッシュ』
第2位『デイ・オブ・ザ・ディシジョン3』
第1位『デイ・オブ・ザ・ディシジョン2』

 昨年のワーストは香港やアメリカなど、様々な国の作品が名を連ねていました。しかしランクを省略した影響もあってか、今回は久々にアメリカ勢が大半を占める結果となっています。全体的に、やる気のないコラボを見せた『雙輩』、続編映画としてアレだった『奪還2.0』のような、いわゆる失敗作タイプの作品が多く目に付きます。
しかし、1位をかっさらった『デイ・オブ・ザ・ディシジョン2』は失敗作というカテゴリを飛び越え、はるかフィルマーク作品の高みへと達した恐るべき1本です(苦笑)。フィルマーク作品は金儲けを第一に製作されたため、常軌を逸した作品に成り果てましたが、『~ディシジョン2』は普通に映画を作ってこの出来なのだから堪りません。
皆さんも低予算の格闘映画を見るときは、スタッフ欄に「製作:デヴィッド・ヒューイ」とあるかどうか確認してから視聴することをオススメします(爆


 【功夫動作片番付(ベスト5)】
第5位『舞拳』
第4位『忍邪』
第3位『浪子狄十三』
第2位『アンジェラ・マオ 破戒』
第1位『片腕ドラゴン』

 変わってベスト部門ですが、こちらはワーストとは対照的に香港系の作品がランクを埋め尽くしています。唯一日本から名乗りを上げたのは、忍者大好き監督・千葉誠治がメガホンを取った『忍邪』。巧みな会話劇と格闘アクション、そして短編ながら秀逸なストーリーは一見の価値アリです。
その他では、茅瑛(アンジェラ・マオ)の好演が光った『舞拳』と『アンジェラ・マオ 破戒』、ありきたりな功夫片からの脱却を図った『浪子狄十三』など、傑作が続きます。そんな中にあって1位の栄冠を手にしたのは、ジミー先生が体を張って己の行く道を示した『片腕ドラゴン』でした。
単なるいつものジミー作品ではなく、自分自身の矜持をフィルムに叩き込んだその様は、見る者を圧倒させます。アクションについては『破戒』も負けてはいませんが、最後に梁小龍(ブルース・リャン)が主役である茅瑛の見せ場を奪ってしまったため、この順位に落ち着いた次第です。

 今回はランキングの縮小ということで、小ぢんまりとした内容になってしまいました。ランク入りこそ逃しましたが、格闘シーンに拘り抜いた『ソード・レジェンド 失われたドラゴンの剣』、現代に生きる賞金稼ぎの姿を描いた『バウンティハンター』など、他にも多数の秀作が存在します。
今年は飛び飛びの更新だっため、本当ならこういった作品をもっと紹介したかったのですが、それは叶いませんでした。来年からはコンスタントなブログ運営を心がけ、今年はやることができなかった特集・企画なども充実させていきたいと思っています。

『片腕ドラゴン』

2012-12-30 23:03:31 | 王羽(ジミー・ウォング)
「片腕ドラゴン」
原題:獨臂拳王
英題:One-armed Boxer
製作:1971年

▼去年、私はその年最後の映画レビューに王羽(ジミー・ウォング)ことジミー先生の主演作、『戦国水滸伝・嵐を呼ぶ必殺剣』をセレクトしました。そこで今年最後の更新も、ジミー先生の作品から代表作と呼ばれる『片腕ドラゴン』を取り上げてみたいと思います。
この作品は、ショウ・ブラザーズ屈指の剣戟スターとして活躍していたジミー先生が、諸事情で台湾へと活動拠点を移さざるを得なくなった頃に手掛けたものです。先の『嵐を呼ぶ必殺剣』もこの時期の作品で、他にも『ドラゴン武芸帖』などが製作されています。
どちらも傑作と呼び声の高い映画ですが、この『片腕ドラゴン』は台湾という新天地で再スタートを切ったジミー先生の、ある思いが込められている作品なのです(詳細は後述)。

