遅いことは猫でもやる

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市塵(しじん)・のぼうの城

2011-10-12 15:11:08 | 雑感
読後感想二題

前書は、藤沢周平著の6,7代将軍に仕えた,儒者新井白石の勤務ぶりを描いたもの。
5代将軍綱吉の悪政の遠因となった、羅山創設の林家の指導方針を、転換させる
苦労の道筋を辿っている。

綱吉が退き、家宣が就任したのを機に、朋友・間部詮房と共に、改革を行う様を
几帳面に記している。
役所、政治を変えるということは、かなり抵抗があり、現在の勢力(既得権者)から陰に陽に抵抗を受けるのは現在も同じである。

小説の主人公であるから、勿論かなりの脚色はあると思うが、国を思う心、筋を
通す気持ちなどがよく描かれている。例えばこの時代、朝鮮からの使者を迎える儀式などを、長年の慣例を破り、対等にすることなど、平時に乱を起こすに等しい。
新井白石が、純粋に学問の領域に留まらず、現実社会の改変を試みる、という大志を英明君主の家宣を通じて行う、有様がよく描かれている。

米沢藩主上杉鷹山の改革を描いた、「漆のみのる国」の時も感じたのが、藤沢周
平は、エンタテイメントに偏ることなく、淡々と記述する。それが好ましい信頼
感を醸成している。

8代将軍吉宗に代わり、白石は権力の場から遠ざけられるが、また林家が重用さ
れるのを知ると、世に名君とうたわれる吉宗も案外かな、と思ってしまう。


「のぼうの城」和田竜著 小学館文庫刊 ご存知、戦国エンターテイメント。本屋
が薦める本第二位、野村萬斎主演で映画化もされた、ベストセラー。
息子が米国出張の際、飛行機の中で読んだら面白かったよと渡してくれたもの。

戦国末期、武州・忍城の攻防を題材とし、秀吉配下の石田三成が、関東の北条一
族の支城を攻める有様を描く。攻める三成軍2万、守る成田軍僅か500。
忍城は、かって上杉、武田の猛将も攻めあぐんだと言われる天下の堅城である。

そこを、大軍を率いる三成は、高松攻めで秀吉が行ったような水攻めで落とそう
とする。
守る、成田軍の城代に、「のぼう様」と呼ばれる大男がいる。不器用そうで、行
動も鈍い。喜怒哀楽もはっきり表さず、周りの空気も読めない。「でくのぼう」
の「でく」をとってのぼう様と呼ばれている。彼は面と向かってそう呼ばれても、嬉しそ
うに笑うだけ。

この男が合戦の時には大活躍をする。周りを取り巻く家臣や、女性たちにも面白
いキャラクターの人間を配して、こちらのほうは豪華である。合戦の時のスペク
タクルは血沸き肉踊る。
ボーとしていて、とらえどころのない男が、存亡の危機を救う。しかも本質をつ
いて。大体日本人は「小よく大を制す」というのが好きだ。相撲も柔道もそれが人気を呼ぶ。桶狭間の合戦もそうだ。しかもうすのろみたいな主人公が大活躍する。
というシチュエイションがうまくできている。勿論全くの創作ではなく、史実を
踏まえた小説だ。
この小説の下巻198頁に新井白石の「藩翰譜」が一行引用されている。ここで出
てくるのも何かの縁であろう。


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