夏の季節 暑い日が続いています。樹木があれば蝉が鳴いていて、子供達や親子が網と虫かごを持って蝉取りをしているのを見かけます。
そこで、今回はこの蝉の話しをしてみましよう。
「蝉の抜け殻」が漢方薬になることを知っていますでしようか?
漢方薬を専門に取り扱っている薬局の先生や漢方に詳しい医師なら皆が知っていますが、一般の人は知らない方が多いようです。
社会保険薬価基準・保険適用されている「消風散(しょうふうさん)」という皮膚炎などにも利用する漢方処方にも入っています。エキス顆粒などは良く利用されております。「蝉退(センタイ)」と言い生薬として利用します。
●風邪などの発熱、悪寒に解熱薬として用いる他、ジンマシンなどの皮膚掻痒症に、止痒的効果があります。
●咽喉炎、結膜炎などの炎症に消炎効果があり、また破傷風、小児驚風に鎮痙薬として応用します。
【薬効】…解熱作用 止痒効果 消炎効果 鎮痙作用
【薬理作用】…小児の夜啼症やひきつけ、皮膚のかゆみ、発疹などに用います。インターフェロン誘起作用があるという報告があります。
【出典】…名医別録 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法では中品とされます。
「自然界の不思議なサイクルがある」
蝉の成虫は種類にもよりますが寿命は2週間から1ヶ月くらいです。樹木に卵を産みます。幼虫は木を下り土中に入り木の根の樹液を吸うなどしてこれも種類によりますが、約2年~ 約7年間も、世界中を観ると種類によっては12年間以上、土の中で過ごし成長してゆく種類もいるとのことです。時期がくると樹木を登ってゆき、写真のように脱皮して、この写真の場合はアブラゼミですが、 成虫として オスが 元気に鳴いています 。
古人はこの生態の特徴をとらえて性質を予測しています。自然界の法則から水平思考したときに伝統医学・中医学でいうと「肝・木・風・疏肝作用」や「陰陽五行説の肝木脾土の関係」で利用できると考えたと思われます。
中国には成虫を生薬として利用する蝉がありますが、一般のセミに比べて、幼虫は、12、13年間も土中で過ごすようです。かなり長い幼虫時代ということが特徴のようですうが?
古代の薬草事典である「本草綱目」に、特定の種類の蝉も薬にできると記されているようです。昔は蝉の成虫が薬として使われていたり現在では「セミの抜け殻」が薬として使われているわけです。
蝉の薬効は中国で最古の薬物書である「神農本草経」には「柞蝉(さくぜみ)」として成虫が記されています。性は「寒」。味は「鹹、甘」。経絡の肝、肺系に帰経する。
袪風止痙(きょふうしけい。しけいは、痙攣をとめるという意味)
清熱熄風(せいねつそくふう。せいねつは、熱をさますという働き)
小児の発熱、驚風抽搐(きょうふうちゅうちく。「きょうふう」はひきつけ、「ちゅうちく」とは、けいれんのことです。)、
癲癇(てんかん)、夜泣き等に用いるとあります。用法用量:内服。数匹 煎じる。丸剤、散
種類によりますが蝉の成虫や「蝉の抜け殻」をも薬効があるとする。昔の人の知恵には驚かされます。動物や虫、植物、鉱物、塩、水までも分類し利用してきた昔の人の考え方には驚かされるばかりです。その智慧は人間を含め天文学や易学なども用いた自然医薬学と言っていいと思います。
薬の歴史をみれば、柳の木の枝から解熱作用のある成分を知り、私達の科学・化学はアセチル酸と酢酸を結合させ解熱鎮痛剤のバッファリン・「アスピリン(アセチルサリチル酸)」を造りました。解熱鎮痛のみならず用量を少なくして抗血液凝固作用も示し循環器科でも利用されています。
現在の医療で使われる鎮咳剤の「塩酸エフェドリン」は日本の学者が漢方薬の麻黄湯の「麻黄」という生薬からの研究によってつくられました。
現代科学で当たり前の抗生物質も、考えてみれば「ペニシリン」が「カビ菌」からの偶然の発見であったことや、「副腎皮質ホルモン・ステロイド剤」の発展のきっかけが副腎をすりつぶした注射液によるものだったり、
「この自然の中は薬の宝庫である」と言われています。現在も、珍しい生態の植物や菌類、昆虫などに新薬の発見につながるものがあるとして、世界中の製薬会社や大学の関係者が研究をしているということのようです。
薬を考える時、自然の生薬やそれを理論的に利用する伝統医学の智慧と科学の発展と共に進歩し続けていく現代医学の素晴らしさに「温故知新」という言葉を思い出します。
「私達が現代医薬と伝統医薬の両方をあつかい融合する薬局を目指していて、そこに魅力を感じている理由が少しわかっていただけるでしょうか?」