■正徳武館に所属するジミー先生は、あるときライバル道場の鉄鈎門とトラブルを起こしてしまう。軽率な行動を取ったジミー先生は罰を受けるが、怒りがおさまらない鉄鈎門の道場主・田野は道場総出で正徳武館を襲撃する。が、武術の実力は正徳武館のほうが遥かに上であった。
この一件で完全にブチ切れた田野は、日本・チベット・タイ・韓国・インドから武術の達人たちを雇い入れ、正徳武館の人間を皆殺しにせんと動き出した。所有する工場が襲撃を受けたため、再び正徳武館は鉄鈎門との全面対決に挑むのだが、敵はあまりにも強大だった。
 館長や門下生は皆殺しにされ、ジミー先生も沖縄の空手家・龍飛(ロン・フェイ)に片腕を切断された。こうして正徳武館は壊滅し、鉄鈎門はさらなる悪事に手を染めていく事に…。一方、ジミー先生は医者の親子に助けられて一命を取り留めていた。当初は自信を失っていたが、片腕で戦う方法を知った彼は過酷な特訓を開始する。
腕の全神経を焼き切り、一撃必殺の鉄拳を手に入れたジミー先生は、いよいよ仇敵へのリベンジに挑む。対する相手は田野と大勢の手下たち、そして怪物じみた実力を持つ世界武術連合軍!果たしてジミー先生は、腕一本でこの圧倒的不利な状況にどう立ち向かうのだろうか!?

▲本作は、自身の代表作である『片腕必殺剣』のキャラクター像と、初監督作の『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』のストーリーを基に、ジミー先生が独特のアイデアを散りばめて作り上げた逸品です。
功夫アクションの完成度は、劉家良(ラウ・カーリョン)が武術指導を担当した『片腕カンフー対空とぶギロチン』には及びません。が、その雑さを補って余りあるエネルギッシュな動作と、次から次へ現れる世界武術連合軍の奇怪さのおかげで、異様にテンションの高いアクションが構築されています。
 これら体当たりのアクションもさることながら、本作はジミー先生にとって重大な”決意表明”が秘められていることについても触れておかなければなりません。
本作でジミー先生は道場を追われ、大勢の強敵を相手に腕1本で戦うことを強いられます。防御を捨てて必殺の一撃に全てを賭けるその姿は、香港のメインストリートから台湾へと移り、海千山千のスターを相手にアイデア1つで勝負を挑む彼自身の姿とダブって見えます。
そう、この『片腕ドラゴン』という作品は、裸一貫で再始動することになったジミー先生の「これから俺はこの路線で生きていく!」という確固たる決意を、映画という形で誇示したものだったのです。ラストでボロボロになってまで戦うジミー先生の表情には、もしかしたら演技を超えた感情が秘められていた…のかもしれませんね。

『キック・ファイター』

2012-12-27 21:36:58 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「キック・ファイター」
原題:FULL CONTACT
製作:1992年

▼マーシャルアーツ映画にとって、90年代はまさに最盛期といえる時代でした。この時期で有名なのはジャン=クロード・ヴァン・ダムスティーブン・セガールドルフ・ラングレンの3人でしょう。彼らのエピゴーネンも数多く生まれ、とりわけポスト・ヴァンダムを狙う俳優は無数に存在します。
今回紹介するジェリー・トリンブルは、そういった者たちの1人でした。キックボクシングの使い手である彼は、自慢の足技を武器に次々と主演作を連発。一時は落ち込んでいましたが、スティーブ・オースティン主演最新作『マキシマム・ブロウ(The Package)』で、久々に格闘映画への出演を果たしています。
本作は、ジェリーがロジャー・コーマンのお抱え監督?であるリック・ジェイコブソン(『ザ・ヴァンプハンター』『オーバーヒート・プリズン』もこの人の仕事)とコラボした作品で、闇ファイトに挑もうとする青年の戦いを描いています。

