トラッシュボックス

日々の思いをたまに綴るブログ。

世代交代は北朝鮮を変えるか

2013-07-31 01:20:42 | 韓国・北朝鮮
 「ロシアの声(The Voice of Russia)」の日本語サイトを時々見ている。

 「ロシアの声」は海外放送を専門とするロシア国営ラジオ局。旧ソ連時代に対外宣伝を行っていたモスクワ放送の後身である。現在、世界160か国、38言語で放送を行っているとしている。
 そのサイトも当然政治的な面では政府見解を超えるものではないが、内容は単なる政府公報的なものにとどまらず新聞で言うところの三面記事的なものや娯楽的な話題も多い。ロシア人のものの見方を考える上で興味深いものがある。

 その「ロシアの声」でアンドレイ・ラニコフの「私見」である「北朝鮮に若き指導者たちの時代が来る」という7月24日付の記事を読んだ。

 このアンドレイ・ラニコフは北朝鮮の政治・社会史を専門にしているロシア人学者だが、旧ソ連時代の1984~1985年に金日成総合大学に留学した経歴をもつ。その後レニングラード国立大学院で博士号を取得し、オーストラリア国立大学を経て、2004年からソウルの国民大学で教鞭をとっているという。雑誌や新聞などにもコラムや記事が多数掲載されているという。
 近年、『民衆の北朝鮮―知られざる日常生活』(花伝社、2009)、『スターリンから金日成へ―北朝鮮国家の形成 1945-1960年』(法政大学出版局、2011)の2著が邦訳されている(「アンドレイ・ランコフ」と表記されている)。もっと以前の著書、『平壌の我慢強い庶民たち―CIS(旧ソ連)大学教授の"平壌生活体験記"』(三一書房、1992)は昔読んだ(こちらでは「アンドレ ランコフ」と表記)。
(余談だが、検索していたら、彼の著者名についてこんな記事を書いている方がおられた。「連鎖する誤記」)

 さて、ラニコフの記事「北朝鮮に若き指導者たちの時代が来る」は、北朝鮮の金正恩第一書記の妹、金汝貞(キム・ヨジョン、26歳)が北朝鮮国防委員会の「行事部門」トップに就任したという報道を受けて書かれたものである。

 ラニコフは、これは根拠に基づいておらず、誤報の可能性もあると指摘しながらも、「私見では、妹氏の就任は事実である。そして、これは来たるべき変革の兆候であると言える」として、次のように述べる。

既に多くの人が忘れている事実を摘示しよう。2011年12月、金王朝の第2代・金正日氏が亡くなった時点で、正恩氏は後継者指名を受けてはいなかった。公式的には、最高指導部のメンバーの一人に過ぎなかった。それも2010年に政治の舞台に登場したばかりの、年齢から言っても最も若いメンバーに過ぎなかった。しかし北朝鮮エリート層は堅い結束を示し、何らの反目・抗争もなしに、正恩氏を最高指導者に推挽した。しかし新指導者には弱点が残された。側近集団がいないのである。〔中略〕2011年12月、金正恩氏は国家元首になるのだが、国家統治にあたっては、父親の側近たちに拠るほかなかった。

彼が父親から受け継いだ最高幹部たちは、皆自分より30歳から40歳、年長であった。これほどの歳の開きは、一般的に言って、様々な問題を引き起こすだろうが、ことにこの国は、確固たる年齢ヒエラルキーをもって聞こえる、あの儒教の国なのである。加えて父親世代の側近たちは、年齢相応に物の見方も異なっている。仕方ないことだ、正恩氏には他に選択肢がなかった。しかし彼らとの仕事は正恩氏にとって楽ではないだろう。それは想像に難くない。

若き指導者が、年齢から言っても人生経験から言っても自分に近い人々を中心とした、新たな指導者グループを形成するだろうということは、当初から明らかに見込まれていた。一年そこらでは済まない事業であろうが、しかしその輪郭は、既に見え始めている。金正恩時代の典型的な最高幹部というものを描出してみるとすれば、その年齢は30歳から35歳、留学経験を持ち、あるいは頻繁に外国を訪れており、正恩氏の子ども時代からの知己、ということになるだろう。

階層流動性の少ない北朝鮮社会の特質に鑑みれば、上述のような特性を備えた人物は、結局、前政権からのエリート層の子弟に限られるだろう。第一に、金家の構成員そのものを登用するという可能性がある。第二に、金日成時代から北朝鮮を統治していた十数家族が候補者のプールとなるだろう。

北朝鮮で「ペクトゥサン(白頭山)の血統」を引くものとして知られる、これらエリート層のみが、外国に遊学するチャンスを、また幼少時の正恩氏と知り合うチャンスをもっていたのである。

金正恩氏は、大方、その統治の初期にあたって、より多く金ファミリーの構成員を登用するであろう。正恩氏には独立独歩の活動歴が浅い。であってみれば、彼がよく知り、かつ信頼する人々、すなわち自らの親類を多く用いるだろうことは、予測に難くない。畢竟するに、金汝貞氏の登用は、来るべき人事改革の先触れなのである。

おそらく、この人事改革は、大規模なものとなるだろう。3年から4年後には、政府の枢要なポストの多くを金ファミリーが占めるという状態になるだろう。一部の古参は政権に踏みとどまるであろうが、全体としては、若い世代の時代がはじまる。たとえば2017年という年に、どのような名前が最高指導部の名簿に連ねられているか、我々には予見できない。北朝鮮貴族たちの名は公にされていないからである。しかし、次のことは確実に言えよう。彼らは若い、新しい人々であり、彼らの行う政治もまた、新しいものとなるであろう、と。


 興味深い論考である。

 私はこの、金汝貞が国防委員会の「行事部門」トップに就任したという報道を知らなかった。
 検索してみると、確かにそうした報道があったようだが、出所はよくわからない。
 
 一方、韓国紙、朝鮮日報の日本語サイトには、「金正恩氏の妹、朝鮮労働党行事課長に起用か」という7月20日付の記事が掲載されている。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党第1書記の妹、金汝貞(キム・ヨジョン)氏が、同党組織指導部行政課長を務めているとの情報が伝わってきた。米国の自由アジア放送(RFA)が19日、北朝鮮に詳しい消息筋の話を引用して報じた。

 この消息筋はRFAに対し「汝貞氏は、金正日(キム・ジョンイル)総書記の死去(2011年12月)以降、金正恩氏の出席する行事(1号行事)を自ら取りまとめているとの話が、1号行事に出席していた複数の幹部の口から聞かれた。労働党内部では『汝貞氏の目に留まらなければ金正恩氏にお仕えすることはできない』との話が広まっている」と話した。組織指導部は、党・政・軍に対する人事権・検閲権を持つ労働党の最高権力部署で「党の中の党」と呼ばれている。組織指導部行事課長は、金正恩氏の動線など1号行事に関するあらゆる事項を取り仕切るポジションで、通常は最高指導者の最側近が務める。


 記事中に1か所「行政課長」とあるのは「行事課長」の誤植か。

 国家機関である国防委員会と労働党の組織指導部は、共に最高レベルの機関であるとはいえ全く別物だが、そうした最高レベルの機関の「行事課長」クラスのポストに金汝貞が就任したという何らかのソースがあるのだろう。
 そして、金正日の妹金慶喜が最高指導部入りしたように、これからは金正恩による同世代の金ファミリーの登用が始まっていくとラニコフは考えているのだろう。

