right time right place

「正しいときに、正しい場所にいる」

うれしいことや、いやなこと。
なんでもとりあえず、必然だと思ってみる。

供養の身振り。

2013-12-14 09:12:21 | 日記


友だちが舞台に出ると言うので、見に行ってきました。


普段何気なく接している友だちを観客席から眺めるのって、なんだか変な感じのするものです。
クラスメイト(なんだか甘美な響きですね)が部活動に精を出す姿を見ているのに似ているかもしれない。
教室では見せることのない表情なりがそこにはあり、
「ああ、この人はここにじぶんの生の輝きを見出しているのだな」という感慨に浸ってしまいます。


太平洋戦争末期における特攻隊基地が置かれた町の食堂を舞台にした作品でした。
食堂を営む女性が隊員たちと親交を深め、終戦後も彼らの想いを語り継ぐという形式。
ぼくだけかもしれませんが、こうした「戦争もの」って、どうしても夏に見るものって感じがしませんか。
沖縄戦とか、原爆投下とか、南太平洋の島々とか、そうした暑さを連想させるキーワードがあの戦争のイメージを形成しているんでしょうね。
セーターを着込んで見るこの手の作品は、それだけでなんだか変に新鮮に思えたものでした。



しかし、この「戦争もの」作品というのは、考えてみると不思議な成り立ちのし方をしていますね。



ほとんどの場合、映画や演劇といった芸術作品は、ある種の虚構を提供するものです。
それがフィクションであれ実話に基づくものであれ、そこにはぼくらの知る現実とは毛色のちがった、
柿ピーにおける柿の種とピーナッツみたいに混じり合って存在している希望と絶望のどちらかを引き延ばしたような、
ある種の非現実性に満ちた物語が演じられていて、
ぼくらはそうした「ひょっとしたら現実になり得るかもしれない非現実」を楽しむために切符を買って劇場に足を運ぶのだと思います。


しかし、ことに「戦争もの」に関して言えば、そこに虚構の混じり込む余地はほとんどありません。
それが扱う題材はあまりにも強固な現実であり、改変はおろか、解釈の変更さえも容易に受けつけない、そのような性質のものであるからです。
そこでは日本は何度戦ってもアメリカに負け続け、特攻隊は例外なく出撃のときを迎え、多くの涙が常に流されています。


だからそれらは、エンターテイメントとして享受されるにはあまりに筋が見え過ぎており、
どう転んでもハッピーエンドを期待できるものではなく、
終演後同行した友人とビールで乾杯しながら語り合えるような作品になることは難しいのです。



けれども、「戦争もの」がもつその特異な性質は、決してその作品的価値を減じるものではありません。
むしろその反対で、誤解を恐れず言えば、ぼくらはそれらの作品に、ある種の予定調和さをこそ求めていると言えるのではないでしょうか。
ぼくらはそこに日本がアメリカに負け、特攻隊が出撃し、多くの涙が流されるような展開をこそ希求している。
ぼくらがそこで見たいのは、幾度となく繰り返されてきた、そうした種類の物語なのではないか。


仮に、かの戦争で日本が勝利し、ニューヨークのキャバレーを日本人将校が闊歩するような物語が制作されたとして、
それは虚構としてのエンターテイメントとしては大変興味深い作品になり得るにしろ、
それが多くの共感を得て愛される作品になることはあまり想像できません。


ぼくらはそれよりも、ぼくらの先達が体験した悲劇的現実をそのままに伝えてくれる、そのような物語をこそ見ていたいのではないでしょうか。
それがいかに救いのない物語であれ、重苦しい気分を不可逆的に運んでくるものであれ。



それはおそらく、あの悲劇的現実の中で尊い命を落とした彼らに向けた、供養の身振りなのだと思います。
死者を弔うこと。
それはきっと、彼らの残した声に耳を傾け続け、不完全を承知でそれらを代弁せんと努め、その不可能さに打ち震える、
そのような態度をとり続けることなのだと思います。


死者の供養は、人間の歴史と同じくらい古い行動様式とされています。
旧石器時代にもお墓に類するものは存在していました。
今のところ、死者を供養する習慣をもつ動物は人間だけであるとされています。
死者に対するこうした態度こそ、ぼくたち人間を人間たらしめている根本的性質であると言っても言い過ぎではないのでしょう。



死者を語り継ぐこと。
それが持つ重要性について、今のぼくはしっかりとした質量あることばで語ることができません。
けれども、それが大切なことであるということは、なんとなくわかる。
そして、それを大切と思う人の数は、決して少なくない。
だからこそ、戦争を題材にしたこうした作品が繰り返し制作され、深い感動を持って迎えられ続けているのでしょう。
このことは、ある種の希望にまっすぐ通じているのかもしれません。



MOTHER~特攻の母 鳥濱トメ物語~」という舞台です。明日までやってます。




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