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菅内閣不信任案が否決された件について

2011-06-02 23:57:33 | 現代日本政治
 今朝方、アサヒ・コムでは次のように報じられていた。


不信任案、民主の造反拡大 首相は可決なら解散の意向
2011年6月2日3時0分

 自民、公明、たちあがれ日本の3党は1日、菅内閣に対する不信任決議案を衆院に提出した。2日午後の本会議で採決する。1日夜時点の朝日新聞の取材では、民主党内から小沢一郎元代表に近い62人が賛成を表明し、造反議員数は拡大。不信任案の可否は予断を許さない情勢だ。菅直人首相は不信任案が可決されれば衆院を解散する意向で、民主党は分裂の可能性が高まっている。

 小沢氏と鳩山由紀夫前首相、原口一博前総務相らは1日、不信任案賛成を表明。宮城県にある震災の政府現地対策本部長の東祥三・内閣府副大臣、鈴木克昌・総務副大臣、三井辨雄(わきお)国土交通副大臣、内山晃・総務政務官、樋高剛・環境政務官も1日夕、首相官邸を訪ね、辞表を提出。不信任案に賛成する意向だ。

 首相はここ数日、周辺から不信任案可決時の対応を問われると「衆院解散だ」と明言し、総選挙の準備を指示。一方、国会延長を求める党内の声に配慮し、1日の党首討論で「通年国会を含め、国会延長を考えたい」と表明した。6月22日までの会期を年末まで最大180日程度延長する構えで、第2次補正予算の成立に意欲を示したものだ。首相は2日、党代議士会に出席予定で、政権運営への不満を直接聴き、不信任案の否決も求める。

 朝日新聞は民主、国民新両党と与党系無所属議員の計314人のうち、首相や民主党執行部に近い96人を除く218人を対象に不信任案への賛否を調査し、194人が取材に応じた。それによると、1日夜の時点で「賛成」が62人。態度を明らかにしなかった議員のうち、小沢氏に近いとされる議員が10人以上おり、賛成に回る可能性がある。

 小沢氏は1日夜、自らの議員グループの会合に出席。その後、記者団に「国民が支持した民主党のあり方に戻さなくてはいけない。明日の本会議で、そう対処しようと同僚と話し合った」と述べ、不信任案への賛成を表明。「我々の意思が国会で通ると思っている」と可決に自信を見せるとともに、「危機の時こそ強力な政権と指導者が必要だ」と強調した。会合には71人が集まったという。

 鳩山氏も1日夜、東京都内で記者団に「不信任案が出た場合は賛成する。その前に首相には自発的に辞めてもらう努力もする」と語った。ただ、鳩山氏のグループは幹部間で意見が分かれ、自主投票となった。



 不信任案が可決される可能性も否定できない状況であった。
 だが、今日の正午から行われた民主党代議士会で流れが変わった。
 菅首相は次のように述べたという。時事ドットコムから。


代議士会にもっと頻繁に出て、皆さんの声を直接聞くべきだったが、この間それが果たせなかったことをおわびしたい。東日本大震災の中、野党から私に対し内閣不信任決議案が提出された。私に不十分なところがあったことが、こういう中でも不信任案を出すということにつながったと受け止めていて、私の不十分さについて大変ご迷惑を掛けることを、改めておわびしたい。
〔中略〕
 今回野党から不信任案が提出されることになった。私は皆さんの前で三つのことを目標として行動していくことを申し上げたい。
 一つは言うまでもなく、大震災、原発事故は継続中だし、復旧・復興もこれからより本格化する。全身全霊、最大限の努力をする。当然のことだが、このことをまず国民の皆さんに改めて約束する。二つ目はこの民主党を決して壊さない、壊してはならない、そういう根本に立って行動することを約束したい。三つ目に、今のわが党中心の政権を自民党に戻すことのないようしっかりと対応していく。この三つのことを行動の基本に置いて進めていくことを皆さんの前で約束する。
 そしてこれからの復旧・復興の中で、野党から「お前が首相では物事が進まないので、その地位を外れろ」と強い指摘をいただいている。総理大臣という重い立場に就いたときに最も強く感じたのは、その立場に立ってその責任をしっかり果たしていかなければならない(ということだ)。今日も感じている。
〔中略〕
 これまで先送りしてきた課題に取り組みたいと国会で申し上げてきたが、この大震災が生じた中で、まず最優先でこのことに取り組むことを当然のこととして取り組んできた。私として、この大震災に取り組むことが一定のめどが付いた段階で、私がやるべき一定の役割が果たせた段階で、若い世代の皆さんにいろいろな責任を引き継いでいただきたい。この大震災、原発事故に対して一定のめどが付くまでぜひとも私にその責任を果たさせていただきたい。
 そのためにも野党の不信任案に対し、民主党衆院議員の皆さんの一致団結しての否決をぜひともお願いする。民主党が壊れることなく、自民党に政権が移ることがない、そうした道筋を歩み、一定のめどが付いた段階での若い世代への引き継ぎを果たして、次の時代をその中から、ぜひとも民主党が責任を持った政党として、国民の皆さんの理解を改めて築き上げていただきたい。
 そのことが、国民が政権交代の時に期待されたこと、そして被災地の皆さんが望まれていることにつながると考えている。どうか私の心情をくみ取り、一致団結の行動で不信任案を否決していただけるよう心からお願いする。



 これを受けて、鳩山由紀夫や原口一博は不信任案反対を表明し、また小沢一郎も側近に自主的判断で良いと語り、小沢のグループは反対する方針を決めたという。
 鳩山は代議士会直前に菅首相と会談しており(岡田克也幹事長が同席)、退陣時期について何らかの合意があったようだ。