 しかし、果たしてラニコフが言うように、「3年から4年後には、政府の枢要なポストの多くを金ファミリーが占めるという状態になるだろう」か。
 そして、そのような彼らが「若い、新しい人々であ」るからといって、「彼らの行う政治もまた、新しいものとなるであろう」と言えるだろうか。
 私はどちらにも懐疑的である。

 まず前者についてだが、そもそも「金ファミリー」にはそれほど人材がいるのだろうか。
 金正日の妹金慶喜とその夫張成沢はなるほど「枢要なポスト」を占めている。そして今回報じられた金汝貞もそうなるのかもしれない。だが彼ら以外に、そのような「金ファミリー」はいるのだろうか。
 金正日体制の下で、金正日の異母弟である金平一や義弟金光燮は長期にわたってヨーロッパで大使を務め、今なお帰国して国内に枢要なポストを占めるには至っていない。
 金正恩体制の下でも、異母兄金正男は排除され、実兄である金正哲も表舞台には出ていない。
 現在党政治局員、最高人民会議常任副委員長を務める楊亨燮は金正恩の祖父金日成の従妹の夫である。金日成の別の従妹の夫である許ダム(1929-1991)は外相や党政治局員を務めた。金日成の母康盤石の一族には国家副主席や社会民主党委員長を務めた康良(1904-1983)、党中央委員や平壌市党書記を務めた康賢洙(2000年死亡)らがいる。金日成時代の末期から金正日時代の初期にかけて首相を務めた姜成山(1931-2007)も康氏と血縁関係があるとされる。
 こうした遠縁の者まで含めるのなら、「金ファミリー」の範囲は広がるが、果たしてそれは「ファミリー」の名に値するものなのだろうか。
 また、仮にそうした者を含めるにしても、現在その「枢要なポスト」の候補者の名は聞こえてこない。

 そして後者の「彼らの行う政治もまた、新しいものとなるであろう」についてだが、しかし私は覚えている。
 金日成時代の末期に、後継者金正日について、実は西側の事情を知っている「改革開放派」なのだが、金日成世代の老幹部に阻まれてそれが実行できないのだ、金日成の死後北朝鮮は変化するとの観測があったことを。
 金日成の死後、金日成世代の老幹部は死亡し、あるいは引退することにより、ある程度の世代交代は進んだ。金日成が務めていた国家主席は空席となり、「最高軍事指導機関であり、全般的国防管理機関である」(1998年改正時の北朝鮮憲法)にすぎない国防委員会の委員長が事実上の最高指導者となり、「先軍政治」が進められ党の機能は低下するといった変化はあった。
 しかし、金ファミリーへの個人崇拝やウリ式社会主義、恐怖政治といった体制の本質には全く変化がなかった。

 人はいずれ死ぬ。あるいは老衰のため引退する。だから世代交代は進むだろう。
 こんにちでもまだ金日成時代に登用された金永南、崔永林、金国泰、金己男、崔泰福、楊亨燮といった老幹部が序列の上位を占めている。しかし、これは金正日時代にも見られたスタイルで、老幹部を上位に立てることにより円滑な権力の移行を図っているのだろう。老幹部にはさほど実権はなく、もっと下の世代が握っているのだろう。
 しかし、その世代によって、北朝鮮において新しい政治が生まれると期待できるのだろうか。
 20年近くに及んだ金正日時代の結果を考えると、私は否定的にならざるを得ない。

 ラニコフは「たとえば2017年という年に、どのような名前が最高指導部の名簿に連ねられているか、我々には予見できない。北朝鮮貴族たちの名は公にされていないからである」というが、私は予見できるような気がする。
 たしかに彼の言う北朝鮮貴族たち――「金ファミリー」及び金日成時代から北朝鮮を統治していた十数家族――の情報は限られている。しかし、今からわずか5年後の2017年では、彼らの多くは未だ最高指導部入りはしないのではないか。
 先に挙げた、序列上位を占めている金永南、崔永林、金国泰、金己男、崔泰福、楊亨燮といった老幹部は、死亡か老衰による引退、あるいは何らかのアクシデントによる粛清がない限り、その地位は安泰だろう。そして彼らの序列の中に、何人かの軍の最高幹部が加わるだろう(軍の最高幹部の異動は金正恩政権になってから目まぐるしいので人物は特定しがたい)。金慶喜、張成沢、崔龍海といった現在金正恩を支える最高実力者がそれに続くだろう。さらに党政治局員候補や閣僚、軍幹部が続くだろう。金汝貞は、「行事課長」クラスのポストは得ているかもしれないが、国防委員会の委員や、党の政治局や書記局、中央軍事委員会の委員には加わることはできないだろう。他の金正恩と同世代の「金ファミリー」についても同様だろう。
 これまでの北朝鮮の最高指導部の動きを考えると、私にはこのように予測するのが自然だと思える。
 一方で、こうはなってほしくないという思いもあるが。

 1994年の金日成の死に際して、これで北朝鮮の体制は崩壊するとの観測が少なからずあった。
 それは、数年前の東欧諸国における共産党政権の崩壊、そして1991年のソ連解体の経験からすれば、もっともな見方だった。
 だが、国民は「苦難の行軍」に苦しんだが、北朝鮮の体制は崩壊しなかった。

 その後、金正日が死ねば、もう体制は保たないとの観測もあった。しかしそれも外れた。

 どうも、東欧諸国やロシアと違って、共産党政権による支配は朝鮮という国によほどマッチしているらしい。
 いや、本来の共産党政権――資本主義を廃絶し、党の指導する計画経済の下でユートピアを目指す――の理念は既に失われている以上、国民も国家の将来も顧みない、単なる王朝による独裁がと言うべきか。
 百数十年前、かの国もそうした王朝に支配されていたと聞く。

 金正日の死に際して、私は、アルバニアの例を引いて、金正恩、あるいはその後見人がラミズ・アリアの役割を果たさないものかと期待した。
 だがそんな期待はもうない。あの国はそういうふうには変わらないのだろう。

 朝鮮においても、数百年のスパンで王朝の交代はあった。
 もはやそうしたスパンでかの国を見るべきなのではないかと思う。
 付き合わざるを得ない隣国としては、疲れる話だが。

菅直人の処分をめぐる民主党内の動きについて

2013-07-26 00:53:22 | 現代日本政治
 うわっみっともねえ。
 反射的にそう思った。

菅氏が離党勧告を拒否 民主・海江田代表と会談

 民主党の海江田万里代表は24日午前、東京都内のホテルで菅直人元首相と会談し、離党を勧告した。参院選東京選挙区で党公認候補ではなく無所属候補を応援したことが理由だが、菅氏は拒否した。海江田氏は除籍(除名)処分も辞さない構えだ。

 海江田氏は24日午後の常任幹事会で菅氏の処分を協議するとともに、自らの続投に理解を求める方針。さらに尖閣諸島をめぐり「中国側からみれば盗んだと思われても仕方ない」と発言した鳩山由紀夫元首相についても除名処分にする意向だ。常任幹事会の冒頭、海江田氏は「菅氏と鳩山氏の言動について、参院選に与えた影響があることを踏まえ、厳しく対処すべきであるという多くの意見をいただいた」と指摘。鳩山氏については「遺憾の意を表し、厳重に抗議したい」と述べた。

〔後略 〕


 選挙で党公認候補ではなく無所属候補を応援するのが反党行為であることは言うまでもないだろう。
 しかも、その選挙区は首都東京であり、そして結果的に両候補とも落選したのだから、菅の責任が著しく重いことは明らかだ。元党代表だろうが元首相だろうが関係ない。むしろそうであったが故にさらにその責任は重い。

