サイノスという車はあまり知られていない。平成7年頃にトヨタから「コルサ」をベースに作られたスポーツタイプの車だ。1000ccが主体で、一時女性に人気があったらしい。その中でも、Βという車種は、1500ccのツインカム、100馬力を超えるパワーを持ち、それでいて重量は850キロ程度と軽い。マニュアル車で、車高が低く、クーペタイプ、後ろに座席は付いているものの、狭すぎてほとんど使い物にならない代物。余程の物好きしか乗らない車だ。
エンジンは高回転型で、8000回転くらいまでスムーズに回る。ローギアから引っ張ると時速40kmくらいに達する。そのままセカンドに入れ、アクセルを踏むと、セカンドギアーで時速80kmくらいまで引っ張れる。ただし、時速140kmを越えると、安定感はまだあるものの、音がうるさくて乗っていられたものではない。そんな具合の車だから、ちょっとした道路で少し元気に走ろうというときにはとても面白い車だった。
ちなみに、栃木に住んでいる頃には、車好きの同僚に那須のミニサーキットに連れて行ってもらって、走らせた。エンジンの回転を上げ、急発進、エンジン全開で、時速70kmくらいに達し、すぐにフルグレーキング後、アクセルを踏み込みながら、ハンドルを切り、カーブを曲がる。コーナーではタイヤがきしみ、横Gが体に掛かる。実に新鮮な、ダイナミックな体験で、心も躍った。気分爽快、ストレス解消には持って来いだった。ハイレベルなスポーツ車なら難なくクリアーするような所を、苦労しながら走行するのも、何か自分が車を操っているという実感が持てた。私の車好きの心をくすぐるとても良い車だった。
残念ながら、8年乗ったところで、仕事をやめて家に帰るために、手放した。15年を過ぎていたので、廃車費用を取られるのを覚悟していたが、ネットで査定したところ、4万円の値が付いた。後で、分かったことだが、どうも買い手が付いて、新しいナンバーが付いたらしい。世の中には物好きがいるもんだと思った。それにしても、トヨタの車は丈夫で、安心だとつくづく思う。