■ジェリーは離れて暮らしている兄を探して、ロサンゼルスのダウンタウンを訪れていた。だが、あるチンピラから兄が闇ファイトの選手として活躍していたこと、そして何者かに殺されたことを知らされる。
兄の死に悲しむジェリーは、犯人が闇ファイトの関係者であると確信する。そして彼は闇ファイトに参加して真犯人を探すべく、コーチのマーカス・オーリアスと手を組み、厳しいトレーニングに身を投じていく。十分な実力を身に付け、いよいよ血みどろの戦いに挑戦するジェリー。だが、事件の黒幕は意外な場所に潜んでいた…。

▲まずアクションについてですが、こちらはボチボチの出来でした。本作には例によって本物の格闘家が多数参加しており、いきなり序盤からゲイリー・ブランク(キックの世界王者。現在は自身の道場で養秀会空手を指導)とハワード・ジャクソン(『懲罰』で山下タダシと対戦)が火花を散らします。
中盤では、ジェリーがキックボクシング世界ウェルター級王者のアルビン・ブローダーと死闘を繰り広げ…るんですが、やはり本物を起用したからといって凄いアクションが撮れるわけではありません。ラストバトルの展開についても、賛否が分かれるでしょうね。

 しかしそんなアクション部分より、もっと問題なのがストーリーです。先述のあらすじの続きですが、闇ファイトに出場したジェリーは試合中に兄殺しの目撃者と思われる男を発見し、マーカスに後を追うよう頼みますが、その男は自宅で惨殺されているところを発見されます。
その後、一緒に出場した友人が準決勝で最大の強敵の噛ませ犬にされて再起不能に。決勝に臨んだジェリーは、そこで真犯人の正体を知るのですが……。そう、ここまで書けばご存知の方はピンときたでしょう。本作はドン・ウィルソン主演作『Bloodfist』のストーリーと瓜二つなのです!
 この他にも、主人公と恋仲になるのが友人の妹でストリッパー、目撃者を発見した際に主人公が闘っていた相手が黒人格闘家、友人を倒した強敵が太めの巨漢ファイター、そして真犯人の正体と戦いの結末など、単なる偶然では片付けられないほどの類似点が見当たります。
なぜこんなことになったのか真相は不明ですが、少なくとも全体の出来と予算は『Bloodfist』が、アクションとユーモアなら本作に分があったと思います。なお、本作には下積み時代のマイケル・ジェイ・ホワイトが出演していますが、ただの脇役(アクション無し)なので期待しないように。

『チャイニーズ・ウォリアーズ』

2012-12-21 23:08:13 | 女ドラゴン映画
「チャイニーズ・ウォリアーズ」
原題:中華戰士
英題:Magnificent Warriors/Yes, Madam 3
製作:1987年

▼80年代も半ばを過ぎようとしていた頃、香港映画界にD&B(寶電影公司)というプロダクションが誕生しました。この会社はアクションを始めとした様々なジャンルの映画を制作し、『レディ・ハード/香港大捜査線』『風の輝く朝に』などの傑作を排出。観客から高い評価を得ました。
ただ、同社の作品はなぜか陰惨で暗いトーンのものが多く、素直にハッピーエンドへ辿り着かせない作風が徹底されています。これもD&Bが持つ特色の1つ…と言いたいところですが、中には強引にバッドエンドへ直行する作品もあり、賛否が分かれる点であると言えます。
 ひたすらダーク路線まっしぐらのD&Bですが、決して暗い作品ばかりを撮っていたわけではありません。洪金寶(サモ・ハン)主演の『デブゴンの霊幻刑事』、許冠文(マイケル・ホイ)の『帰ってきたMr.Boo!ニッポン勇み足』など、コメディ系の作品もいくつか手掛けていました。
本作はそんなD&Bの明るい部分が全開になった作品で、主演は同社の看板スターであった楊紫瓊(ミシェール・ヨー)が担当。その他のキャストもベテランからニューフェイスまで揃っており、とてもD&B作品とは思えないほどの(笑)爽快な活劇に仕上がっているのです。