 離党ぐらい覚悟の上での行動かと思っていたが、全くそんな気はないらしい。

 私は以前、菅が自身の内閣不信任案を否決させたことを評価し、後から彼を「ペテン師」呼ばわりした鳩山由紀夫を批判した。
 それは、東日本大震災からまだ間もない時期の、民主党の党内事情に自民・公明が乗じただけのあのような内閣不信任案に、何の正統性もないと考えていたからだ。
 しかし、今回の選挙での反党行為は、それとは次元が全く違う。
 反党行為は離党した上で大いにやればよいと思うが、彼はそのような「筋を通す」といった美意識とは無縁であるらしい。

 大敗による引責辞任を表明した細野豪志幹事長は、選挙期間中にこんなことを言っていたんだな。最近初めて知った。

政権を獲得した後の民主党は皆さんから厳しい批判をいただき、反省しなければならない状況になった。もう一度、我々は民主党を作り直さなければならない。もう時代は変えていかなければならない。鳩山(由紀夫)さん、菅(直人)さんに頼る民主党、これではもうだめだ。50代、40代の世代が海江田(万里)代表を支えて、先頭に立って頑張っていかないとならない。単に反対するだけでなく、反対するなら政策を提案できるような力をつけなければならない。政策ができる若手議員が必要だ。(大阪府寝屋川市内での街頭演説で)


 そして、23日の記者会見ではこう述べたという。

Q 8月末まで残した仕事をやりたいということだが、そのなかには菅元代表の処分等も含まれるのか。それは今後の党再生にどうつながるのか。

A 含まれる。菅元総理についても鳩山元総理についても、両代表であり、私も世話になった。私が初当選したときは鳩山元代表であり、菅元代表には総理時代も含めて仕えてきたので、いろんな思いはある。ただ、民主党の再生というのは、この二人を乗り越えて行かない限りない。ある種、民主党はスタートの段階でこの二人に頼ってスタートせざるを得なかったが、この二人を越えることなく政権にたとりついたということだ。そしてこういう状況になってしまっているということだ。ですから、この二人を私のようなものが処分するというのは非常につらいし、いろんな思いはあるが、乗り越えて行かざるを得ない。それはやると決めた以上、やりきらなければならないと思う。


 確かに、それぐらいやらないと、民主党にはもう未来はないだろう。

 と思っていたら、24日の常任幹事会では、菅の処分について決定できなかったのだという。
 朝日新聞デジタルの記事より。

海江田民主、決めきれない… 離党勧告を菅氏拒否

 民主党の海江田万里代表は24日、菅直人元首相と会談し、参院選東京選挙区で党公認を取り消した無所属候補を応援したとして、離党勧告した。菅氏は拒否し、党執行部はその後の常任幹事会で除籍(除名)する案を提示。だが、異論が相次ぎ、再協議することになった。海江田氏が処分を断念すれば一気に求心力を失う可能性が出てきた。

■除籍案にも異論続出

 「身を引いていただけないだろうか」。海江田代表は24日、東京都内のホテルで菅元首相に切り出した。だが、菅氏は「そんなつもりはない」と一蹴した。

 党執行部はその後の常任幹事会で菅氏を除名するとした紙を配布。冒頭、海江田氏は「菅元代表と鳩山由紀夫元代表の言動について参院選に影響があることを踏まえ、厳しく対処すべきであるという多くの意見をいただいた」と説明した。菅氏は「党の足並みを乱す状況が全国に伝わってみんなが苦労した。迷惑をかけて申し訳なかった」と謝罪しつつも、「党の方針と違うことは言っていない」と訴えた。

 菅グループの江田五月元参院議長は「首相まで務めた人を東京だけのことで除名するのはいかがか」と主張。長島昭久衆院議員は「代表が離党を勧めたのだから、アクションを起こしてください」と迫ったが、菅氏は「自分から辞める気はない。離党するつもりもない」と突っぱねた。

 常任幹事会は2時間半に及んだが結論は出ず、執行部は配布した紙を回収。週内にも常任幹事会を開き、再協議することになった。


 何やってんだか。

 一方、尖閣諸島(沖縄県石垣市)問題で「中国側からみれば盗んだと思われても仕方ない」と発言した鳩山元首相の処分については、厳重に抗議することを決めた。海江田氏は鳩山氏を離党前にさかのぼって除名することを検討したが、断念した。鳩山氏はこの日、海江田氏に「歴史的な事実に基づいて発言している。歴史を敵に回さない方が良い」と説明する手紙を届けたという。


 歴史的な事実……?

 海江田氏としては、離党した小沢一郎・生活の党代表に加え、党創設者の菅、鳩山両氏を処分することで、世代交代とともに党刷新をアピールする狙いがある。だが、菅氏への厳しい処分を見送れば、代表としての海江田氏の指導力に疑問符がつくのは必至だ。


 海江田だって、議員としてのキャリアは確かに小沢、菅、鳩山に劣るが、旧民主党の結成以来のメンバーなんだし、年齢も64歳と菅や鳩山の66歳とさほど変わらない。世代交代とは言い難いのではないか。

 常任幹事会後、出席者の1人は「今日、決められなかったのは海江田氏には相当なダメージ。党のガバナンスより、党内融和を優先したと国民にみられる。もう死に体だ」と話した。


 もっともだと思う。

 記事によると、常任幹事会では次のような発言があったという。

 海江田代表 菅直人、鳩山由紀夫両元代表に厳しく対処すべきだとの多くの意見を頂いた。

 細野豪志幹事長 菅氏には「あまり目立つようなことはしないでほしい」と注意していた。

 菅元首相 原発政策をめぐり、党の方針と違うことは言っていない。結果として迷惑をかけたことは謝る。自分から辞めるつもりはない。

 小川敏夫氏 常任幹事会の決定を幹事長の一存で一本化に変えるのはおかしい。

 増子輝彦氏 党の創設者に敬意を払うべきだ。

 岡田克也氏 菅氏は処分すべきだが、除籍は重すぎる。鳩山氏は今後も(問題)発言を繰り返しかねない。「今後、鳩山氏の発言は党とは一切関係ない」と(処分案に)付け加えてほしい。


 離党した鳩山の発言がもはや民主党と無関係なのは明らかではないのだろうか。
 この岡田の鳩山と菅への対応の差は興味深い。

 江田五月氏 菅氏に排除の論理を働かせるのは、政党として未熟だ。鳩山氏を処分したとなると、日中関係を損ねる。

 長島昭久氏 そういうことを言うから日中関係が改善されない。菅氏は自分でアクションを起こしてほしい。


 江田の言う「排除の論理」の元祖は旧民主党だ。旧民主党は、さきがけや社民党(旧社会党)の党まるごとでの合流を拒否し、鳩山や菅に賛同する個人が参加するというかたちをとり、さきがけの武村正義代表や社民党の村山富市委員長ら旧世代を排除した。
 「排除の論理」が未熟なら、旧民主党もまた未熟だったということになる。しかし、「排除の論理」があったからこそ、旧民主党は一定の支持を確保し、やがて他勢力を糾合した現民主党となって野党第1党となり、ついには政権を獲得し、江田も参議院議長のポストを得たのではなかったか。
 いままた、再び「排除の論理」が必要な時期が来ているのではないか。

 鳩山を処分することが日中関係を損ねるという発想も理解できない。むしろ鳩山の言動こそが日中関係を損ねるものではないか。

 荒井聰氏 自民党は(分裂選挙を)しょっちゅうやっている。


 たしかに自民党でも分裂選挙はあった。しかし、元首相や元総裁がそれに加わって党勢を損ねたなどということがあっただろうか。

 柳沢光美氏 代表まで務めた人物が選挙に甚大な影響を与えた。責任は重大だ。

 小川淳也氏 海江田氏は参院選敗北の責任をとって辞めるべきだ。代表選をやるべきだ。


 いや、いま代表選をやったところで、果たして誰が立候補するだろうか。
 むしろ、代表は海江田のまま、「排除の論理」による政界再編を進めた方がよいのではないか。

 細野幹事長は、上記の記者会見でこうも述べている。

Q 幹事長の立場をこれから離れることになるが、民主党は解党的な出直しが必要ということだが、離れたうえでどのように寄与していきたいとお考えか。あるいは再編ということも言われているが、そのなかでどういう役割を果たして行きたいと考えるか?

