狷介不羈の寄留者TNの日々、沈思黙考

多くの失敗と後悔から得た考え方・捉え方・共感を持つ私が、独り静かに黙想、祈り、悔い改め、常識に囚われず根拠を問う。

情報隠蔽による被曝被害の拡大・・・政府、東電、NHK、自治体、医学者の責任・・・「福島 原発と人びと」を読んで

2012-11-29 23:46:42 | 災害・地震・戦争
 総タイトル:【情報隠蔽による被曝被害の拡大・・・政府、東電、NHK、自治体、医学者の責任・・・「福島 原発と人びと」を読んで】

 パレスチナ等の困難な地域で長年取材をされて来られた経験を基に、福島原発事故の問題と現在までの日本の体制の問題を、現地直接取材に基づいて鋭く突いた本を読みました。
 「福島 原発と人びと」(著者:広河隆一氏、出版社:岩波新書、出版日:2011/8/19)
 著者は青年期から、パレスチナ問題ユダヤ問題等と西欧帝国主義も含めた中東問題において、直接の現地取材におけるフリーランスのフォトジャーナリストとして活躍されて来られました。その中でも、イスラエルにおいて支配階級に存在する偽ユダヤ人のアシュケナジー・ユダヤ人(カザール人)から、アブラハム―イサク―ヤコブの血統で本当のユダヤ人であるパレスチナ人が虐げられている矛盾を、パレスチナ人の視点に立ってパレスチナ難民キャンプ等で取材をして来られました。他にもチェルノブイリ原発事故に関する取材もされて来られ、原発の危険性を著者自身の月間発行誌「DAYS JAPAN」等によって発信されて来られました。福島原発事故の直前(同誌2011年1月号)においては、著者自身と年齢・出身大学が同じで反原発活動家で作家の広瀬隆氏の執筆により、今後に必ず起こる東海・東南海・南海連動型地震による浜岡原発事故による爆発の危険性を、その予見力から世に警告されておられました。そして、同年3月11日の福島原発事故によって、その予見通りに水素爆発が起こりました。
 此度の原発事故によりセシウム換算では、広島・長崎原発の800発分が放出されたとされています。しかし、情報の隠蔽と遅延と洗脳によって、出来るだけ遠方に早く避難しなければならなかったにもかかわらず地元に引き留め、正確な情報が伝えられるまでに住民は猛烈に被曝してしまいました。政府、東電、自治体、医学者、NHKを始めとしたマスコミ責任は重大です此れまでも人命より経済的利益を優先し、原発政策を推進してきた政府と財界の責任は重大です。前者らによる原子力産業の巨大な体制の根本的な問題としての原発を全廃する事が必要です。
 2011年3月11日14時46分、三陸沖にて長さ600kmの3つの断層の動きによるマグニチュード7の地震が発生し、其の後に2時間程津波に覆われて福島第一原発の非常用ディーゼル発電機が機能を失って交流電源を喪失し、緊急炉心冷却システムが停止しました。その4時間以上後になって、日本で初の「原子力緊急事態宣言」が発令されました。発生6時間後に初めて半径2km圏内に避難指示を出し、その1時間後に3km圏内に変更して10km圏内での屋内待避指示を出しました。発生7時間後からNHKが官房長官の発表を元に、「放射能は漏れておらず、念の為に避難を」と言う内容が繰り返されました。その日の夜は、東京においても帰宅難民が発生しました。
 翌日(2日目)朝6時40頃の時点での東電資料による福島第一原発正門付近では4.9μSv/時となり、同じ頃にNHKが保安院の言葉として、「1号機から放射能が微量が漏れ始めているが、住民への健康にはただちに影響が無いと予想される事から、住民は落ち着いて避難してほしい。」と伝えました。10時17分、1号機の格納容器の圧力を下げる為に、放射性物質を含んだ蒸気を大気中へ逃すベントを行なった。此の時、其れによる住民の被曝が予想されたにもかかわらず、避難指示区域が拡大されず、避難方向も指示されませんでした15時36分、1号機が水素爆発を起こしました。その3時間後避難指示区域が10km圏内から20km圏内に拡大されました。
 3日目、朝5時に3号機の冷却機能の停止8時半に第一原発敷地内にて放射線量が急上昇して3号機のベントを開始しました。しかし此の時も、放出される放射線量は微量との報告が繰り返されました。又、この時点では未だ検問所が設置されていませんでした。著者がこの日に第一原発の在る双葉町役場前にて測定すると、1000μSv/時(1mSv/時)まで計測可能な計測器の針が振り切れてしまいました。因みに一般人の放射線の年間許容値は1mSv/年、其れの時間当たりの換算で0.11μSv/時です。しかし此の頃、住民の方達にはこの深刻な状態であると言う事の情報はもたらされていなく、その間に多大な被曝に見舞われていました。
 4日目、午前11時、3号機が水素爆発を起こし、13時25分、2号機の冷却機能停止で空焚き状態になりました。21時、官房長官より、1・2・3号機共に炉心溶融(メルトダウン)の可能性が高いと発表されました。21時半頃、第一原発正門付近で、3130μSv/時(3.13mSv/時)が計測されました。此の時に、東電からの全員退去の要望を、政府は認めませんでした。
