『必殺渡し人』 ☆☆☆
DVDボックスを購入して鑑賞。これまで一度も観たことがないシリーズである。放映の順番でいうと『必殺仕事人Ⅲ』と『必殺仕事人Ⅳ』の間だそうで、要するに秀、勇次を加えた主水シリーズが茶の間にブレークして人気絶頂だった頃その影に隠れるようにしてひっそり作られた、というわけでもないだろうが、まあ目立たなかったシリーズということになる。
必殺の実行部隊は惣太(中村雅俊)、大吉(渡辺篤史)、鳴滝忍(高峰三枝子)の三人。補佐役として大吉の女房・お沢(西崎みどり)。お沢がチームに参加するのは第三話からなので、それまでは全員でたった三人ということになり、これは必殺史上最小編成だろう。実行部隊が二人だった『必殺必中仕事屋稼業』も元締めとアシストを加えれば最初から四人だったし、『助け人走る』も四人でスタートしてだんだん増えていった。私は基本的に少数精鋭の方が好きである。後ろ暗い裏稼業を大勢でワイワイやるのも変だし、寂しい方が哀愁があっていい。まして受験生が殺し屋チームにいるなんてのは勘弁して欲しい。
今回の特徴は全員が同じ長屋の住人であることと、惣太と大吉が二人とも妻帯者でしかもお隣さん同士ということである。正確に言えばリーダーで女医の鳴滝忍が長屋の大家で、そこに惣太夫婦と大吉夫婦が住んでいる。惣太の女房・お直と大吉の女房・お沢は鳴滝忍の診療所で働いている。従って全員表の仕事はばらばらで顔を合わせても知らんふりをするなんてことはなく、表の世界でもお互いに非常に親しく、そういうところはホームドラマ的である。
ちなみにこの鳴滝忍+惣太夫婦+大吉夫婦というレギュラー陣の中で、惣太の妻であるお直だけが渡し人ではない。夫や隣人が殺し屋であるなんてことは夢にも知らない境遇にある。
さて、本作の目玉はやっぱり中村雅俊の起用だろう。一見必殺らしくないキャストだが、これまでも必殺は一見らしくない俳優を起用して成功させた例も多く、たとえば『暗闇仕留人』の石坂浩二などがそうだった。本作における渡し人・中村雅俊もなかなか悪くない。ただ石坂浩二の糸井貢が俳優のイメージを裏切るようなクールさで意外性を出したのと違い、本作の中村雅俊はいつもの中村雅俊である。もちろん殺しの際はクールにきめているが、普段はイメージ通りの快活キャラで、その点はちょっと物足りなかった。ただホームドラマ的な雰囲気にはよく合っていたともいえる。
武器は手鏡の柄に仕込んだ針で、ターゲットの後ろに回って柄から針を抜き、相手の首筋に突き刺す。シャキン、プスッ、という効果音も含めて『仕事人』の秀の殺し方によく似ている。時々手鏡に光を反射させて相手の目をくらましたり、鏡に写して相手の位置を確認したりもする。あと、殺す時に相手の顔の前にわざわざ手鏡をかざして、「どうだね、写り具合は。あんたの死に顔のさ」などと言わなくていいことを言ったりする。
大吉の渡辺篤史は『必殺仕置屋稼業』『必殺仕業人』で情報収集係だったのでなじみの顔だが、情報収集係が別のシリーズで殺し屋を演じたのはこの人だけだと思う。ルックスもまったく同じなので最初は違和感があった。殺し方は怪力による骨外し、というか骨格破壊で、殺しの時に念仏の鉄みたいなレントゲン映像が出る。途中から「イタイイタイイタイ!」という相手の叫びが入るようになったが、いつも同じ声でギャグっぽいのでやめて欲しかった。
女医・鳴滝忍の武器は指に嵌めた水晶の指輪。これで相手の喉を切り裂く。死体に残る傷がかまいたちの跡そっくりなので、かつて「かまいたち」と呼ばれた有名な渡し人だったらしい。ちなみにこの指輪は普段診療所の人体模型が嵌めていて、鳴滝忍は殺しの前にまずおもむろに風呂に入り、それから指輪を人体模型から外す。この風呂のシーンは毎回出てくるが、これは放映当時高峰三枝子が出ていた「フルムーン」のCMのまねらしい。当時すでにかなりのご高齢とお見受けするので、この風呂シーンは見ていてちょっと複雑である。