A まず政策的な部分でさらにしっかりとつきつめて行かなければならないところがある。たとえばひとつは経済政策。雇用を増やすということで(民主党政権は)一定の成果があったとは思うが、安倍政権の経済政策に対するひとつの対抗軸になりうるところまでは現在政策ができているかというと十分ではない。ですから民主党が考える経済政策とは何なのか、経済を成長させることが社会保障の充実にも直結するし、若い人たちのチャンスが広がることにもつながるので、その辺りの課題を提示するという取り組みがひとつあると思う。

 あとはこれまで民主党が伝統的に守ってきた政策のなかで変更を迫られるものがあると思う。そのひとつが外国人の地方参政権の問題だと思っているのだが、このあたりについてはもう一度政権をわれわれが目指すときには一定の現実的な変更をしたうえで、再チャレンジすることになるので、さまざまな私なりにいろんなネットワークも使いながら貢献できればと思っている。

 また、自民党が圧倒的な多数を占めるなかで国会・政治がスタートするわけだが、小さくなった野党のなかでどう連携していくかは真剣に考えなければならないと思う。みんなの党や維新を見ていても、皆さんの微妙な立ち位置の違い、そのなかで私どもの考え方と接点のある人たちが見えてきている。もちろん党同士の協力関係を国会でしていくべきだと思うが、個人的に方向性が合っていく人については、いろんな積極的な交流が必要ではないかと思う。これまでは幹事長という立場だったので、その立場で接点を設けてきたが、少し自由に動けるようになると思うので、そこで貢献できれば民主党の今後にプラスになるかと思っている。


 こうした動きに期待したい。

 今は、せっかく「ねじれ国会」が解消されたのだし、しばらく安倍政権の手腕を見守るべきだろう。
 しかし、いずれは自民党がみたび下野する時が来る。それに備えた受け皿はやはり必要である。「確かな野党」などではなく、まともな野党、政権担当能力を備えた野党が。
 民主党政権での経験はその一助となるだろう。
 

朝日社説「選挙と若者―投票すれば圧力になる」を読んで

2013-07-21 14:52:37 | マスコミ
 今日の朝日新聞社説。

選挙と若者―投票すれば圧力になる

 そこを行くリクルートスーツの君。きょうは参院選の投票日だって知ってた?

 まだ内定がとれないんで、投票に行く余裕がない?


 朝日の社説で、中高生あたりに「君」と呼びかけるものは昔からあった。親しみやすさを狙ったものなのだろうが、何とも気持ち悪く感じていた。
 しかし近年、さらに上の、ハタチ過ぎの世代に対してまで「君」と呼びかけるものが現れた。論説委員は中高年なのだろうから、若手社員に対して「君」と呼ぶことはあるだろうが、あかの他人であり読者である成人に対して、いきなり「君」呼ばわりは失礼ではないか。
 内定が取れようが取れまいが大きなお世話だ、馬鹿にしているのかと、私が就活中の身なら思う。

 君が「なんとか、正社員に」って必死になるのは当然だ。就職したとたん、年収は正社員と非正社員との間で平均80万~160万円の差がつき、年齢が上がるにつれどんどん広がる。

 90年代以降、正社員への門は狭まるばかり。最近は大卒男子でも4人に1人は、初めて就く仕事が非正規だ。

 そうなると、職業人として鍛えられる機会が少なくなる。伸び盛りの若いころ、その経験をしたかどうかは大きい。

 「とにかく正社員に」という焦りにつけいるブラック企業もある。「正社員」をエサに大量採用し、長時間のハードな労働をさせ、「使えない」と見切ればパワハラで離職に追い込んでいく。

 「若い頃はヘトヘトになるまで働かされるもんだ。辛抱が足りない」なんて言う大人もいるけど、まったく的外れ。

 非正規もブラックも、若者を単なるコストとして扱う。会社の目先の利益のために。人を長期的に育てていこうという意識はない。

 おかしいよね、こんな人材の使いつぶしが横行する社会は。


 では朝日新聞社は正社員の採用枠を広げてはどうか。
 朝日新聞記者の給与は業界でトップクラスと聞くが、もっと人員を増やして分配してはいかがか。

 高給はそれなりの業務の厳しさの反映であって、朝日新聞も例外ではないだろう。
 朝日新聞社は「長時間のハードな労働をさせ」「「使えない」と見切れば」「離職に追い込んで」はいないのか。
 朝日で定年まで勤める記者はどのくらいいるのか。

 しかも団塊世代と違って君たちの世代は数が少ない。一人ひとりが目いっぱい能力を磨いて働き、望めば家庭をもち子どもを育てられる。そうしないと、日本の将来は危ういに決まってる。声をあげなきゃ。


 声をあげるにもいろんな方法があるだろう。
 しかし、投票に行くことが「声をあげ」ることになるのだろうか。
 私はさっき投票を終えてきたが、それは単に与えられた権利を行使しているだけで、「声をあげ」たつもりはまるでないのだが。
 ブログやツイッターでは、わずかながら「声をあげ」ている自覚はあるが。

 「一人ひとりが目いっぱい能力を磨いて働」かないと、「日本の将来は危ういに決まってる」のか。
 常に100%の能力を発揮していては、その人はつぶれてしまいかねないのではないか。それって社説の言う「ブラック企業」と変わらないのではないか。
 60%ぐらいの能力を発揮して、ほどほどに暮らすという選択肢では、「日本の将来は危ういに決まってる」のか。大変だな。

 こんな試算がある。

 20~49歳の投票率が1%下がると、若い世代へのツケ回しである国の借金は1人あたり年約7万5千円増える。社会保障では、年金など高齢者向けと、子育て支援など現役世代向けとの給付の差が約6万円開く。東北大の吉田浩教授と学生が、45年にわたるデータを分析した。

 もちろん因果関係を証明するのは難しい。でも、熱心に投票する高齢者に政治家が目を向けがちなのは間違いない。


 これは、その調査対象とした45年間がたまたまそうだったというだけで、「因果関係を証明するのは難しい」も何も、因果関係など全くないのではないか。大新聞の社説がこんな疑似科学めいた話をもっともらしく取り上げるのはいかがなものか。

 どの党や候補がいいか分からないし、たった一票投じたって意味ないって?

