愛国的フィギュアスケート

羽生結弦とロシア女子を中心に

来季以降、4回転Jumpの基礎点減なら、どうなる?

2017年08月27日 | ルール改定
17/08/26 21:24 時事 4回転ジャンプの基礎点減へ=芸術性とバランス、来季から―フィギュアスケート 
https://www.jiji.com/jc/article?k=2017082600576

> フィギュアスケートの採点で技術力と芸術性の評価を均衡させるため、
 国際スケート連盟(ISU)がジャンプで最も難易度が高い4回転の基礎点を下げる方向で検討していることが26日、分かった。
 平昌五輪後の2018~19年シーズンからの改定へ向け、2018年の総会に諮る見通し

  原案で基礎点の下げ幅は2点以内。実地で検証し、細部を詰める。
 4回転の基礎点は現行でアクセル(4回転半)が15点、ルッツが13.6点、フリップが12.3点、ループが12点、サルコーが10.5点、トーループが10.3点。
 男子は4回転の種類、数がともに増え、表現力や芸術性を評価する演技構成点に比べてジャンプなど技術点の比重が大きい。
 基礎点改定について、関係者は「(芸術や表現との)バランスのいい選手が勝てる競技でなくてはいけない」と述べた。

 ISUは4回転の基礎点を下げる一方で、ジャッジが技を評価する出来栄え点(GOE)を拡大し、最高を3点から5点に引き上げる方針。
 技術点の高騰を抑えながら、質の高いジャンプを評価する狙いがある。 



 17 JGP(豪)の閉幕の陰に隠れて、このようなニュースがあったのを、後で知りました。皆さん、一読してどう思われますか? 
ちなみに、現時点で、国内メディアの後追い記事はなかったですね。
以前、「フィギュアスケートをテクニカルとアーティスティック部門に分ける」といったニュースが国内メディアからありましたが、その後追い記事はトーンダウンした内容になっていました。
 なぜ、こうした内部リーク的なものが、日本メディアから頻繁になされるのか。
世界で最も購買力があり、フィギュアスケート人気が高い日本のファンの反応を最初に探っているのでしょうか。


 ではまず、その変更の意図を探る前におさらいが必要ですね。
来季(2018-19)以降、フィギュアスケートのルールに変更に複数の提案がありましたね。


1.男子FPのJumpエレメンツの数 8→7つ。演技時間も減らす。

2.演技審判が判定した評価に掛ける係数を増やして、最終的な演技構成点(PCS)を技術点(TES)と同等のバランスの取れたものにする(と言った趣旨)。
 個人的に係数は、1.2倍/2.4倍が適当と思われます。

      SP   FP
私案1 1.20倍  2.40倍 2015年12月GPFで羽生結弦が出したFPのJump構成(*1)での得点を考慮すれば、現行Max50Pに*1.0倍、*2.0倍を、*1.2倍、*2.4倍に引き上げる。
私案2 1.25倍  2.50倍 2017年3月WCで 羽生結弦が出したFPのJump構成(*2)

(*1)現在の中位選手でも実現可能な四回転Jumpを2種類で3回跳ぶ構成。            TES 120.92 / PCS 98.56 TES/PCS=1.226866
(*2)4Lo以上の四回転Jumpを跳べないと実現できない、四回転Jumpを3種類で4回跳ぶ構成。TES 126.12 / PCS 97.08 TES/PCS=1.299134 PCSが過小評価。15GPFと同等なら1.279626。
  注:四回転2種類でも4回跳ぶ構成は可能だが、かなり歪な構成。

 現状、「TES>PCS」で、感覚としてはTESが若干上回っても問題ないですが、「PCS>TES」だと問題ありますね。


3.GOEの多段階評価を増やす。(現行7段階をより細分化)

 現状、何段階になるのか分かりませんが、羽生結弦の3A[基礎点 8.5/9.35]を例に取ると、+側を5段階として、実際の加点は
演技審判   +1  +2  +3  +4  +5 段階評価 
実際の加点 +0.6 +1.2 +1.8 +2.4 +3.0

 こうなるのが分かりやすいと思います。羽生結弦の3AをMax+5(加点+3.0)とすると、他の選手がクリーンに実行しても+3(加点1.8)とバランス調整すべきです。
現在のJumpの加点要素が複数ありますが、あの要素をいちいち、Jumpごとに当てはめて判定している審判はいないでしょう。
なぜなら演技審判に与えられている判定時間の猶予は極めて少ないからです。エレメンツの実行から数秒(3秒)以内ではないでしょうか。


 最初に言えることは、まず、羽生結弦は現行ルール下で過小評価されているということです。(PCSにしろ、GOEにしろ) 
PCSではどれだけ素晴らしいプログラムを完璧に遂行しても、既に上限に達しており、上げ幅が全くありません。
GOEは彼が実行しているエレメンツ間の密度の高いトランジションにしろ、Jumpの難しい入り/出にしろ、実際にスコアにそのまま反映されているわけではないですね。
彼を正当に評価するならば、相対的に他の上位選手の得点をを下げるしかないわけです。
(今シーズン、羽生結弦がこうしたハンディキャップを負っていることを頭に入れておいて下さい)


