ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

夜空はいつでも最高密度の青色だ

2017-05-11 23:46:07 | や行

石井裕也監督、
こっちに戻ってきてくれてよかった!(笑)


「夜空はいつでも最高密度の青色だ」77点★★★★


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建築現場で働く慎二(池松壮亮)は
日雇い労働者。

同僚の智之(松田龍平)や、中年の岩下(田中哲司)、
出稼ぎフィリピン人(ポール・マグサリン)と組み、
毎日、黙々と汗を流しながらも
漠然とした不安を感じている。

ある日、慎二は智之たちと行ったガールズバーで
美香(石橋静香)と出会う。

むなしさと、孤独と、不安と。
互いに、なにか「通じるもの」を感じる二人だったが
何も起こることはない。

そして、慎二はある場所で
思いがけず美香と再会する――。


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石井裕也監督が
最果(さいはて)タヒ氏の詩集を表現した作品。

とにかく「いま」を生きる人間の
不安や鬱屈を鮮烈に捉えていて、リアルで、やばい(笑)


大作も作ったりしてたけど
監督はやっぱり、こういう匂いが似合う!

ワシ、監督の「ぼくたちの家族」で池松壮亮氏を認識したので
その意味でも、嬉しかったです。


舞台は東京。

深夜に携帯から鳴り響く地震速報
毎日の人身事故。

主人公の慎二(池松壮亮)は
日雇いの肉体労働で死ぬほど働いてるのに、年収200万ちょっと。

家賃6万5千円のアパートに帰ると
ポストには
電気、ガス、水道に携帯代の請求のハガキ。

そして、払っていない年金のハガキ。・・・もうポストを見るのがいやだ。

捨てられた子犬に出会っても拾える身分でもない。


そんな彼と出会う美香(石橋静香)は
ガールズバーでアルバイトをしてる女の子。

出会った二人は、
想いあっても、まるでつながらぬまま。

口を開けば「いやな予感がする」とか←あるある!

あと
「ねえ。放射能ってどのくらい漏れてると思う」
「知らない」
・・・うへえ。リアル(苦笑)

すべてが映画的に劇的でなく、
だからこそリアルに映画的なのだ。


この「いやな予感しかねぇ」世界を
どうやって、彼らは、我々は生きていくんだろう。

ここにもまた、映画でなければかなわない
そこに焼き付けられる風景と、時代の象徴があり、
忘れがたいものがあります。

しかし
映画のなかの渋谷の、ぬるく、鬱屈した空気は
自分が20代だったときの、あの空気そのままにも思えて

若者だけじゃなく、あらゆる人に響くと思います。


★5/13(土)から新宿ピカデリー、ユーロスペースで先行公開。5/27(土)から全国で公開。

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」公式サイト
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ぼくたちの家族

2014-05-23 20:08:33 | は行

監督、これが20代最後の作品なのか!
どんだけ達眼~


「ぼくたちの家族」75点★★★★


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東京郊外のニュータウンに住む若菜一家。

玲子(原田美枝子)は
長男(妻夫木聡)と次男(池松壮亮)を育て、
小さな会社を経営する夫(長塚京三)と、のんびり暮らしていた。

が、玲子は最近ちょっと様子がおかしい。
物忘れが多く
真っ暗な部屋で電気もつけずボーッとしていたり。

長男と夫に連れられて病院に行った玲子は
なんと余命1週間と告げられる――。

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巧いなあ、石井裕也監督。


なんといっても
母親が突然病気になり、
どうしていいか分からなくなる男三人の

その
「どうしよう」加減が巧すぎる。

フリーズする夫
全てを背負うとする長男
冷静さを装う次男。

ここに娘が一人いたら、全然違うんだよなあと思いつつ、
他人事のようで、他人事じゃない
家族の内情に引き付けられました。


設定だけみると“お涙”な題材だけど
淡々としつつ思わぬアクションで来られるので、
いわゆる
病気モノの定番とは違う後味がある。


例えば冒頭、まだ元気な玲子さんが
友達とランチしていた街から
郊外の(田舎の)自宅まで延々と電車に揺られて帰る場面の

その時間の経過に写る
彼女のぼんやりとした、あきらめの感情とか

男たちが相談事をする、
地元の中華料理屋の中途半端さとか

病気とは直接関係ないような描写が
妙に心に残るんですね。

そこに
いきなりシビアなお金の問題が
ドカンと降ってきたり。

少女のようになっていく母親役の原田美枝子さんが
無邪気に本音をズバズバ言い出して
男たちがオロオロする場面には吹いたなー。

妻夫木氏の“男の不器用さ”も巧いけど
この映画では次男役の池松壮亮氏が
すごく自然で、光ってました。


★5/24(土)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「ぼくたちの家族」公式サイト
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