Entrance for Studies in Finance

地球終末論の描き方

地球の終末をいかに描くか

映画の中で地球は何度も終末を迎えた。Rolland Emmerich監督のIndependence Day(1996)では宇宙人に侵略され、Mimi Leder(1954-)監督のDeep Impact(1998)Michael Bay(1965-)監督のArmagedon(1998)では小惑星が地球を襲った。でついにArnold Schwarzenegger主演のEnd of Days(1999)では悪魔がやってきた。世紀末にこれらの終末思想映画が集中して製作されたことは終末思想あるいは終末信仰apocalypticismとの関係も考えられ興味深い。このような映画は終末思想による映画apocalyptic filmsと呼ばれる。なお終末思想を研究する学問が終末理論あるいは終末学eschatologyである。
一つ特徴的なことは、これらの映画で地球の終末をもたらす原因がいずれも地球の外にあることだ。地球終末論の中には、もともと地球の自然現象や、人類の営みに終末が到来する原因があるという考え方がある。にも関わらずこの時期の終末論がいずれも、地球外部からの襲撃や脅威であることはとても興味深い。外部から脅威がくるということは、その発端や発生については、止めようがないということを意味している。
 しかしもう少し考えるとそれらの原因にも違いがある。小惑星が落ちてくるというのは、言い方は悪いが確率論的に議論できる問題かもしれない。これは災難であるから、これに巻き込まれるかは運命論的な話である。これに対して、宇宙人が襲来するとか、悪魔がくるというのは、人類以外の地球外にある「意思」に原因がある。おそらくそれは人類にとっては悪で邪悪な意思ということになるだろう。
 しかしそれだけでお話が終わると人類は滅びてしまうので、映画ではそれぞれ人類が、この災難や試練に立ち向かう姿が描かれる。そして後者では、邪悪なものと人類はいかに戦うかという聖戦が問題になり、前者では、人類というのは自分に与えられた運命を「試練」として乗り越えてゆくのものだという議論が描写されてゆく。
 これらの中で映像としては、米国東海岸を襲う大波の中に娘と父親が和解のうちに飲み込まれるDeep Impact(1998)の1シーンには余韻が残る。
 ところで地球上に残るクレーターから、小惑星の大規模な衝突が実際に何回かあったことは確認されている。なかでも6500万年前、恐竜絶滅のきっかけになったとされる衝突のお話は有名。ただすでに発見されている小惑星が地球に衝突する可能性は計算上ないとされており、あるとすれば未知の小惑星によるものとなる。
 なお天球であまり位置が動かない星を恒星といい、位置が動くものを惑星という。太陽は確かに位置は動くけれど恒星fixed starsと考えられ、惑星planetは恒星の周りを公転しているrevolve。太陽の惑星としていわゆる水金地火木土天海冥がある。このほかに太陽系だけでも数十万といわれる小惑星がある。小惑星のうち尾をもつものが彗星cometである。