 前置きが長くなりましたが、現在のフィギュアスケートの男子シングルを分類すると以下になります。

FP 
A.4Lo以上の高難度の四回転Jumpをプログラムに取り入れ、3種類・4回以上跳ぶ。 羽生、宇野、Boyang、Chen、(Zhou *但し問題が多い)

B.4S、4Tの2種類で3回以下のプログラムを構成。      Javi、Chan、他少数 (Javiは今季構成を上げるようですが)

C.4S or 4Tの1種類を2回跳ぶ構成。              中位選手    それなりの数

D.4回転Jumpを跳べない/苦労している選手。        中位~下位選手  Jason BROWN、Adam RIPPON、Misha GE、Deniss VASILJEVS、他、ほとんどの選手


 最近の国際大会でサンプル数の多いSPで四回転Jumpの比率を比較すると、

SP          4回転*1 4回転*2  4回転1回以上   〃 2回
17 EC  36人中   8人   4人     全体の33.3%   全体の11.1% 
17 4CC 26人中   5人    6人         42.3%         23.1% 


 重要なことは、FPには全員が進出するわけではないという事[6人*4組=24人進出]と 、
高難度化のトレンドにも関わらず、四回転Jumpを跳べる選手は、全体的には少数派だということですね。


 この提案「四回転Jumpの基礎点を減らす」が決定されたとしたら、

 最も恩恵を受ける選手・・・四回転Jumpをプログラムに取り入れていない、あるいは取り入れているが、成功率が低い選手。

 Jason Brown、Adam RIPPON、Misha GE、Deniss VASILJEVS、他多数の中位~下位の選手。


 最も不利益を被る選手・・・四回転JumpをFPの8つ(来季以降7つ)のうち、できるだけ多く跳ぼうとしている選手(かつGOEが低い、PCSが低い選手は、さらに影響が大きい)

 Boyang Jin、Vincent Zhou、Nathan Chen 


 今回の報道は、【提案】だけで決定ではないので、会議で否決されたらそこで終わりだと思います。
TESとPCSのバランスを取るには、PCSの係数だけでも可能だと思われますが、
Jumpの基礎点を積み上げ、PCSは『実績』の積み上げで向上させるという極端な戦略を取っているNathan Chenに対するISUの正しいメッセージだと言えるでしょう。
 ちょっと想像してみて下さい。平昌五輪後、Patrick Chan、Javi、羽生結弦が引退したとして、PCSの基準になるのは誰でしょうか。現状では宇野昌磨になりますね。
来季のルール変更後も、Nathan Chenの「高難度Jumpを着氷させればOK」とやり方を、下の世代のJuniorやNovice選手達が真似し始めたら、この競技は“終わる”と思います。

 残念ながら、この提案は、中位~下位選手の実情に即した下方修正であり、スポーツとしては“退化”と言えるでしょう。(上位と中位の差を埋める政治的意図)
現行ルールでは四回転Jumpを複数回跳ぶ少数の選手に有利で、以前は合計250点出せば良いと言えたのが、今だと上限は330で、羽生選手は340overですからね。
300点超えすら特別な点数ではなくなりました。この影響が最も顕著なのが、近年、影が薄くなってしまったPatrick Chanです。
また、平均的な選手が同じルールで戦っても、最初から上限に数十点もの開きがあり、勝つどころか、表彰台すら難しい状況です。


 あと、GOEの加点を3点から5点に引き上げるのは、個人的に反対ですね。『基礎点を下げて、加点を上げる』ということは、演技審判の介入余地が今以上に増えるということです。
基礎点を最大-2で、加点で+2されれば、最終的な得点は、見かけ上、何も変わらない、あるいは逆に増えるJumpも出てくるでしょう。


> 基礎点改定について、関係者は「(芸術や表現との)バランスのいい選手が勝てる競技でなくてはいけない」と述べた。

 これは「羽生結弦」が「Nathan Chen」に敗れた『17 4CC』を指しているのなら賞賛したいと思いますが、実際は、「Jason Brown」だったりするわけですよ。

 1つ確実に言えることは、来季ルール変更後の新しい最高得点は、新たな基準となる『世界記録』として記録されることですね。
羽生結弦の3つの世界記録or今季の新記録は、残念ながら、“過去の記録”扱いになるでしょう。(来季のルール変更は、最初からそれが目的かと穿った見方も出来ますけども)

 (敬称略)


(追記)

 今回のニュースはロシアのフィギュアスケートコミュニティでも大きな話題になっていますね。(以前の「競技を分割する」ニュースよりも)

https://vk.com/figureskating_love?w=wall-64888695_194771

http://andrey-288.livejournal.com/1181.html
https://vk.com/figureskating_love?w=wall-64888695_195252

 自分はまだ中身を読んでいませんが、ロシア語コミュニティの反応を紹介しておきます。
興味がある方は、自動翻訳サイトやブラウザの自動翻訳のアドオン等をを使用してチェックされるといいかもしれません。