『Aja』 Steely Dan ☆☆☆☆☆
知っている人は知っている通り、スティーリー・ダンはロック界においてきわめて特異な存在感を持つユニットである。彼らは70年代に普通のバンド形態でデビューしたが、中心となるソングライティング・チームのドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーがバンド演奏とかライブ活動にあまり関心がなかったこともあり、だんだんとレコーディングの時もスタジオ・ミュージシャンを多く使うようになっていった。バンドにドラマーがいるのにスタジオ・ミュージシャンを呼んでドラムを叩かせたというからメンバーはたまったもんじゃない。一人抜け二人抜け、やがてスティーリー・ダンはドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの曲をスタジオ・ミュージシャンが寄り集まって作る、というユニットと化していった。
大体においてロック・バンドというのはライブにおける観客との一体感を重視したり、多少テクニックは見劣りしても長くやってるバンドのケミストリーや持ち味の方が大事だぜ、という感覚があるものだが、スティーリー・ダンからはそういう一種のロマンティシズムが一切感じられない。完成度の高い曲を作るには優秀なミュージシャンを雇って各パートを演奏させ、出来がいいパーツを取捨選択して組み合わせればいい、という非常にドライな計算と現実主義があるばかりだ。
ソロ・ミュージシャンなら同じことをやってるだろうと思うかも知れないが、その徹底ぶりと贅沢さはちょっと類を見ない。何人ものギタリストを呼んできてソロを弾かせ、その中で一番良かった演奏をほんの数小節だけ使う、なんてことをやるのである。まるでジグゾーパズルの組み立てだ。
そういうドライで冷徹なフェイゲン&ベッカーの方法論から生み出されたスティーリー・ダンの音楽は、当然のことながら情熱にまかせて突っ走るというような熱さは微塵もない、シニカルな老成したものばかりである。R&Bやジャズをベースにした独特の浮遊感があるコード進行、ジャズやフュージョン・ミュージシャンの有名どころを起用した一分の隙もない演奏、まるで職人の手によって緻密に組み立てられた室内工芸品の趣きがある。冷笑的なまでにアイロニックな歌詞も非常にユニークだ。
そんなスティーリー・ダンの代表作といわれているこの『Aja』、その完成度は推してしかるべしだ。
初期はまだバンド演奏も多く、どことなく猥雑なキャッチーさやユーモア、そして素朴なところもあった彼らだが(それはそれでとても良い)、この『Aja』ではもはや一切の無駄が省かれ、純度の高い磨きぬかれた楽曲ばかりが並んでいる。ちなみにこの完全主義は次の『Gaucho』でますます押し進められ、ほとんど息詰まるほどの彫心鏤骨ぶりを見せてくれるが、そのレコーディングがあまりに難産だったためにスティーリー・ダンは一旦空中分解してしまう。
前作の『Royal Scam』はおそらくスティーリー・ダン史上もっともロック的な躍動感に満ちたアルバムだったが、本作はうって変わって優美な、エレガントな、艶っぽいアルバムになっている。それは曲調もさりながら、この空間を生かしたサウンドによるところが大きいと思う。そしてアルバムを通して印象的なのが女性コーラスの美しさ。本作はグラミー賞最優秀録音賞を獲得しているが、この冷ややかな空間にふんわり広がる女性コーラスの甘美さは格別だ。スティーリー・ダン独特の浮遊感に満ちた、ジャズっぽいコード進行も全開である。
参加ミュージシャンは例によって豪華きわまりなく、ラリー・カールトンやスティーヴ・ガッド、ウェイン・ショーターまで参加している。タイトル・チューンの『Aja』の途中で延々と繰り広げられるドラム(スティーヴ・ガッド)とサックス(ウェイン・ショーター)の掛け合いは最高にしびれる。収録されている曲はどれも素晴らしいが、私は特に『Black Cow』『Aja』『Home at Last』あたりが気に入っている。一般には『Deacon Blues』や『Peg』の人気が高いようで、私ももちろん嫌いじゃないが、個人的にスティーリー・ダンにおいては、スムースな曲調よりあの不思議なタメのあるアレンジを偏愛しているのである。
ロックの名盤といえば必ず名前があがる本作だが、ロック云々というよりフュージョンやジャズ・ファンも楽しめる、ハイブリッド音楽の傑作だと思う。
