ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

運び屋

2019-03-03 23:43:44 | は行

88歳、映画のレジェンド健在なり!

 

「運び屋」79点★★★★

 

****************************************

 

もうすぐ90歳になる退役軍人アール(クリント・イーストウッド)は

ユリの栽培家だ。

 

品評会でも優勝するほど知られた彼だったが

最近は売り上げが落ち込み

ついに自宅と農園を差し押さえられてしまう。

 

しかも家庭をないがしろにしてきたツケで

妻と娘からも距離を置かれ、帰る場所がない。

 

そんなアールに、ある仕事が舞い込む。

「ある場所からある場所へ、安全に車の運転さえすれば、大金が入る」

 

これまでユリの営業で全米を運転してきたアールは

なんなく仕事をこなす。

 

だが、彼の車に積まれていたのは

麻薬ドラッグだった――!

 

****************************************

 

クリント・イーストウッド監督が

仰天の実話を基に描いた作品。

 

それにしても

人生の円熟期からの「グラン・トリノ」(08年)、

そして「アメリカン・スナイパー」(14年)、最近では「15時17分、パリ行き」(18年)

コンスタントに高レベルの作品を発表してるけど

イーストウッド監督も、もう88歳。

 

正直、最近は毎回「もう、超えてこないかもな」と思いつつ、観るんです。

でも、

超えてくるんですねえ!

 

歳を重ねても、これだけおもしろいものを作り続けられるって、

本当に神。

そんな監督ばかりじゃないですよ、稀有ですよ。

 

で、本作は

「麻薬の運び屋」という題材はシビアっぽいけど

主人公である90歳のアールじいさんのトボけた味わい

そして退役軍人ならではのクソ度胸のよさ(笑)を

監督自身が「ヨボ芸」も駆使してうまく表してる。

 

そう、ちょっと「グラン・トリノ」に通じる感じがあって、いいんですわー。

 

さらに、アールを追う立場になる

麻薬捜査官(ブラッドリー・クーパー)の

派手に手柄を立てたいけど、微妙にハズしてるんだよね~というキャラの立て方も見事。

で、アールが無自覚に

そんなしゃかりき捜査官の裏をかいている――というあたりが

たまらなくおかしいんですね。

 

アールがやっていることはもちろん悪事。なんだけど

監督は観る人の罪悪感をフッとよけながら、

後ろめたさを感じさせないあんばいで

物語をうまく運んでいく。

 

と同時に

観る人がアールじいさんに肩入れすればするほど

展開にハラハラドキドキが増してゆく、という。

 

まさに

映画を知り尽くしたレジェンドの技を堪能!という感じでした。

 

次も、その次も

まだまだ本気で楽しみにさせてくれる監督。ホントすごいなあ。

 

★3/8(金)から全国で公開。

「運び屋」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

2016-12-22 20:20:01 | あ行

スノーデンのドキュメンタリー映画とともに
“監視社会”を取材していたとき
「これが最新の状況です」と
専門家に教えてもらった映画です。


「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」69点★★★★


*******************************


ロンドン。

軍諜報機関のキャサリン大佐(ヘレン・ミレン)は
アメリカ軍と協力し
テロリスト捕獲作戦を実施していた。

彼らは最新鋭のドローン偵察機を使って
ケニア・ナイロビの隠れ家に潜んでいる
凶悪なテロリストたちを発見する。

しかもかれらは自爆テロを起こす
準備をしていた。

大佐たちが
「攻撃すべき」と判断したそのとき、
殺傷圏内に幼い少女がいることがわかり――?!


*******************************


いやあ
これがいまの戦争なんだ、と思うと
ホント怖くなります。


昆虫型の超ミニミニドローンで
ケニアにいる爆弾テロ犯の行動を監視し

それを遠く離れた
ロンドン、ホワイトハウス、ハワイなどで
トップたちがスクリーンで見守っている。

現地にいる彼らの運命を、空から握っているようで
それだけでも
「こんなこと、いいの?」的な違和感がある。

しかも
いざ攻撃!となったとき
近くに少女がいる!どうする――?!という事態になるわけです。


攻撃するのか?やめるのか?

会議、確認、会議・・・と状況がたらい回しされるなか
観客の倫理や理性も試される。


見飽きることはないし、ハラハラするし、
アラン・リックマンの最後の勇姿も見られます(涙)

と、
けっこう充実してるんだけど
さすがに102分でひとネタは引っ張りすぎな気も。

これもまた会議ばっかりだし(苦笑)
「アメリカン・スナイパー」の最初のシーンを
延々やっているようなものでもあるので。

それでも、最後
作り手たちの意思と決断を感じました。


★12/23(金・祝)からTOHOシネマズシャンテで先行公開。1/14(土)から全国公開。

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカン・スナイパー

2015-02-16 19:10:38 | あ行

これはねえ……
フクザツな気持ちですねえ。


「アメリカン・スナイパー」68点★★★☆


*********************************


クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)は
テキサス州に生まれ育った生粋のカウボーイ。

テレビで9.11を見て衝撃を受け、
軍隊に入ったカイルは

子どものころから得意だった射撃の腕を買われて
スナイパーとなる。

だが、初めて任務についたイラクの地で
彼の照準が捉えたのは
まだ幼い少年とその母親だった――。


*********************************


クリント・イーストウッド監督が
イラク戦争で米軍史上最多の160人を射殺した
実在の“伝説のスナイパー”を描いた話題作。


もちろん完成度は抜群です。

劇場で予告を見てるだけで
相当ハラハラしたし「観たい!」と思いましたが
そのとおりのドキドキでした。

見終わってもしばらく耳が「キーン」となっているような
銃撃音の臨場感がものすごくて。
主演ブラッドリー・クーパーのマッチョな役作りもすごい。

ただワシは
同じくフクザツな気持ちになっても
ブラピの「ヒューリー」のほうが心動きました。

この映画は
戦場にあるのは銃声と爆音と、瞬間の判断、
そして「生と死」の現実だけだと、マジで突きつけてくる。

あえて徹底的に
ヒューマンな部分をそぎ落としたのだろうなあと思いますが
その分、あまり心が動かないのがちょっと残念。


戦場から家族のもとに戻っても
主人公が「心を戦場に置いている」その狂気はバリバリ伝わるけど
それは「ハート・ロッカー」でも描いてるしね。

ただ
もともとゴリゴリのカウボーイで
「男たるもの、戦って家族を守れ」と叩き込まれて育った人物が
こういう経緯を辿るんだなあ、と。

ラストも含め
“アメリカ”を描いているという点で
納得するものはありました。


★2/21(土)から全国で公開。

「アメリカン・スナイパー」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする