自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★テレ朝への抗議の行方

2005年06月19日 | ⇒メディア時評

   自民党の岡田直樹参院議員(石川県選挙区)がテレビ朝日の番組「報道ステーション」で事実に反する内容が取り上げられたとして、17日、同党の武部勤幹事長と連名で、放送法に基づく訂正放送と謝罪を求める通知書をテレビ朝日あてに送った。この通知書はおそら内容証明郵便で出しているはずで、裁判になることを想定した「宣戦布告」とも解釈できる。

    岡田氏の公式ホームページによると、さる10日、北朝鮮への経済制裁を検討する参院拉致問題特別委員会で、参考人として呼んだ拉致被害者の家族代表の横田滋さん夫妻に岡田氏はこう質問した。

(岡田)「経済制裁を検討しながら一つ気掛かりなことは、今も北朝鮮に生存をしていると信じる拉致被害者の方々、めぐみさんを始め拉致被害者の方々が、この経済制裁によって状況が好転すればいいですけれども、裏目に出て万が一、不測の事態が生じはしないかということが我々も心配でならないわけであります。前のが偽の遺骨であったならば今度は本物を出そうと、こういうことを考えかねない国だと思うんです。御両親に対して本当に言うに忍びないことを言い、聞くに忍びないことをお聞きしますけれども、そうしたおそれを抱きながらもなお今、経済制裁をとお求めになるのか。その辺りの御心境を御両親からお伺いしたいと思います」

   以下は横田滋氏の答えである。

(横田)「そういった懸念はゼロではございません。それは、平成9年にめぐみのことが明らかになったときに最初に我々が直面しましたことは、名前を出して、かつ写真を公表するか、それとも匿名にするかというようなことで迷いました。やはり、実名を出して写真を出さなければ証言に信憑性ということが出てきません。しかし、それを明らかにすることによって、そんなことはなかったということで殺されてしまうというような心配もございました。ですから、最初から、スタートの段階ではやはりそういったリスクというものがもうゼロというのではないわけですが、しかし、それを恐れていれば結局そのままの状況がずっと続いて、一生もう北朝鮮で何もなかったような形で終わってしまうというようなことになりますので、やはり救出ということになりますとそうせざるを得ないと思います」

   つまり、岡田氏の質問は、「聞くに忍びないことをお聞きしますけれども」と夫妻の心境を気遣いながらも、北朝鮮に経済制裁をすれば、めぐみさんが本当に殺されるかもしれない、その覚悟のほどはどうですか、とたずねた。それに対し、横田氏は「それを恐れていれば結局そのままの状況がずっと続いて・・・」と経済制裁を強く求めたのだ。岡田氏とすれば、「家族はリスクを覚悟して経済制裁を求めている。だから、政府もやるべきだ」というセオリーを慎重な言い回しで組み立てた。この特別委員会が終了した後、「岡田先生が自分たちの考えを分かっていた上で、あえて国会の場でそのことを家族の口から話すことが大切と判断してあの質問をしてくださったことと思っています。岡田先生には委員会の後に、参考人として発言の機会が与えられたことに対してお礼しました」と横田氏は述べている(6月16日付「救う会全国協議会ニュース」)。特別委員会の終了時点では、岡田氏は確かな手ごたえをつかみ、横田さん夫妻は国会の特別委員会で経済制裁を訴えることができて、双方に充実した時間だったのである。

   ところが事態は一転する。横田さん夫妻が参考人として出席した特別委員会の様子をニュースとして取り上げた10日夜の「報道ステーション」で、古舘伊知郎キャスターが、岡田氏の質問に対し、「想像ですけれども、北をとっちめたいと思うあまり、まるで非常に苦しい立場にいるご夫妻に、この覚悟はありやなしやと聞いているふうに聞こえちゃうんですよね。本人に確認したわけじゃないですけれども」とコメントし、「無神経な質問」と決めつけてしてしまったのである。

   岡田氏とすれば、「無神経」どころか横田さん夫妻から「お礼」までされているのに、「想像」でベラベラとしゃべられて、「まったく事実に反する報道」で名誉を著しく毀損したというわけだ。岡田氏は東京大学法学部出身、新聞記者を経て、国会入りした。闘争本能をむき出しにするタイプではなく、むしろ温厚な性格。その岡田氏が相当な怒りを持って「宣戦布告」したのである。一方、テレビ朝日広報部は「詳細が確認できていない」とコメントしてはいるものの、どこまで準備を進めているのか。

   テレビの報道番組では、想像でものを言うこと自体、信憑性が失われ負けである。ましてや「北をとっちめ」云々のもの言いは古舘キャスター自身に抑制が効いていない証拠と見るべきだろう。事実関係はすでに明らかで争う余地はない。番組の中できちんと釈明し、「言葉が滑って申し訳ありませんでした」と謝罪すべきだ。先が見えた話は先延ばしすべきではない。

⇒19日(日)午前・金沢の天気  晴れ

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