 結局、不信任案は、賛成152票、反対293票で否決された。
 民主党・無所属クラブの衆議院議員のうち、松木謙公、横粂勝仁の2人は賛成。小沢一郎をはじめ石原洋三郎、内山晃、太田和美、岡島一正、笠原多見子、金子健一、川島智太郎、木内孝胤、黒田雄、古賀敬章、瑞慶覧長敏、田中真紀子、三宅雪子、三輪信昭の15人は棄権した。
 また、共産党の9人と社民党の6人は全員棄権。国益と国民の生活を守る会の小泉龍司、無所属の石川知裕、佐藤夕子も棄権した(投票結果はアサヒ・コムから)。


 結局のところ、これはチキンレースだったのかもしれない。
 鳩山にしろ原口にしろ、民主党を割って出るほどの覚悟はなかったのかもしれない。
 「壊し屋」小沢一郎には、もしかするとあったのかもしれないが、しかし割って出たとしてもその後の展望が開けない現状では、小沢一人ならともかく多数の議員に責任を負う身としては、やはりためらわれたのかもしれない。
 彼らの期待は、内閣不信任決議によって、あるいはその可能性をちらつかせることにより、菅内閣が総辞職することにあったのだろう。解散総選挙など彼らは望んでいなかった。今の情勢で総選挙などできるはずがない、総辞職しかないと踏んでいた。
 しかし菅は、不信任案可決なら解散総選挙との姿勢を崩さなかった。
 そして、投票直前になって、「一定のめどが付いた段階で」退陣すると表明した。
 鳩山、原口、小沢らは、時期は明確でないものの退陣を表明したことをもって菅の譲歩と見なし、党内融和を優先させて不信任案反対あるいは棄権に転じた。

 仮に彼らが何が何でも菅内閣を退陣に追い込みたいのなら、こんな曖昧な退陣表明はごまかしでしかないと、毅然として不信任案に賛成すべきであったろう。
 そうしなかったのは、彼らもまた、民主党が多数を占める衆議院の現状に基づいての政権たらい回しに期待しているからだろう。
 菅首相の粘り勝ちと言えるだろう。
 今日の朝日新聞夕刊によると、近い将来に退陣するとの表明で造反を抑えるとの案は、1日夜に岡田幹事長や枝野官房長官らによって決められたのだという。
 朝日は、

首相は復興に充てる第2次補正予算に意欲を示しており、編成のめどとする8月ごろまでは少なくとも続投する考えを示唆したものとみられる。


との見方を示しているが、私は菅がそんな具体的なことまでいちいち考えているかどうかも怪しいものだと思う。どうにでも解釈できる、玉虫色の表現だろう。
 私は震災後も、そして震災前も、菅内閣をそれほど評価していないが、今回の不信任案への菅の対応には「やるな!」と唸らされた。
 わが国には珍しい、政治的人間だと思う。
 所詮、自ら望んで政治家になったわけでなく〔註〕、困難にぶつかれば容易に投げ出してしまう(あるいは投げ出そうとすることにより打開を図る)鳩山や小沢とは違うのだ。

 政治的人間だからといって、良い政治ができるとは限らないが。

 今回最もバカを見たのが自民、公明、たちあがれ日本の3党だろう。
 再び不信任案を提出することは容易ではないし、退陣時期をめぐって民主党内ではまた争乱が起こるかもしれないが、野党はいよいよ蚊帳の外だろう。
 石破茂政調会長なんかは、小沢や鳩山よりは菅政権との連携を志向していたようなので、むしろホッとしているかもしれないが。
 石破の5月20日のブログから。
 
 いつも申し上げることですが、このような事態を引き起こした責任の多くは我々自民党にあります。民主党が素晴らしいから政権交代が起こったのではなく、自民党が駄目だったので負けたというのがことの本質です。
 「子ども手当は二万六千円、高速道路も高校もタダ、農家が損をしたら所得補償、普天間基地は国外移設、最低でも県外移設」などという、国民を愚弄しきった小沢・鳩山両氏の責任が極めて重大であることは言うまでもありませんが。

 不信任案を出すべきだ、その決意が足りない、とのご指摘も多く戴きますが、ただ決意の表明として不信任案を出しさえすればそれでいいというものではありません。否決されれば内閣は信任されたことになってしまうのです。どのようにして過半数を確保するか、仮に小沢・鳩山両派と組んで可決したとして、その後の展開はどうなるのか、その構図が描けずして、ただ出せばいいとする立場には立てません。
 今月の文芸春秋にも書いておきましたが、極めて難しいことではあるけれど、菅内閣を支える立場に居る人々が呼応してくれなくては展望は開けない、と私は思います。
 小沢・鳩山両派が、中間派も巻き込んで不信任可決に必要な数を集めた、との怪情報が最近飛び交っていますが、相当に眉唾物です。



〔註〕(2011.6.26付記)
 「所詮、自ら望んで政治家になったわけでなく」と書きましたたが、父の死去に伴い地盤を引き継いで立候補した小沢はともかく、鳩山は父や祖父から選挙地盤を直接引き継いだわけではなく、望んで政治家になったのだろうから(小沢だって望んでいないとは限らない)、この表現は不適切でした。
 私が言いたかったのは、小沢や鳩山が政治家になろうと思えば比較的容易にそれを実現できる立場にあったのに対して、菅は何もないところから出発し、ついに首相の座を射止めるに至った、その権力への意志は本物だろうということです。


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