奈良

不比等

古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その540)

2018-02-15 08:15:00 | 奈良・不比等
「ひと呼んでミツコ(姫野カオルコ著・集英社文庫2001刊)」を読んだ。「ひと呼んでミツコ」は、姫野カオルコのデビュー作であり、1990年に講談社より単行本として刊行され、1993年には講談社文庫本としても発刊されている。極めてデビューが急だったのか、姫野カオルコが徐々に有名になった段階で、再度の文庫化が集英社によりなされたのだそうである。「ひと呼んでミツコ」はその意味で、姫野カオルコの持ち味を十二分に発揮した作品と云える。処女作にして完成品と云おうか、後の作品に決して負けていない迫力が感じられる。------
主人公のミツコは三子(みつこ)と漢字が当て嵌(は)められて、ヨーロッパの有名なゲランの香水(MITSOUKO・ミツコ)からの由来と書いているのも、私立薔薇十字女子大英文科在籍とあるのも出だしから怪しいのであるが、とても漫画的に不思議な事が次々に起こる場面展開が読んでいても痛快と云うか、矢張り漫画チックというか姫野カオルコの小説世界に読者は引き摺(ず)り込まれてしまうのである。------
姫野カオルコ(ひめのかおるこ1958生れ)は青山学院大学文学部(日本文学科)卒であり、「ひと呼んでミツコ」発刊の1990年と云えば未だ弱冠32歳である。学生時代より出版業の裏方のリライト作業とか雑誌ライターなどのアルバイトをして、実力を蓄えたのであるようで、その後は幸運にも次々と作品を送り出してそれなりのファンも付いて何回も直木賞にノミネートされるが5回目にして「昭和の犬(2013刊)」により直木賞(2014)を受賞する。-----
結局、この「ひと呼んでミツコ」は姫野カオルコの学生時代を私小説化した作品と云えるし、「昭和の犬」や「近所の犬」もその後の姫野カオルコの日常をデフォルメした私小説である。それにしても誰でも日々を送っている訳であるが、それを人に読ませる作品に仕上げる力量は私小説家と云えども立派の一語に尽きると思う。
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