 こう考えたらどうだろう。政治家は、有権者の「変化」に敏感だ。票が増えれば、そこを獲得しようと動くはず。

 前回の参院選の投票率は、60~70歳代が7割以上、20歳代は4割以下だった。でも低いからこそ上げやすい。上がれば政治家はプレッシャーを感じる。


 とにかく若者の投票率を上げることに意味があるということらしいが、しかし「どの党や候補がいいか分からない」点には何の答えにもなっていない。

 さて、投票に行ってみようって気になったかな。


 この社説を読んで、誰がそんな気になるだろうか。
 むしろ反発を買って投票率を下げやしないか。


辛光洙の釈放を要望した議員は拉致事件を知っていたとの主張について

2013-07-14 20:48:14 | 「保守」系言説への疑問
 2年ほど前にBLOGOSに転載された「辛光洙釈放要望署名をめぐる櫻井よしこのお粗末」という記事に、今月初めに何故か多数のアクセスがあった。
 記事タイトルや私の名などで検索してみたが、理由はわからなかった。
 そのアクセス増とは直接関係ないが、検索の途中で、次のツイートが目にとまった。



 この記事の事実関係に誤りがあるとおっしゃりたいらしい。しかし私には覚えがない。
 このツイートに対して「事実関係に誤りがありますか?」と返信してみたところ、返信であることに気付かず、この方のツイートで現在進行中の話題に言及されたと思われたらしく、トンチンカンな答えが返ってきたので、改めて



と問いかけてみたところ、次のようなツイートが発せられた。













 これらは何故か返信ではなく、独立したツイートだった。会話の流れを表示させたくないのか、はたまた独り言が大好きなのか。

 で、リンク先もあわせて読んでみると、どうも、釈放要望書が出された前年の国会審議で辛光洙による拉致事件が取り上げられているから、署名した議員が知らなかったとは「嘘」だとおっしゃりたいようだ。
 しかし、では前年の国会で取り上げられた事案を、出席した議員は全て記憶していると言えるのだろうか。

 この(バ°△°ロ)--花押 (@abribarreau) という方が「この議事録を自分で調べて読んだのかな」と言う議事録は、2009年11月5日の衆議院予算委員会のものだが、当時野党だった自民党の稲田朋美議員(現行政改革担当相)と千葉景子法相のこんなやりとりがある。

○稲田委員 〔中略〕さて、千葉法務大臣にお伺いをいたします。
 千葉法務大臣は、この拉致実行犯の辛光洙元死刑囚の釈放嘆願書に署名をされたということを聞かれて、拉致問題は国際的にも、私が人権を大事にすることからも、許すことができない問題だ、どういう状況の中で署名したか、経緯は調べている段階だ、本当に、まあ、うかつだったのかなという気持ちはあるとおっしゃっているわけでありますけれども、大臣がこの辛光洙の嘆願書に署名されたときに、辛光洙が拉致実行犯であるということを御存じだったでしょうか。
○千葉国務大臣 私が嘆願書に署名をしたということは、私も調べてみまして、多分そうであったというふうに認識をいたしております。ただ、そのときには、韓国の民主化にかかわる政治犯の釈放をという先輩議員の皆さんのさまざまな活動に賛同して署名をさせていただきました。
 そのときに、そのような辛光洙が含まれているというようなことについては、私も大変うかつであった、不注意であったと思いますけれども、認識はございませんでした。
 以上です。
○稲田委員 辛光洙が含まれていることに気づかなかったという御答弁ですけれども、それはおかしいと思うんですよ。政治犯の釈放、牢獄から出すというその嘆願書の、だれを出すかということに気づかず署名をされているということは私はないと思います。
 また、知らなかったということに関連しましては、この署名をされたのは一九八九年、平成元年のことでございます。そして、それより一年前の昭和六十三年の参議院の予算委員会でこの辛光洙のことが取り上げられております。
 少し読みますと、共産党の橋本議員が、「ところで話は変わりますが、大阪でコックをしていた原さんという人が突然誘拐されたらしくて所在不明になった。」「警察庁、説明してください。」ということについて、当時の局長である城内局長が、「ただいま御質問にありました事件は、いわゆる辛光洙事件というものでございます。」そしてその後、「一九八〇年に、大阪の当時四十三歳、独身の中華料理店のコックさんが宮崎の青島海岸付近から船に乗せられて拉致されたというような状況がわかっております。」それに続けて共産党の橋本議員が、「辛光洙とはどういう人物ですか。」これに答えて城内局長が、「私どもとしては恐らく不法に侵入した北朝鮮の工作員であろうというふうに考えております。」と。
 この時点で、すなわち大臣が署名をされた一年前に参議院の予算委員会で、辛光洙が原さんを拉致した実行犯であり、しかも北朝鮮の工作員であることが明らかになっております。そして当時、大臣はこの参議院の予算委員会の予算委員でいらっしゃいまして、これは昭和六十三年三月二十六日ですが、この日も大臣は予算委員として出席をされているわけであります。
 ですから、辛光洙を知らないとか、そして知らないで署名した、もし知らないで署名したとしても大変問題だとは思いますけれども、大臣が署名されるときには、辛光洙が実行犯であり、そして北朝鮮の工作員であったということは十分御承知のはずであったということを指摘いたしておきます。(中井国務大臣「委員長」と呼ぶ)いえ、結構です、答弁を求めておりません。
 この問題についてはまた御質問いたしたいと思います。


 まず、「事実関係など国会議事録等を確かめてから書くべきだ」の一言だけで、いったい何の「事実関係など」が問題視されているのかを理解し、該当の「国会議事録等」を調べてみよとは、超能力者に対してでもない限り無理な要求ではないだろうか。

 そして、「だれを出すかということに気づかず署名をされているということは私はないと思」う、「北朝鮮の工作員であったということは十分御承知のはずであった」と言ったところで、それは稲田の主張でしかない。「認識はございませんでした」という千葉の答弁を否定する根拠にはならない。

 稲田は弁護士であり、この(バ°△°ロ)--花押 (@abribarreau)という方も司法試験がどうのと語っているところを見るとその種の世界に何らかの関わりがあるのかもしれないが、仮に裁判の場でこの知っていたかどうかという点が問題になった場合、前年の国会審議で拉致事件が取り上げられていたという理由だけで、判決が知っていたと認定するとでも考えているのだろうか。

 中井国務大臣が「委員長」と発言を求めたのはそういった反論がしたかったのかもしれない。しかし稲田は「いえ、結構です、答弁を求めておりません」と逃げている。指摘するだけして反論を許さない、卑劣な手法である。

 「他人を批判するなら、その前後くらい読んだからどうかな」のツイートでは、「その前後」らしきツイートがリンクされている。







 なるほどこれらを読んでいれば、この方の主張したいことはすぐにわかっただろう。
 しかし、「その前後」に目当ての記述があるのかどうかもわからないのに、いちいちそんな手間はかけられない。冒頭で挙げたツイートで明記していれば済むことだ。
 「他人の時間を自分のために使わせて平気」とは自身のことだろう。

 リンクされている「しんぶん赤旗」のサイトには、確かに次のような記事がある。
 これは民主党ではなく公明党の議員を攻撃したものであるが。

“知らなかった”ではすまない

署名の1年前に橋本議員追及

88年3月26日参院予算委 2公明議員が出席

 昨年十月、公明党が北朝鮮による拉致問題で党略的な日本共産党攻撃をおこなってきたのにたいし、本紙は、「『反省』すべきは公明党ではないのか」という根拠の一つとして、韓国に潜入を企て逮捕された日本人拉致実行容疑者の辛光洙(シン・グァンス)とその共犯者の金吉旭らの「釈放」をもとめる要望書に、公明党の六人の国会議員(衆院議員三人、参院議員三人)が署名していることを指摘しました(昨年十月二十七日付)。その後も、十一月二十三日付特集では、六人の署名の写真を付けて報道。「これこそ、拉致問題解決の妨害」と批判してきました。