■時は第二次世界大戦まっただ中のこと。中国全土を飛び回る秘密諜報員・楊紫瓊は、日本軍に接収されようとしている城塞都市の長・盧冠廷(ローウェル・ロー)を救い出せとの指令を受ける。同じ諜報員の爾冬陞(イー・トンシン)と合流した彼女は、さっそく町の中枢部へと侵入していった。
詐欺師の呉耀漢(リチャード・ウン)を巻き込みつつ、楊紫瓊たちは盧冠廷と彼の恋人の確保に成功する。一致団結した一行は、脱出用の燃料奪取と日本軍将校・松井哲也の暗殺を目論み、敵地へと忍び込んだ。しかし、この計画は日本軍の反撃によって失敗に終わってしまう。
 死刑に処されることとなった楊紫瓊一行だが、あまりに非道な日本軍の凶行を目にした町民がついに蜂起!松井と裏切り者の黄正利(ウォン・チェン・リー)は、とうとう町から追い出されてしまうのだった。
だが、これで奴らが黙っているはずが無い…。そこで楊紫瓊たちは町中のいたるところにトラップを仕掛け、松井の率いる軍勢に対抗しようとする。かくして、荒野の城塞都市を舞台に一大決戦の幕は切って落とされた!

▲本作はD&B作品の中でも屈指の規模を誇る作品です。大勢のエキストラや大がかりなセット、複葉機同士のドッグファイト(!)など、これでもかとスケールの大きい画が登場します。アクションシーンも凄まじいものが多く、クライマックスの決戦では画面狭しと爆発が起き、まるで戦争映画のような光景が繰り広げられていました。
功夫アクション的にも見どころが多く、羅奔(ロー・マン)や張翼(チャン・イー)といったベテラン勢の存在も見逃せません。ラストにおける楊紫瓊VS黄正利も壮絶で、これら新旧役者陣によるアクションは見ているだけでも面白かったですね(惜しむらくは松井のアクションが無かったことくらい)。
 ただ、ストーリーは行き当たりばったりな箇所が目に付きます。いきなり暗殺に血眼になる爾冬陞、死刑直前における自己紹介のような会話など、唐突さや冗長さを感じる場面も少なからずありました。
とはいえ、日本軍を敵視せずに平和を唱えるラストは印象的でしたし、D&B作品とは思えないほどポジティブなストーリーはファンならずとも要注目です。個人的にD&Bにはもう少しこの路線で映画を撮って欲しかったのですが…やっぱり難しかったのかなぁ?

『武闘拳 猛虎激殺!』

2012-12-18 22:38:27 | 倉田保昭
「武闘拳 猛虎激殺!」
英題:WHICH IS STRONGER. KARATE OR THE TIGER?
製作:1976年

●今回も東映空手映画の紹介ですが、この『武闘拳 猛虎激殺!』は個人的に思い入れのある作品です。私が本作を知ったのは、千葉真一や志穂美悦子の空手映画を一通り見終わったころのことでした。
ある程度メジャーなタイトルを制覇した私は、未ソフト化の空手映画が存在することを知り、ネットで必死に探し回りました。いくつかの作品は海外版のDVDで入手できたのですが、『武闘拳』だけはどうしても見つからず、東映チャンネルにも加入していなかった私の中では勝手に「幻の作品」と化していたのです(苦笑
しかし、今年になってDVDが発売された事で、数年来の夢がようやく叶うことになりました。ショウブラ作品がリリースされたときはピンとこなかったのですが、昔から待ちわびた作品が手軽に見られるようになった時の喜びというものを、このたびようやく実感する事ができた気がします。

 さて、本作は千葉真一がオファーを蹴り、その代わりに倉田保昭が主演に収まったという逸話を持つ作品です。オファーを蹴った理由について、千葉は「動物相手のショウ映画は嫌だ」と述べたそうですが、本作を見た限りでは他にも理由があるような気がしました(それについては後述にて)。
ストーリーは父と兄を殺された倉田が、石橋雅史と堀田真三の極悪兄弟(それにしても凄い兄弟だ・笑)に復讐を果たす!というもの。敵勢には空手映画恒例のインチキ武術家軍団が控えていますが、これだけでは物足りないと製作側が判断したらしく、『Gメン75』に登場した猛虎・シーザーも狩り出されています。

