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「エマニュエル・トッドが語る天皇・女性・歴史」

2017-06-14 | 渡辺浩『東アジアの王権と思想』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 6月14日(水)07時44分17秒

本郷和人氏といえば、昨日、『文藝春秋SPECIAL』に本郷氏を聞き手とする「エマニュエル・トッドが語る天皇・女性・歴史」というインタビュー記事が出ていることに気づき(平成29年季刊冬号)、遅ればせながら読んでみたのですが、これは良い対談でした。


トッドと日本の歴史学者の対談では『文藝春秋』2016年12月号に掲載されたトッドと磯田道史氏の「日本の人口減少は『直系家族病』だ」を思い出しますが、磯田氏がトッドへの日本関係情報の提供者に終始していて、理論的な対話が一切ないのは残念でした。

エマニュエル・トッドと磯田道史氏のほのぼの対談

本郷氏は「私がトッドさんの研究ですごいと思うのは、まさにその仮説を立てる力ですね。これは、日本の歴史学者が最も苦手とする、といいますか、忌避してきた部分でもある」(p224)、「今日は、日本の歴史から女性問題まで、トッドさんの仮説力に圧倒されました(笑)」(p233)などとトッドを持ちあげつつ、要所要所できちんとした議論を闘わせており、さすがですね。
二人のやりとりには微妙な可笑しさを感じさせるところもあります。
例えば、

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 本郷 そこで、日本は平和的な国だったのか、という問いと重なりますが、一方で、日本は一二世紀からずっと近代に至るまで、一貫して軍事政権です。それに対して、中国は武官よりも文官が上ですね。これは家族システムと関係するのでしょうか。
 トッド それはとてもいい問いですね。しかし、答えるのは非常に難しい。
 ただ、直系家族的なものと軍事組織のあり方は、関係があると思います。近代日本が効率の良い軍隊を作り上げたこと、一七~一八世紀のプロシアの軍人比率の高さなどが思い浮かびますね。【後略】
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という会話(p229)の3p後に、

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【前略】 となると、日本では、ヨーロッパとは逆に、明治になってから、一般の日本人が営んでいる「直系家族」を皇室にも適用した、といえるのでしょうか。本郷さん、いかがですか?
 本郷 王が一般社会のあり方を決めるのではなく、逆に、一般社会の側が王のあり方(家族システム)を決めてしまったのでは、という問いですね。うーん、とてもいい質問だと思います(笑)。
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とあります。
トッドは対談で割と気楽に「それは良い質問ですね」という言い方をするのですが、ちょっとムカつく表現ではありますね。
本郷氏はトッドのジャブに対し、きっちりとジャブを打ち返しており、こういうところはさすがに世慣れているというか、古狸っぽくて良いですね。
相手の議論のペースに巻き込まれないようにするために、こうした小技も大事だと思います。

>筆綾丸さん
>山崎正和氏の『世阿弥』と『夏草と野望』

恥ずかしながら未読です。
早速読んでみます。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

中国の「ひょっこりひょうたん島銀行」 2017/06/13(火) 11:52:39
小太郎さん
若い頃、山崎正和氏の『世阿弥』と『夏草と野望』に感動したことがあります。
朧な記憶ながら、後者には、たしか、後白河法皇が清盛を指して、人は絢爛と滅びるために生きるのだ、とかなんとか言う場面があったと思いますが、どうやら満州国崩壊後の体験が秘められていたのですね(中国人には甚だ迷惑な話ですが)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%8C%BB%E7%A7%91%E5%A4%A7%E5%AD%A6
遼寧賓館(旧奉天ヤマトホテル)から地下鉄1号線の太原街駅まで行く途中に、中国医科大学附属第一病院(旧満州医科大学)があって、その威圧的な古い建物は旧満州国の日本人の設計によるのだろうな、と思いましたが、山崎氏の父の勤務先だったのですね。大学のロゴにあるMを満鉄のMと錯覚しましたが、当たり前のことながら、MEDICAL のMですね(なんだ、つまらない)。
なお、遼寧賓館は中国共産党の要人達が宿泊したところで、受付脇のプレートに名前が列挙してあり、一階の大餐庁には、毛沢東と周恩来が盃を酌み交わしている写真がありました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%91%AB%E8%8A%A6%E5%B3%B6%E5%B8%82
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E9%87%8E%E7%BE%8E%E4%BB%A3%E5%AD%90
瀋陽北駅(中国新幹線駅)前の高層ビルに中国の諸銀行の広告があったのですが、葫蘆島銀行というのは笑えました。中野美代子氏の『ひょうたん漫遊録-記憶の中の地誌』は、たしか、瓢箪(葫蘆)の神話的背景を扱ったものでしたね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%A6%E7%9A%87%E5%B3%B6%E5%B8%82
葫芦島市の隣の秦皇島市は、今回、中国で知遇を得た女性の出身地ですが、中国共産党幹部の避暑地・北戴河のあるところですね。是非、訪ねてみてください、綺麗なところです、と言われました。
コメント
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