 公明党はこの指摘に四カ月近くも沈黙していましたが、最近になって“知らないで署名した”といい始めました。「当時は辛が日本人拉致の実行者だとは分かっていなかった」「今から14年前の話であり……辛が拉致実行者であると知っての釈放要望でない」(公明新聞二月十六日付)といっています。

 しかし、辛光洙と共犯者をふくむ「政治犯」二十九人の釈放要望書が来日する韓国の盧泰愚大統領あてに提出されたのは、八九年七月。それより一年も前に、国会の参議院予算委員会で日本共産党の橋本敦議員が辛光洙事件をとりあげていました。この参院予算委員会には、公明党から署名した六人のうち猪熊重二、和田教美の二人の国会議員が出席していたことになっています(八八年三月二十六日、参院予算委員会会議録)。

 原敕晁さんを一九八〇年に拉致した辛光洙について、日本政府は「不法に侵入した北朝鮮の工作員であろう」(城内康光・警察庁警備局長)と答弁、共犯者の金吉旭が七八年に「四十五歳から五十歳の独身日本人男性と二十歳代の未婚の日本人女性を北朝鮮に連れてくるようにという指示をうけていた」(同)ことも明らかにしました。橋本議員は「事実とするならば、恐るべき許しがたい国際的謀略」と批判しました。

 辛光洙事件そのものは、摘発された八五年に「日本人を北朝鮮にら致、韓国、工作員ら3人拘束」(「朝日」八五年六月二十八日付夕刊)と大きく報道されました。そして八八年のこの橋本質問です。

 公明党は、こうした事実の指摘に「反省」しないばかりか、公明党パンフの「公明党は拉致解明にどう取り組んだか」という記事では、一九八〇年の「国会で最初に質問、一貫して努力」といっていたものです。これほど明々白々な事実を知らなかったこと自体おかしな話ですが、だとすれば拉致解明の「一貫した努力」がなかったことを「反省」すべきではないでしょうか。(S)


 しかし、この記事は、「知らなかったこと自体おかしな話」としながらも「だとすれば拉致解明の「一貫した努力」がなかったことを「反省」すべきではないでしょうか」と知らなかった可能性も認めている。見出しも「“知らなかった”ではすまない」と「知らなかった」可能性を全否定してはいない。
 共産党がデマを用いることはしばしばあるが、そんな共産党ですら言っていないことを、稲田やこの(バ°△°ロ)--花押 (@abribarreau)という方は主張しているわけである。

 そして、私は先の記事で「菅、江田、千葉は当時若手議員であり、先輩議員から要請されれば「よく知らずに」署名したとしてもおかしくない」とは書いたが、彼らが実際に知らなかったとは主張していないし、そもそも知っていたか否かを問題視していない。
 辛光洙事件は釈放要望書より前に国会で取り上げられており、署名議員が知らなかったはずはないという主張があることは知っていた。しかし、当時の辛光洙事件の知名度や北朝鮮による拉致事件への関心の低さを考えると、知らなかったという主張も十分説得力があり、知っていたのではないか?という疑問は呈示できても、稲田やこの方のように「“知らなかった”というのは嘘」などと断定できるものでは到底ないからだ。

 それに、この方は「署名議員も出席していて知らぬはずがない」ともおっしゃるが、櫻井よしこが批判した菅直人、江田五月、千葉景子のうち、千葉は確かにこの共産党の橋本敦議員が辛光洙事件を取り上げた1988年3月26日の参議院予算委員会に出席しているが、菅は衆議院議員、江田も当時は衆議院議員であり、この委員会には当然出席していない。この方の論法なら、出席していないのだから知らないことも有り得るということになる。

 「社会通念上政治家として軽率の誹りを免れない」とは私もそのとおりだと思うが、だから何なのだろうか。私は彼らが軽率でないなどとは言っていない。記事本文でも「私は、辛光洙の釈放を求める署名が正しかったと言っているのではない」と明記している。

 「韓国が民主主義国家かどうかなど全く論点が外れている」ともあるが、私は櫻井の文を読んで不審に思ったからあのように書いたまでであり、私の記事の論点はまさにそこにある。彼らが知っていたか否かを論点にしたいのはこの方の勝手だが、私の記事への批判としては的外れだ。
 署名議員が辛光洙について知っていようがいまいが、「民主主義国家である韓国が」云々という櫻井の主張がお粗末であることに変わりはない。

 「事実関係は説明した通り」とのことだが、URLの呈示があるだけで、全然説明になっていない。この方の言う「事実関係など国会議事録等を確かめて」、果たして私の記事のどこをどう修正する必要があるというのか。

 こういった趣旨のことをツイートで尋ねてみたが、以下のような支離滅裂な発言があるばかりだった。



 事実を調べた上で記事を書いています。間違いを示すのは、間違いだと批判する側がやるべき当然のこと。





 「記憶せずとも」……??



 何だか、実際には知らなかったかもしれないが、議事録にある以上は知っていたのと同じだという主張に変わってきていませんか。
 知らなかったとすればそれはあくまで知らなかったのであって、知らなかったのに議事録にあるから知っていたと答えればそちらの方が「嘘」でしょう。



 誰も免責されるなんて言っていませんが。









 よしこサマの御言葉は神聖にして侵すべからず、少々おかしい点があろうが目をつぶれ、口をふさげということですかね。
 この国を中国や北朝鮮のようにしたいのですか。



 その「間違」いとやらを具体的に指摘できないくせに、



 勝手に論点を限定し、それ以外の点は全て無視。その一点だけの正当性を全面的な正当性に拡散する。
 典型的な一点突破主義




 で、一方的に勝利宣言。



 そして拒絶。
 「“知らなかった”というのは嘘」という「憶測」につきあわされているのはこちらの方なのだが。

 さて、最後に、この方が根拠とする、共産党の橋本敦議員による1988年の参議院予算委員会での質問において、辛光洙事件がどのように扱われていたかを検証してみたい。

 橋本議員は、税制改革をめぐる長時間の質問の後、北朝鮮による日本人拉致事件を取り上げる。
 まず、1987年の大韓航空機爆破事件でわが国の偽造旅券が使われた件についての捜査状況を質問し、続いてその犯人である金賢姫の教育係ウネ(李恩恵、のち田口八重子さんと判明)が拉致された日本人であるとされていることを挙げる。
 さらに、北朝鮮によると疑われる4組のアベック拉致事件(うち1件は未遂)を取り上げ、続いて辛光洙事件に言及する。

○橋本敦君 ところで話は変わりますが、大阪でコックをしていた原さんという人が突然誘拐されたらしくて所在不明になった。ところが、この原氏と名のる、成り済ました人物が逮捕されてこのことがはっきりしてきたという事件があるようですが、警察庁、説明してください。

○政府委員(城内康光君) お答えします。
 ただいま御質問にありました事件は、いわゆる辛光洙事件というものでございます。これは韓国におきまして一九八五年に摘発した事件でございます。その事件の捜査を韓国側でやったわけでございますが、私どもはICPOルートを通じてそういったことを掌握しておるわけでございまして、それによりますと、一九八〇年に、大阪の当時四十三歳、独身の中華料理店のコックさんが宮崎の青島海岸付近から船に乗せられて拉致されたというような状況がわかっております。

○橋本敦君 辛光洙とはどういう人物ですか。

○政府委員(城内康光君) お答えいたします。
 本件につきましては、私どもの方で捜査をしたわけではございませんので十分知り得ませんが、私どもとしては恐らく不法に侵入した北朝鮮の工作員であろうというふうに考えております。