 しかし、シーザーの存在こそ強烈ではありますが、本作はあまりにも従来の空手映画とイメージが被りすぎています。インチキ武術家軍団をはじめ、堕落した千葉治郎が倉田に喝を入れられるシーンや、主人公の野性的なキャラクター像、金塊に倒れこんで死ぬラスボスなど、過去の作品と似た場面が散見されるのです。
当時、空手映画はそろそろ時代遅れになり始めていた頃でしたが、ここまで従来と同じような内容ではウケるはずがありません。千葉が本作の出演を断ったのは、虎を相手に闘うのが嫌だったからだけではなく、ルーティンな映画作りからの脱却を望んでいたから…なのかもしれませんね。

 とはいえ、時代の流れと関係のなくなった今の目で見てみると、本作はなかなか楽しめます。今回のインチキ武術家軍団も濃いキャラ揃いで、相撲取りのくせにメインウェポンが竹槍だったり(笑)、血の色が緑色な奴がいたりともうムチャクチャ!シーザーの存在もあいまって、最終決戦はテンションが高いものに仕上がっていました。
また、本作で倉田のライバルとして登場するプロ空手・大塚剛の存在も光っていて、劇中で三度も行われる2人の対決は手に汗握る好勝負となっています。なぜか空手映画では蔑ろにされることの多い大塚氏にとって、本作はベストに近い仕事だったといっても過言ではないでしょう。
ところで本作を見ていて思ったんですが、東映の空手映画は定期的にフラメンコ・ダンスを入れなければならないという約束事でもあるのでしょうか?本作以外にも『吼えろ鉄拳』や『ザ・格闘王2』など、世代を超えて色んな場所で踊っているような気が…(汗

『子連れ殺人拳』

2012-12-14 23:45:41 | 千葉真一とJAC
「子連れ殺人拳」
英題:Karate Warrior
製作:1976年

▼李小龍(ブルース・リー)の到来とともに花開き、一世を風靡した東映空手映画。しかし、日本における功夫映画のムーブメントが終息すると同時に、空手映画も徐々に勢いを無くしていきました。本作はそんな時期に作られたもので、空手に剣術をプラスした意欲作となっています。
出演は千葉真一を始め、当時の空手映画おなじみの顔が勢揃い。加えて、千葉のライバル役に名優・夏八木勲が扮しています。夏八木は千葉と共演するたびに良い味を出すので(個人的には『戦国自衛隊』の2人がベスト)、ぶっちゃけ剣術よりも彼の方が気になっていたのですが…。

■流浪の空手使い・千葉は、とある寂れた町で子連れの剣士・夏八木と出会う。火花を散らす両者だが、2人の出会いはこれから始まる闘いの序章でしかなかった。この町では暴力団組長・天津敏が逮捕されたことにより、配下の室田日出男と郷治が利権を巡って対立。それ以来、血で血を洗う抗争を繰り広げていた。
だが、この戦いは単なる縄張り争いではなかった。実は天津が隠した十億円の麻薬を両陣営のどちらかが持っており、一連の争乱はブツを巡っての競り合いであったのだ。室田は夏八木を雇い、次第にその勢力を拡大させていく。焦った郷は千葉を雇うが、一方で彼も天津の女・川崎あかねから話を聞き、麻薬をモノにしようと企んでいた。
 紆余曲折の末、ひょんな事から麻薬のありかを知った千葉は、両陣営を尻目に目当てのブツを入手する。が、そこに目的を同じにする夏八木が現れた。遂に相対した両者は、墓場を舞台に激しいバトルを展開。死闘の末、ギリギリのところで千葉が勝利をもぎ取るのだった。
今わの際に夏八木は「俺の子を妻の所へ送ってくれ…」と告げ、郷と室田を始末した千葉はそれを承諾する。かくして十億円の麻薬は彼の手へ渡った…のだが、今度は脱獄してきた天津とその手下たちが追ってきた!果たして、子連れとなった千葉の殺人拳は炸裂するのか!?

