アフリカ・ユーラシア見聞録

むかしむかしあるアフリカで・・・

現金吸込機の罠(ルサカ:ザンビア)

2005-07-26 14:46:20 | 1st 南部アフリカ
ザンビア






2005.07.25(月)-07.26(火)


 アンゴラボーイとの約2ヶ月にもわたる激闘の末、ようやくアンゴラビザを取得したこのプロフェッショナルだがその余韻に浸っている暇は無い。

 ビザが出る→ビザの期限が決まっている→先に進まなければいけない→その為に準備しなければいけない。

 と、極々常識的な行動原則に基づいて色々とやる事が一気に吹き出してきている。

 まず手始めはドル・キャッシュを作ること。

 私がこれから向かう中央アフリカ地域、トラベラーズチェックを使える自信もないし、ATMが存在するかどうかすら疑わしい。
 そうなってくると物を言うのは現金だ。


 幸いにしてザンビアはドルの売り買いレートの差が少なく、ATMも当たり前のように存在する。

 カードでクワチャ(ザンビアの通貨)を引き出して、両替商でドル・キャッシュを買っておけばこの先金の心配をしなくて済むようになるだろう。

 そう考えてアンゴラ大使館のあるカベロンガ地区のスタンダード銀行のATMで先ずザンビア・クワチャを引き出すことにした。

 これもこのプロフェッショナルならではの一流の用心だ。ルサカ市内に戻って目立つ銀行で大量のお金を下ろすと何処で目をつけられるか分からない、こうしてちょっと市の郊外の人の少ない所でやって直ぐにその場から離れれば襲われる危険性も数%低くすることが出来るのだ。

 最終的には運となるが大抵の場合スリにあっただの強盗に襲われただのという話を聞くとこの数%の確率を下げる手間を省いて無用心にやっている場合が殆どのケースだ。そんなアマチュアのような真似はこの私の行動倫理から言って“論外”だろう。


 私はATMにカードを差し込み暗証番号を入力する。

 一回の操作で下ろせる限度額は200万クワチャ、1ドル=4700クワチャぐらいだから大雑把にいって420ドルぐらい。それ以上下ろそうとするとまた同様の操作をしなければならない。この金額はザンビアでの価値を考えると日本で50万円ぐらい一気に下ろすのと変わらないだろう。

 最初にカードがレシートと一緒に出てくる。私がそれを引き抜いて隠し財布に戻している間に現金トレイが開いて札束が見えてる。ザンビアの最高額紙幣は50000クワチャだからそれだけでも40枚もする、中々の厚みだ。


 そしてそこに手を伸ばし無造作に札束を掴む。




 掴む・・・



 つかむ・・・



 『ぬっ抜けねぇ・・・!!』



 あまりにも札束が厚いのか?引き出しトレイにがっちりと固定されたまま時間だけが過ぎていく。


 『よーし、ほんならぁ・・・』


 一度掴んだ札束から手を離し、そして新たな力で一気に引き抜こうと再度トレイに手を伸ばそうとすると・・・


 『あっ!』


 無常にもシャッターが下りてお金がまたATMの中に・・・



 『おっ俺のお金がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!』
 


 こっ、これは一体全体何の罠なんだ?



 一度しまったキャッシュカードと領収書を取り出しレシートをシゲシゲと眺める。



 確かに200万クワチャ引き出しましたよとレシートにはっきりと印字されている。


 その200万はたった今このプロフェッショナルの目の前でATMに吸い込まれたばかり・・・


 再度カードを入れても反応もしない。



 『・・・』



 『・・・・・・』




 『おっ!おのれぇぇぇぇぇぇ~・・・!』



 何故このATMは出したお金を掴んで放さずまた飲み込むんだ・・・



 新手の詐欺か?


 『この人を全く信じることの出来ないアフリカで機械だけは裏切らないと思っていたのにぃ・・・!』




 だが、落ち込んでばかりはいられない。目の前に消えた金は取り戻さなければいけないのだ!


 こういう場合ATMコーナーから離れるのは拙い考えだ。私がいなくなった隙に何が起こるか分からない。

 気を取り直し、守衛を呼び銀行の者を呼んでくれとお願いすると。実にあっさりと

 「今日はもう終わりだから明日来てくれ・・・」

 と・・・


 確かに時刻は1630時、銀行の業務を考えると残念ながら今日は打ち止めだ。


 だが、先を急ぎたいしやることも増えてきたのにこんなトラップが待ち構えていたとは・・・!


 それにしてもザンビアでこのままほっといても大丈夫なんだろうか?

 不安は増幅されるばかりだ。




 明けて26日。


 もう2度と行く事はあるまいと思っていたアンゴラ大使館のあるカベロンガ地区にミニバスで向かう。
 
 アンゴラビザだけでもここに来るのはもううんざりだったのにこんな新手の刺客が待ち構えていたとは念の入った事だ。今回のトラブルの処理が終ったらこの地域一体を焼畑農業にしてやってもいいと思えるぐらいの心情になってくる。


 銀行につき係に昨日の話をするとどうやら聞いていたようだがATMを明ける操作員が来てATMの利用記録を見なければ判断出来ないということでしばらく待たされる。


 向こうも色々と調べたのだろう。一時間ぐらいかかって昨日引き出した筈のお金が私の目の前に・・・


 『ふぅ~・・・』


 私はほっとしてそのお金を受け取る。


 『なんとか金は無事に戻ってきたぞ・・・』


 このトラブルにも関わらず、係から全く謝罪の言葉もなかったので支店長を呼び苦情を言い(最後は一応謝罪してくれた)、ようやく金銭面でも感情面でも納得することが出来るようになった。



 それにしても・・・



 『この大陸で機械すら信じられないなら一体何を信じれば救われるのか?』



 深く考えさせられる、そんな出来事であった・・・


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