○橋本敦君 共犯があると思いますが、共犯者はどういう名前ですか。

○政府委員(城内康光君) お答えいたします。
 共犯者としては、名前が出ておりますのは、同じく北朝鮮工作員の金吉旭という名前が出ております。

○橋本敦君 その金吉旭は、日本女性の拉致という問題について何らか供述しているという情報に接しておりませんか。

○政府委員(城内康光君) お答えいたします。
 この北朝鮮工作員金吉旭が一九七八年に次のような指示を上部から受けておるということを承知しております。すなわち、四十五歳から五十歳の独身日本人男性と二十歳代の未婚の日本人女性を北朝鮮へ連れてくるようにという指示を受けていたということでございます。

○橋本敦君 それらが事実とするならば、恐るべき許しがたい国際的謀略であると言わなければなりません。


 しかし、辛光洙事件についての言及はここまでである。
 続いて橋本議員は、レバノンにおいても北朝鮮によるレバノン人女性の拉致事件が発生したが、結局全員レバノンに帰国できたこと、さらに韓国の映画監督申相玉とその夫人で女優の崔銀姫が北朝鮮に拉致されていた際に、同じく拉致された日本人を見たという情報を挙げる。
 そして、政府側とのこんなやりとりがある。

○橋本敦君 外務大臣、自治大臣にお聞きいただきたいんですが、この三組の男女の人たちが行方不明になってから、家族の心痛というのはこれはもうはかりがたいものがあるんですね。
 実際に調べてみましたけれども、六人のうちの二人のお母さんを調べてみましたが、心痛の余り気がおかしくなるような状態に陥っておられましてね、それで、その子供の名前が出ると突然やっぱりおえつ、それから精神的に不安定状況に陥るというのがいまだに続いている。それからある人は、夜中にことりと音がすると、帰ってきたんじゃないかということで、その戸口のところへ行かなければもう寝つかれないという思いがする。それからあるお父さんは、突然いなくなった息子の下宿代や学費を、いつかは帰ると思って払い続けてきたという話もありますね。
 それから、御存じのように新潟柏崎というのは長い日本海海岸ですが、万が一水にはまって死んで浮かんでいないだろうかという思いで親が長い海岸線を、列車で二時間もかかる距離ですが、ひたすら海岸を捜索して歩いた。あるいはまた、一市民が情報を知りたいというのは大変なことですけれども、あらゆる新聞、週刊誌を集めまして何遍も何遍も読んで、もう真っ黒になるほどそれを読み直している家族がある。こう見てみますと、本当に心痛というのはもう大変なものですね。上海でああいう悲惨な事件も起こりました〔引用者註:この質問の2日前に上海で起こった列車事故で修学旅行中の日本人高校生ら28人が死亡〕けれども、家族や両親にとっては耐えられない思いです。
 こういうことで、この問題については、国民の生命あるいは安全を守らなきゃならぬ政府としては、あらゆる情報にも注意力を払い手だてを尽くして、全力を挙げてこの三組の若い男女の行方を、あるいは恩恵を含めて徹底的に調べて、捜査、調査を遂げなきゃならぬという責任があるんだというように私は思うんですね。そういう点について、捜査を預かっていらっしゃる国家公安委員長として、こういう家族の今の苦しみや思いをお聞きになりながらどんなふうにお考えでしょうか。

○国務大臣(梶山静六君) 昭和五十三年以来の一連のアベック行方不明事犯、恐らくは北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚でございます。解明が大変困難ではございますけれども、事態の重大性にかんがみ、今後とも真相究明のために全力を尽くしていかなければならないと考えておりますし、本人はもちろんでございますが、御家族の皆さん方に深い御同情を申し上げる次第であります。

○橋本敦君 外務大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(宇野宗佑君) ただいま国家公安委員長が申されたような気持ち、全く同じでございます。もし、この近代国家、我々の主権が侵されておったという問題は先ほど申し上げましたけれども、このような今平和な世界において全くもって許しがたい人道上の問題がかりそめにも行われておるということに対しましては、むしろ強い憤りを覚えております。

○橋本敦君 警備局長にお伺いしますが、これが誘拐事件だとして、時効の点を私は心配するわけであります。しかし、今国家公安委員長もお話しのように、あるいは外務大臣もお話しのように、これが北朝鮮の工作グループによる犯行だというそういう疑いがある。これが疑いじゃなくて事実がはっきりするならば、これは犯人は外国にいるという状況がはっきりしますから、その意味では時効にはかからない、そういうことは法律的に言えるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○政府委員(城内康光君) お答えいたします。
 まず、一連の事件につきましては北朝鮮による拉致の疑いが持たれるところでありまして、既にそういった観点から捜査を行っておるわけであります。
 一般論としてお答えいたしますと、被疑者が国外に逃亡している場合には時効は停止しているということが法律の規定でございます。

○橋本敦君 そこで外務大臣、この問題が北朝鮮工作グループの犯行だという疑いがぬぐい切れないわけですけれども、そうだといたしますと、大臣が先ほどからおっしゃったように、誘拐された国民に対する重大な人権侵犯、犯罪行為であると同時に、我が国の主権に対する明白な侵害の疑いが出てまいるわけですね。だからそういう意味では、そういう立場で大臣がおっしゃったように主権国家として断固たる処置を将来とらなくてはならぬ、これは当然だと思いますが、その点については私はもう既に国民世論だと思うんです。
 例えば二月九日の読売新聞は、「日本の浜を無法の場にするな」、こういう表題で、
 とまれ、「李恩恵」という人物についての真相解明を急ぐべきであり、北朝鮮側によるら致が事実とあれば、わが国は北朝鮮に対し、原状の回復を求め、同時に、その責任の所在を明確にするための適切な措置をとることが必要である。
  わが国からわが国民をら致するような国に対しては、それがどの国であれ、動機が何であれ、毅然として対応すべきである。わが国がそのような非人道的無法行為の現場にされるいわれはまったくない。
こう言っておりますし、また同じ日の朝日新聞は、
  事実とすれば、日本の主権にかかわるきわめて重大な事件である。他の国の機関が、日本国内から力ずくで日本人を連れ去るといった理不尽なことが、許されるはずはない。
  日本の警察が北朝鮮にら致されたのではないかとみている三組の男女についても、疑惑は大きく膨らんでいる。
こういうように言っておるわけですね。
 私は、政府として、こういう重大な主権侵害事件として、これから事実が明らかになるにつれて毅然たる態度で原状回復を含めて処置をしていただきたいということをもう一度重ねて要求するのでありますが、いかがですか。

○国務大臣(宇野宗佑君) 先ほども御答弁申し上げましたが、繰り返して申し上げますと、ただいま捜査当局が鋭意捜査中である、したがいまして、あるいは仮定の問題であるかもしれぬ、しかしながら、仮にもしもそうしたことが明らかになれば主権国家として当然とるべき措置はとらねばならぬ、これが私の答えであります。