知っている人は知っている通り、スティーリー・ダンはロック界においてきわめて特異な存在感を持つユニットである。彼らは70年代に普通のバンド形態でデビューしたが、中心となるソングライティング・チームのドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーがバンド演奏とかライブ活動にあまり関心がなかったこともあり、だんだんとレコーディングの時もスタジオ・ミュージシャンを多く使うようになっていった。バンドにドラマーがいるのにスタジオ・ミュージシャンを呼んでドラムを叩かせたというからメンバーはたまったもんじゃない。一人抜け二人抜け、やがてスティーリー・ダンはドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの曲をスタジオ・ミュージシャンが寄り集まって作る、というユニットと化していった。
大体においてロック・バンドというのはライブにおける観客との一体感を重視したり、多少テクニックは見劣りしても長くやってるバンドのケミストリーや持ち味の方が大事だぜ、という感覚があるものだが、スティーリー・ダンからはそういう一種のロマンティシズムが一切感じられない。完成度の高い曲を作るには優秀なミュージシャンを雇って各パートを演奏させ、出来がいいパーツを取捨選択して組み合わせればいい、という非常にドライな計算と現実主義があるばかりだ。
ソロ・ミュージシャンなら同じことをやってるだろうと思うかも知れないが、その徹底ぶりと贅沢さはちょっと類を見ない。何人ものギタリストを呼んできてソロを弾かせ、その中で一番良かった演奏をほんの数小節だけ使う、なんてことをやるのである。まるでジグゾーパズルの組み立てだ。
そういうドライで冷徹なフェイゲン&ベッカーの方法論から生み出されたスティーリー・ダンの音楽は、当然のことながら情熱にまかせて突っ走るというような熱さは微塵もない、シニカルな老成したものばかりである。R&Bやジャズをベースにした独特の浮遊感があるコード進行、ジャズやフュージョン・ミュージシャンの有名どころを起用した一分の隙もない演奏、まるで職人の手によって緻密に組み立てられた室内工芸品の趣きがある。冷笑的なまでにアイロニックな歌詞も非常にユニークだ。
そんなスティーリー・ダンの代表作といわれているこの『Aja』、その完成度は推してしかるべしだ。
初期はまだバンド演奏も多く、どことなく猥雑なキャッチーさやユーモア、そして素朴なところもあった彼らだが(それはそれでとても良い)、この『Aja』ではもはや一切の無駄が省かれ、純度の高い磨きぬかれた楽曲ばかりが並んでいる。ちなみにこの完全主義は次の『Gaucho』でますます押し進められ、ほとんど息詰まるほどの彫心鏤骨ぶりを見せてくれるが、そのレコーディングがあまりに難産だったためにスティーリー・ダンは一旦空中分解してしまう。
前作の『Royal Scam』はおそらくスティーリー・ダン史上もっともロック的な躍動感に満ちたアルバムだったが、本作はうって変わって優美な、エレガントな、艶っぽいアルバムになっている。それは曲調もさりながら、この空間を生かしたサウンドによるところが大きいと思う。そしてアルバムを通して印象的なのが女性コーラスの美しさ。本作はグラミー賞最優秀録音賞を獲得しているが、この冷ややかな空間にふんわり広がる女性コーラスの甘美さは格別だ。スティーリー・ダン独特の浮遊感に満ちた、ジャズっぽいコード進行も全開である。
参加ミュージシャンは例によって豪華きわまりなく、ラリー・カールトンやスティーヴ・ガッド、ウェイン・ショーターまで参加している。タイトル・チューンの『Aja』の途中で延々と繰り広げられるドラム(スティーヴ・ガッド)とサックス(ウェイン・ショーター)の掛け合いは最高にしびれる。収録されている曲はどれも素晴らしいが、私は特に『Black Cow』『Aja』『Home at Last』あたりが気に入っている。一般には『Deacon Blues』や『Peg』の人気が高いようで、私ももちろん嫌いじゃないが、個人的にスティーリー・ダンにおいては、スムースな曲調よりあの不思議なタメのあるアレンジを偏愛しているのである。
ロックの名盤といえば必ず名前があがる本作だが、ロック云々というよりフュージョンやジャズ・ファンも楽しめる、ハイブリッド音楽の傑作だと思う。
お書きの通り、これはハイブリッド音楽の傑作だと思います。 本盤含め彼らはン十年聴いてますが全く飽きません。
ドナルド・フェイゲンの先日でた新作はお聴きになりましたか?過去作同様素晴らしいと思うのですが鋭いレビュー希望します。
ってリクエストが可かわかりませんが(笑)
ドナルド・フェイゲンの最新作はまだ聴いていません。聴いてみようかな。レビューを書けるかどうかは分かりませんが……リクエストいただくとうれしいのですが、逆に力が入り過ぎてうまく書けなかったりするのです。