大吉の女房・お沢は第三話からメンバーとなるが、要するに第一話の被害者で、第三話まで記憶を失っていた。最初の頃は捕まって縛られたり拷問されたりばかりするので、ついM要員かと思ってしまった。結構美人だ。
さて、渡し人チームは以上だが、もう一人重要なキャラクターとして惣太の妻・お直がいる。先に書いたように彼女は渡し人のことは一切知らない普通の女房だが、この番組において彼女の存在感は非常に大きい。演じるのは藤山直美で、これまで見た事なかったが、最初は「なぜこの人?」と思ってしまった。中村雅俊の女房なのでもっときれいな女優さんを予想していたのである。関西弁で、どっちかというとお笑い系である(知らなかったが喜劇俳優・藤山寛美の娘さんだった)。しかしこの人、美人の西崎みどりよりずっと演技がうまく、キャラも立っている。コメディ・リリーフ的存在だが、惣太にべた惚れで、観ているうちにだんだん可愛く思えてくる。実際のところ、本作の魅力はかなりの部分彼女に負っていると言っても過言ではない。最終回、惣太は一人で江戸を離れ、彼女は一人取り残されてしまうが、惣太を探して江戸中をさまよう彼女の姿はとてもかわいそうだ。
特に際立って印象に残るエピソードはなく、全体に地味な印象だが、妙にエロ系の、たとえばスワッピングとかSMとか、そういうエピソードが多いのが特徴である。レギュラー陣の間でも「子作り」がひんぱんに話題になり、特に子供を欲しがるお直が乗り気でない惣太(渡し人である惣太は父親になる資格がないと考えている)にせがむ、というやりとりが多い。お直は大吉夫婦は円満だと思っていて、「お沢ちゃんはちゃんと可愛がってもろうてええな」とうらやましがる場面がよく出てくる。
まあとりたてて傑作とは思わないが、当時バラエティ路線まっしぐらだった『仕事人』と比べると渋めで、好感が持てる。ただ途中から殺しのBGMが『仕事人』と同じに変更されてしまったのは残念だった。人気にあやかろうとしたのかも知れないが、ああいうことをすると安っぽく思えてマイナスである。
DVDボックスを購入して鑑賞。これまで一度も観たことがないシリーズである。放映の順番でいうと『必殺仕事人Ⅲ』と『必殺仕事人Ⅳ』の間だそうで、要するに秀、勇次を加えた主水シリーズが茶の間にブレークして人気絶頂だった頃その影に隠れるようにしてひっそり作られた、というわけでもないだろうが、まあ目立たなかったシリーズということになる。
必殺の実行部隊は惣太(中村雅俊)、大吉(渡辺篤史)、鳴滝忍(高峰三枝子)の三人。補佐役として大吉の女房・お沢(西崎みどり)。お沢がチームに参加するのは第三話からなので、それまでは全員でたった三人ということになり、これは必殺史上最小編成だろう。実行部隊が二人だった『必殺必中仕事屋稼業』も元締めとアシストを加えれば最初から四人だったし、『助け人走る』も四人でスタートしてだんだん増えていった。私は基本的に少数精鋭の方が好きである。後ろ暗い裏稼業を大勢でワイワイやるのも変だし、寂しい方が哀愁があっていい。まして受験生が殺し屋チームにいるなんてのは勘弁して欲しい。
今回の特徴は全員が同じ長屋の住人であることと、惣太と大吉が二人とも妻帯者でしかもお隣さん同士ということである。正確に言えばリーダーで女医の鳴滝忍が長屋の大家で、そこに惣太夫婦と大吉夫婦が住んでいる。惣太の女房・お直と大吉の女房・お沢は鳴滝忍の診療所で働いている。従って全員表の仕事はばらばらで顔を合わせても知らんふりをするなんてことはなく、表の世界でもお互いに非常に親しく、そういうところはホームドラマ的である。
ちなみにこの鳴滝忍+惣太夫婦+大吉夫婦というレギュラー陣の中で、惣太の妻であるお直だけが渡し人ではない。夫や隣人が殺し屋であるなんてことは夢にも知らない境遇にある。