○橋本敦君 私はきょう、三組の男女、それから未遂事件について被害に遭った人の名前はここでは言いませんでした。警察の方も名前はおっしゃいませんでしたが、しかし捜査はほとんど公開捜査でなされておりますから名前等も明らかですね。また、公開で全国民に協力を呼びかけておられる家族もあるわけです。そうして、家族が一番心配しているのは、いつかこの問題が大きな問題になってくる中で、連れていった先で殺される心配があるのではないかということが本当に悲痛な心配であるんですね。そういうことも含めて私はきょうは名前なしに言いましたが、客観的には氏名等ははっきりしております。
 私はこの問題は、日本国内において断固としてこういった不法な人権侵害や主権侵害は許さない、この男女を救わねばならぬという国民世論がしっかり高まることと、国際的にも相手がどこの国であれこんな蛮行は許さぬ、そして誘拐された人たちは救出せねばならぬ、それが人道上も国際法上も主権国家として当然だという世論が大きく沸き起こりまして、こういう世論の中でこそ、命の安全を確保しながら捜査の資料を次々と引き出し、捜査の目的を遂げ、そして法律的にも事実上もきちんと原状回復を含めた始末をする、こういう方向が強まると思うんですね。隠してはいけない。恐れてはいけない。我が党も、相手がどこの国であれテロや暴力は一切許さないという立場で大韓航空機事件でも対処しているわけですが、そういう立場で、これらの人たちが救出されること、日本政府が毅然とした対処をとることを重ねて要求したいのでありますが、そういう問題について法務大臣の御意見を伺っておきたいと思います。

○国務大臣(林田悠紀夫君) ただいま外務大臣、国家公安委員長から答弁がありましたように、我が国の主権を侵害するまことに重大な事件でございます。現在警察におきまして鋭意調査中でございまするので、法務省といたしましては重大な関心を持ってこれを見守っており、これが判明するということになりましたならばそこで処置をいたしたいと存じております。


 これで橋本議員は拉致問題関連の質問を終え、修学旅行中の日本人高校生らが死亡した上海の列車事故に話題を変える。

 「重大な人権侵害」「毅然たる態度で」と威勢はいいが、ここで語られているのは李恩恵の拉致疑惑とアベック拉致事件である。辛光洙事件ではない。
 金賢姫の偽造旅券行使を捜査せよ、申相玉と崔銀姫を情報収集のため調査せよとは説くが、辛光洙事件については、辛を日本人拉致事件の容疑者として捜査せよと主張するわけでもなければ、北朝鮮に原さんの情報について照会せよと説くわけでもない。単なる北朝鮮による日本人拉致の一例として触れているにすぎない。原敕晁(はらただあき)さんのフルネームさえ述べられていない。
 当時の辛光洙事件の扱われ方とは、このようなものでしかなかったのである。

 この議事録の内容をもって、この委員会に出席し、かつ釈放要望書に署名した議員が「“知らなかった”というのは嘘」と断ずるのは、無理があると言わざるを得ない。

 繰り返すが、だからといって私は、かの釈放要望書への署名を肯定しているのではない。
 安倍晋三首相が2002年に内閣官房副長官だった時、この問題を取り上げて「土井たか子と菅直人はきわめてマヌケな議員」と批判したと聞くが、全くそのとおりだと私も思う。

 しかしそのことと、「民主主義国家である韓国が」云々という櫻井の主張がおかしいこととは全く関係ない。
 そして私は、部分的に正しい主張が含まれていようが、おかしいことにはおかしいと声を上げるべきだと考える。
 何故なら、それが結局はその正しい主張の利益となると思えるからだ。

それは真実かも知れぬ、しかし、いまそれを言うと敵を利するだけである!」。
 今なおそんな論理で左翼の二の舞を演じるわけにはいかない。



憲法96条改正で「魔法使い」に?

2013-07-10 22:18:51 | 日本国憲法
 6月4日付朝日新聞の「天声人語」の前半部分。

 なるほどと思った。先日の本紙「声」欄(東京本社版など)だ。一度だけ魔法が使えるとしたら何をしたいか。小学生同士で話していたら、ある子が言った。「魔法使いにさせて下さいといって魔法使いになる」▼それがかなえば魔法は使い放題、なんでもできる。一同、「すごい」と盛り上がった。これは憲法96条の改正と同じでは、というのが投稿した方の見立てだ。改憲の発議の要件をまず緩めるという主張の危うさを鋭く突いている▼試合に勝てないから、ゲームのルールを自分に有利なように変えるようなもの。何に使うかわからないが、とにかく拳銃をくれ、と言うようなもの。96条の改正を先行させようという発想は、様々に批判される。要は虫がよすぎませんか、と


 全然「なるほど」と思えないのだが。
 魔法が一度だけのはずが使い放題。そりゃあ子どもの話としては面白い。
 だが、発議要件を3分の2から2分の1に緩和するのが、何故「使い放題、なんでもできる」のか。過半数の議員が反対すればできないではないか。
 何故「何に使うかわからないが、とにかく拳銃をくれ」なのか。発議要件がどうあるべきかを、改憲案の内容とは別個に論じることは何もおかしくない。改憲案の内容で一致できなくても、発議要件の緩和で一致することはあるだろうし、反対する議員は反対すればよい。

 「試合に勝てないから、ゲームのルールを自分に有利なように変えるようなもの」
 前にも書いたが、ではその「ルール」は誰がどのようにして決めたのか
 その点を考慮せずに、自らが決めたわけでもない「ルール」を金科玉条のように用いて改憲を牽制するというのも「虫がよすぎ」はしないか。

 件の投書は同じ日の「声」欄に載っていた。東京本社版と私が読んでいる大阪本社版とでは「声」の内容が異なるようだ。
 投稿者は横浜市港区の54歳の会社員とのこと。

96条改定は魔法使いと同じ

 憲法96条を改めることに反対する憲法学者らが「96条の会」を結成した。発起人である有識者の中には、改憲論者も含まれているという。

 私が小学生の頃、一度だけ魔法が使えるとしたら、何に使うかを同年の男女と話し興じたことがあった。「街中を花でいっぱいにする」「すき焼きを毎日食べる」など出尽くした後、利発な子が「魔法使いにさせて下さいといって魔法使いになる」と言った。みんなは「すごい、魔法使いになった後で、どんどん魔法を使えば何でもできちゃうね」と盛り上がった。

 「花」は戦争の放棄をうたった9条、「すき焼き」は個人の尊重や幸福追求権を定めた13条とすると、国会の改憲発議要件を3分の2から過半数に改めようとする96条改定は、さながら「一度だけ魔法が使えるとしたら何に使うか」のクーデターのような答えとして、魔法使いになることと同意に思えてきた。

 おとぎ話ではなく、現実のこと。魔法使いと違うのは、たかが、それだけ。されど、先の大戦を体験した方が語った「戦争なんて、だれも内心は喜んでいなかった。しかし、気がつけば、それが言えない世の中になっていた」との言葉を思い出さずにはいられない。


 96条改定は「クーデターのよう」だとおっしゃる。
 クーデターというのは超法規的に行われるものだろう。
 民主的に選出された国会議員によって、憲法と法律に定められた手続を踏んで発議される改憲が、何でクーデターなものか。

「戦争なんて、だれも内心は喜んでいなかった。しかし、気がつけば、それが言えない世の中になっていた」
 大戦世代からは確かにそうした声を聞く。
 しかし、本当にそうだったのだろうか。それは自らの立場を取り繕うための自己欺瞞ではなかっただろうか。当時のことを自分で調べれば調べるほど、私にはそう思えてならない。

 そして、96条を堅持してさえいれば「それが言えない世の中」にはならないのだろうか。
 ナチスやファシスタ党は、憲法を改正して権力を握ったのだろうか。
 わが国だって、明治憲法の下で政党政治が行われていた時期もあったのに、何故同じ憲法の下であのような軍国主義体制に移行してしまったのか。

 「それが言えない世の中」にしてしまうのは、民主的に選出された国会議員ではなく、選挙の制約を受けない「運動」圏の者どもであるというのが、歴史の教訓だと私は思う。
 96条堅持派の脳天気さには呆れるしかない。