▲正直言って、色々と惜しい作品です。期待していた千葉と夏八木のハードボイルドな関係や、空手に剣術を交えたアクション(空手的な動作の合間に剣を振り回すのではなく、剣を空手アクションの一部に加えているのが特徴)は確かに素晴らしいものでした。
しかし、後半に突入すると同時に敵組織のトップ2人は呆気なく死亡。ヒロイン格と思われた渡辺やよいも退場し、最終決戦の相手はポッと出の天津敏が担当してしまいます。今まで積み重ねてきたキャラクターや雰囲気を帳消しにし、まるでリセットするかのような展開になったのは残念でなりません。
その後、千葉はいくつか空手映画に主演しますが、時代はジャッキーのコミカル・アクションを選びます。それに呼応した彼は、真田広之などの若手スターを擁立することで時流に同調。JACの黄金期を築くのですが、その判断も本作のような失敗を経たからこそ…だったのかもしれませんね。

『浪子狄十三』

2012-12-06 22:28:19 | カンフー映画:傑作
浪子狄十三
Triumph of Two Kung Fu Arts/Triumph by Two Kung Fu Arts
製作:1977年

▼これまで功夫片はいろんなタイプの作品が作られてきましたが、アクションが主役で物語は添え物程度に扱われることも多く、ドラマ性を無視した稚拙な代物も時折見かけます。しかし、過去の製作者たちはナショナリズムを刺激したり、武侠片的な要素をプラスしたりと、様々な創意工夫を凝らすことで功夫片のドラマ性を高めてきました。
中でも、若者の儚い青春を描くことで支持を得た張徹(チャン・ツェー)、自身の武道哲学を映画に反映した李小龍(ブルース・リー)や劉家良(ラウ・カーリョン)らの作品は、その最たるものと言っていいでしょう。
そしてこの『浪子狄十三』も、ドラマ性が希薄になりがちな功夫片というジャンルでストーリー面を増強してみせた作品ですが、先に挙げた3名の作品とはまた違ったタイプの映画になっています。

■(※ストーリーは若干推測が入っています)
 歸亞蕾(『奇蹟』の花売りおばさん)は、5年前に「父の仇討ちをする」と言って家を飛び出した息子を探し歩いていた。彼女の持っていた人相書きを見た陸一龍は、自分の兄弟弟子だった陳惠敏(チャーリー・チャン)がその息子ではないかと思い、仲間たちと捜索を開始する。
陳惠敏は武術の使い手だが、今では身を持ち崩して用心棒のような仕事を生業としていた。彼はやはり歸亞蕾の息子だったが、仇討ちを果たすどころか自堕落な生活を送る自分の不甲斐なさに苦悩しているようだ。
 陸一龍の計らいで親子は再会を果たすが、この状況では素直に喜ぶこともできず…関係の修復には時間を要することとなった。その後、陳惠敏は修行を始め、仇敵である大悪党・金剛(カム・コン)との戦いに備えていく。そんな彼の身を案じた歸亞蕾は「仇討ちをせずに家へ帰りましょう」と優しく告げた。
だが、ずっと中途半端な生き方をしていた陳惠敏は「投げ出したら今までと同じだ」と悟り、たった1人で敵の根城へと向かった。彼は父の形見の短刀を振るって戦うが、奮戦むなしく金剛の拳によって死亡。怒りに燃える陸一龍は、仲間や師匠とともに金剛へ戦いを挑むが…。