   Impact (2008)というテレビドラマシリーズはまさにDeep Impactの小型版。月が彗星の直撃を受けて、軌道を変え、地球に迫ってくるというお話。地球を救うために月に行って、コアに向けてミサイルを撃ち込むのはArmagedonと似た展開。moon panicとして日本でも放映されたようだ。
 終末論には、大きく分けて地球の外から終末がもたらされるというものと、地球の中から、もたらされるというものがある。そして地球の中からもたらされるものも、人間の関与できない自然現象によるものと、人間の活動が原因とするものとがある。
 2000年代に入ってからの映画にも触れようか。たとえばThe Core(2003)は地球の地軸の回転がとまりかけ、様々な異変が続くなか科学者が地球の回転を取り戻すため地中に向かうというもの。小惑星の議論と同様に人間が関与できない自然現象による地球終末論といえる。
 これに対して、Independence Dayの監督EmmerichによるThe Day after Tomorrow(2004)は地球温暖化による寒冷化に注目したもの。地球温暖化は人間の生産・消費活動の結果とすれば、これは小惑星の衝突よりは現実感のある話である。北極や南極の氷が解けて、極地周辺の塩分濃度が下がることで深層海流を下に押し下げる力が弱まり、熱帯からの深層海流の流れが弱くなることで、地球が全体としては寒冷化するというもの。文献のなかには氷が解けることによる水温の低下がむしろ問題だという説明もみられる。
これに似た説明は、環境問題に取り組むAl Goreの活動の記録といえるAn Inconvenient Truth(2006)にも出てくる。An Inconvenient Truthは、地球温暖化問題ですでに温暖化の事実については専門家の意見に分裂はなく、その危機感は共通したものであること、地球温暖化の背景には、世界人口の爆発があり、結果として気温の上昇がもたらす、旱魃、水害、などの異常災害、水位の上昇による水没、氷河や凍土が無くなることによる被害などの災害・災難を次々と描き出している。
 このような人間の営みによる地球消滅論は、かつて核戦争の想定に絡んで沢山作られたのであるが、地球の外から脅威がもたらされるという消滅論に比べて、人間が賢明であれば、消滅を避けられるというメッセージを伝えている。
 The Day after Tommorow(2004)の冷気によってすべてが急激に凍りつく描写は迫真に迫るが、長期的な地球寒冷化は可能性のない話ではない。異常気象の頻発に見られるようにこの話には現実感がある。映画の中で米国民や米政府が、メキシコに避難するというのはユーモアだが。地球温暖化の原因として大気中の二酸化炭素やフロンなどが産業革命期以降急増したことによる温室ガス効果が一般には指摘され、その排出量の削減が課題になっていることにこの映画は対応している。
 1997年に京都で行なわれた国際会議でこのような地球温暖化の原因となる物質の排出量を先進国全体で2008-2011年の間に1990年あるいは1995年を基準に5%削減する国際条約が締結された。ところが同条約に批判的だったアメリカは2001年3月一方的に離脱を宣言し、同条約の発効は危ぶまれた。しかし2004年12月にロシアが批准したことで条約発効の条件(55ケ国以上、排出量で55%以上)が満たされ同条約は発効した。2004年5月末から6月にかけて全世界で一斉に公開されたThe Day after Tommorowが温暖化問題への警鐘の大きな役割を果たしたと私は考えている。 これと対比すると小松左京原作の『日本沈没』は小松が長期間かけて執筆した小説を映画化したもので最初の映画化は1973年末に守谷司郎監督で東宝が行い大ヒットした。そのリメイクが2006年夏に東宝ーTBS作品として樋口真嗣監督、特撮監督神谷誠で発表された。CGの稚拙さはあるが地下マグマの流れが日本を沈没させるというお話は、壮大で不条理であり今みてもおもしろい。
 しかしThe Day after Tomorrowが世界の終末を描いているのに、日本沈没が新作でも日本だけの沈没を描いているのが、日本人の精神構造を示しているようにも感じられる。問題をグローバルな視点から描いていないのはグローバルな公開を前提にしていないことの裏返しでもある。そうしたスケールの小ささは気になる。そして再び、人類の外からもたらされる消滅論である。その二つの点でこの2007年のリメイクは、消滅論のトレンドを十分計算していないといえる。
他方で外部からの脅威という描き方は、健在でSteven Spielberg監督 Tom Cruise主演のWar of the Worlds(2005)などは、まさに宇宙人による襲撃説。このような外部襲撃説の復活には2001年9月の同時多発テロが影響しているとされるが、原因が外にあるのか内部にあるのかは永遠のテーマなのかもしれない。
ところでWill Smith主演のi am legend(2007)は新しいタイプの地球終末論。Richard Mathesonの同名の小説(1954)の映画化。それも1971年のThe Omega Man以来35年ぶりの再映画化である。ガンを克服するためのワクチンが人間を凶暴な怪物に変化させ、そのウイルスが伝染して人類が存亡の危機に瀕するという設定。1971年の映画化では細菌戦争により人類が存亡の淵に立つという想定だったが、今回の2007年の映画ではガン克服という人類的課題の挑戦が結果として人類存亡の危機を生むという想定。ガンの克服が時間の問題だという予見とも絡みこの想定は興味深い。これも原因は人間の誤った判断にあり危機のとらえ方はやはりグローバルである。
Matt Reaves監督のCloverfield(2008)は主人公たちの視角にこだわること(Home Videoで写した映像が多用される)で、部分的な状況しかわからない恐怖を描いている。NYを怪獣が襲ったことはわかるが、なぜどうしてといったことはわからない。
 どういう終末論のシナリオを描くかは、その人の社会観の反映であるが、それがその時代に雰囲気と共鳴し、世界中の多くの人に共感をもって受け止められるかが大事なのではないか。

You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
back to the top
original in March 2008
reposted in June 2013

cinema reviews in Japanese 映像論
電磁波と宇宙空間のゆがみについて
怪獣からtransformerへの展開
ハリウッドが描く日本そしてアジア
俳優と脚本how to select a munuscript
アメリカン・コミックのヒーローたち
Lions for Lambs (2007) and professor's office
Cloverfield and Vantage Point
DRM free music
from android to clone
from product placement to branded entertainment
SNS (ex.MySpace): video hosting serivice (ex.YouTube): virtual world
(ex.SecondLife)

free video lectures through internet



名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Cinema Reviews」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事