アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

燃える天使

2011-12-27 19:59:33 | 
『燃える天使』 柴田元幸編   ☆☆☆☆☆

 再読。柴田元幸編集のアンソロジーは色々出ているが、その中でも特に気に入っている一冊である。収録作品リストは以下の通り。

「僕の恋、僕の傘」ジョン・マクガハン
「床屋の話」V. S. プリチェット
「愛の跡」フィリップ・マッキャン
「ブロードムアの少年時代」パトリック・マグラア
「世の習い」ヴァレリー・マーティン
「ケイティの話 1950年10月」シェイマス・ディーン
「太平洋の岸辺で」マーク・ヘルプリン
「猫女」スチュアート・ダイベック
「メリーゴーラウンド」ジャック・プラスキー
「影製造産業に関する報告」ピーター・ケアリー
「亀の哀しみ アキレスの回想録」ジョージ・フラー
「燃える天使 謎めいた目」モアシル・スクリアル
「サンタクロース殺人犯」スペンサー・ホルスト

 どれもこれもいい短編ばかりだが、特にフェイバリットをあげると「僕の恋、僕の傘」「世の習い」「太平洋の岸辺で」「影製造産業に関する報告」「サンタクロース殺人犯」あたりだろうか。「僕の恋、僕の傘」はオーソドックスな恋物語だが、詩的でスピーディーな文体がきらりと光る。「世の習い」も文体の力が印象的で、マニエリスティックな語りと複合的なイメージの組み立てが面白い。かなり知的な作家さんと見た。他の作品も読んでみたくなる。

 「太平洋の岸辺で」は戦争に絡んだ切ない話。これは構成の勝利だ。ラストの一文に物語が集約する瞬間が美しい。映像化は無理なストーリーである。「影製造産業に関する報告」は、大好きなピーター・ケアリーのシュールでユーモラスな短編。「影」を製造しパッケージ化して売る産業の話である。適当にばらばら並べたようなエピソードの緩さが実に良い。「サンタクロース殺人犯」もまあふざけた話で、最後のオチが笑える。アホである。こういうアホな短編は大好きだ。

 他にも、「ケイティの話 1950年10月」は奇想の怪談で面白い。姉弟の髪の色や目の色が入れ替わったりするというシュールさだ。ダイベックの「猫女」は短めのスケッチ的な作品で、あいかわらず文体が冴えている。表題作の「燃える天使 謎めいた目」はさらに短いシュールな掌編二つだが、不可解な寓話という趣で、短いながらも複雑な味がある。

 とにかくどれもいい。柴田元幸的世界の愛好者なら充分に満足できることと思う。
 


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