 5日目、日付が変わった頃に2号機のベントを開始しました。午前4時、南に40kmのいわき市で23.7μSv/時、6時前に80km離れた茨城県北茨木市で5.5μSv/時が計測されました。6時頃、4号機の使用済み核燃料プールにて爆発、その直後に2号機の圧力制御室で水素による可能性が高い爆発、9時40分に4号機で火災が発生しました。10時22分に3号機周辺で40万μSv/時(400mSv/時)、4号機周辺で10万μSv/時(100mSv/時)を計測したと発表されました。11時頃20~30km圏内の屋内待避の指示が出されました。夕方頃、著者が30km圏外の北西に位置する伊達市でも60μSv/時が計測されました。後に同じ北西30km圏外の飯館村が計画的避難区域に、伊達市が特定避難勧奨地点に指定されるまでは、北西方向の風の流れの事については隠蔽され、その地域の住民は多大に被曝し続けました。此の日の夜に政府が双葉町の隣の浪江町にて330μSv/時を計測しましたが、地名を伏せて公表した為に屋内待避の人達には情報が伝えられず、多量に被曝されてしまいました
 其の後、3月25日20~30km圏内の自主避難促進発生1ヶ月後の4月12日に放出放射性物質量がレベル7と発表、4月22日計画的避難地域等を30km圏外で指定しました。又、発生2ヶ月後の5月12日に、東電が事故最初の数日中に炉心溶融していた事を認めました。
 福島第一原発は営業開始から32~40年、数多くの問題が発生してトラブルの隠蔽も有りました。竜巻・台風対策として津波に弱い地下に非常用発電機が作られ、その危険性を指摘されながらも利益を優先して改善されませんでした。又、同様に必要とされていた耐震性の向上も図らず、定期検査も期間を短くする等で、安全よりも利益を優先した東京電力の経営体質が有りました。末端の社員は様々な事で板挟みとなり、その経営体制の中に組み込まれていました。地元では殆どの人が原発関係の仕事に携わっており、原発に関しての批判をする事がタブーでした。2010年10月からプルサーマル計画によるMOX燃料(ウランとプルトニウムを酸化物の形で混合した燃料)が導入され、其れに反対していた佐藤栄佐久氏が冤罪によって逮捕されました。他にも、原発を批判していた管理職の女性が暗殺された東電OL殺人事件等、原発関係者の不審死が今までに数多く在りました。
 官邸、原子力保安院、東電が情報管理して隠蔽したり伝える事を遅らせ、国に利用される「御用学者」長崎大学教授達等の医学者が安全だと繰り返して被災者を騙したり世論を鎮静化させ、政府や東電が認めた情報が正しいとされてそれをただ垂れ流すNHK、世間からの信用度が高いNHKはその情報を追認する事となって、被災者は洗脳されて騙されました。又、事故発生2日目以降、直ちに影響が無いと言っていたのは急性疾患のみを対象としていたもので、其の後の20~30年後に晩発的に癌等で発症する内部被曝については考慮していません。著者の様なフリーランスの記者の場合は、会社・組織の制約を受けない為に記者クラブ等と違って自由な取材と報道が出来ますが、それでも出演のテレビの番組に対して電気事業連合会等が原発批判等をする事で広告費を出さなくなる等の圧力が有りました。新聞・雑誌等の原発関連記事を監視する為に政府が外部委託費を払っていたり、震災後にもインターネットやツィッター等の監視の為に予算の計上を行なっています。マスメディアは広告費の欲しさと保身から、原発を擁護して来ました。
 福島は自然豊かで、地元の住民は長年の土づくりを通して有機農業を行なって来ており、無農薬で化学肥料を使わず、地産地消で虫食い野菜等の合成添加物無添加の食品を地元の自然食レストラン等で提供し、自然の中にあって環境や健康に対する関心も非常に高い人達でした。他にもワクチン接種を控えるとか、レントゲン写真を出来るだけ撮らない、サプリメントに頼らない等と気を使っていました。それが、原発事故によってそれらが全て破壊されてしまい、原発周辺地域には永遠に戻る事が不可能となって、その土地は死んでしまいました。元々その様な自然環境や健康に敏感であった人達は、早々と他所の地へ避難しました。
 放射線防護服とされる白い服は、放射線を透過します。透過を防ぐ物としては透過力の弱い順に、α線は紙1枚程度、β線は厚さ数mmのアルミニウム板、γ線は厚さ10cmの鉛(厚さ2.5cmで1/10)か厚さ50cmのコンクリート、中性子線は更に分厚い厚さで水分の水素原子を多く含むコンクリートが必要とされています。しかし、内部被曝の場合は身体の中に遮蔽物を置くことが出来ない為に、人体に対する作用の大きさにおいてx線を1とした場合に、γ線が0.6~1、β線が1、陽子線が1~10、中性子線が2~10、α線が15~20(放射線荷重係数)の大きさで人体に影響を与えます。放射線から身を守る事としてはそれらに対してだけでは無く、政治家、官僚、原子力産業界、IAEA、放射線医学の権威者、マスコミから身を守る事が必要で、それらを当てにして頼ろうとせずに市民団体、NPO、NGO、インターネット等からの正しい情報等を得て自らが勉強して判断する事が必要です。薬やワクチン、ガン等の治療法、食品、生活物資等、自己責任を持って自らが考えて取捨選択し行動する事が必要です。又、放射線や病原性ウイルス・細菌、合成化学物質等に対する免疫力の増強を図って、規則正しい生活やバランスの良い栄養価の高い食事の摂取、十分な睡眠、適当な運動、そして身体の内部から体温を上げて代謝力を高める事が防御となります。
 著者は、チェルノブイリや此度の福島の原発事故において、食品検査用放射能測定器の寄贈等、多くの支援を行って来ました。中東地域等で、子供や弱い立場の人達を取り上げて支援して来ました。常に下層の人達に交じって同じ目線に立って、現地で活躍されて来られました。その行動力と姿勢・思想はすばらしいと思います。
 
福島 原発と人びと (岩波新書)福島 原発と人びと (岩波新書)価格:¥ 798(税込)発売日:2011-08-20