さて、本作の目玉はやっぱり中村雅俊の起用だろう。一見必殺らしくないキャストだが、これまでも必殺は一見らしくない俳優を起用して成功させた例も多く、たとえば『暗闇仕留人』の石坂浩二などがそうだった。本作における渡し人・中村雅俊もなかなか悪くない。ただ石坂浩二の糸井貢が俳優のイメージを裏切るようなクールさで意外性を出したのと違い、本作の中村雅俊はいつもの中村雅俊である。もちろん殺しの際はクールにきめているが、普段はイメージ通りの快活キャラで、その点はちょっと物足りなかった。ただホームドラマ的な雰囲気にはよく合っていたともいえる。
武器は手鏡の柄に仕込んだ針で、ターゲットの後ろに回って柄から針を抜き、相手の首筋に突き刺す。シャキン、プスッ、という効果音も含めて『仕事人』の秀の殺し方によく似ている。時々手鏡に光を反射させて相手の目をくらましたり、鏡に写して相手の位置を確認したりもする。あと、殺す時に相手の顔の前にわざわざ手鏡をかざして、「どうだね、写り具合は。あんたの死に顔のさ」などと言わなくていいことを言ったりする。
大吉の渡辺篤史は『必殺仕置屋稼業』『必殺仕業人』で情報収集係だったのでなじみの顔だが、情報収集係が別のシリーズで殺し屋を演じたのはこの人だけだと思う。ルックスもまったく同じなので最初は違和感があった。殺し方は怪力による骨外し、というか骨格破壊で、殺しの時に念仏の鉄みたいなレントゲン映像が出る。途中から「イタイイタイイタイ!」という相手の叫びが入るようになったが、いつも同じ声でギャグっぽいのでやめて欲しかった。
女医・鳴滝忍の武器は指に嵌めた水晶の指輪。これで相手の喉を切り裂く。死体に残る傷がかまいたちの跡そっくりなので、かつて「かまいたち」と呼ばれた有名な渡し人だったらしい。ちなみにこの指輪は普段診療所の人体模型が嵌めていて、鳴滝忍は殺しの前にまずおもむろに風呂に入り、それから指輪を人体模型から外す。この風呂のシーンは毎回出てくるが、これは放映当時高峰三枝子が出ていた「フルムーン」のCMのまねらしい。当時すでにかなりのご高齢とお見受けするので、この風呂シーンは見ていてちょっと複雑である。
大吉の女房・お沢は第三話からメンバーとなるが、要するに第一話の被害者で、第三話まで記憶を失っていた。最初の頃は捕まって縛られたり拷問されたりばかりするので、ついM要員かと思ってしまった。結構美人だ。
さて、渡し人チームは以上だが、もう一人重要なキャラクターとして惣太の妻・お直がいる。先に書いたように彼女は渡し人のことは一切知らない普通の女房だが、この番組において彼女の存在感は非常に大きい。演じるのは藤山直美で、これまで見た事なかったが、最初は「なぜこの人?」と思ってしまった。中村雅俊の女房なのでもっときれいな女優さんを予想していたのである。関西弁で、どっちかというとお笑い系である(知らなかったが喜劇俳優・藤山寛美の娘さんだった)。しかしこの人、美人の西崎みどりよりずっと演技がうまく、キャラも立っている。コメディ・リリーフ的存在だが、惣太にべた惚れで、観ているうちにだんだん可愛く思えてくる。実際のところ、本作の魅力はかなりの部分彼女に負っていると言っても過言ではない。最終回、惣太は一人で江戸を離れ、彼女は一人取り残されてしまうが、惣太を探して江戸中をさまよう彼女の姿はとてもかわいそうだ。
特に際立って印象に残るエピソードはなく、全体に地味な印象だが、妙にエロ系の、たとえばスワッピングとかSMとか、そういうエピソードが多いのが特徴である。レギュラー陣の間でも「子作り」がひんぱんに話題になり、特に子供を欲しがるお直が乗り気でない惣太(渡し人である惣太は父親になる資格がないと考えている)にせがむ、というやりとりが多い。お直は大吉夫婦は円満だと思っていて、「お沢ちゃんはちゃんと可愛がってもろうてええな」とうらやましがる場面がよく出てくる。
まあとりたてて傑作とは思わないが、当時バラエティ路線まっしぐらだった『仕事人』と比べると渋めで、好感が持てる。ただ途中から殺しのBGMが『仕事人』と同じに変更されてしまったのは残念だった。人気にあやかろうとしたのかも知れないが、ああいうことをすると安っぽく思えてマイナスである。
渡し人放映当時、私は確か中学三年ぐらいでした。