▲ご覧のように、本作は”母と子”というテーマを扱った、実にドラマ色の強い作品でした。カメラワークも通常の功夫片とは異なり、風景や情景・登場人物の動きを丹念に追ったものとなっていて、どこか文芸作品のような雰囲気を漂わせています。
歸亞蕾と陳惠敏の母子が織り成すドラマも情緒的で、ラストの短刀を受け取ってからの仇討ちシーンは印象深いカットに仕上がっています。ベテラン女優の歸亞蕾を起用している事から見ても、製作者たちの「単純な功夫片にはさせない!」という強い思いを感じずにはいられません。
一方、功夫アクションは中盤以降に集中しており、前半はドラマ部分を邪魔しない程度の小競り合いに絞られています(憎々しげに振舞う金剛の演技に注目!)。本作を陳惠敏が暴れまわるストレートな功夫片…だと思って視聴した方は落胆するかも知れませんが、ドラマ性を強調した功夫片としては間違いなく秀作と呼べる1本です。
こういう映画こそ綺麗な画質で見たいんだけどなぁ…(私が持っているバージョンは画質が悪く、暗がりのシーンでは完全に真っ黒になってました・涙)。

『はいすくーる仁義』

2012-12-02 20:57:03 | 日本映画とVシネマ
「はいすくーる仁義」
製作:1991年

●昔から香港では、功夫と笑いをミックスしたコメディ・アクションが盛んに作られてきました。コメディ功夫片というジャンルを確立した『酔拳』、オールスター喜劇の『五福星』、そして全世界を笑いの渦に巻き込んだ『少林サッカー』などなど…多くの傑作・話題作が存在します。
ところが、日本では香港のように格闘技をメインにしたコメディ映画というものはあまり作られていません。たいていの格闘映画はシリアスで真面目なものが多く、笑いは二の次三の次。アクション映画自体が下火となっている現在、この手の作品は絶滅の危機に瀕しているのです。
とはいえ、格闘コメディ・アクションは(散発的ではありますが)昔から脈々と作られ続けています。本作はそんな数少ないものの1つで、週刊ヤングジャンプで連載された同名漫画を筧利夫主演で実写化した作品です。

 武闘派ヤクザである筧は、学園ドラマに感化された暴力団組長・三木のり平に「日本一の教師になれ!」という無茶苦茶な命令を押し付けられてしまう。かくして都内の学校に赴任した彼は、同僚の白島靖代に惚れたり、ライバルの団優太と張り合ったりしていくが…。
…という感じの話なんですが、本作は学園ドラマや任侠ものではなく、全編に渡ってギャグが繰り広げられるナンセンス・コメディ的な作品に仕上がっていました。さすがに一昔前の映画だけあって、劇中のキャラクターやギャグ描写は時代を感じさせるものがあり、正直言って今見るとかなり辛いものがあります(爆

 ですが、劇中における格闘シーンはそこそこ見応えのあるアクションになっています。筧の動きは悪くないし(彼は実際に少林寺拳法の有段者)、終盤のVS我王銀次では、短いながらも体を張った格闘戦が行われていました。製作協力に倉田プロ、技斗が同プロに所属していた多賀谷渉なので、この出来には納得です。
ただ残念なのは、アクションの比重がギャグに傾きすぎている点です。特に顕著なのが後半のVS雇われヤクザ戦で、普通に撮っていれば迫力がありそうな場面なのに、なぜかクラシック音楽を流して映像をスロー処理するという前衛的な演出で台無しになっていました(しかもこのシーンがやたら長い)。
このほかにも中盤のVS団優太など、笑いに走りすぎたために迫力が相殺されたシーンが多数存在します。せめて『ビーバップ・ハイスクール』シリーズのように、ギャグ描写を体当たりのスタントで演じたりしていれば違った結果になったかもしれませんが…。

 製作時期を考えても厳しい内容だと言わざるを得ない作品ですが、日本における格闘コメディ・アクションの系譜を受け継ぐ存在であるのも事実。とても若々しい筧や、女子生徒に扮しているデビュー間もない宍戸留美(!)などの見どころもあるので、本作で当時の雰囲気を懐かしむのも一興かもしれませんね。
ちなみに本作は続編が2本・外伝が1本存在するのですが、こちらも技斗を多賀谷氏が引き続き担当しているようなので、いずれ視聴してみたいと思います。個人的にはギャグ無しっぽい外伝に注目…かな?