この本は、株式市場の暗部を明らかにした意欲作だ。本来の株式投資からはほど遠い世界で、あまり知る必要のない世界かもしれないが、株の投資で株価操縦や偽装増資的詐欺まがいの落とし穴にはまらないためには知っておいて損はないだろう。
この本を読んで考えることは、株価操縦やアングラマネーが入りそうな会社を、事前に察知してそういう会社に投資をしない勘を養っておく必要性だ。
たとえば、広島のアーバンコーポレーション。東証一部上場企業で、2008年3月期は、増収増益で配当もきちんと出していたが、8月には民事再生法の適用を申請。負債総額2500億円あまりの今年最大の倒産になった。その前に300億円の転換社債による資金調達を行なっているが、実際には90億円あまりしか調達できなかったという。しかもその事実は、民事再生法申請の当日発表されている。
一般の投資家は300億円を調達したと理解するだろうが、そこに裏があると大変な怪我をしてしまう。この社債発行にはパリバとの間に開示されていない契約があったのだ。とんでもない話である。
また株価を仮装売買でつりあげ高値で一気に売り逃げる手口、IT産業などで使われる架空取引の売り上げ計上、タックスヘイブンを使っての投資組合による資金調達(資金の出所を見えにくくする手口)など、個人投資家がはまる落とし穴は切がない。
こういう事件が横行すると、日本の株式市場が荒廃の一途をたどりかねない。こういう事件を未然に防ぐためには、法律による規制強化や金融庁、警察によるきびしい監視・取締りが必要だし、公認会計士の果たす役割も大きくなる。本来の株式投資判断以外の要因で、投資家が大きな怪我をすることはなんとしても避けなければならない。
その意味でこの書は、株式市場の暗部を具体的な事例を書き連ね明らかにした力作だ。
『実録アングラマネー』有森隆+グループK著(講談社α新書)