渡し人は確かに仕事人に比べると地味な印象ですが、個人的には好きな作品です。
仕事人は4と5があまり好きではありません。パターン化して来て毎回同じ展開ですし、なんだか流れが勧善懲悪時代劇のようで(笑)
ちなみに大吉の技は『腸捻り』で、文字通り腸を握りつぶしています。
エグい技だなぁ…(笑)
余談ですが、私は新必殺仕置人がやはり一番好きです。キャラがそれぞれ立ってるし、話も毎回面白い。それにあの最終回…何遍観てもキツい…
必殺仕置屋稼業、仕事屋稼業、仕業人etc…と、私も前期のハード路線のシリーズが好きです。
世では不評のうらごろしも嫌いではありません(笑)
ちなみにワースト1は、剣劇人。もうこの頃は呆れて観てませんでしたが(笑)
その点、仕事人2009はなかなか良かった。配役には疑問もありますが、初期のハード路線を彷彿させる作りで、毎週楽しみに観ていました。
私も仕事人4, 5以降は苦手で、ほとんど観てません。仰る通りパターン化していて、話が薄いですよね。「仕切人」はレビューも書きましたが、DVDで観て呆れてしまいました。「剣劇人」は観たことないです。
仕事人2009も観ていませんが、なかなか良いですか? ジャニーズというので頭から敬遠していましたが、観てみたくなりました。
私もジャニーズタレントで固めた布陣には疑問を禁じ得ませんでしたが、みんな頑張っていて、特にTOKIOの松岡、少年隊のヒガシの演技は良く、キャラが立っていて個人的にはかなり好印象です。
一方、途中より登場のKAT-TUNの聖くんも頑張っており、印象は悪くないですが…鉄の再来(坊主頭にピアス、ブレスレットという出で立ちです)という重責は厳しかったようです(笑)
元祖(鉄っつぁん(山崎氏))が神の領域ですからね…
話も、悪が初期シリーズよろしく、かなり憎々しく書かれており、見応えがあります。
機会があったらぜひご覧になってみて下さい。
それにしても、鉄っぽいキャラですか…それは無謀かも知れませんね。この正月休み中に『新必殺仕置人』の最終回をつい見返してしまいましたが、あの存在感のすごさ、かっこよさには言葉がありません。
必殺が生んだ最高のキャラクターでしょう。
新必殺仕置人の最終回は、シナリオの秀逸さはもちろんですが、俳優陣の鬼気迫る演技、特に、中村嘉葎雄氏の拷問時、生ける屍の演技、同心諸岡の憎々しさ(笑)、藤田まこと氏の切れの良い殺陣、そして何より、山崎氏の『無言の説得力』とでもいいましょうか…
最後の仕置きから女郎屋で息絶えるまで、山崎氏のセリフは皆無ですが、その表情から仕草にいたるまで、全身の表現で、下手なセリフを上回る饒舌さで、我々に語り掛けて来るのです。
シナリオ
俳優
スタッフ
その全てが恐ろしいまでの精巧さで結びついているからこそのあの最終回だと、私は思います。
グループが史上最小人数であることと言い、当時14歳だった私には受け止め切れなかった、理不尽な最終回といい、すべてがつぼでした。
惣太の殺し方も、相手に合わせて殺陣を行うのではなく、自分の針を刺すフォームを崩さないために、調略を行ってベストポジションに相手をおいてから、しかも、刺すまでが以外とゆっくりなのに、的の相手が中々逃げれない絶妙なタイミングで刺す・・・殺陣師の計算なのか、それとも中村雅俊さんの提案なのかはわからないのですが、見れば見るほど奥深く、このような殺陣はシリーズ通しても見かけません。
シリーズ初期の殺しのテーマが好きです。
殺陣の観察も細かくて、こだわりをお持ちのようですね。惣太の動きをあんまり詳しくは覚えていないのですが、DVDで観返してみたくなりました。
やはり、『渡し人が最高傑作』というのは、少数意見ですよね。でも、『私の中では』の話しですので。
でも、私はミーハーな一面もあり、凝り性な一面もあるので、必殺で批判対象の作品って、あまりないんです。
『剣劇人』や『まっしぐら』でさえ、楽しめたくらいなので。ただ、変化球のひとつとしてではありますが。